聴覚障害の世界を紐解く
本作は、聴覚障害や難聴をテーマにしており、作者自身をモデルにした主人公、ヨシモトの視点から、日本の聴覚障害者が直面する現実や問題が、ミステリーを解き明かすように描かれている。作中では、当事者や関係者への取材を通じて得られた貴重な体験談が丁寧に描写されており、音の聞こえる仕組みや専門用語についても分かりやすく解説されている。さらに、障害者手帳の交付対象外となる中等度難聴など、多様な難聴の実態にも光を当てており、読者はその奥深い世界を知ることができる。
漫画家ヨシモトが聴覚障害を描く決意
漫画家のヨシモトは、ある縁をきっかけに聴覚障害の世界を漫画にすることを決意し、編集者のサクライと共に取材を始める。しかし、作品を完成させるために不可欠だと考えたのは、ゴーストライター騒動で話題となった佐村河内守への取材だった。取材依頼をほとんど断っている佐村河内への接触は非常に困難で、なんとか弁護士から返答を得るものの、それは著名な映像作家、森達也によるドキュメンタリー映画の撮影と同時に行うという条件だった。撮影下での取材にはリスクが伴うことを指摘されたヨシモトは、この取材を続けるべきかの大きな決断をせまられることになる。
佐村河内への取材が実現する
佐村河内の取材を通じて、ヨシモトはゴーストライター騒動の背後に潜む苦悩と真実を知り、衝撃を受ける。再度の佐村河内への取材や耳鼻科医などの専門家への取材を重ねることで、ヨシモトの探求はさらに深まっていく。本作では、多くの聴覚障害の当事者が直面する日常の困難や耐え難い耳鳴りの恐怖、そして彼らを支える手話通訳士の課題など、さまざまなテーマが掘り下げられている。同時に、デリケートな題材ゆえの葛藤や失敗を繰り返しながらも、真摯に当事者と向き合おうとするヨシモト自身の姿も、この物語の大きな見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
ヨシモト
漫画家を生業とする男性。妻と幼い子供と共に三人で暮らしている。ある日、過去の取材で知り合った聴覚障害者と再会したことをきっかけに、聴覚障害をテーマにした漫画を描くことを決意。担当編集者のサクライと共に、各地で取材を始める。かつて日本福祉大学に通っていたものの、授業に馴染めずに挫折したという苦い経験を持ち、それ以来、福祉とは無縁のキャリアを歩んできた。実在の人物、吉本浩二がモデル。
佐村河内 守 (さむらごうち まもる)
かつて音楽家として名を馳せた中年男性。2014年のゴーストライター騒動の中で、感応性難聴であることを公表するも、次々と浮上した疑惑により、マスコミの取材が殺到する。その影響で、外出もままならなくなり、健聴者の妻と飼い猫の「とくべえ」と共に、マンションの一室で隠れるように暮らしている。ほとんどの取材を拒否していたが、映像作家、森達也によるドキュメンタリー映画の撮影に際し、ヨシモトからの取材に応じることになった。実在の人物、佐村河内守がモデル。
書誌情報
淋しいのはアンタだけじゃない 3巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2016-05-30発行、978-4091876096)
第2巻
(2017-02-28発行、978-4091893406)
第3巻
(2017-09-29発行、978-4091896490)







