概要・あらすじ
生まれたばかりの時、父親とともに崖から落ち、片目と片腕を失った我王は、人殺しと盗みを重ね、偶然出会った都の彫刻師、茜丸の右腕を斬りつけ利き腕の自由を奪ってしまう。都を騒がす大盗賊となり、捕らえられた我王は、処刑寸前に良弁僧正に救われ、ともに旅をするうち、仏師としての才能を見いだしていく。
一方、茜丸は権力者、橘諸兄に鳳凰を彫れと強要され、その姿を見ようと西国を訪ね歩くがかなわず、偶然出合ったブチという娘をモデルに観音像を彫る。それが橘諸兄の政敵、吉備真備の目にとまり、彼に見せられた鳳凰の図を前にして、茜丸は夢に火の鳥を目の当たりにして、ついに鳳凰の像を完成させる。
登場人物・キャラクター
我王 (がおう)
赤ん坊の時に、父親と一緒に崖から落ち、片目と片腕を失う。母親はショックで気がふれてしまう。唐(から)の国の二匹の鬼、仁王、我王のうち醜い方の名前をつけられる。都を騒がす大盗賊となった我王は、鼻が腫れる奇病を患い、それを妻、速魚のしわざだと思い込み速魚を殺してしまう。 だが、そのときになって、それがかつて自分が助けたテントウムシの化身であったことを知り、激しい喪失感から虚脱状態となり役人の手に落ちるが、処刑寸前に良弁僧正に救われ、ともに旅をすることになり、やがて、仏師としての才能が花開いていく。
茜丸 (あかねまる)
彫刻師。我王に右腕を切られて利き腕の自由を奪われる。橘諸兄に鳳凰を彫れと強要され、その姿を見ようと西国を訪ね歩くがかなわず、偶然出合ったブチという娘をモデルに観音像を彫る。橘諸兄の政敵、吉備真備のもとで鳳凰の像を完成させ、やがて、東大寺大仏殿の設計とプロデュースまで任されることになる。
速魚 (はやめ)
茜丸の妹と名乗ってあらわれ、我王と暮らすようになる。鼻が腫れる奇病を患った我王は、それを兄を傷つけた自分への復讐だと思い込み速魚を殺してしまう。そのときになって、それがかつて自分が助けたテントウムシの化身であったことを知る。
良弁僧正 (ろうべんそうじょう)
我王の仏師としての才能を見いだす。仏教が政治の道具にされていくのを嘆き、かつて、帝に東大寺大仏殿を作るように進言したことを後悔する。奥州平泉の国分寺で即身仏となる。歴史上の実在の人物、良弁がモデル。
橘 諸兄 (たちばな の もろえ)
茜丸に3年で良弁僧正の彫刻を掘るようにと命じる。3年でできなければ首を刎ねると申し渡す。歴史上の実在の人物、橘諸兄がモデル。
吉備 真備 (きびのまきび)
唐に渡った経験から高い地位に就く。政敵、橘諸兄から茜丸を救い出し、良弁僧正の像を彫らせる。東大寺大仏殿建立の事業を任され、茜丸にその設計とプロデュースを依頼するが、旱魃が続き、さらには出費がかさんだことから左遷されてしまう。歴史上の実在の人物、吉備真備がモデル。
ブチ
鳳凰の姿を求めて西国を訪ね歩く茜丸が出会った娘。年貢米を盗んだために石子づめにされて殺されそうになるところを茜丸に助けられる。はじめて自分に優しくしてくれた人間、茜丸を慕い、奈良までやってくる。
泥田坊 (どろたぼう)
我王が生まれた漁村の少年。力自慢だったが、力比べで我王に負けたことで諍いになり、一家は我王に海に突き落とされてしまう。
鳳凰 (ほうおう)
『火の鳥 鳳凰編』に登場するキャラクター。伝説の鳥。唐の南にある仙境蓬莱島に棲むという鳥。仙木の実を食べ何万年も生き延びており、その血を飲めばたちどころに不老不死の力を持つと言われる。吉備真備が唐でその絵を見たというその仙鳥の像を、3年で彫れと橘諸兄が茜丸に命じる。
火の鳥 (ひのとり)
『火の鳥 鳳凰編』に登場する不死鳥。茜丸の輪廻の夢の中でその姿を現し、また、我王には、彼が子々孫々にわたって人間の苦しみを受けて立つ存在であることを教え、その怒りや苦しみを作品でうったえよと示唆する。
場所
東大寺大仏殿 (とうだいじだいぶつでん)
『火の鳥 鳳凰編』の登場する建造物。天災、旱魃が続き、乱れた人心を仏教によってまとめようと建立される。その鬼瓦を、我王と茜丸の二人が腕比べをして作ることとなる。
その他キーワード
即身仏 (そくしんぶつ)
空気穴を開けた地中の穴へ籠もり、自ら餓死してミイラとなったもの。我王は即身仏となった良弁僧正を前にして、「中魚禽獣死ねば皆同じ、人が仏なら、生きとし生けるものはすべて仏である」と、悟りを開く。
古文書 (こもんじょ)
『火の鳥 鳳凰編』に登場する巻物。筑紫の国の蛮族クマソが残したもので、火の鳥の記述がある。この『火の鳥 鳳凰編』の400年前『火の鳥 ヤマト編』で川上タケルが書いたもの。
鳳凰の図 (ほうおうのず)
『火の鳥 鳳凰編』に登場する絵。正倉院の御物の一つ。その図の前で、茜丸は夢のうちに輪廻を繰り返し、鳥として生まれ変わった時、光り輝く火の鳥の姿を間近に見る。
関連
火の鳥 (ひのとり)
火の鳥と呼ばれる超生命体が見守る古代から超未来にわたる人類の叙事詩。 関連ページ:火の鳥