かつては講道館の女三四郎と呼ばれた巴輝子は、巴突進太にとっては誰よりも大切な存在。マザコンが過ぎて再婚話に傷つき、上野まで家出をするくらいです。でも母・輝子はただ優しいだけではありません。突進太が戦いに向かうときは「いったん男の子がわが家のしきいを三寸またいで 出ていったら最後、もう母親なんかのでる幕じゃないッ!! 男の子は自力で七人の敵と戦い、自力で勝つしかないのさ!!」と厳しく突き放します。「柔よく剛を制す」の柔道復活を息子に託した猛き母親といったところでしょうか。でも、戦い終えて帰ってきた突進太にとっては、どこよりも安心するのが母のもとなのです。
伊佐木よい子は息子のたけしのことが大好きなお母さん。でも、肝心の息子は反抗期まっさかりで母親のことがウザくてしょうがない。そんな親子を描いたのが『サムライカアサン』。息子が弁当のおかずを忘れたら「あんな弁当を我が子に食べさせるぐらいやったら 私切腹するわ!!!」と学校に飛んでいくような過剰な愛。でもね、それは息子だけでなく、その彼女や彼女の弟、近所のおっさんにも降り注ぎます。失敗したたけしにかけた「一回の失敗をその人の全てやと思ったらあかん。たけし、おもんない事せんときや」というセリフも心に染みいります。
『ホットロード』の主人公、14歳の少女・宮市和希は2歳のときに父を失い、今は母子家庭として暮らしていますが、母には妻子持ちで離婚調停中の彼氏がいて親の愛情を感じないまま生きてきました。そんな和希と出会ったのが、暴走族の春山洋志でした。最初はケンカから始まった二人の仲は次第に互いを想うようになりますが、それと反比例して自分を愛してくれない母への嫌悪感が強まります。そんな中、帰宅した和希は母に自分が好きかと聞きますが、母は泣くだけで答えてくれない。そこで春山が「嫌いならもらっていくぞ」と煽ると、母は「あ…あげ…ないわよ…だれにも…あげないわよ…親が…親が自分の子をきらいなわけないじゃないの。きらいなわけ…ないじゃない…のぉ…」とようやく娘への愛を口にしました。
『六三四の剣』の夏木佳代は夫の栄一郎を愛する妻であり、息子の六三四にとっては厳しくも優しい母でした。そんな彼女が母、そして女としてのもろい心を見せたのは、栄一郎が剣道の試合で亡くなったあとでした。「六三四、私たちとても大きなものを失くしてしまったけれど、おまえは失くした分をとりもどさなくちゃいけないわ。ずんずん大きく育って……体も心もいつか父さんより大きくなって……父っちゃがいなくなってできたスキ間をうめてしまうの!!」と、栄一郎が為しえなかったものを息子に託すことに決めました。のちに彼女は剣道にも復帰し、全国大会にも出場。それはまるで剣士としての進路に悩む息子を後押しするかのようでした。
『君に届け』のヒロイン、黒沼爽子は卒業したら店を継いで就職希望だったが、愛する風早翔太は進学を希望している。どうしたらいいか迷っているとき、彼女の母親は娘の進学のためにこっそりへそくりを貯めていたことを告げます。それでもどこか迷いのある娘に母は「爽子が『やりたい』と思って決めた事だったら 反対しないつもり だけどね もし考えが足りなかったり迷いがあるんだったら いっぱい考えていっぱい迷えばいいのにって思うの」とアドバイスするのでした。