世界観
物語の舞台となる世界の医療技術のレベルは、基本的に現代の日本に近い。しかし、主人公の零をはじめとする、主要な登場人物たちは現在の医療技術のレベルを遥かに越えたものを取り扱っており、その内容は交換不要で半永久的に稼働する完全内蔵型の人工臓器、記憶までも継承されるクローン技術などさまざま。また、現実にはありえない奇病や難病が数多く登場する他、透視能力や他人の記憶や思考を読み取るテレパシー能力を有する者がいたりと、ファンタジー・SF的な側面も持つ。
あらすじ
零は、とある臓器密売組織で臓器移植のための素体として育てられており、まだ幼少のうちにその両目を失うことになってしまった。しかしその手術の直後、零は何者かによって助け出され、謎の医師「B・J」の手によって、物体を透視することのできる新たな目を授けられた。その後、成長した零はその特殊な透視能力を活かし、フリーの天才外科医として名を馳せることとなる。零は謎の奇病や闇取り引きにまつわる危険な依頼を受けながら、かつて自分を捕らえていた臓器密売組織の謎に迫っていく。
単行本の装丁
コミックス第4巻を除くすべてのコミックスの巻頭には、描き下ろしイラストが描かれた折りたたみ型のカラーピンナップが付属する。また、コミックス第4巻を含む、すべてのコミックスの本体表紙には、描き下ろしのラフ画が描かれている。
派生作品
派生作品として、2006年4月20日に発行された『RAY+』がある。このコミックスには、『RAY』と同じく「チャンピオンRED」にて連載された『RAY』の本編終了後のサブエピソード数作品を収録。また手塚治虫の『BLACK JACK』を原作とした『BLACK JACK -シノツカイ-』、『RAY』に続く吉富昭仁の連載作品『GATE RUNNER』のプロトタイプとなる『GATE RUNNER -prototype-』が収録されている。
メディアミックス
2006年4月から『RAY THE ANIMATION』としてTBS系列を中心とした各局で、全13話のTVアニメが放送された。基本的には原作に忠実なストーリー展開となっているが、一部のエピソードが省かれている他、原作では連載終了まで謎のままだった「B・J」の正体が最初から明かされているなどの違いがある。
作家情報
吉富昭仁は宮崎県出身の漫画家。1988年、日本ファルコムの同名ゲームシリーズを原作とした『ソーサリアンシリーズ1 失われたタリスマン』のコミカライズを手がけて漫画家デビュー。その後、1990年に「月刊コミックコンプ」で『ローンナイト』で初のオリジナル連載を手がける。1996年から「月刊電撃コミックガオ!」で連載された『EAT-MAN』はアニメ化を果たすなど大きな反響を呼び、さらに2002年から「チャンピオンRED」で連載を開始した本作『RAY』で連載作品が2連続でアニメ化されることとなった。以降も意欲的に多数の作品を発表。ポップな絵柄と独特の雰囲気を持つ作品世界を構築することで知られる。代表作は『EAT-MAN』『RAY』『地球の放課後』『スクール人魚』他多数。
登場人物・キャラクター
零 (れい)
長く美しい黒髪を持った女性。豊富な医学知識と天才的な外科技術を持つ闇医者で、法外な治療費さえ払えば、どんなに危険な治療でも請け負ってくれると裏の世界では名の通った人物。裏では天才外科医として力を振るう一方、普段は沢医院という一見普通の病院で、看護師としての生活を送っている。かつて臓器密売組織で生まれ育った過去を持ち、まだ幼い頃に眼球を2億円で買われ、両目を失った。 しかし、その手術の後に何者かに臓器密売組織から助け出され、謎の男性医師「B・J」によって別の眼球を移植されている。この時に移植された眼球により、物体を透視できる能力を身につけており、この透視能力で患者の病原を即時に判断することができる。闇医者として活躍しているのは、かつて自分を売り飛ばした臓器密売組織の闇を暴き、復讐するため。 法外な治療費を求めるのも、高額を支払うことのできる闇社会の人間を相手にする方が情報収集に適しているだろうという理由によるもので、零自身は決して金の亡者というわけではなく、むしろ金のために患者を治療する行為には拒絶に近い嫌悪感を抱いている。なお、「零」という名前は、右肩に刻印されたナンバーを数式に変換するとその答えが「0」になることから、自分で付けたものである。
篠山 利明 (しのやま としあき)
零が治療で用いる医療機器を開発している技術屋。また技術屋としての顔の他、零に仕事を回すブローカーのような役割も果たしており、時には彼女の運転手を務めるなどさまざまなサポートを行っている。両目が隠れるほどボサボサに伸ばした無造作な髪型で、髪型と同様に生活も非常にだらしがなく、自室はゴミ屋敷と化している。反面、バッテリー不要で半永久的に動く人工心臓を独自に開発するなど、医療機器開発、とりわけ人工内臓開発においては非常に優れた才能を持つ。 なお、実は内臓機能が極めて弱いという体質を持っており、中学時代から沢医院に通い始め、内臓のほとんどを人工の物に置き換えている。零に対しては高校時代に沢医院で出会って以来完全に惚れ込んでおり、猛烈なアピールを繰り返しては無下にされているが、それでも諦めない情熱を持つ。
江戸川 賢治 (えどがわ けんじ)
沢医院に入院している少年。人に近づいたり、人の情報に触れるだけで、対象の記憶や思考を読み取ることができるというサイコメトリーのような超能力を持ち、新聞の切り抜きや心電図のモニターなどの無機物に対しても使うことができる。この能力を活かし、患者の病状の特定や感染源の特定などのサポートや、臓器密売組織に関わる情報を読み取ったりして零の仕事を手伝っている。 なお、外気に触れただけで激しい頭痛などの症状を引き起こし、最終的には死に至るという難病を抱えているため、彼の病室は強化ガラスでベッドを仕切った完全無菌状態の個室となっており、その狭い範囲での生活を余儀なくされている。とはいえ、病院内で移動する時に着用する宇宙服のような特別製スーツ、完全密閉型の電動車いすなども用意されており、完全に身動きが取れないという状態ではない。 また、外気に触れさえしなければ、至って健康な普通の少年である。
沢 (さわ)
零が働いている沢医院の院長を務める男性医師で、零の後見人のような存在。顔中を覆い、胸元まで伸びっぱなしにしたひげもじゃの顔で、左目に眼帯をつけ、左足の膝から下には単なる棒状の義足を持つ。医師ながら、普段は作務衣のような和装ばかりを着ているという、極めて破天荒な容姿をしている。言動も型破りで、零に患者の治療を任せるためわざと病院を留守にしたり、体ごと回転して相手に突撃する謎の格闘術を用いて、院内で銃を持った複数の成人男性を相手に大立ち回りを繰り広げたりと、とにかく無茶苦茶をする。 しかし、身寄りのない零を看護師として雇ったり、治療法の見つからないような難病の患者、表には出せない事情を抱える患者もすべて受け入れて救おうとするなど、「他人を救う」という一点において揺るぎない信念を持つ。 また薬学のエキスパートであり、これまでにない画期的な新薬を開発する優れた知識を持っている。
春日野 (かすがの)
桑名医科大学の医科局長を務める初老の女性。豊田らとともに新型MRIを完成させた研究チームの責任者。新型MRIのリアルタイムモニターに現実とのタイムラグがあることを知りながら、研究費の確保を目的として、中島清美を被験者とした公開手術を行おうと画策している。これに反対する者には非常に辛辣な態度を取り、唯一研究チームの中で反対していた豊田と対立。 自身の職権を振りかざして研究チームから外し、公開手術に踏み切るという強硬策に出た。しかし、これは桑名医科大学附属病院の院長によって仕組まれたものであり、公開手術を失敗させることで、研究費や地位の向上ばかりを狙う研究員を体よく解任するためであった。実は臓器密売組織から助け出された零の後見人の1人であり、零に外科技術を教えた師匠。 中学時代まで零とともに暮らし、育て上げた母親のような存在である。
美里 (みさと)
沢医院で働く女性看護師の1人。メガネをかけ、長い髪を側頭部で2つのお団子にまとめた髪型をしている。沢医院で働く看護師の中でも古株であり、零が「さん」付けで呼ぶ数少ない人物。零の能力などを知りながらも、1人の女性として対等に接し、精神的に孤立しがちな零の相談相手となるなど、気の置けない親友のような関係を築いている。 なお、なぜか全員が武術の心得を持つ沢医院の看護師の中でも、ひときわ腕が立つ強者。銃で脅されても軽口を叩き、複数の成人男性を相手にしてもひるまない驚異的な胆力の持ち主。
利江 (りえ)
沢医院で働く看護師の女性。髪型は眉がくっきりと出るほどに短い前髪が特徴のベリーショートカットにしている。何者かによって院内でばら撒かれたAT-23に感染してしまい、零を化け物だと思い込んで襲いかかってくる。沢医院のほかの看護師同様、常人では太刀打ちできないほどの武術の腕前を持っており、AT-23に感染した時は点滴スタンドを手に棒術を披露した。
Hの男 (えいちのおとこ)
臓器密売組織に所属している謎の男性。右手の中指にアルファベットの「H」の模様の入った指輪をしている。零の組織についての記憶の中で、零の両目を購入した男性と値段交渉をしており、臓器密売組織につながる大きな手がかりとなっている。沢医院に運び込まれながらも脱走したブルービーを零が確保した際、ブルービーを始末しようとする組織の一員として登場。 零に「君の活躍をいつも楽しみにしている」と謎の言葉を発して姿を消した。
ユキヤ
臓器密売組織に所属している謎の男性。山中でワクチンの少年を使って研究を進めていたところ、少年を助け出しに来た零と遭遇する。零の介入によって研究が頓挫したことに恨みを持っており、その後も組織の手から逃げ出したブルービーやアカリボンを始末するため、そして零を排除するためにたびたびその前に姿を現す。
コーイチ
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少年。生まれついての名前はなかったが、肩に刻まれたナンバーが「075-2-22」であり、数式に置き換えると答えが「51」になることから、自ら「コーイチ」という名前を名乗っていた。零が臓器密売組織で暮らしていた頃の恋人だが、零が組織から助け出された後は消息が不明となっていた。 しかし、のちに篠山利明とインターネットメールで情報のやり取りをしていたことが判明。零のことをどこからか見守っていると言いながらも姿を見せず、何らかの目的を持って独自の行動をとっている。
アカリボン
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少女。生まれついての名前はなかったが、赤いリボンを好んでしていたことから、周りの子供たちに「アカリボン」と名付けられることになった。零が両目を奪われ、組織から助け出されてからはその生死もまったく不明だったが、ある時、零の携帯電話にメッセージが入り、ついに再会。 それ以降、零と生活をともにすることになる。下着姿で外出したり、味噌汁にプリンを入れるなど、一般常識に乏しい面はあるが、明るく無邪気な性格で、家族同然に育った零に対しての好意を隠そうとしない。しかし、零の携帯電話番号を知った経緯や、ブルービーに執拗に会いたいと繰り返すこと、無痛症であるはずなのに痛みを訴える嘘をつくなど、不審な点を数多く抱えている。 肩にあるナンバーは「075-1-77」。
ブルービー
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少年。生まれついての名前はなかったが、青いビー玉を宝物だと語っていたため、周りの子供たちに「ブルービー」と名付けられることになった。零が両目を奪われ、組織から助け出されてからはその生死もまったく不明だったが、ある時、沢医院に左腕に重度の火傷を負い、手のひらが握られたままの状態で運び込まれる。 この際、肺にレオーネが感染していることが認められた。しかし、沢医院に運び込まれた1週間後になぜか脱走。臓器密売組織の追っ手に捕まり、命を奪われそうになったところを零に助け出される。その後は零の手腕でレオーネも無事に除去されたが、意識を取り戻した時には一切の記憶を失ってしまっていた。 肩にあるナンバーは「075-1-78」。
ブルーソックス
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少女。生まれついての名前はなかったが、青い靴下を好んで履いていたことから、周りの子供たちに「ブルーソックス」と名付けられることになった。零が両目を奪われ、組織から助け出されてからはその生死もまったく不明だったが、のちにコーイチとともに行動していることが判明。 コーイチの目的に賛同しており、その妨げになる零を独断で排除しようとする。
ハナコ
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少女。生まれついての名前はなかったが、花のおもちゃが好きだったことから、「ハナコ」と名付けられた。しかし、「ハナコ」と名前を呼ぶのは、同じく臓器密売組織でともに育ったコーイチのみであり、他の子からは「ハナちゃん」と呼ばれていた。まだ零が臓器密売組織で暮らしていた11年前、身体中を寄生虫に蝕まれるような症状に侵され、零の目の前で命を落とした。 しかし、その後、成長した零が臓器密売組織の情報を手がかりに訪れた近山病院で、死亡する直前と同じような姿で零たちの前に現れる。
スズ
とあるアパートの一室で生命維持装置につながれたまま生き永らえている1人の少女。生まれついての名前はないが、鈴が好きだったことから「スズ」と名付けられた。かつては零たちと同じナンバーズであったが、他人よりも極端に早い速度で老化していくという早期老化症候群を患っている。このため、研究対象として、臓器密売組織で研究をしていたユキヤのもとに連れて来られるも、いつしかユキヤと心を通じ合わせることになった。 そして、ユキヤによって、秘密裡にアパートの一室に隔離されることになり、またこの時、老化を少しでも押しとどめるために全身を腕や足、上半身と下半身などの各パーツに分断し、生命維持装置につなぐ措置が施されている。一時はある事情で長時間放置されていたことから、身体の細胞が異常増殖してしまう異形に成り果てたが、篠山利明の人工内臓ユニットと零の施術によって快復、バラバラになっていた身体パーツも元通りつなぎ合わさり、沢医院でリハビリの毎日を送る。
クルマ
かつて零と一緒に臓器密売組織に囚われて暮らしていた少年。生まれついての名前はなかったが、クルマのおもちゃが宝物だと語っていたため、周りの子供たちに「クルマ」と名付けられることになった。
ONE (わん)
右肩に「078-3-74」の刻印を持つナンバーズの1人。右肩の刻印を数式に変換すると「1」になることから、自ら「ONE」と名乗っている。自分のことを零と同じ素体から作られたクローンだと語り、容姿は零と瓜二つ。また、零と違って自分にはオリジナルが持っていた記憶があると語り、記憶を持たない零のことを失敗作と蔑み、憎しみの感情を向けている。 オリジナルの持つ記憶の中でもHの男に対する愛情を色濃く引き継いでおり、妄信的に付き従う。しかし、Hの男が臓器密売組織の本部を放棄し、その職員たちが口封じのために体内に仕掛けられた爆弾で始末されていく中、同じく体内に仕掛けられた爆弾によって重傷を負い、そのまま捨てられてしまう。
HONOKA (ほのか)
Hの男が作り上げたクローンの1人。零やONEと同じオリジナルの素体から作り上げられており、Hの男いわくオリジナルの記憶や感情、その他のすべてを継承した完全体であるという。そのため、自己紹介の時も自分のことを「斉藤ほのか」だと語る。Hの男が造った昭和の町で束の間の平和を享受していたが、昭和の町に乗り込んで来たコーイチの銃撃からHの男をかばって重傷を負う。 その後、零に助け出されてからは沢医院に移送されて意識を取り戻し、Hの男の正体やその計画の全貌を明らかにした。
堀内 すみれ (ほりうち すみれ)
大手の人工臓器メーカー「堀内ライフメーカー」の社長令嬢。美里の友人であり、また中学生時代に沢医院に通っていた経緯から篠山利明とも面識がある。過去に患っていた病気のせいで内臓の80%を人工臓器に頼っており、同じく内臓のほとんどが人工臓器の篠山には強いシンパシーと恋慕を感じている。また篠山の持つ人工臓器開発の技術力の高さも認めており、自身も所属する「堀内ライフメーカー」の社員として迎えたいと考えている。 一方で、その篠山から好意を寄せられていながらも、それを真摯に受け止めない零に対しては、嫉妬心とライバル心の混ざりあった複雑な感情を抱く。
B・J (びーじぇい)
両目を失った零に、物体を透視できる眼球を移植する手術を施した謎の男性医師。顔面を斜めに走る縫合痕があり、髪色は白と黒のツートンカラーで、顔の片側を隠すほどに長く伸ばした前髪が特徴の人物。零の執刀を担当した後、その身柄を沢に託したが、時おり零の様子を見るためにその姿を現すことがある。
斉藤 ほのか (さいとう ほのか)
零やONE、HONOKAのクローンのもととなったオリジナルの人物で、斉藤晃一の母親。晃一がまだ12歳、ほのかが32歳の時に脳溢血で死亡。その細胞を夫である斉藤浩二が保管していたため、晃一がクローン計画を思いつき、年齢を重ねた後に実行に移すことになる。生前は天才的な外科技術を持つ人物として、沢や春日野の憧れの的であった。 その外科技術は零に、晃一への愛情や感情面での性格はONEにそれぞれ受け継がれている。
斉藤 晃一 (さいとう こういち)
Hの男の本名であり、その正体。斉藤ほのかの息子であったが、まだ12歳の頃に母親を亡くし、そのクローンを作り出すことを目標として医学研究の道に進んだ。沢や春日野とは昔なじみであり、理想の病院を設立するという同じ夢を掲げる仲間であったが、真の目的である母親のクローン計画を始めたことをきっかけに決別した。
斉藤 浩二 (さいとう こうじ)
斉藤ほのかの夫であり、斉藤晃一の父親。ほのかが死亡した10年後に死亡しており、故人。オリジナルであるほのかの記憶を持つHONOKAいわく、少し変わった性格の持ち主で、ほのかが死亡した際、その細胞の一部を厳重に保管していたという。その理由について、HONOKAはおそらく単なる記念のためで、クローンを作ろうとは考えていなかっただろうと語っている。 しかしそれが後に晃一によってクローン計画に使われるという事態を招いた。ちなみにHONOKAは、篠山利明が斉藤浩二によく似た雰囲気を持っていると言っており、ONEが篠山に惹かれるのもそれが理由なのではないかと推測している。
ユリ
銀行強盗団のメンバーの1人。黒い長髪で、勝ち気な目をした女性。同じ銀行強盗団にいる美咲の姉でもある。女性ながら肝が座っており、腕っ節も強いため、強盗団のリーダー的な存在となっている。ある時、犯罪シンジケートの指示で銀行強盗を行うも、それまでの犯罪シンジケートのやり口に我慢できずそのまま金を持ち逃げした。 だが、警察や犯罪シンジケートからの逃亡中に、かねてから体調を崩しがちだった美咲の病状が悪化。ユリはそれを一切意に介さず、治療を受けさせるべきと主張する他のメンバーと仲間割れした。学生時代に雄一とは恋人だった過去があり、その後、今では雄一が美咲と付き合っていることから、他のメンバーからは2人の仲を嫉妬しているため、辛く当たっているのではないかと思われている。
美咲 (みさき)
銀行強盗団のメンバーの1人。金色の長い髪を持つ女性。同じ強盗団のリーダーであるユリの妹。犯罪シンジケートの指示で銀行強盗を犯しながら、その金を持って逃亡する最中、かねてより抱えていた持病が悪化。同じ強盗団のメンバーで恋人でもある雄一が零に依頼して治療を受けることになるが、これが美咲を放っておくべきと主張するユリと他の強盗団メンバーの仲を引き裂く原因になってしまう。
雄一 (ゆういち)
銀行強盗団のメンバーの1人で、髪型をセンターで分けボブカットにした男性。過去に同じ強盗団のメンバーであるユリと付き合っていたが、現在はその妹の美咲と付き合っている。ある時、犯罪シンジケートの指示で銀行強盗を行うも、それまでの犯罪シンジケートのやり口に我慢できずそのまま金を持ち逃げした。しかし、警察や犯罪シンジケートからの逃亡中に、かねてから体調を崩しがちだった美咲の病状が悪化。 美咲に治療を受けさせるよう主張するも、放っておくべきだというユリと対立することになる。美咲を医者にみせるために、ユリ1人を捨てて銀行強盗で得た金を持ち逃げし、零に美咲の診察を依頼する。
武川 有子 (たけがわ ゆうこ)
武川病院の院長の娘で、武川病院に入院している女の子。武川病院で医者として働く浩二の恋人。心臓の筋肉が弱って伸び切ってしまう拡張型心筋症という難病を抱ええるうえ、その他の合併症も併発しており、もう一度発作が起きれば命はないと宣告されている。自分の病気が深刻で、かつ治療が難しいことを自覚しているため、自分が死んだ後に浩二が悲しまないよう、わざと浩二に嫌われるような振る舞いを見せる。
浩二 (こうじ)
武川病院で働く男性医師で、自身の職場の院長の娘である武川有子とは恋人関係にある。拡張型心筋症という治療が難しい病気を抱える有子を助けるべく、天才外科医と名高い零に仕事を依頼。有子を助けるため、自分の心臓を有子に移植し、自分は人工心臓につながれたまま植物状態になることを望んだ。
戸田 (とだ)
沢医院を訪れた1人の男性患者。ある時、自分が病気にかかっていることを知るが、麻薬密売組織に所属しており、秘匿性確保のためとして組織から行動を制限され、病院に行けないでいた。しかし病状が悪化していく中で覚悟を決め、組織の追っ手を逃れて命からがら沢医院に逃げ込んだ。沢医院を訪れた時には既に一刻を争うほどに病状が悪化しており、命を助けてくれるなら麻薬密売組織のことを洗いざらい話すという条件で治療を受けることになる。
飯山 法子 (いいやま のりこ)
沢医院に運び込まれた高校3年生の女の子。自宅で彼氏と性行為に及ぼうとしたところを母親に邪魔され、母親をカッターナイフで切りつけるという事件を起こした。その時に自分も怪我を負ったため、母親共々沢医院に運び込まれて来た。彼氏によれば、普段はおとなしい性格だというが、事件を引き起こした時は、やけに積極的になるなど少々普段とは違った様子を見せていたという。 また、病院を訪れた際には、母親に襲いかかった理由が自分でも分からないと混乱して涙を流すような一面を見せながら、優しくしてくれた看護師に突然口づけをするなど精神的に不安定な部分が見える。
法子の彼氏 (のりこのかれし)
飯山法子の付き添いで沢医院を訪れた青年。法子と付き合っており、法子が母親を切りつけた事件の目撃者となった。また、母親に傷をつける前から法子の様子が普段とは違うことに気付いており、沢医院の看護師に一連の問題の経緯を話す。
寄生虫 (きせいちゅう)
飯山法子の体内に潜んでいた謎の生物。厚みがなく、幅の広い蠕虫のような姿をしており、全長は5センチほど。一見、ただの虫のようだが、江戸川賢治の超能力によれば、宿主である法子の意識を乗っ取って主導権を握るほどの知能を持っている。またそれを見抜いて指摘した賢治を、その場ではなく夜に人知れず始末しようとするなど、計画性を含めた高い知性を持つことが分かった。
ワクチンの少年 (わくちんのしょうねん)
とある山中に隠された研究施設に捕らわれていた12歳の少年。その施設の概要と少年に関する研究内容について、沢が極秘のファイルを隠し持っており、それを発見した零によって救出作戦が行われた。広い施設の中の一部屋に1人、壁に錠でつながれたままの状態で隔離され、人間の体内に流れる血液を利用して作る新型ワクチン研究の素体にされていた。
大山 千絵子 (おおやま ちえこ)
謎の奇病に侵され、沢医院に運ばれた14歳の少女。検査による異常が見当たらない健康体であり、しかも一切の外的な衝撃などを受けていないにもかかわらず、1年ほど前から、突然身体中にアザができたり、内出血や吐血、骨折などを繰り返すという謎の症状に見舞われている。また、本人は「あの人と自分は一心同体」という謎の発言をしており、「あの人」が水を求めているからと夜中に起き出してシャワーを浴び続けたり、前触れもなく外に出て風に当たって立ち尽くすなど、奇行を繰り返すこともある。
桜の木 (さくらのき)
沢医院から見て北の方角にある、とある公園に生えている桜。1年前に大山千絵子がこの桜の木に登って遊んでいる時に枝が折れて落下。その時たまたま地面に落ちていた桜の種子が傷口から体内に入り込んだまま塞がってしまう。これによって、桜の木と千絵子が心身ともにシンクロすることになり、桜の木が傷つくと千絵子にも同じ傷が残るようになった。 また、本体の樹木が切り倒されそうになった時には、千絵子の体もろとも種子を地面に埋め、子孫を残そうとしていた。
久米原 武雄 (くめはら たけお)
小倉里村で生まれ育った45歳の男性。小倉里産業の工場に勤め、工場長を任されている。吐血、血尿、血便を繰り返す出血傾向の強い謎の体質を持つ。また、一度出血が始めると止まらないため、ほんの少しの怪我でも命に危険が及ぶとして、零に病気治療の依頼が回ってくることになった。非常に正義感が強い熱血漢で、経営が悪化するばかりの小倉里産業を立て直すため、大原社長に対して何度も親会社以外からの仕事を受注すること、また工場の設備改修を行いコストダウンを行うことを進言していた。 しかし、村の中で絶対的な存在である大原社長に歯向かったことで、周囲から孤立。そんな中、さらに大原社長と揉め事を起こし、突き飛ばされた際に鉄材の一部が腕にささって出血する。 零が現場に訪れた時には既に手の打ちようがないほどに失血しており、生命の灯火が消えそうになっていた。
大原 雅司 (おおはら まさし)
大原社長の息子で、久米原武雄の幼なじみ。かつては武雄と2人で小倉里村や小倉里産業を良くしようと明るい未来を語り合っていたが、育つにつれて父親の言いなりとなり、武雄の言うことにも耳を貸さなくなってしまった。しかし、実はこれは長年に渡る大原雅司の計画の一端であり、父親から小倉里産業の経営権を奪い取ると態度を一変。 大原社長と小倉里産業を買収した親会社が政治家に賄賂を渡していることを告発し、武雄が嘆願する工場の経営改革に乗り出すことを宣言する。
大原社長 (おおはらしゃちょう)
小倉里産業の社長を務める老人。小倉里村の働き手すべてを養っているという自負から、王様気取りで偉ぶっており、非常に傲慢な性格を持つ。また、非常に排他的で、自身の経営する小倉里産業が大企業に買収された後は、親会社からの仕事しか受注しないという徹底したワンマン経営を行い、経営が悪化していることに気付きつつも、対策を取ろうとしていない。 その性格から、工場の経営改善を主張する久米原武雄とは折り合いが悪く、ある時言い争いになった末に武雄を突き飛ばし、怪我を負わせてしまう。
皮膚病患者 (ひふびょうかんじゃ)
ある特殊な皮膚病に罹患している37歳の男性。現在は病状の進行を抑えるため、病原菌に耐性を持つ細菌を混ぜ込んだ液体で満たした津田町水族館の水槽内に隔離されている。水槽内での手術は非常に難しく、また病気の進行を遅らせているだけで猶予もないことから零に仕事が依頼された。
富山 (とやま)
スタントマンとして活躍する壮年の男性。同じくスタントマンであり友人でもあった人物が、ある映画のカースタントシーン収録時に失敗し死亡したことを受け、その後任として同じスタントに名乗りを挙げた。友人が死亡した際の収録現場にも立ち会っており、事故の影響で軽い火傷を負って沢医院で治療を受けた経緯がある。そのつながりから、同じスタントを行うにあたり、緊急時の治療要員として零がスタントに立ち会うことになった。 スタントマン、ひいては仕事人として高いプライドを持つ性格で、「仕事を選ぶやつはプロではない」というポリシーを持つ。
富山 太郎 (とやま たろう)
スタントマンである富山の息子。まだ小学生程度の幼い少年だが、テレビドラマでアクションシーンをこなすなど第一線で活躍中。富山は、太郎は既に自分のライバルだと言って憚らず、自身が危険なスタントシーンを受けるのも、太郎にプロとしての矜持を見せるためと語っている。太郎もそんな父親のことを誇りに思っており、スタントマンという仕事を理解できないと語る零に対しては、語気を荒げて食ってかかる。
浅田 義男 (あさだ よしお)
沢医院に運ばれて来た25歳の男性。周囲に影響を及ぼす特異体質の持ち主で、手術をしようとするとレーザーメスが曲がってしまったり、モニター機器が故障するなどの超常現象が起きてしまう。また、特異体質の影響で老化細胞が異常増殖しており、25歳であるにも関わらず老人のような容姿で、痴呆の症状も現れ始めている。どこの病院でも治療することができずに、最終的に家族たっての希望で沢医院で治療を受けることになった。 しかし実はこれは方便であり、浅田義男が沢医院に運ばれて来たのは、臓器密売組織の手引きによるもの。浅田の正体は臓器密売組織の一員であり、零たちナンバーズを管理していた人間であった。Hの男の差し金によって浅田を治療するお膳立てが整えられており、零が臓器密売組織の人間を助けるかどうかの試金石とされた。
大木戸建設社長 (おおきどけんせつしゃちょう)
大木戸建設という会社の社長を務める男性。心臓に疾患を抱える息子を持っており、その生命を救うために臓器密売の話に乗り、その移植手術を沢医院へと依頼してくる。一般的な倫理観や常識はわきまえているものの、息子を救うためであれば臓器密売に頼るのも止むをやないと考えている。またそうすれば息子が助かるものと妄信しており、零が心臓移植の危険性やリスクを話してもまったく耳を傾けない。
大木戸建設社長夫人 (おおきどけんせつしゃちょうふじん)
大木戸建設社長の妻。心臓病を抱える息子を大事に思う気持ちは夫と同様だが、家族以外の人間に対しては高圧的で利己的な態度を取る。また非常に神経質な性格であり、家具の配置に関してはセンチメートル単位で指示し、その角度にまで徹底的にこだわるなど強迫症に近い一面を見せる。
大木戸建設社長の息子 (おおきどけんせつしゃちょうのむすこ)
大木戸建設社長の息子である10歳の男の子。病に臥しているため判然としないが、カルテを見た沢によれば、美少年であるという。重度の心臓病を患っており、病状の回復にはもはや心臓移植しか手がないとされている。しかし、タイミングよく心臓を提供してくれるドナーが現れたということで、沢医院に心臓移植手術の依頼が出されていた。
豊田 (とよだ)
桑名医科大学に所属する研究員の男性。研究室では新型MRIの開発チームに所属し、チーム内では最大の功労者と呼ばれるほどの貢献を見せた。そのおかげもあり、新型MRIは一応の完成をみるも、リアルタイムモニタリングにゼロコンマ数秒のタイムラグがあることから、手術での使用には慎重な姿勢を見せる。一方、新型MRIを使った中島清美の公開手術をすることで、スポンサーから研究費の支援をもらおうと考える他の研究員と対立。 春日野医科局長を始めとした公開手術強硬派に先んじて清美の病気を治すべく、零に手術を依頼した。
中島 清美 (なかじま きよみ)
桑名医科大学の付属病院に入院している27歳の女性。血管壁内に風船状の腫瘍が認められる特殊な病気を患っており、この風船が一定以上の大きさに膨張すると血管が破裂、内部出血を引き起こすという難病を抱えている。風船は1か所にとどまっているわけではなく、常に移動し続けているため、通常の手術では場所が特定できずに除去が不可能という厄介な性質を持つ。 しかしこの病状は、豊田も所属する桑名医科大学の研究チームが開発していた、リアルタイムで体内をモニターできる新型MRIのお披露目にちょうど良いとされ、研究費を得るための公開手術に踏み切られようとしている。なお、中島清美には、人の目を見ることでその人の性格や思考などを読み取る不思議な才能があり、周囲を取り巻く人々の考えから、自分がどういう運命をたどるかが大体想像できる。 そのため、公開手術が行われるかどうかについてはかなり無頓着でいる。
人美 (ひとみ)
零の中学3年生の頃の同級生。零が当時暮らしていた田舎にある火土神社の巫女の家系に生まれ、15歳の誕生日を迎えたその日に、神社でも最高位の巫女として洗礼を受ける。しかし、その洗礼を受けた翌日から腹部にイボができるようになり、その後、零と2人きりの時にイボのあった場所から両手で抱えきれないほどの巨大な腫瘍が吹き出すという謎の症状に見舞われる。 他に頼れる人物のいなかった零が、この時初めてメスを握り、1人でオペを担当した患者となった。なお、中学3年生の頃から同じ中学に通っていたカズに片想いをしているが、十分な大人になった今もまだ告白できていない。
カズ
零や人美と同じ中学校に通っていた男子生徒。中学3年生の時には2組に所属していた。人美はカズに片想いをしており、中学3年生のバレンタインデーにチョコレートを渡そうと零と一緒に手作りチョコを作っていたが、腹部のイボから謎の腫瘍が吹き出すという症状に見舞われたため、チョコレートは渡せず仕舞いだった。
村外れの老婆 (むらはずれのろうば)
南守部村の村外れに住む老婆。村民22人のうち、15人が感染症で死亡したという事件の生き残りであり、事件が起きた当時の様子を知る人物。事件が起きた際、村に白い防護服を着た何者かが訪れていたことや死亡した者の腹からキノコが生えていたこと、そして自分の一家5人を除く村の生き残りである大守部家の2人が外出していた時に事件が起きたことから、村人たちは大守部の秘密を知ったために何らかの方法で殺されたのではないかと推測している。
大守部 (おおもりべ)
南守部村に住む大守部家の主人。大守部小枝子と2人で暮らしており、村人の多くが感染症で死亡した時には村を離れていて、難を逃れた。小枝子によれば、以前は厳しくも優しい父親であったというが、娘が既に死亡したという母親と同じ病気にかかり始めてから、歪んだ愛情をぶつけるようになり、ほぼ家に監禁しながら誰とも会わせないようにするなど、おかしな挙動を見せるようになる。
大守部 小枝子 (おおもりべ さえこ)
大守部の娘。穏やかな性格の持ち主で、今まで父親と2人で慎ましく暮らしていたが、ある頃から体に痣(あざ)ができ、それが徐々に広がっていくという奇病にかかってしまう。父親いわく、その病気は死んだ母親と同じ病状のものであり、しかも母親はこの病気によって命を落としたという。病気にかかってからは、それまで優しかった父親の態度が豹変し、自宅に軟禁されて、他人との接触を禁じられるなど不自由な生活を強いられている。
小枝子の友人 (さえこのゆうじん)
大守部小枝子と同じ学校に通う少年。マッシュルームカットのように切りそろえた髪型をし、顔にそばかすが残る純朴な容姿をしている。ある時、小枝子によって大守部家の山に呼び出され、そこで小枝子から告白を受け、またその場で肉体関係を迫られる。まんざらでもない様子でいい雰囲気ではあったものの、告白された直後に大守部に逢引が見つかってしまったうえ、「二度と近づくな」と脅され、その場から逃げ去った。
集団・組織
ナンバーズ
零を始めとして、ブルービーやアカリボンなど臓器密売組織で生まれ育った子供たちのことを示す言葉。主に臓器密売組織に所属する人間が使う。ナンバーズにはそれぞれ右肩に個体を示すナンバーが記されており、これが呼び名の由来となっている。
犯罪シンジケート (はんざいしんじけーと)
銀行強盗団を裏から操っていた闇の組織。その昔、事務所に盗みに入って来たユリたちを発見し捕縛。警察に突き出さない代わりに自分たちの組織に加えて、さまざまな悪事に加担させていた。かなえ銀行における銀行強盗もその一環だったが、精神的な限界を迎えた銀行強盗団によって金を奪われたまま逃走されてしまい、その身柄を追っている。
銀行強盗団 (ぎんこうごうとうだん)
かなえ銀行杉並支店に襲撃をかけ、1億円を超える金額を奪い去った男女5人組。ユリ、美咲、雄一の3人の他に、2人の男性で構成されている。全員が同じ高校に通っていた友人同士で、若い頃から悪事に手を染めていた。そんな中、犯罪シンジケートの事務所とは知らずに盗みを働いたところを構成員に見つかり、それ以来、犯罪シンジケートに逆に脅されて手先としていいように扱われている。 もともと友人同士なため、結束力は強いが、ユリ、美咲、雄一の三角関係のもつれから、今は少々ギクシャクしている。
小倉里産業 (こくらさとさんぎょう)
小倉里村で工場を営む企業。都会に行くにも難しい立地の小倉里村で、150年も前から生産業を営んでおり、村の働き手をすべて雇っている。しかし、最近になって大企業に買収され、子会社化された。社長である大原社長は非常に排他的な性格の持ち主で、大企業からの仕事しか受注しないため、経営状況が悪化の一途を辿っているという問題を抱えている。
場所
沢医院 (さわいいん)
零が看護師として働く病院。表向きは普通の病院となっているが、その実はどんな難病の患者や複雑な事情を持つ患者でも受け入れる名医として知られる病院。なお、この受け入れる患者を選ばないというのは院長である沢のポリシーでもある。そのため、普通の病院から治療の余地なしと見放された患者たちが数多く訪れて来る。なお、こういった特殊な事情があるからなのかは不明だが、院長の沢や看護師の美里を始め、勤務職員のほぼ全員が武術の心得を持つという極めて特殊な一面もある。 ちなみに臓器密売組織で生まれ育ち、本来であれば戸籍のない零だが、沢医院においてその過去は周知のことであり、また沢院長を始めすべての職員は透視ができるという零の目についても知っている。
小倉里村 (こくらさとむら)
都会から遠く離れた場所にある集落。鉄道などの交通インフラが整っていないような場所で、集落の人間は村にある小倉里産業の工場で働くことでしか生きていけない。そのために工場を経営する大原家が村の主権を握っている状態となっており、非常に閉鎖的な環境になっている。
フォンデューヌ
阿佐ヶ谷にある喫茶店。零がアカリボンから受け取ったメールで、再会する場所として指定された。しかし、実はそのメールはアカリボンを装ったユキヤの罠であり、零とアカリボンを同時に始末するための罠であった。
津田町水族館
とある町の郊外に建てられている水族館の建物だが、既に水族館としては廃業している。その施設は皮膚病患者の父親によって買い上げられ、皮膚病患者の病状の進行を遅らせるために使用されている。
近山病院 (ちかやまびょういん)
都会から離れたのどかな農村部に建つ廃病院。8年前に廃業して以来放置されており、地元では幽霊病院と呼ばれている。かつては確かに開業していた病院のはずだが、その所有者や閉鎖された理由などすべてが不明。しかし、零の手術によって助かった浅田義男の記憶をもとに訪れた零たちは、この場所がかつて生まれ育った場所、臓器密売組織の拠点の1つだったことを思い出す。
臓器培養施設 (ぞうきばいようしせつ)
静かな山間にある臓器密売組織の拠点の1つ。大木戸建設社長の息子の心臓病手術を執り行った際に接触して来た臓器密売組織の一員から情報を聞き出し、零が単独で潜入することになった。施設内にはかつての零と同じく、臓器密売の素体として育てられている子供たちの居住区のほか、すでに臓器が抜き取られた子供たちの残骸が培養槽に入れられている区画がある。 零が潜入した際、Hの男もこの場所におり、零に初めて素顔を見せて対峙する。また、この時にHの男は独断専行の激しかったユキヤを銃撃、施設内にいる子供たちともども放棄し、姿を消した。
火土神社 (ひとじんじゃ)
零が中学時代を過ごした田舎にある由緒正しき神社。火と土を司る火土神を祀っているが、火土神は人になりたいと強く願う神様であるため、この神社の巫女の中でも最高位の巫女がその願いを封印する儀式が伝わっている。零がまだ中学3年生の頃、同級生だった人美がその巫女に就任することになった。
南守部村 (なしゅべそん)
ある情報をもとに零が訪れた田舎の村。何の変哲もないのどかな村だったが、ある時22人の村民のうち15人が感染症で死亡するという痛ましい事件が起きた。生き残ったのは、村に暮らす大守部家の親子2人と村外れに住む5人の一家のみ。公的には「風邪による合併症で死亡した」とあったが、江戸川賢治の能力によって謎が隠されていることが分かる。 零が謎を探るべく、村外れの老婆に話を聞いたところ、死亡した人間の腹からキノコが生えていたこと、村人が死ぬ直前に怪しい防護服を着た者たちがいたこと、なぜか大守部家の2人が村を離れている時に事件が起きたことなどが語られる。
昭和の町 (しょうわのまち)
とある岩山の地下に人工的に造られた町。その街並みは昭和時代中~後期を模したものとなっている。Hの男が自分で作り上げた母親のクローンとともに、ただ平和に日々を過ごすためだけに造られたもので、すべての研究施設を廃棄した後、まるで幼少期の頃に戻ったかのように無邪気に遊ぶHの男の姿が目撃されている。しかし、コーイチの手でその存在が暴かれ、零たちにもリークされた後、破壊されることになった。
その他キーワード
レオーネ
アフリカの奥地でしか生息が確認されていない、極めて珍しいカビの一種。レオーネという名称は、発見者の名前に由来する。1970年2月、イギリスの生物学者であるレオーネ・ブライアンがアフリカに調査をしにいった際、同行した現地スタッフがカビに感染したことでその存在を発見。人に感染して体内に潜り込み、肺の中で増殖した後、十分に成長すると、一度に大量の胞子を撒き散らすという性質を持っており、胞子を放出する際には感染者の命を奪うという危険性を持つ。 また散布されたレオーネの胞子は、周囲にいる人間に空気感染するため、対処を誤ると一度に大量の感染者を産むバイオハザードとなりかねない。臓器密売組織では「Fungus-203」とも呼称され、故意に人体に移植する研究が進められていたが、その目的などは不明。
AT-23 (えーてぃーにーさん)
臓器密売組織が開発した特殊な植物の呼称。この花粉が人間に付着すると、首の後ろに根を張って成長し、そこから寄生した人間の体内に植物毒であるセラアミドを注入するという性質を持つ。これによって、寄生された人間は、視界に入る者が怪物のように見えるという一種の恐慌状態に陥ってしまう。また、この植物は一定以上に成長するとつぼみを破裂させて周囲に花粉をまき散らす性質も持っており、対処を誤ると周囲の人間も巻き込んで二次感染を引き起こす。 この花粉に感染した患者を正気に戻すには、首の後ろから生えているつぼみを物理的に切除するしか方法がない。ある時、沢医院に運び込まれた身元不明の患者がこの植物に寄生されており、院内で花粉をまき散らしたことで、零を含めて多くの人間の正気を失わせた。
新型MRI (しんがたえむあーるあい)
桑名医科大学の研究チームが開発しているMRI装置。従来のMRIはリング状の装置に患者を通し、その画像を残すだけのものであったが、新たに開発されているのは、MRI装置がリング状ではなく、開放型になっているという点、また画像をリアルタイムで取得しながらモニターできるのが特徴。患部の様子を確認しながらその場で術式を執り行うことができるとされ、海外からも注目を集めている。 しかし、その性能は完全ではなく、MRI画像のモニタリングにはゼロコンマ数秒から1秒ほどのタイムラグが生じる問題を抱えている。研究チームの責任者でもある春日野は、今後の研究費を確保するためだけにそのリスクを承知のうえで、患部が移動するという特殊な病気を持つ中島清美の公開手術に踏み切ろうと考えている。