あらすじ
第1巻
ある冬の日、35歳の女性小説家の高代槇生は、実家を出て以来疎遠になっていた姉の高代実里とその夫が、事故で急逝した事を知る。母親からの連絡を受け、警察署へと向かった槇生は、そこで小さい頃に会ったきりになっていた15歳の姪の田汲朝と再会する事になる。翌日、葬儀の場では親戚が集まって、一人遺された朝の今後をどうするかの話し合いが行われた。それはもはや厄介者の押し付け合いの場となっていた。見るに見かねた槇生は、この最悪の状況を見過ごす事ができず、勢いにまかせて朝を引き取ると決める。朝を連れて帰宅したものの、一夜明けてわれに返った槇生は、自分が大変な決断をした事を思い知る。槇生はその瞬間、極度の人見知りが発動。自分がつねに孤独を愛し、ふつうの事がふつうにできない不器用な性格であった事を思い出す。突然始まった二人暮らしに、明らかに狼狽する槇生に対し、朝は至って冷静だった。両親を亡くした実感もなく、どう悲しんだらいいのかもわからないまま、自分が知る一般的な大人とは明らかに違う「大人らしくない大人」との暮らしを、素直に受け入れていく。
第2巻
15歳の姪の田汲朝との二人暮らしを始めた高代槇生は、朝が両親と暮らしていたマンションへとやって来た。両親が事故で亡くなって以降、ほったらかしになっていた部屋は、未だ生活感が残ったままだった。遺品整理をしながら、姉夫婦がこの世界から忽然と姿を消した事をあらためて認識。一見なんのダメージも受けていないかのような朝が、まるで現実から逃避するかのように部屋で眠り込んでいる姿を見て、槇生は胸を痛めた。翌日、朝は中学校の卒業式に出席するため、一人で家を出た。久しぶりの学校で、まず朝を迎えたのは親友の楢えみりだった。朝は、涙ぐむえみりから、えみりの母が学校へ連絡したため、朝の両親の死が学年中に知れ渡った事を聞かされる。式の前に職員室に呼ばれた朝は、家庭の事情をみんなに知らせる必要性に疑問を呈し、担任に向かって大声でわめきちらし、えみりをもつき放す。怒りに任せ、そのまま卒業式をボイコットし、勢いのまま学校をあとにした朝は、無心で元いたマンションへと戻ってきてしまう。われに返った朝は、槇生と暮らすマンションに帰ろうとするが、帰り方がわからなくなってしまう。
第3巻
春になり、田汲朝は高校生になった。高校では、仲直りした楢えみりと共に、新たな人間関係を築き始める。そして、新たな生活の中で失敗や後悔をし、さらに選択をせまられた時、朝は亡き母親の高代実里の事を考える。自分がどんなに愚かな事をしても、もうそれを叱られる事はない。煙たささえ感じていたはずの母親なのに、朝は、もはや彼女の意向に沿う事も、助言を求める事もできないのだ思い知らされる。しかし朝は、それでもなお、いないはずの母親の言葉にとらわれ続け、自分らしくある事に前向きになれずにいた。そんな中、朝が高代槇生と暮らすマンションに、えみりが遊びにやって来る。それにより、槇生は自分の居場所であったはずのこの場所が、もはや自分の家ではなくなってしまったと感じ始める。もともと孤独を愛する性格だった槇生は、朝にえみりを加えた三人でのやり取りを繰り返すうち、次第に息苦しさを募らせ始める。槇生はそのまま仕事部屋に引きこもり、乱暴な言葉で朝との接触をすべて拒絶。えみりが帰ってもなお、その様子に変わりはなく、最低限の食事の支度だけを済ませた槇生は、一言も口をきく事なく、ただ黙々と仕事を続けた。仕事が一段落ついた頃、落ち着きを取り戻した槇生はようやく口を開くが、そんな一方的な槇生の態度に腹を立て、今度は朝の方が反撃を開始する。
第4巻
田汲朝の一言がきっかけで、高代槇生は二人で実家に行く事になった。なんとなく足が遠のいたまま、今まで実家に近寄る事はなく、槇生が実家の敷居をまたぐのは、実に5年以上ぶりだった。そんな中、朝はおばあちゃんと話をするうちに、彼女の槇生に対する言葉や態度に違和感を感じ始める。一方、槇生は口うるさい母親から逃れるように、部屋の片づけをしに自室へと向かう。すると、大嫌いな姉の高代実里とも仲がよかった頃もあったのだという事を思い出し、槇生の心は幼かった頃に戻り始める。その後、朝が今は亡き母親の実里の部屋だった場所へと向かうと、そこには一瞬母親と見紛うほどそっくりな槇生の姿があった。槇生は、朝の姿を見ると、自分とおばあちゃんの関係について語り始める。話すうちに槇生は、自分と母親、朝と母親、どちらにも似たような親子関係が存在していた事に気づくのだった。そして槇生の話を聞いた朝は、亡き母親がどんな人だったのか、その人となりに興味を持ち始める。
実写映画
登場人物・キャラクター
高代 槇生 (こうだい まきお)
主に少女小説やエッセイを執筆する小説家の女性。「こうだい槇生」の名で活動し、生計を立てている。年齢は35歳で、高代実里の妹。スレンダーな美人だが、あまり頓着しないために家ではいつもボサボサ頭。姉の実里が事故死したため、遺児となった姪の田汲朝を勢いで引き取り、いっしょに暮らす事になった。もともと超がつくほどの人見知りで、一人が苦にならないどころか、孤独を愛するタイプ。掃除や片づけ、人との接触や電話が苦手で、ウソをつくのが極端に下手。ふつうの事をふつうにできない傾向にあると自覚しており、気に病んでいる。人の言葉に傷つきやすく、朝に言わせれば「大人らしくない大人」。外出する事は少なく、家にいるあいだはほとんどが仕事の時間。料理はできなくもないが、1週間のメニューは「鍋、鍋、しょうが焼き、しょうが焼き、親子丼、親子丼、刺身」が基本で、昼食は毎日うどんと、決まったメニューしか作らない傾向にある。笠町信吾とは、以前付き合っていて別れたが、朝との二人暮らしを始めるにあたり、再び連絡を取り始め、何かと頼れる存在となった。別れた理由を朝から問われ、自分が勝手に卑屈になって爆発したからだと語っているが、互いに自分に原因があると考えている。学生時代からの友人である醍醐奈々、コトコ、もつとは、今でも気を遣わない関係を築いている。
田汲 朝 (たくみ あさ)
高代実里と田汲はじめの娘。年齢は15歳で、実里の実子ではないと噂されている。中学3年生の時に両親を事故で亡くし、実里の妹である高代槇生といっしょに暮らす事になった。両親を失った悲しみを実感する事ができていないが、母親とは明らかに違う「大人らしくない大人」である槇生との暮らしを、素直に受け入れていく。しかし、現実から逃避する事で、無意識に自分自身を守ろうとしているのか、すぐに眠くなり、やたらとよく眠る。特技は音だけ聞いて言葉を聞かない事。歌がうまく、掃除や片づけが好きなため、よく歌いながら家事をしている。生前の母親からは、何かと意見を押し付けられる傾向にあり、両親が亡くなったあとも、母親の意見を気にする癖は治っていない。中学の卒業式当日には、一悶着起こす事になるが、高校入学からはある程度安定した生活にシフトする。
笠町 信吾 (かさまち しんご)
高代槇生のかつての彼氏。年齢は35歳で、企業の服飾部宣伝室に勤めている。槇生と別れて以降、ずっと疎遠になっていたが、田汲朝を引き取った槇生から連絡を受け、今後の生活について相談に乗る事になった。槇生とはちょっとした確執を引きずったままになっていたが、再会して、顔を見て話をした事で解消した。未成年後継人や生命保険についてなど、具体的に行わなければならない手続きについてレクチャーし、サポートした。付き合っていた頃、槇生から得たある言葉は、彼の人生を変えた大きな意味を持つものとなった。槇生への思いは少なからず残っており、あわよくば復縁を狙って奮闘中。厳格な両親に育てられたため、二人の思うような結果を出せなかった事に負い目を感じていた時期もあったが、歳を取ってその感情もだいぶ薄れた。槇生と別れた理由を、自分が傲慢だったからと考えている。体を動かすのが好きなため、趣味はもっぱらジム通いをする事。食べたいと思ったものを食べたいというタイプで、自作の弁当を作っている。友人や会社の後輩から、お坊ちゃんとか、意識が高いとか、不本意にも何かと揶揄される事が多い。
塔野 和成 (とうの かずなり)
弁護士を務める男性。田汲朝の未成年後見人になった高代槇生の監督をする、後見監督人として、二人とかかわりを持つようになる。主に朝の両親の生命保険の手続きや、朝名義の資産の管理にかかわる事について、アドバイスを行う立場にある。槇生に電話で連絡を取ろうと何度も試みるが、電話嫌いのためになかなかコンタクトを取る事ができず、しびれを切らして自宅へと押し掛けた。その段階で、槇生に対して連絡の取れない不審人物という先入観を持っていたが、その後すぐにその疑念は晴れる事になる。基本的には子供の人権を一番にと考える、優しい性格の持ち主。空気を読んだり察したりする気遣いや、婉曲な言い回しを苦手とする。何かと思った事を率直に口に出すため、失言が多い。
楢 えみり (なら えみり)
田汲朝の友達の女子中学生。年齢は15歳。朝の両親が亡くなった事を知り、母親に話したところ、母親が学校に連絡し、学校から連絡網で学年中に知れ渡ってしまった。それを怒った朝から、大嫌いと言われてしまうが、めげずに朝と連絡を取る努力をして仲直りし、元通りの関係に落ち着いた。春から朝と同じ高校に通い始めるが、高校で新しい人間関係を築き始める。高校登校初日から化粧をするなどオシャレに興味があり、朝にもっとオシャレをしてほしいと思っている。高代槇生と知り合ってからは、自分の知る大人とは違う彼女独特の生き方に疑問を感じつつも、興味を持つ。高校では手芸部に所属し、時間を忘れて没頭する事に楽しみを見いだし始める。
えみりの母 (えみりのはは)
楢えみりの母親。娘のえみりから、クラスメートの田汲朝が両親を亡くした事を聞き、学校に連絡した。連絡網が回り、学年全体に知れ渡る事になるきっかけとなった。一般的に見るといいお母さんだが、世間一般の尺度でしか物事を見られないところがあり、入学式に出席しない高代槇生を訝しんだり、独りぼっちの朝を勝手に哀れんだりしている。結婚していなければ、仕事を続けたかったという願望があったため、独身を貫いている槇生の生き方に興味を持っている。
高代 実里 (こうだい みのり)
高代槇生の姉で、田汲朝の母親。朝の父親である田汲はじめとは内縁の関係であり、朝は実子ではない様子。車で外出していた際、パーキングエリアで停車中、トラックに追突されて42歳で亡くなった。エリート意識が強く、自分の意見を押しつける傾向にある。妹の槇生に対しては特に高圧的で、さげすみ貶める発言も多かった。「こんなあたりまえのこともできないの?」が口癖で、槇生にも朝にもよく言っていた。
田汲 はじめ (たくみ はじめ)
田汲朝の父親。高代実里とは内縁の関係であり、朝と三人で暮らしていた。車で外出していた際、パーキングエリアで停車中、トラックに追突されて41歳で亡くなった。生前は、朝の事で実里とよくケンカになり、実里の機嫌を気にする節もあり、最終的には実里に叱られないようにと、朝にアドバイスする事もあった。子育てにはあまり関心がなかった。
醍醐 奈々 (だいご なな)
高代槇生の学生時代からの友人の女性。年齢は35歳。料理や菓子を作るのが上手だが、かなりファンキーな性格をしている。槇生が田汲朝を引き取った事を知り、様子を見に家を訪れた。口が悪く、何かとすぐ爆笑するなど、子供がそのまま大人になったような人物で、朝には親とも先生とも違う「大人らしくない大人」に分類されている。中華屋の店員への片思いをはじめ、さまざまな恋愛遍歴を持っており、大雑把な性格が災いしてやたらと手順を気にする彼氏からフラれた事もある。槇生のよき理解者であり、朝との今後を心配して、槇生のかつての彼氏である笠町信吾に連絡を取るように勧めた。
コトコ
高代槇生が気を遣わずに付き合える学生時代からの数少ない女友達。ボブヘアにそばかすが特徴で、年齢は35歳。槇生が15歳の姪の田汲朝を引き取った事を知り、興味津々の様子。ワインが好き。
もつ
高代槇生が気を遣わずに付き合える学生時代からの数少ない女友達。セミロングヘアで、年齢は35歳。夫の浮気が原因で、最近離婚したばかり。離婚には、浮気した夫に味方した義母の存在も大きな要因となった。自分は、結婚には向いていないと考えている。槇生が15歳の姪の田汲朝を引き取った事を知り、興味を持っている。槇生に姪との関係を築くにあたり、気負わない考え方をアドバイスする。
おばあちゃん
田汲朝の祖母で、高代槇生と高代実里の母親。若かりし頃は、実里と似たタイプで何事にも鋭敏だったが、歳を取っていつの間にか、ずる賢い人格に変わった。数々の健康食品にはまり、詐欺まがいのものにも手を出しているため、槇生からは注意を受けているが聞く耳を持たない。朝をとてもかわいがっていたが、実里が亡くなった時は遺体の確認を拒絶し、自分の代わりに朝に確認させた。
玉城 (たましろ)
田汲朝と同じ高校に通う女子高校生。楢えみりのクラスメートで、クラス内ではいわゆる勝ち組グループの一員。実は中学時代、いじめに遭っていたために暗い学校生活を送っていた。もともと、女子生徒たちから羨ましがられるほど美人で、整った顔立ちをしている。容姿に関していじられたり、褒められたりする事に嫌悪感を感じている。しかし、もともと気が弱いため、その場で言い返したりできず、まるで電波障害にでも陥ったように無反応になる事がある。
書誌情報
違国日記 11巻 祥伝社〈FCswing〉
第1巻
(2017-11-08発行、 978-4396767174)
第10巻
(2023-02-08発行、 978-4396768768)
第11巻
(2023-08-08発行、 978-4396768935)