あらすじ
数々のユニークな列車を産み出してきたJR九州が2015年8月にデビューさせた「或る列車」は、明治時代には既に原型が完成されていたといわれている。明治から現代における復刻のストーリーを胸に抱き、白鳥菜々はこの「或る列車」を撮影するためにカメラの三脚をセットして橋の上で待機していた。いつもなら撮影待ちのカメラマンが大勢いるはずなのに、今日に限って菜々しかいない状態に幸運を感じながら列車の到着を待っていた。すると地元の列車好きの小学生たちが、「或る列車」を見に集まって来た。菜々は雑談中に小学生たちからカメラの向きが、列車の進行方向と逆だと指摘される。だが、カメラの位置を修正するヒマもなく、「或る列車」が通過してしまう。焦ってシャッターを切った菜々は、由布岳を背景に走る列車の写真を撮れたことに小さな満足感を抱くが、通りすがりのオジサンから、後ろ姿の鉄道写真は「逆打ち」と呼ばれあまり好まれないことを教わる。ショックを受ける菜々に対して、さらにオジサンは由布岳を背景に撮影するなら、みんな違う場所で撮影していると告げられる。この場所にカメラマンが誰もいなかった理由を知り、菜々は恥ずかしさのあまり落ち込んでしまう。だが、小学生たちから午後には大分行きの別ダイヤがあるからまた撮れると励まされ、菜々は「或る列車」の再撮影に闘志を燃やすのだった。(エピソード「久本本線「或る列車」撮影」)
菜々は平成筑豊鉄道の観光列車「ことこと列車」で沿線グルメを満喫したのち、JRの駅とつながっている行橋駅に到着していた。ことこと列車の余韻に浸りながらも、行橋駅の近未来的な建物デザインを写真に収めた菜々は、次の目標である「ソニック38号」の撮影に取りかかる。しかし、ホームに到着したソニック38号のライトが強すぎて、カメラのAFではピントが合わない。困った菜々は通りすがりのオジサンから、レンズを手動で動かすピントの合わせ方を教えてもらう。なんとか目当ての列車の写真を撮ることができた菜々は、在来線最速のソニック38号に乗り込み、振り子式の電車の乗り心地を堪能しながら博多駅に到着する。ちょうどお腹(なか)が空いた菜々は、博多駅で「うまか!博多めんたい牛めし」を購入。食べる場所を探していると、走ってきた子供にぶつかってしまう。子供の父親に謝られながらも、菜々はこの親子が口にした「300円で乗れる新幹線」というワードが気になって仕方がなかった。急いで走り去る親子のうしろを菜々は駆け足で付いていき、親子が買った切符と同じものを購入する。それは「博多南線」という聞き慣れない路線であった。菜々は300円という値段で、新幹線の小型切符が券売機から排出されたことに驚きながらもホームに向かうと、キティちゃんのペイントと内装が施された500系新幹線が停まっていた。500系は「のぞみ」として東京~博多間で使用されたのち、「こだま」として新大阪~博多間で最後の勤めを果たしている車両である。そしてたった一駅の新幹線の旅を終え、列車を降りた菜々は、博多南線が山陽新幹線の車両基地への回送線を利用した通勤路線だったことを知る。目の前に並ぶ数々の新幹線の壮観さに感嘆しながら、菜々はこの駅のホームで駅弁を食べることを決める。「うまか!博多めんたい牛めし」は、「まるいち」の辛子明太子(めんたいこ)がドカッと載った豪華な牛めしだった。舌鼓を打ちながらも、駅弁の写真を撮っていないことに気づき後悔する菜々であった。(エピソード「鹿児島本線【博多駅・うまか!博多めんたい牛めし】」)
長崎で一泊した菜々は、新しいカメラを手に入れ上機嫌だった。まずは長崎駅で坂本屋の「角煮めし」を購入し、菜々は諫早を目指す。斉藤から「しまてつカフェトレイン」の取材の依頼を受けたため、菜々は島原鉄道の沿線に向かっているのだった。菜々は諫早への道中、朝食としてさっそく角煮めしを開封する。駅弁を撮った新しいカメラの写真にも満足し、角煮の深い味わいと共に、煮汁で炊いたもち米入りの炊き込みご飯にも感動する。諫早に到着した菜々は、過去に大ちゃんと九州を周った時は逆のコースだったことを思い出し、懐かしく思う。菜々は斉藤に渡されたカフェトレインの切符を確認すると、湧水庭園や島原城の入場券が付いているだけでなく、諫早と島原の往復運賃まで含まれており、翌日まで使えるというお得な券であった。サービスがよすぎる島原鉄道の経営を心配しつつ、目当ての列車が来るまで駅員のうんちくを楽しげに聞く菜々であった。カフェトレインが到着し、車内へ乗り込んだ菜々はアナウンスにより、この日はランチのコースであると知る。まずは雲仙島原の天然水と、人気洋菓子店の生キャラメルが運ばれる。海を見ながら走る列車に感動していると、ランチが運ばれてくる。本日のメニューは、雲仙牛と雲仙クリーンポークの合い挽(び)き煮込みハンバーグとスープ。旨味(うまみ)たっぷりのハンバーグを堪能し終えると、デザートの「雲仙じゃがもんぶらん」が運ばれてくる。デザートを食べ終えた菜々は、停車中の「日本で最も海に近い駅」として知られる大三東駅に降り立つ。この駅では幸せの黄色いハンカチにメッセージを書いて祈願することができる。観光客が次々にメッセージを書く中で、菜々は「いつか大ちゃんに逢えますように」と書いたハンカチを駅に結ぶのだった。(エピソード「長崎本線【長崎駅・角煮めし】島原鉄道「しまてつカフェトレイン」」)
登場人物・キャラクター
白鳥 菜々 (しらとり なな)
勤務していた会社を辞め「駅弁ライター」として活動する女性。東京に居を構えている。茶髪で美しい顔立ちをしているが、その容姿を鼻にかけることはいっさいない。胸は推定Dカップで、Tシャツやデニムパンツなど動きやすい格好を好む。非常に素直な性格で、旅の途中で出会ったオジサンや駅員さんから、その地域の風土などを教えてもらうと、飾ることなく驚いたり喜んだりして語る相手を喜ばせる。過去に大ちゃんの九州の旅に同行し、のちに彼の旅に何度か同行するうちに感銘を受けてフリーライターになることを決意した。その際に元の「尾崎」から母親の旧姓である「白鳥」に姓を変えている。父親は菜々が7歳の時に他界しており、母親は父親の死をきっかけに白鳥姓を名乗っていた。現在は仕事が忙しいため、大ちゃんとは疎遠になっているが再会を願っている。勤めていた会社を退職する際に、同僚たちから贈られたオリンパスのペンFというカメラを愛用しているが、のちに、長崎で購入したEーM5MarkⅢをメインカメラとするようになる。カメラの操作や撮影対象に適したレンズなどには詳しくなく、目当ての列車を撮るポイントや角度を間違えたりとおっちょこちょいな一面がある。子供の頃に見た、祖父が撮ったSL写真の印象が強く残っており、見た人の記憶に残る写真を撮ることを目標としている。食欲が旺盛で駅弁を美味(おい)しそうに食べ、料理にも詳しく店員顔負けの解説をすることもある。「或る列車」で知り合った斉藤からライターの才能を見出され、仕事を依頼されるようになる。
大ちゃん (だいちゃん)
かつて日本一周している途中で白鳥菜々と知り合い、九州を共に旅した中年男性。髭面(ひげづら)で太った体型をしているが、見た目によらず走るのが速い。基本的に菜々の回想でしか登場しないが、彼女が九州を周る際の導となっている。現在では疎遠になっているが、菜々が駅弁ライターになるきっかけを与えた人物で、菜々からは再会を熱望されている。
斉藤 (さいとう)
四ツ葉出版に勤務する男性。サラリーマン然とした外見をしているが、非常に柔らかい笑顔が印象的。大御所写真家の篠ノ井姫新との仕事で「或る列車」に乗車した際、白鳥菜々と知り合って名刺を交換した。のちにレストラン・カフェ系列車の取材を菜々に依頼したり、出張先と菜々の旅先が被(かぶ)った時には同行したりするようになる。駆け出しライターの菜々にとって仕事を依頼してくれる恩人的な人物。
クレジット
- 監修
前作
駅弁ひとり旅 (えきべんひとりたび)
弁当店「大ちゃん」の店主である中原大介が、日本一周の鉄道旅をしながら各地の名物駅弁を食べ歩くグルメ紀行漫画。鉄道愛好家で駅弁をこよなく愛するフォトジャーナリストの櫻井寛が監修を務め、劇中の随所に各種鉄... 関連ページ:駅弁ひとり旅
書誌情報
新・駅弁ひとり旅~撮り鉄・菜々編 6巻 双葉社〈アクションコミックス〉
第4巻
(2022-12-12発行、 978-4575857863)
第5巻
(2023-10-12発行、 978-4575859157)
第6巻
(2024-10-10発行、 978-4575860153)