文豪・夏目漱石のもとに集まった若者たちが織りなす、青春微炭酸ストーリー。大正4年、牛込区早稲田南町7番地にある夏目漱石の自宅「漱石山房」には、漱石を慕う個性豊かな若者たちが集まる。その集まりは毎週木曜日にあるため、仲間内で「木曜会」と呼称されていた。ある日、木曜会に学生の久米正雄と芥川龍之介が初めて参加することになる。2人は漱石や木曜会の他のメンバーたちと会話をして交流を深めていく。
本作に登場する「木曜会」とは、夏目漱石宅で実際に開かれていた会合のことだ。木曜会には漱石の教員時代の教え子、漱石を尊敬する若手作家たちなどが集まり、様々な議論をしたという。児童文学の発展に尽力した鈴木三重吉、学習院院長となった安倍能成、漱石の作品「三四郎」のモデルとして知られ、自身も多くの優れた作品を残した小宮豊隆などが、木曜会の参加者として有名だ。本作はここに「受験生の手記」などで知られる久米正雄、日本を代表する文豪の1人である芥川龍之介が加わるところから始まる。しかし主役格に据えられているのは、久米や芥川ではなく木曜会のメンバーの1人である内田百閒だ。本作では百閒を中心に、文筆家たちの日常を覗き見ることができる。
日本の文豪たちやその作品を、彼らが愛した食を切り口に掘り下げていく文学グルメ漫画。毎朝新聞本社から深川支局に異動となった新聞記者・川中は、趣味の食道楽を活かして、ある企画を提案した。それは、日本人の誰もが知る文豪たちと食を結びつけた記事を書こうというもの。川中は夏目漱石や太宰治、芥川龍之介などの文豪たちが食べた食事や訪れた店を通して、彼らの知られざる一面に迫っていく。2014年3月にテレビドラマ化された。
本作で取り上げられる文豪は6名。夏目漱石、太宰治、芥川龍之介、正岡子規、樋口一葉、永井荷風だ。主人公である川中は文豪6名ゆかりの食を訪ねて、その食がそれぞれの作品にどんな影響を及ぼしたのかを考察し、思いを馳せる。本作は漫画ではあるが、漫画のページはそれほど多くなくさらりと読める。むしろ収録されているコラムのほうがしっかりしており、文豪たちの写真や彼らゆかりの店の写真が充実している。それぞれの作家の作品を読み、それらに愛着を持っている人が読むと、新たな発見があって面白いだろう。もちろん、彼らの作品を読んだことがない人でも楽しめるようになっており、逆に本作を読んでから文豪たちの作品に手を伸ばしてみるのもオススメだ。
夏目漱石の代表作「こころ」にゾンビ要素を取り入れた、新感覚ゾンビアクション漫画。夏目漱石没後100年記念作品として、日本文学史に輝く傑作「こころ」がゾンビ作品としてリメイクされた。主人公の「先生」は、柳生新陰流の後継者。彼は親友のKと共に下宿先で平和な毎日を過ごしていたのだが、ある日、下宿先のお嬢さんがゾンビに襲われ、半ゾンビ化してしまう。先生とKはお嬢さんを救うため、彼女を連れて感染病の研究所へ急ぐのだった。
「こころ」は、語り手である「私」が鎌倉で「先生」と出逢い交流を重ね、やがて先生が抱える心の闇や過去の出来事を知ることになる、という作品だ。読んだことがある人は、この作品のどこにゾンビを足す余地があるのか不思議に思うだろう。あらすじだけでも驚かされるが、本作の1ページ目はさらに衝撃的だ。私は先生と出逢ったとき、駆け出しのゾンビハンターであったというのだ。夏になると私は毎日ゾンビを狩るため海に出かけており、そこで窮地に陥ったところを救ってくれたのが先生だった。何故ゾンビが当たり前のように存在しているのかさっぱり訳がわからない世界観に唖然としながら、それでも不思議と読み進める手が止まらない、そんな作品である。
夏目漱石の名作「坊っちゃん」をベースとしながらも、登場人物に大胆なアレンジを加えたコミカライズ作品。主人公は、あまりに勝ち気であるがゆえに女でありながら「坊っちゃん」というあだ名がつけられた江戸っ娘。坊っちゃんは両親亡きあと、教師になった。四国の学校に数学の教師として赴任した坊っちゃんはそこで、陰湿ないじめを行う生徒や、西洋かぶれの教頭・赤シャツ、硬派な教師・山嵐と出逢い、共に日常を過ごしていく。
夏目漱石の「坊っちゃん」といえば、中学校国語の教材として採用されている名作中の名作であるため、何となく内容を知っている人も多いだろう。江戸っ子気質で血気盛んな新任教師の坊っちゃんが活躍する物語だ。本来、坊っちゃんは男であるが、本作では主人公の坊っちゃんが女性として描かれている。原作の坊っちゃんもなかなかに無鉄砲だったが、本作に登場する女性の坊っちゃんはさらに気が強く、破天荒な面が強調されている。しかし登場人物の性別が変わっていたり、それぞれのキャラクターの個性がより強調されてギャグテイストが追加されているところ以外は、ほとんど原作と変わらない。より痛快さを増した新しい形の「坊っちゃん」を堪能しよう。
夏目漱石の代表作「こころ」のコミカライズ作品。主人公の「私」は、大学生であったある夏の日に鎌倉の海で「先生」に出逢った。先生の不思議な雰囲気に惹かれた私は、鎌倉から東京へ帰ったあとも先生を追いかけ続ける。なかなか私に心を開いてくれない先生。やがて私は先生から手紙を受け取るのだが、その手紙には先生の悲しい過去と苦悩が赤裸々に綴られていた。私は先生が抱える心の闇に触れ、彼が人に心を開けなかった理由を知る。
「こころ」は、日本を代表する文学作品。そのため一度くらいは読んでみようと考えはするが、いざとなると読破できるか不安で手が出せない。そんな人は少なくないだろう。興味はあるけれど、どうしても尻込みしてしまう人にオススメしたいのが本作だ。本作は、慣れていない人にはとっつきにくく感じてしまう夏目漱石の「こころ」を優しく噛み砕き、漫画にしてよりわかりやすくした作品である。原作の重たい空気が優しいタッチの絵で和らいでいるため、あっさりと読み終えることができるだろう。逆に言えば、原作を読んだことがある人は物足りなさを感じてしまう可能性が高い。いつか原作の「こころ」に挑戦したい、小説は読まないが内容は把握しておきたい、という人にぴったりの作品だ。