概要・あらすじ
大正時代の東京で探偵業を営む松之宮遥は、あるとき恩師に紹介された高苑真夜という少女を助手として雇い入れる。非常に聡明な真夜は、ときに松之宮が舌を巻くような推理を見せ、松之宮のもとに寄せられる依頼の調査・解決に力を発揮。また真夜はときおり、これから起こるはずのことをまるで見てきたかのように語るのだった。
あるとき松之宮が真夜とともに友人のもとを訪れると、偶然、真夜の予言がなされる。それに触れた友人は「真夜は未来から来たのではないか」との推論を述べるが、松之宮には戯れ言にしか思えなかった。たとえどういった事情を抱えていようとも真夜を信じる松之宮は、その後も真夜を助手として信頼し、ともに事件を解決し続ける。
そんな折、子供の頃にわかれた真夜の両親が、彼女を迎えに来ると聞かされることに。別れを残念に思いつつも、両親と暮らすことが真夜にとっての幸せだと考え、快く送り出そうとする松之宮。だが事態は急転直下、真夜を迎えにきた両親は偽物であることが判明、さらに真夜を紹介してきた恩師は自分とは縁もゆかりもない人物だったことが明らかになる。
また、仕事として舞い込んだ案件から、すでになくなっていた真夜の本当の両親が真夜に託した物品を手に入れた松之宮は、それが未来の技術であることを否応なしに知らされるのだった。
登場人物・キャラクター
松之宮 遥 (まつのみや はるか)
東京で探偵をしており、自らが所長を務める松之宮探偵事務所を営んでいる。警察から協力依頼がくるなど、探偵としての実力は優秀だが、商売気に乏しく事務所の経営状態はギリギリ。人の良い性格をしており、知らず知らずのうちに事件に巻き込まれてしまうことも。あるとき恩師の藤枝博士からの紹介で、助手として高苑真夜を雇い入れる。 真夜のあまりに広範にわたる知識や時折発する予言めいた言葉に訝しさを覚えるものの、助手としてひとりの人間として信頼を置くように。真夜の予言に実際に触れた友人の楳実亮平が立てた「真夜は未来から来たのではないか」という仮説については基本的に信じていなかった。 しかし長く海外にいたという真夜の両親が真夜を迎えにきたものの、それが偽物であることが判明。さらに藤枝博士が、本来自分と関わりのなかった人物であることを知る。そうしたなか偶然に請け負っていた仕事から本当の真夜の両親がすでに亡くなっていることを突き止めた。さらに本当の真夜の両親が真夜に託した謎の物体が立体映像を映し出されたことで、真夜が未来からきたということを認めざるを得なくなる。 もともとは宇留木家という名家の次男だったが、思うところがあり10歳のときに亡くなった母親の旧姓・松之宮を名乗るように。ただし宇留木家と関係が険悪なわけではなく、父親から仕事の依頼があったり、病弱な腹違いの弟・宇留木智をよく気遣ったりしている。
高苑 真夜 (たかぞの まや)
藤枝博士の自宅に居候する少女で、藤枝博士の斡旋で松之宮探偵事務所で松之宮遥の助手として働くようになった。やや感情の起伏が乏しい面があったが、松之宮のことを深く信頼し、表情が次第に豊かになる。幼いころに両親が海外に旅立ったため、藤枝博士に預けられたと聞かされているが、真夜本人の記憶ははっきりしていない。 科学や語学など多種多様な分野に精通しており、また記憶力も非常に優秀。さらに時折、まるで見てきたかのように未来に起こる出来事を口にすることがある。松之宮の友人・楳実亮平がそのことに興味を示し調査を始めるが、かえって自分自身の力に違和感を覚えるようになった。松之宮探偵事務所での仕事に馴染んでいたところ、両親が帰国し、自分を迎えにくるという知らせが入る。 そのことを松之宮になかなか言い出せずにいたが結局話すこととなり、また別れが近くなると、松之宮のもとを去りたくないという正直な思いを吐露。しかし松之宮自身に諭され、両親とともに旅立とうとするが、とあるきっかけで迎えにきた人物は両親ではないことに気付く。 再び松之宮を頼ることとなった真夜は、自身が未来からやってきた人間だということを否応なく受け入れさせられることに。松之宮を騙していたということで一度は藤枝博士に不信感を抱くが、その後、藤枝なりに真夜を思っていたことを知る。最終的に松之宮への想いを断ち切り、藤枝の助言に従って関東大震災で生じるエネルギーを使うことで未来へと帰っていった。
月等 (つぐら)
高苑真夜に付き従う、隻眼でアイパッチをする巨大な犬。真夜の吹く犬笛で、真夜の危機に駆けつける。月等という名は真夜の父親がつけたもので、真夜のもとに偽物の両親が現れたときには月等の名前を尋ねられ、答えられなかったことで嘘が発覚した。
上梓 陶子 (かみあずさ とうこ)
美術愛好家の才媛で、日本の古美術品が海外に流れていくことに対して危機感を覚えている。男爵で外交官の父親とともに10年近くアメリカで暮らしていて、帰国前はボストンで学芸員をしていた。帰国後、自らの住む屋敷に歌川豊国の版木が隠されていることを知り、またそれが海外に流出しそうであることを知り、流出を防ごうと画策する。 だが、同時に上梓の屋敷で起きていた別の事件の調査に松之宮遥が関わってきたことで、結局、版木の所有権が外国人に移転していたことが判明してしまう。その後もさまざまな事件で松之宮と遭遇するが、どこか互いに苦手意識を抱えることに。ただ、日本の芸術を守りたいという情熱は本物で、場合によっては多額の私費を投じてでも貴重な仏像の保護をさせた。
楳実 亮平 (うめざね りょうへい)
松之宮遥の大学時代からの友人で、楳実は大学に残り民俗学の研究者になる。大学時代は楳実、松之宮、竹下七緒の3人で松竹梅トリオと呼ばれていた。専門の民俗学以外にも、さまざまな分野の学問に興味を持つ。高苑真夜の発する未来予知の言葉にも強い関心を示し、真夜が未来からやってきた人間なのではないかとの仮説を示した。
竹下 七緒 (たけした ななお)
松之宮遥の大学時代からの友人で、大学卒業後、しばらく放浪してから新聞社に入社し記者になった。大学時代は楳実亮平、松之宮、竹下七緒の3人で松竹梅トリオと呼ばれていた。男勝りな性格をしており、同僚の男性記者に対しても一歩も引かないことから新聞社では女帝の異名を取る。 松之宮に惹かれているが、松之宮本人には気付かれていない。松之宮探偵事務所で働き始めた助手が高苑真夜という少女であることを知り、内心穏やかではなかったが、真夜本人と知り合うと親しくなる。
諫早警部 (いさはやけいぶ)
警視庁に奉職する警察官で、階級は警部。探偵としての松之宮遥のことを深く信頼し、難事件が発生するごとに松之宮探偵事務所を訪れる。髭面の中年男性。
宇留木 智 (うるき さとし)
名家・宇留木家の三男で、松之宮遥の弟にあたる。学業は優秀だが病弱で床に臥せっていることが多い。松之宮の腹違いの弟であり、松之宮のことを深く慕いつつも、松之宮の母親の死後、自分の母親がすぐに後添えとして宇留木家に入ったことに松之宮が反発し、宇留木を名乗らなくなったのではないかと心配している。
藤枝博士 (ふじえだはかせ)
高苑真夜が幼いころ、その両親と出会い、彼らが未来からやってきた人間であることを知る。過去の記録を取りに来た真夜の両親に、多額の資金提供と情報提供を引き換えに協力するようになった。真夜に社会経験を積ませるため、善良な人間である松之宮遥に暗示をかけて自分を恩師だと思わせ、真夜を紹介して雇わせる。 真夜の予言した関東大震災から真夜を守るため、当初は東京から彼女を離れさせようとし、偽物の両親を手配。だが、真夜の両親がすでに死亡していたため、関東大震災のエネルギーを利用することで真夜を未来の世界へと帰そうとする。