あらすじ
第1巻
統歴(とうれき)505年、大陸全土を巻き込んだ「統一戦争」が終わりを告げて10年、戦争の兵器として生み出された妖精兵は政府の管理下となっていた。しかし、巷では妖精の力を無許可に取引し、利益を上げている者たちがあとを絶たずに存在していた。ドロテアは、そんな違法妖精を取り締まる専門機関で、彼らは裏にひしめく人の悪意と戦い続けていた。そんな中、戦争で故郷が滅び、行方不明となった友人を探していたマーリヤ・ノエルは、その手掛かりを求めてマフィアに潜り込む。ドロテアに所属するフリー・アンダーバーも捜査のためマフィアに潜り込んでおり、たまたまマーリヤとフリーは出会うが、そこにマーリヤの探し人であるヴェロニカ・ソーンが襲来、マフィアから「黒の妖精書」を奪い逃走する。フリーはヴェロニカと戦うも一歩及ばず逃げられ、同時に騒動の中、マーリヤが妖精に取り憑(つ)かれ「妖精憑き」となるのを目撃する。妖精をあやつる力を持ったマーリヤは、現在の世の中では違法そのもので、フリーはマーリヤに、合法的にヴェロニカを追うためにもドロテアに所属することを提案する。マーリヤはヴェロニカに再び会うためにも、フリーの手を取り、ドロテアとして違法妖精と戦うことを決意するのだった。
第2巻
マーリヤ・ノエルたちは、民間の妖精学者であるダミアン・カルメから情報の提供を受け取り、黒の妖精書を手に入れることに成功する。だが、その情報はドロテアだけではなく、三代マフィアの「アーケイム」と「グイ・カーリン」にも流れており、黒の妖精書を巡った戦いが巻き起こる。グイ・カーリンに与(くみ)するビター・スウィートはフリー・アンダーバーと戦いを繰り広げ、黒の妖精書を奪おうとするが後一歩で失敗し、撤退を余儀なくされる。逃げ去ったビターは、パトリシア・パールとジョナサン・パスピエールの二人に応援を頼み、彼らをフリーとマーリヤに差し向ける。ジョナサンの凶刃にさらされ、マーリヤは危機に陥るが、そこにヴェロニカ・ソーンが現れ、彼女を危機から救う。そしてマーリヤはヴェロニカに復讐を止めるように説得するが、彼女の心は届かず、ヴェロニカは再び闇の中に姿を消していくのだった。
関連作品
TVアニメ
本作『Fairy gone フェアリーゴーン』は、TVアニメ『Fairy gone フェアリーゴーン』を原作としている。TVアニメ版は、第1クールが2019年4月から6月にかけて、第2クールが2019年10月から12月にかけて、TOKYO MX、毎日放送ほかで放映された。制作はP.A.WORKSが担当した。マーリヤ・ノエルを市ノ瀬加那、フリー・アンダーバーを前野智昭、ヴェロニカ・ソーンを福原綾香が演じている。内容は本作と同じく、ドロテアに所属するマーリヤ・ノエルと、復讐を誓う暗殺者であるヴェロニカ・ソーンの数奇な運命を中心に物語が展開するが、TVアニメ版ではコミックス版にはない、二人の運命の決着までが描かれている。
コラボレーション
進撃の巨人 LOST GIRLS
本作『Fairy gone フェアリーゴーン』の第1巻発売を記念して、同じく不二涼介が作画を担当する漫画『進撃の巨人 LOST GIRLS』とのコラボレーション企画が行われ、本作のコミックス第1巻の初版には、両作品のキャラクターが描かれたポストカードが封入された。
登場人物・キャラクター
マーリヤ・ノエル
違法妖精取締機関「ドロテア」に所属したばかりの新人の女性隊員。赤毛の髪をセミロングにしており、明るく前向きな性格をしている。自然豊かなスーナ村出身だが、彼女が生まれてすぐ両親と死別し、赤ん坊の彼女を引き取った女性も急に消息不明となる。彼女が生まれてすぐ立て続けに不幸な出来事が起きたため、村では「災いの子」と呼ばれ村八分に近い境遇に陥っていた。そんな中、ヴェロニカ・ソーンは自分と仲よくしてくれた唯一の存在であるため、彼女には強い友情を感じている。スーナ村の近くの森には妖精が住まう妖精郷が存在していたため、軍の襲撃を受け村は壊滅。村人も皆殺しにされ、ヴェロニカとも離れ離れとなってしまう。周囲の人を不幸にしてしまう境遇から、幼い頃は内向的な性格だったが、親友のヴェロニカを探すため一念発起し、行動力あふれる現在の性格へとなった。ただし根っこの部分は変わっておらず、時おり、自罰的で自己評価が低い部分を見せることがある。ヴェロニカを探すためマフィアに入り込んでいたが、そこで「妖精原体」に取り憑かれ「妖精憑き」となる。妖精憑きは手術を受けずに誕生した天然の妖精兵ともいえる存在で、現在のゼスキアでは存在そのものが違法。同じくマフィアの潜入調査をしていたフリー・アンダーバーにその存在を見とがめられ、合法的にヴェロニカを追うためドロテアに入る。所持している妖精は女性型の姿をした「アッシュクラッド」で、超高熱を発生させ、手でつかんだものを灰に帰す能力を持つ。実は本来、肉眼では目視できない妖精原体の姿を見ることができる能力を持つ。
フリー・アンダーバー
違法妖精取締機関「ドロテア」第一部隊に所属する青年。野性味のある顔つきをした青年で、第一部隊の隊長代理を務めている。統一戦争時を妖精兵として戦い抜いたベテランの軍人で、任務には忠実な性格をしている。また面倒見がよく、部下たちの世話をよくしているため、仲間たちからの信頼も厚い。任務のためマフィアに構成員として潜入しており、マフィア主催のオークション会場でマーリヤ・ノエルと出会う。マーリヤが妖精に取り憑かれるのを目の当たりにし、彼女をドロテアにスカウトする。戦闘では片手剣を二刀流であやつりつつ、自らの妖精「レッドフット」を使って戦う。レッドフットは狼男のような姿をした妖精で、敏捷性に優れ、爪と牙による攻撃を得意とする。また、レッドフットは方向による音波攻撃をすることもできる。
ヴェロニカ・ソーン
暗殺者の女性。金髪碧眼で、身軽な黒い服装を身にまとっている。他者を寄せ付けない冷たい雰囲気を漂わせており、寡黙であまり感情表現をしない。幼い頃は明るく無邪気な性格で、生まれ育ったスーヤ村で穏やかに暮らしていた。当時、村中で腫物のように扱われていたマーリヤ・ノエルにも分け隔てなく手を差し伸べ、マーリヤとは親友同士といった関係となる。しかし、村が軍による襲撃によって壊滅後、復讐を誓って襲撃の首謀者であるレイ・ドーンをつけ狙うようになる。現在は復讐のため、ダミアン・カルメと行動を共にし、散逸した黒の妖精書を集めている。妖精憑きとなり、妖精「ブラッドドーター」をあやつる。ブラッドドーターは仮面をかぶった細身の女性のような姿をしており、対象の傷口から肉体内部に入り込み、対象を内部から破壊する力を持つ。
セルジュ・トーヴァ
違法妖精取締機関「ドロテア」第一部隊に所属する青年。金色の髪を逆立てるようにセットした伊達(だて)男。お調子者な性格で、軽口をたたくことが多い。クラーラ・キセナリアのことを気に入っており、彼女と行動をする際にはからかうため、軟派な言動が多くなる。一方で軍務に関しては生真面目で、戦場では人が変わったように真剣な一面を覗かせる。妖精兵で、トカゲのような姿をした妖精「ブリンツテイル」をあやつる。ブリンツテイルは出現するとセルジュ・トーヴァ自身の腕に絡みつき、尻尾部分から回転体を発射する狙撃銃のような形となる。セルジュの狙撃の腕もあり、遠距離攻撃で力を発揮する妖精となっている。
クラーラ・キセナリア
違法妖精取締機関「ドロテア」第一部隊に所属する女性。栗色のロングヘアで大きな眼鏡をかけ、責任感が強くまじめな性格をしている。統一戦争時、ネイン・アウラーに助けられた過去があり、その経験から自ら妖精兵に志願し、ドロテアに所属した。所持する「トメリーズ」はカエルに似た姿をした妖精で、潜入と偵察に特化した力を持つ。また偵察に関しては強く集中することで、妖精器官の見分けもでき、妖精兵の存在を感知することもできる。妖精の能力の相性から狙撃の能力を持つセルジュ・トーヴァと組まされることが多く、軟派な言動が多いセルジュの存在に頭を悩ませている。
ネイン・アウラー
違法妖精取締機関「ドロテア」の局長を務める女性。秩序を守るため、自分を律して実直に任務をまっとうする鉄の女で、ふだんは局長としての仕事を優先し、第一部隊の隊長も兼任している。統一戦争時は「アイネデルンの魔女」とも呼ばれた猛者で、妖精「モルズニーク」をあやつる妖精兵であり、同時に妖精武器「アリアドラ」を携えた七騎士の一人でもあった。アリアドラは現在、妖精省の管轄で所持していないが、モルズニークは健在で氷をあやつる力を持つ。
チマ
マーリヤ・ノエルが飼っている小動物。リスのような姿をした珍しい動物で、学術名は「チェシュカマティカーナ」。マーリヤはその学術名を縮めて「チマ」と名づけた。貴重な動物でマフィアのオークションに掛けられられそうになるが、マーリヤがうっかり逃がしてしまう。その後、起きた騒動によってオークションは中止。マーリヤに懐いていたため、その後は彼女と行動を共にするようになる。
ウルフラン・ロウ
三大マフィアの一つ「アーケイム」に所属する男性。金髪の偉丈夫で冷徹な性格をしており、いつも無表情で黙々と仕事をこなしている。統一戦争を戦い抜いた妖精兵で、フリー・アンダーバーのかつての戦友。我が身を顧みず、兵士として戦争を戦い抜いたが、その戦争で妻子を失い絶望。戦後は行方をくらまし、裏の世界で数々の違法行為に手を染めている。アーケイムの摘発現場でフリーと再会。フリーたちドロテアと戦いながら、犯罪の証拠を隠滅して再び姿をくらます。歴戦の兵だけあり、その戦闘能力は高い。あやつる妖精「フィッチャー」は6本の腕にそれぞれ刃物を持っており、それを使った接近戦を得意とする。
アクセル・ラブー
三大マフィアの一つ「アーケイム」に所属する男性。アーケイムの構成員の中では末端で、情報屋を営みながら、マフィアの活動に加担している。姑息で臆病な性格ながら歪んだ上昇志向を持っており、アーケイムの情報をドロテアに流しつつ、同時にアーケイムの仕事をして成り上がることを目論む。妖精器官の移植手術を受けており、小鳥のような妖精「ピリーウィギン」をあやつる。ピリーウィギンの戦闘能力は皆無で、攪乱以外にはほとんど使えない。
ビター・スウィート
三大マフィアの一つ「グイ・カーリン」に所属する女性。茶色の髪をロングストレートにしている。スタイル抜群で、強烈な色気を漂わせている。人当りがよく、誰とでも気さくに接するが、目的のためなら手段を選ばない冷酷な一面を持つ。自称、冒険者兼実業家で、グイ・カーリンには所属しているが、組織との関係はあくまでビジネスパートナーでしかなく、グイ・カーリンからも準構成員として扱われている。ビター・スウィート自身の目的から黒の妖精書を求めており、同じ目的を持つドロテアの前に姿を現す。妖精器官の移植手術を受けており、細身の獣のような姿をした妖精「スクライカー」をあやつる。スクライカーは黒い霧を発生させ、自分が傷つくと相手にも同じ傷を与える能力を持つ。
パトリシア・パール
三大マフィアの一つ「グイ・カーリン」に所属する女性。華奢(きゃしゃ)な体型をした金髪碧眼で、ビター・スウィートとは友人同士。彼女の要請に応え、黒の妖精書強奪に協力する。味が付いた飲み物が苦手で、飲み物を飲む際には真水を好んで飲む。細腕に見合わない怪力の持ち主で、大きなトランクケースにさまざまな武器を入れて持ち運んでいる。戦闘ではダガーから銃まで武器を持ち換えて戦う。妖精器官の移植手術を受けており、妖精「ボーンレス」をあやつる。ボーンレスはゼリー状の肉に包まれた異形の妖精で、パワーに優れて格闘戦を得意とする。
ジョナサン・パスピエール
三大マフィアの一つ「グイ・カーリン」に所属する男性。身なりを整えた紳士のような見た目をしている。しかし、つね日頃から意味不明な言葉を口にしている狂人で、人を殺すことを芸術と思っている快楽殺人鬼。殺し屋を生業としており、パトリシア・パールとコンビを組んで、黒の妖精書を強奪しようとする。妖精器官の移植手術を受けており、妖精「ジェニーハニヴァー」をあやつる。ジェニーハニヴァーは大きな鳥のような姿をした妖精で、体を膨らませて破裂することで、爆弾のように周囲に被害をもたらす力を持つ。また、ジョナサン・パスピエール自身も体中に暗器を仕込み、戦闘ではそれらを手品のように出して戦うため、妖精と合わせてトリッキーな戦法で相手を翻弄する。黒の妖精書を強奪した際、マーリヤ・ノエルをトリッキーな攻撃で追い詰めるが、マーリヤを助けるために現れたヴェロニカ・ソーンの攻撃を食らい、死亡する。
ダミアン・カルメ
ヴェロニカ・ソーンと行動を共にする謎の男。髪もヒゲも生やし放題にしており、妖精学に詳しく、ヴェロニカと共に黒の妖精書を収集している。表向きは民間の妖精学者として、仲間のカイン・ディスタロルと共にドロテアに情報提供という形で協力しつつ、裏では黒の妖精書の情報を集めて暗躍している。
シュヴァルツ・ディーゼ
五公の一人で、ハイブランツ公を務める初老の男性。元アイネデルンの将軍で、ネイン・アウラーはかつての部下。アイネデルン制圧に多大な功績をあげたため、五公の一人に任命される。また、旧アイネデルンの半分程度の領地を自治領として与えられている。ゼスキア政府に対しては比較的従順な態度を取っているが、真意を決して悟らせない底の見えない部分がある。
レイ・ドーン
五公の一人で、カルオー公を務める初老の男性。ヒゲを生やしたがっしりとした体型で、老いを感じさせない精悍な雰囲気を漂わせている。元カルオー公国の将軍で、統一戦争時は妖精武器を携えた七騎士の一人として勇名を馳せた。ルオー制圧とファナチカ戦で多大な戦果をあげたため、五公の一人に任命される。統一戦争末期時、マーリヤ・ノエルとヴェロニカ・ソーンの住むスーヤ村を軍勢を率いて襲撃した張本人で、ヴェロニカからは仇としてその命を狙われている。
集団・組織
ドロテア
首相直属の違法妖精取締機関。統一戦争後、妖精の力があまりに強すぎることから、妖精兵から人工妖精、「妖精原体」に至るまで、妖精関連のすべては政府の管理下となり、無許可の取引はいっさい禁止されている。「妖精省」が妖精に関する保守、保全など行政部分を担当するのに対し、ドロテアは違法妖精の取り締まりや妖精関連の犯罪への対処など、治安維持部分を担当している。両者は役割は別だが、同じ妖精を扱う特性上、役割が似通っている部分もあり、任務によっては妖精省とドロテアは連携して動く場合もある。またドロテアは任務の特性上、必要があれば実力を行使して制圧するため、構成員には多数の妖精兵が所属している。
場所
ゼスキア
統一国家。かつて大陸東部の「イースタルド」を統一したゼスキアン大王が、自らを皇帝と称し、国号を「ゼスキア」とした。その後、時は流れ統歴481年に大陸東部全土を巻き込んだ「統一戦争」が勃発。24年の月日をかけ、統歴495年にサイダル王、ゴルバーンが大陸東部の統一を成し遂げ唯一の王となるが、ゴルバーンは戦後処理が終わると自らゼスキア帝室に王位を返上した。このため現在のゼスキアに王はおらず、皇帝のキャスタルハロルとその一族も実権は持たず、帝国の象徴としてのみ扱われている。ゴルバーンは王位を返還後、筆頭宰相である首相に就任。統一戦争で特に大きな功績をあげた5名を「五公」に任命し、それぞれに自治領を与えている。ただし戦後、五公のうち3人はなんらかの理由で死亡しており、現在生き残っているのはレイ・ドーンとシュヴァルツ・ディーゼのみとなっている。
レドラッド
ゼスキアの領土の一つ。イースタルドの東中央部を領土とする。イースタルドで最も歴史ある地で、首都のロンダキアはイースタルドで最も古い都であることから、かつては「古都」の通称でも呼ばれていた。統一戦争後はゼスキアがこの地に遷都したため、現在では「新都」と呼ばれている。ゼスキアの中枢として整備が進められており、首都北区の「ノース」には首相官邸やドロテア本部など国の重要施設が置かれている。
サイダル
ゼスキアの領土の一つ。イースタルドの南部西海岸を領土とする。領土には鉄や銅、金、銀などを産出する鉱山が存在し、領内では金属産業が盛ん。そのため首都であるクリオハランは「鉄の都」という別名で有名で、首都の建築物にも金属類が多く使われている。また、約200年前より大陸西部の「ウェスタルド」との交易も行っている。
ティムーン
ゼスキアの領土の一つ。イースタルドの西中央部から西岸までを領土とする。もともとは部族連合国家で、領土内には大小合わせて76の部族が存在し、それらが複雑な変遷をたどって一つの国にまとまった経緯がある。一つの国にまとまったあとも諍(いさか)いが起きていたため、他国からは争いの絶えない地として知られている。領内では古くから建物の高さを競う風習があるため、高い建造物を建てる建造技術が発展しており、首都であるイズハラートは「塔の都」の異名で有名となっている。
シンクエンジュ
ゼスキアの領土の一つ。イースタルドの中央部を領土とする。首都であるリェンムゥは澄んだ湖の上に存在し、上下水道が完全に整備されており、街中に水路が張り巡らされている。
カルオー
ゼスキアの領土の一つ。イースタルドの東部を領土とする。「カルオー」の名は先住民エチカの言葉で「光舞う地」を意味する「カラゥオ」を由来としている。首都ツバルは運河に存在する港町で、交易が盛んなため、他民族が入り乱れる独特の文化を構築している。船の行き来が多いため、半島や諸島も多く領土に含まれている。現在は五公の一人、レイ・ドーンがカルオー公に封じられ、旧カルオー領の3分の1を自治領として与えられている。
その他キーワード
妖精 (ようせい)
不思議な力を宿す生物。外見は羽の生えた半透明なくらげのような見た目をしているが、通常の人間の目には見ることができず、特殊なガラスである「妖精視晶壁」ごしに見ることで、その姿を確認することができる。正式名称は「妖精原体」で、これが動物に宿ることで、その動物を異形の怪物である「妖精成体」へと変貌させる。妖精成体の姿、能力は個体差が大きいが、心臓付近には「妖精器官」と呼ばれる特殊な臓器が発生しており、これを破壊されると妖精成体は死亡する。また妖精成体から取り出した妖精器官を人間に移植すれば、妖精の力を分身のように出現させ、あやつることができるようになる。この力を持つ人間は「妖精兵」と呼ばれる。一般的な妖精は「妖精原体」を指すが、妖精兵の存在があるため、軍人たちが「妖精」という場合、専ら妖精兵のあやつる分身を指すことが多い。妖精は「妖精郷」と呼ばれる特別な土地にのみ生息しているが、近年は軍事利用のための妖精の乱獲と環境破壊によって激減し、現在では妖精郷はほとんど現存していない。
妖精兵 (ようせいへい)
妖精の力をあやつる人間の総称。妖精成体から摘出した妖精器官が体内に移植されており、その力を利用して己の分身とも呼べる妖精を出現させ、あやつることができる。妖精兵の妖精は「妖精原体」とは違い、個々で姿かたちは違い、その力も固有のものが多い。戦闘に特化したものや、隠密や偵察に適したものなど幅広く存在し、統一戦争時は各地で妖精兵たちが猛威を振るっていた。しかし、戦時中は各国で合わせて妖精兵は三〇〇人いたとされるが、戦後に生存が確認された妖精兵はわずか一七人しかいない。また現代ではその能力は強力すぎるとされ、妖精兵の存在はドロテアのもと、厳格に管理されている。妖精兵の妖精は損傷しても、消滅はせず、しばらくすれば再び出現させ、あやつることができる。ただし妖精の損傷による痛みは、そのまま持ち主に跳ね返るため、損傷の度合いによっては痛みによって失神する危険性がある。また、妖精が自ら人間に取り憑く「妖精憑き」と呼ばれる存在がおり、彼らは手術なしで妖精の力をあやつることができる。天然の妖精兵ともいえる存在だが、その存在はほとんど確認されておらず、現在では存在しないと思われている。
妖精書 (ようせいしょ)
五大妖精学者によって著された書物。妖精学のすべてが記されているとされ、200年前、妖精書の「原本」に「青の妖精書」「赤の妖精書」「白の妖精書」「黒の妖精書」の4冊の内容をまとめて作られたとされる。このまとめられた妖精書は「正本」と呼ばれている。現在はこの正本の黒の妖精書部分が散逸しており、妖精書の全貌を知るものはいなくなっている。また妖精学者であるアラン・バックが正本を編集した「定本」と呼ばれるものが存在し、ドロテア管理のもと定本の白の妖精書の部分のみ一般にも公開されている。黒の妖精書の回収もドロテアの重要な任務だが、黒の妖精書が行方不明となった話は有名で、市井には多くの偽書が出回っており、未だにその行方はつかめずにいる。
七騎士 (ななきし)
「妖精武器」を携えた七人の騎士の異名。妖精武器は、妖精学者であり、妖精技師であり、芸術家でもあったレディ・ビハインが独自に開発した対妖精戦闘用の特異な武装で、統一戦争中に七つ作られ、それぞれ各国の英雄が使用した。その製法は謎に包まれており、「妖精原体」が使われているらしいということ以外はいっさい不明で、現代では再現不可能な技術の塊となっている。戦後、現存する妖精武器は妖精省によって保管されている。
人工妖精 (じんこうようせい)
「妖精原体」を利用して作られた兵器。妖精兵の妖精を機械を用いて再現した兵器で、機械的な外見をしている。使用者の命令に従って半自動的に動く「自動兵型」と、搭乗者の操作を必要とする「乗用型」や「運搬型」が存在する。ゼスキアでは戦後、「ゼルンⅠ型」と呼ばれる人工妖精が開発され、軍事や治安維持目的に配備されている。また、その存在はドロテアによって管理されており、一部無許可に取り扱われている人工妖精は摘発の対象となっている。
クレジット
- 原作
-
Five fairy scholars
書誌情報
Fairy gone フェアリー ゴーン 2巻 講談社〈講談社コミックス〉
第1巻
(2019-08-09発行、 978-4065162422)
第2巻
(2020-01-09発行、 978-4065178782)