月で発見された宇宙服を着た5万年前の人の遺体から、人類進化の謎にせまる本格ハードSFコミック。SF文学界の巨匠、J・P・ホーガンの小説「巨人たちの星」シリーズのコミカライズ。西暦205X年、月で赤い宇宙服を着た人間の遺体が発見された。5万年前のものと推定されるこの遺体の謎を解明すべく、あらゆる科学者たちが国際連合宇宙軍によって招集され、ヴィクター・ハント博士もその一員として月へ赴くことになるのだった。星雲賞コミック部門受賞作品。
本作は、ホーガンのデビュー作にして代表作ともいわれる巨人たちの星シリーズの1作目にあたる「星を継ぐもの」から、続編にあたる「ガニメデの優しい巨人」、「巨人たちの星」をコミカライズしている。物語は、石器時代にあった5万年以上前に、はるかに高度な文明をもっていたと思われる人間が存在したかもしれないという大いなる謎から始まる。物質透過撮影装置を発明したハント博士や、生物学者のクリスチャン・ダンチェッカー教授は、チャーリーと名付けられた遺体の謎を解明するため、国際連合宇宙軍によって召集される。解析を進める過程で、彼らは人類の進化の奥に潜む恐るべき計略を知ることになる。30年以上前に発表された名作を現代的な感性と共に、独自の解釈と壮大なスケールで描いた作品。
各地に残る伝承や風習にまつわる事件に、宗像教授が民俗学の知識を駆使して臨む伝奇ミステリー。主人公は東亜文化大学で民俗学の教授として教鞭をとる宗像伝奇(むなかた ただくす)。山高帽にスーツ、黒マントというダンディな佇いの紳士だ。日本各地に赴きフィールドワークを重ねる中で、宗像教授はその土地土地に残る伝承や神話、風習にまつわる事件や騒動に向き合うことになる。『宗像教授伝奇考』の続編となる作品。
宗像教授シリーズと呼ばれる本作は、星野之宣の代表作の一つ。1話完結型で、宗像教授が日本各地に伝わる様々な伝承や風習をめぐるなかで出会った謎を、民俗学的な知識を端緒にひもといていく姿を描く。骨太なハードSF作品で培った構成力と想像力、綿密な取材と奥深く幅広い知識があわさることで、伝奇ミステリーというジャンルに金字塔となる作品を生み出した。作中では誰もが知る昔話から、今や顧みられることのなくなった伝承や因習まで幅広く扱われる。それらが、現代において新たな事件の発端となり、不思議な符合をみせるあたりはまさにフィクションの醍醐味といえる。宗像教授の導きによって、読者は知的興奮と物語の面白さを同時に味わえるはずだ。
中国の明の時代、前人未踏の航海へ挑んだ実在の人物・鄭和(ていわ)の生涯を描く海洋冒険ロマン。15世紀初頭、中国の明王朝の宦官である鄭和は、日本へむかう船上にいた。全権使節として、室町幕府の足利義満に会うためだ。途中、鄭和の船は倭寇による襲撃を受けるが鄭和は竹竿一本で賊を制圧。急所を狙って股間を蹴り上げた倭寇の少年もあっさり捕らえてしまう。一方、来日した鄭和を出迎える将軍・義光は、彼を宦官だと知ってあなどっていた。
世界中を巡る航海というと、コロンブスらが活躍した大航海時代が思い浮かぶが、実はそれよりも以前に7度の大航海を成功させ、世界の海を旅した人物がいた。それが、本作の主人公・鄭和である。海のように青い瞳に、長いまつげをたたえた印象的な顔立ちをした筋骨隆々の偉丈夫だ。それは彼の体に流れる西方の血に所以していた。しかし、数多の死線をくぐりぬけたその身は満身創痍。そして、その最大の傷ともいえるのが、彼が宦官であるということ。生き抜くために宦官となった鄭和は、「生きる」ことに対しある強い思いがあった。史実をふまえつつ、実在の人物である鄭和の内面を鮮やかに肉付けしていく手腕は見事。鄭和のダイナミックな生涯が明を中心とした世界史と共に浮かび上がる。
過去にメッセージを送ることに成功したことからおこる時間をめぐる壮大なSFストーリー。J・P・ホーガンの同名タイトル小説のコミカライズ作品。ノーベル賞受賞者でもある著名な物理学者、チャールズ・ロスは、時間を逆行する未知のエネルギー・タウ波の存在を主張する。この仮説は学会で多くの批判を浴びるが、2020年、タウ波の存在を証明することに成功する。それは過去にメッセージを送る装置の完成を意味していた。
原作は1980年に発表されたSF小説。時間をさかのぼることはできるのかという大きな命題に迫ると同時に、人はそれによって危機を回避することは可能かという誰もが一度は考えるテーマにラブストーリーを交えて描き、読者を最後までドキドキハラハラさせてくれる。科学コンサルタントの青年・マードックは、祖父のロス博士から、タウ波の存在の証明に成功したとの連絡を受け、友人のリーと共にスコットランドの祖父の研究室を訪ねた。そして過去にむけてテキストメッセージを送る実験の成功を目の当たりにすることになる。ちょうどその頃、核融合発電という新たなエネルギー技術が試運転を開始していたが、その未来は厄災をもたらす問題をはらんでいた。
恐竜が跋扈するジュラ紀世界に取り残された人間たちの過酷な旅を描くSF×サバイバルストーリー。1億4500万年前のジュラ紀末期につながる海底洞窟、ブルー・ホールがネス湖で発見され、英国海軍海兵隊中尉のジーン・ハートは米英合同調査チームのメンバーの一人として探索に参加することに。ところが本格的な調査を開始した矢先、ブルー・ホールが閉じてしまい、ジーンら調査チームはジュラ紀に取り残されてしまう。『ブルーホール』の続編にあたる。
誰も見たことのない太古の世界と、現代をつなぐタイムトンネル、ブルー・ホール。恐竜が跋扈するジュラ紀の世界を圧倒的な描写力で体感させてくれる本作は、単なるタイムスリップものではない。立場も考えも異なる人間たちが、いかにして共にサバイブしていくかを描きながら、恐竜をはじめとする大絶滅の謎をある仮説によって解き明かそうとするSF漫画の傑作だ。ブルー・ホールが閉じてしまい、現代に戻れなくなってしまった調査チームは、別のブルー・ホールを目指して、大陸を横断することを決断する。しかし、恐竜の襲撃や自然の猛威が、容赦なく人命を奪っていく。生きるか死ぬかの極限状態が続く中で、個人の能力差や考え方の違いが、チームに深刻な対立をうんでしまう。