不気味なセールスマンが人々の欲望に触れていくブラック・コメディ漫画。主人公の喪黒福造(もぐろふくぞう)は、満たされない心を抱えて生きている人の願いを叶える、謎めいたセールスマンだ。彼に声をかけられた客は、必ず「ココロのスキマ」が埋まるサービスを無償で提供してもらえる。しかしそれは一時的なもの。喪黒と関わった客は次々と破滅への道を歩んでいくことになる。1989年と2017年にテレビアニメ化。1999年にはテレビドラマ化された。
「人間のココロ」を品物として取り扱い、客の「ココロのスキマ」が埋まるようそれぞれの人間に最適なサービスを提供するセールスマン・喪黒。サービスの提供は無償で、客の満足こそが対価であるという。確かに喪黒は客に合ったサービスを提供し、それによって客も喜ぶが、そこには落とし穴が存在する。喪黒はサービスを提供する際、客に忠告や約束事の厳守を求める。それが守られなかった場合、客は不幸な末路を辿ることになるのだ。ほとんどの客がサービスに一時は満足するものの、さらなる満足を求めて忠告や約束事を破ってしまう。そうして転落する客の様子を楽しそうに見つめている喪黒の姿に、読者は寒気を覚えることだろう。人間の欲深さ、醜悪さが描かれた大人向けの作品だ。
人と人ならざる者を繋ぐ悪魔商人を描いたダークファンタジー。「運命金貨」は悪魔や精霊など人ならざる者の交易世界「バベルハイム」への招待状だ。金貨を手に入れた人間の元には世界中の悪魔や精霊が訪れ、彼らとの取引が可能になる。主人公のユージン・グリフィスは、金貨と引き換えに客の願いを叶えるための商品を売る悪魔商。彼は金貨を手に入れた人間の前に現れ、願いを叶えるために最適な悪魔のアイテムを販売していく。マッグガーデン発行の旧版『バベルハイムの商人』の加筆修正作品。
悪魔商・ユージンが取り扱うのは、客の願いを叶える商品だ。例えば、自分に相応しい美しい妻を求める男性には、永遠の美と不老を与える宝石を。自分の分身を求める女には、顔も言動もその人にそっくりな人形を提供する。しかし、ユージンが金貨と引き換えに取引するのは悪魔のアイテムだ。取り扱いにあたって注意事項があり、それが守られなかった場合、客は悲惨な末路を辿る。悲劇を演じたくなければ、アイテムを手に入れ願いを叶えたあとは、それ以上の欲を出さぬこと。ユージンが商売を通して出会った人間たちがどんな選択をし、どんな結末を迎えるのか。取引から事の終結まで目が離せない作品だ。各ストーリーで登場する商品も魅力的で、ストーリー同様、読者の興味を引きつけるだろう。
怪しい古物店を舞台に巻き起こる怪奇事件を描いた、ホラーサスペンス漫画。ミステリアスな雰囲気を持つ美しい女性・瑠璃宮(るりみや)真央が営むのは、不思議な古物店。閑静な住宅街にひっそりと存在するその店には、まるで古物に呼ばれているかのように、様々な客が来店する。彼らはそれぞれ気に入った古物を手に取り帰っていくのだが、古物はどれも不思議な力を持った取り扱い注意の代物だった。真央は客の行く末を静かな目で見届けていく。
長い時間存在してきた古物には、人間の強い想いが宿ることがある。そして強い想いは力となって、周囲に影響を及ぼす。真央が営む古物店にある品物は、そういう不思議な力を秘めた古物がほとんどだった。その力に引き寄せられるのか、真央の店には何かしらの悩みや問題を抱えた人間が訪れ、自分の運命を変える古物を購入して帰っていく。客が買い物をする際、真央はその古物がどういう力を持つものなのかは説明しない。ただ簡潔に、その古物を使用するにあたってしてはいけないことを伝えるだけだ。しかしその意味を理解して忠告を守るものは少ない。結果として古物に翻弄される人々の様子が悲しくも魅力的で、それなのに、どこか心ひかれる内容にぐいぐい物語に引き込まれる作品だ。
魔法具を売り歩く行商人と、魔法具を手に入れた人々を描いたファンタジー行商奇譚。主人公の少女・ロマは、言葉を喋る不気味な人形・ミィノと共に、日本各地を放浪して魔法具を販売する行商人だ。ロマの目的は、人間が魔法具を使った際に肥大化する「欲望(クレシャ)」を集めること。魔法具を手に入れた人間は自分の欲望を満たすために魔法具を使うが、欲望を満たして満足するか、欲望に飲み込まれるかはその人次第。今日もロマから魔法具を手に入れた人間が、自身の欲望に翻弄される。
好きな人と両想いになりたい、自分より優れた誰かになりたい、ライバルに負けたくない。そんな欲望を叶えるため、ロマは様々な魔法具を持ち歩き、必要としている人にそれを売る。売るといっても、対価は金ではない。その人が持っている欲望だ。ロマは自らの望みを叶えるため、魔法具を渡すことで他人の欲望を肥大化させ、それを回収しているのだ。ロマとミィノから声をかけられるその多くは、思春期の少年少女たち。彼らが魔法具を使って手に入れるものは叶えられた夢か、絶望か。子供も大人も、誰もが持ち得る欲望をテーマに描かれる本作。ロマが何故、人々の欲望を集めているのかという謎も含め、見どころ満載の作品だ。
1本のAVに翻弄される人々を描いた、オムニバス形式の青年漫画。アダルトショップ「ユートピアン」には、1本500万円もするAVが販売されている。そのAVは、別れた恋人や初恋の人、好きな芸能人など、購入者の理想の女性そっくりの女優を登場させ、望みのシチュエーションで意のままにできるというその人だけの「オーダーメイドAV」だった。しかし夢のようなそのDVDは、時に購入者や出演者の人生を狂わせ、破滅へと追い込んでいく。
「ユートピアン」で取り扱っている特殊な商品「オーダーメイドAV」の製作期間はオーダーから約1ヶ月。製作するのは、「ユートピアン」で客対応をしている謎の男を中心とした数名からなるチームだ。彼らは客が理想とする女性の外見はもちろん、行為中の癖に至るまで徹底的に調査。DVDに出演する女優に骨格レベルの整形手術を施し、依頼人の求める女性そっくりの姿にしてDVDを撮っている。本作はオムニバス形式の作品で、1つのストーリーに1人の依頼人とAV女優が登場。彼らがどうして「オーダーメイドAV」を求めるのか、「オーダーメイドAV」に出演するのかという理由と、その結末が描かれる。理想を求めた男と理想を提供した女を待ち受ける衝撃の結末を、ぜひ自分の目で確かめてほしい。