見えないものを見る力を持っている女子高生が、特別な力を持つ女の子を探す鬼の兄弟と出会い、花嫁として妖と対峙していく現代ラブファンタジー。卯ノ花ココは動物が大好きな高校1年生。毎朝近所の犬と遊ぶことを日課にしている。ココには人には見えないものを見る不思議な力があり、通学路に蔓延る人ならざるものを見ることは日常茶飯事だった。ある日、いつも通り妖を見ていたココは今まで見たことも無いような美しい容姿をした2人組の男を目撃するのだった。
妖怪と呼ばれる類の者には様々な種類がいるが、中でも「鬼」は別格扱いをされていることが多い。ココが遭遇したイケメン兄弟、桐生零(れお)と十(とあ)は鬼である。妖なのかといえばそうではない。元々は神様だったが、何らかの理由で神ではなくなった。戻るには特別な力を持った少女が必要であり、そのために地上に降りてきた。ココは妖を見るだけでなく、引き寄せるような魅力を持っているらしい。心根が優しいせいか、苦しみや悲しみを抱えた妖がどこか別の場所へと引きずり込もうとする。夜練り歩くというよりも、ココを中心に百鬼夜行が起こると言っても過言ではないだろう。無防備なココを守る役目を負う桐生兄弟の、神とも妖ともとれる美しさからも目が離せない。
妖怪が人と共存している世界を舞台に、人と妖の交わりを描いたファンタジーオムニバス。南海市動物園では牛のお産が行われていた。獣医の持田が取り上げたのは、牛と人がまじりあったような妖怪・件(くだん)だった。園内を歩き回り、お客さんに様々な暴言を吐く件に手を焼く職員たち。その中で自身の出産に立ち会った持田に一目置くようになっていく。ある日件は予言獣としての役割通り、大きな台風がやってくることを告げて力なく倒れるのだった。
件は半人半獣の妖怪だ。人の顔を持ち身体は牛。江戸時代の中期ごろから目撃例がある。件が何故注目されるのかと言えば、予言をするからだ。頭が良く人の言葉を話す件は、作物の出来や自然災害、戦争まで多岐にわたる予言をし、絶対に外れることはない。件が生きる時間は短く、予言をするとその場で死を迎えるとも言われている。様々な妖怪が人と同居する世界で、最初に登場するのが動物園で生まれた件だ。小生意気な言動から小学生男子を彷彿とさせる。慣れてくると特異なビジュアルも気にならなくなってくるだろう。予言をすれば死ぬ。無邪気に暴言を吐く姿を見ると、件の運命を当たり前だと思えなくなってしまう。死は誰にでも訪れるが、虚無に対する恐怖は人も妖も変わらない。
人間の友達がいないニートと、幼馴染の妖怪たちが日々働きトラブルを巻き起こす妖ハイテンションコメディ。主人公の正太郎(しょうたろう)は、小学生の時に両親の都合で田舎に引っ越すことになってしまった。友達ができないと絶望した正太郎は、たまたま深夜に神社で遊んでいた妖たちと知り合い、友達になる。それから15年、正太郎も妖たちも大人になった。ある日、正太郎は妖の幼馴染たちと居酒屋で飲み会を行う。人間界に溶け込めていない彼らに注意を促すのだった。
妖怪たちは年を取らないと思っていたのだが、そうではないらしい。人間の正太郎が有名大学を卒業してニートになったように、彼らも大人になり職を得ている。特に座敷わらしの引きこもりブロガーは妖怪としての特性も発揮されていて面白い。座敷わらしは家に幸運をもたらす妖である。天狗のホストと同居しているらしいが、ホストとブロガーという不安定な職業なのに、ものすごく生活が安定していそうである。妖の存在は認識されていない世界のようだが、彼らは普通に人間の生活圏で暮らしている。塗り壁が塗装会社の営業というのはもはや天職だと思うのだが、そのスーツはどこで拵えたのか。妖たちに心配される正太郎だが、逆に人間界に溶け込めと苦言を呈したりする。種族を超えた友情に和む。
不思議な力を持つ幻想作家を祖父に持つ主人公が、妖魔が取り憑いた父や使い魔たちとの関わりの中で、様々な人と妖に遭遇していく現代妖オムニバスストーリー。飯嶋律(りつ)は幻想作家を祖父に持っている。蝸牛は不思議な力を持っており、一度は死した律の父、孝弘を生き返らせたとも言われていた。ある日従姉の司(つかさ)が訪ねてくる。司には首の後ろに大きなあざがあり、背中まで広がってしまっていた。律は家の敷地内にある藪に入り込んでしまった司を見つけるのだった。
霊感というものは遺伝すると思われている。幻想作家である飯嶋蝸牛は妖を題材にした幻想怪奇小説を多く執筆した。自身も不思議な力を持ち、蝸牛の術を頼りに人が訪れることもあったとか。律は蝸牛の孫だが、その血を色濃く継いでいる。妖を見る力を持っているのだ。やはり不思議な力は繋がっていくのだろう。蝸牛は妖の問題に対処する専門家のような役割をしていたようだが、律は普通の高校生だ。見えるがゆえに面倒ごとに巻き込まれる律を支えるのは妖である。実は生き返った孝弘の身体には龍のような式神である青嵐(あおあらし)が住んでいる。律の遭遇する怪奇現象は命を脅かす脅威であることも多く、心が休まらない。そんな中、烏天狗のような律の式神、尾白(おじろ)と尾黒(おぐろ)の可愛らしさにほっこりとする。
親の都合で四国の山奥に引っ越しすることになった主人公が、妖怪ばかりが通う学校に転入してしまい、地方ローカル故に拗らせてしまっている妖怪たちと触れ合っていく妖怪学園コメディ。渡海隼人(とかいはやと)は平凡な高校生。東京に住んでいたが、父親の思い付きにより急遽四国の山奥へ引っ越すことになってしまう。麓の学校に通うはずが、手違いにより入学したのは四国の妖怪たちが通う魍魎分校「死国校」。何故か転入を許可された隼人は、案内役の生徒・飴宮初夏(あめみやはっか)と出会うのだった。
妖怪には様々な種類がいるが、地方ローカル妖怪というのもいるらしい。転入した隼人の案内役を務めた初夏も妖怪だ。男の身体を嘗め回す妖怪「嘗女」の末裔なのだが、見た目は完全に女子高生である。SNSを駆使する現代っ子でもある初夏にとって、自身が属する妖怪のエピソードは辛いだろう。隠したくなる気持ちが理解できる。とはいえ初夏が隼人の身体を嘗め回すことはなく、どちらかというと舌が滑るという方向に妖怪らしさが発揮されているようだ。隠し事はできなそうだが、周囲の理解さえあればそれも必要ないのだろう。文明が進んだ分だけ、妖怪たちにとっては思いがけない辛いことも増えたはずだ。拗らせ気味な妖怪たちに、隼人の言葉が優しい。