漫画・アニメの世界から学ぶ『オタク』たちの歴史128 Pt.

本作の主人公・住田秋は生物（特に亀が大好き）のオタク。高校まで生物部で研究に明け暮れ、身なりも構ったことのなかった秋が、恋をきっかけに大学デビュー。ナンパなイケメンとしてヒロインに迫るものの、さまざまなトラブルに巻き込まれ、やがて自分の本質を見つめ直すことで人間として成長するという物語です。いわゆるマンガアニメ系のオタクでこそありませんが、メジャー誌でオタクのコミュニケーション不全をテーマとした漫画の嚆矢であると言えるでしょう。

オタク青春ものとして大きなヒットを飛ばした『げんしけん』は、ある大学の「現代視覚文化研究会（現視研）」というサークルに集まったオタクな男女の関係性を描いた物語。2000年当初のオタク界隈が持つ空気をマイルドに描写、なんだかんだでオタク生活をエンジョイする若者たちを肯定的に描くことで、広く共感を呼びました。当時のオタク系サークルでは、「げんしけんを読んでサークルに入りにきました」という新入生が続出、また自ら「げんしけん」を作った学生も多くいたようです。

怨みを持つ者に代わって復讐を果たす「怨み屋」たちの活躍を描いたアクション作品『怨み屋本舗』。その工作員の一人・十二月田猛臣（しわすだたけおみ）こそ、物理的な意味で最強のオタクキャラかもしれません。ぼさぼさの長髪にめがねという、前世紀のオタクを戯画化した外見で、妄想過多な性格のひきこもり。しかしガレージキットの組み立てや同人誌販売できちんと収入を得ている上、マラソン選手の両親にスパルタ教育を受けたことから飛びぬけた身体能力を持ち、しかも発想の柔軟さ（突飛さ）から怨み屋の中でも屈指の実力を持つ恐るべきオタクなのです。ポイントはやはり彼が主人公側で活躍することでしょうか。オタクは頼りになるのです！

ニート・オタク・重度のロリコンという人生の三重苦を抱える青年・カズフサのもとへ降り立った愛の天使・ラブやんが、カズフサをなんとかしようと奮闘するも、次第にカズフサのペースに巻き込まれていくオタク・ギャグ漫画『ラブやん』。本作の大きな特徴は、カズフサのオタク具合の描写がリアルなところでしょうか。と言っても露悪的なイヤさを前面にだしたリアルではなく、オタクならばわかる「実際にいる」リアルさのさじ加減が絶妙なのです。

オタク的な若者が一般化した今現在、マンガ・アニメ・ゲームなどに詳しかったり拘りを持っていたりするキャラクターは、さほど特殊な存在ではなくなってきました。本作の主人公で、「日本のとある電気街」の書店店員・海雄はマンガ・ゲーム・ライトノベルなど様々なジャンルに詳しく、その知識は書店陳列に大いに生かされています。ただ、マンガに関してはどんなお客さまにもお勧め作品を出せる深い知識を持った長身の人気店員「ソムリエ」がほかにいるのが本作の特徴のひとつ。マンガに詳しい＝キモオタという描写ではなくなっているというところも、21世紀のオタク事情を反映していると言えるのではないでしょうか。

子供から大人まで幅広い支持を持つ大人気作品『ケロロ軍曹』もまた、オタクのイメージを変えた作品のひとつかもしれません。本作の主人公・ケロン星から地球侵略にやってきたケロロ軍曹は、地球の文化に触れ漫画・アニメ・インターネット…そしてガンプラ（『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するロボットのプラモデル）に熱をあげるようになってしまいます。地球侵略に支障をきたすほど強い軍曹のガンプラ愛、つまりガンプラは地球を救っているといっても過言ではありません。宇宙人すらトリコにする地球のオタク文化。オタクはもはや世界のみならず、宇宙に影響を及ぼすようになっているのです。