戦を嫌う魔女マリアの活躍を描いたファンタジー漫画。舞台となるのは中世・百年戦争中のフランス。主人公のマリアは、戦が大嫌いな魔女だ。魔女でありながら処女で聖母の名を持つ彼女は、戦いの行方をうやむやにするために、夜な夜な使い魔でサキュバスのアルテミスを戦場に送り込んで混乱させていた。そんな彼女の行動を見咎めたのが、大天使ミカエル。ミカエルは制裁としてマリアに「純潔(処女)を失うと魔女の力も失う」という呪いをかける。2015年1月にテレビアニメ化。
大天使ミカエルは、人間たちの戦争に介入するマリアに呪いをかけ、彼女の行動を止めようとする。ミカエルの呪いは、世界の平和と自分の幸福を天秤にかけなくてはならないものだった。平和を願い戦争への介入を続けるのなら、愛する人ができたとしてもその者と結ばれることは許されない。愛する人を取るのであれば、マリアは戦争に介入できる強大な魔力を失うのである。本作の魅力は、物語の中に深いテーマが隠されているところだ。争い合う人間の愚かさや、それを止めようとはしない神。救いをもたらさない神に意味はあるのか、その神を信じる意味はあるのか。本作はただ面白いだけでなく、現実世界にも通用する問題を提示することで読者の思考を深めてくれる。
英雄・坂本龍馬をダークヒーローとして描いた、幕末異聞短編集。舞台となるのは幕末の京。そこでは新選組の隊士たちが闇討ちに遭うという事件が多発していた。新選組の局長・近藤勇は真実を隠して、暗殺された隊士たちを「士道不覚悟」で粛清したことにしながら、京都見廻組と共に闇討ちの犯人捜しを続ける。やがてその捜査線上に浮かび上がったのは、坂本龍馬という男だった。表題作の他、『二本松少年隊』『とどかぬ刃』『神の棲む山』の3作品が収録されている。
坂本龍馬といえば、誰もがその名を聞いたことがある日本史上の有名な人物だ。そのイメージは飄々としておおらかな自由人。英雄と呼ばれ、尊敬する偉人ランキングでも必ず上位に入ることから、日本人の多くが彼に良い印象を抱いていることがわかる。そのため創作物でも、坂本龍馬はヒーローとして描かれていることがほとんどだ。本作に収録されている『人斬り龍馬』は、そんな英雄・坂本龍馬をタイトルの通り人斬りとして描き、彼の闇の部分に焦点を当てた作品だ。もしも坂本龍馬が人を斬ることを好む人物だったら。そんな驚くべき設定が、もしかしたらこれが真実なのかもしれない、と読者に思わせるほどの圧倒的な説得力をもって描かれている。
南北朝時代を舞台に、倭寇や水軍の戦いを描いた海洋冒険活劇。主人公は本名がなく御曹司と呼ばれていた少年。彼は元代末の豪族の末裔とされており、その豪族のなれの果てである九姓漁戸(きゅうせいぎょこ)のもとで育てられた。ある日、御曹司を狙って倭寇が九姓漁戸の村を襲撃。御曹司は村人を救おうと行動するが、その行動が逆に村人たちの命を奪うという結果を引き起こしてしまう。自らの行動を後悔した御曹司は、犠牲者を復活させるため、海の守り神と契約を結ぶのだった。
自分が誤った行動を取らなければ、村人たちは死なずに済んだ。それを知ったときの主人公の絶望は察するに余りある。自分のせいで犠牲者を出してしまったことを嘆いた御曹司は、海の守り神・バハンとある契約を交わした。その契約とは、御曹司が半年生き延びる毎に1人、死者を生き返らせるというもの。こうして、生きる意味を見失っていた御曹司に、生きなければならない理由ができた。そんな御曹司が行動を共にすることになるのが、海賊・マエカワの一党だ。北朝・南朝の区別なく日本の船を襲う悪党の集まりで、バハンに縁のある人間が集まっている。彼らの仲間になった御曹司はマエカワから「カタリベ」という名をもらい、いくつもの組織が覇権を争う海を必死で生き抜いていく。
人類と擬人化された惑星が交流する様を描いた、会話劇漫画。舞台となるのは未来の地球。そこは荒れ果て、死の星となっていた。生き残った人類はアニメキャラが彩る巨大な居住シェルターの「内側」で現実とは無縁の生活を送り、一部の人間が、防護服なしでは歩けない現実である「外」の世界に関わって生きている。主人公のS沢3国は、外にある天文台跡地で宇宙へと「手紙」と呼ばれる信号を送る仕事に就いている男。ある日、彼の前に防護服をつけず外の世界を歩ける謎の女性が現れる。
未来の地球は地表が汚れきっており、人間が防護服なしで歩き回ることはできない。であるはずなのに、その謎めいた女性は、S沢の職場である天文台跡地に外から、生身でやってきた。彼女はS沢にとある座標へ「手紙」を送ってほしいと頼み、その場で気絶してしまう。S沢が女性の願い通りに信号を送ってみると、S沢のもとに次々と「外」から生身の女性たちがやってきた。実は、S沢に会うなり気を失ってしまった女性は、S沢たちが生きる荒れ果てた「地球」そのもの。そしてS沢が発した信号をキャッチして現れた女性たちも、それぞれ「惑星」の化身だったのである。本作では、人間と惑星たちとの交流を通して、人類の傲慢さや失ったかつての叡智、惑星についての知識に触れることができる。
農業大学を舞台に菌にまつわるあれこれが描かれるキャンパスライフ・コメディー。主人公はもやし屋こと種麹屋の次男坊・沢木惣右衛門直保(さわきそうえもんただやす)。彼は菌やウイルスが肉眼で見え、触れたり会話ができたりするという特殊な体質の持ち主だった。祖父の友人が教授を務める某農業大学に入学した沢木は、研究室その他の仲間たちと共に、菌やウイルスに関する様々なトラブルに巻き込まれていくことになる。2007年10月にテレビアニメ化。2010年7月にはテレビドラマ化された。
主人公・沢木惣右衛門直保の実家である種麹屋は、味噌や醤油・酒類を造る際に使用される菌「麹」を取り扱う店だ。そんな家に生まれたからか、沢木は幼い頃から菌やウイルスを見ることができ、よく一緒に遊んでいた。菌やウイルスはいたる所に存在しており、それらはデフォルメされた可愛らしいキャラクターとして描かれている。このキャラクターたちを通して、読者は発酵食品についてや、病原菌の恐ろしさなどを知ることができる。特に多く取り上げられているのが、様々な菌が存在しているからこそできる酒造りについてだ。本作を読めば、読者はいつのまにか酒の知識をぐんぐん吸収していることだろう。面白いだけでなく知的好奇心も満たしてくれる作品だ。