あらすじ
上巻
漫才コンビ「スパークス」の徳永は、相方の山下と共に静岡県熱海市で開催される花火大会のゲストとして招かれていた。しかし主催者側の段取りの悪さから、満足のいく結果を出す事ができなかった。激しい苛立ちを覚える徳永の前に、大阪を拠点として活動している漫才コンビ「あほんだら」の神谷が現れる。徳永に対して仇を討つと言い放った神谷は、舞台上で破天荒に振る舞って毒を吐くが、相手によって言葉や態度を器用に使い分ける事で観客を沸かせる。そんな神谷に陶酔した徳永は、弟子入りを懇願。以来、東京在住の徳永と大阪に拠点を置く神谷は、電話を通じて日々交流を深めるようになる。そんな中、神谷はついに相方の大林と共に上京。これによって徳永は神谷と頻繁に会うようになり、芸について激論を交わし、互いに唯一無二の存在になっていく。しかし私生活は充実しているが、徳永も神谷もこれといった成果を残せずに時間ばかりが過ぎていく。そんな中、スパークスとあほんだらは同じ舞台に立つ事になる。その舞台は観客からの人気投票で順位が決定されるシステムで、スパークスは6位、あほんだらは4位という結果に終わる。努力はしているのになかなか結果を出せない徳永は、真剣に焦りを覚えるのだった。
下巻
徳永が所属する事務所ではお笑い部門に力を入れ始めており、所属芸人自らがイベントを企画するなど、活気づいていた。しかし徳永は、盛り上がる若い後輩達についていけず、かといってお客に媚びる事もできず、疎外感を覚えていた。そんな中、神谷が真樹と別れた事を知り、二人が結婚するものだと思っていた徳永はショックを受ける。お互いに居場所のない徳永と神谷は頻繁に会うようになり、酒を飲んだり思いつきのネタを見せ合ったりと、現実逃避していた。そんな日々の中、漫才コンビ「スパークス」と「あほんだら」は芸人の業界人への「ネタ見せ」の意味を持つ、お笑いライブイベントに招待される。神谷の「あほんだら」は大いに会場を沸かせたものの、漫才ではなくコントだと主催者から全否定され、業界人からも声を掛けられる事はなかった。一方、「スパークス」は深夜のバラエティ番組にレギュラー出演が決定する。お互いに事務所の後輩と行動する機会も増えた事から、徳永は神谷と自然と会わなくなってしまう。そんなある日、徳永は久しぶりに神谷からの誘いを受ける。だがそこで徳永は、これまでずっと心酔していた神谷の話に我慢ができず、初めて反論をしてしまう。
メディアミックス
小説
本作『火花』は、第153回芥川龍之介賞を受賞した、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹の小説『火花』を原作としている。コミカライズにあたり武富健治が作画を担当する事になったのは、又吉直樹直々のリクエストによる。
登場人物・キャラクター
徳永 (とくなが)
漫才コンビ「スパークス」のボケ担当の男性。相方は山下。学生時代に山下と共に漫才大会に出場した際にスカウトされ、東京の辺鄙な場所にある弱小事務所に所属している。静岡県熱海市の港で催された花火大会にゲストとして招かれ、最悪の状況の中で相方の山下と漫才をしていたところ、同じくゲストだった神谷と出会う。常識の枠組みから外れた荒々しい神谷の芸風にあこがれており、彼の伝記を書く事を条件に弟子入りを果たす。しゃべりは達者とはいいがたいものの、人を観察してボケに変える特異な才能を持つ。最初は黒髪のふつうのヘアスタイルだったが、のちに銀髪に変える。
神谷 (かみや)
結成6年目の漫才コンビ「あほんだら」のボケ担当の男性。相方は大林。静岡県熱海市の港で催された花火大会にゲストとして招かれた際、徳永の前で常識から外れた荒々しい芸風を披露した。その後、徳永から師匠になってほしいと懇願され、自分の伝記を書いてくれるならという条件で受け入れた。そして、徳永のお笑いに取り組む姿勢に、多大な影響を与えていく。徳永と出会った頃は大阪を拠点にしていたが、のちに上京する。漫才師としての才能は突出しているものの、人とコミニュケーションを取る事が非常に苦手で敵を作りやすい。だらしない性格で私生活でも借金を重ねており、人望もない。しかし漫才に対する情熱は人一倍で、大林とは毎日ネタ合わせをしている。
山下 (やました)
漫才コンビ「スパークス」のツッコミ担当の男性。相方はボケ担当の徳永。学生時代に徳永と共に漫才大会に出場した際にスカウトされ、東京の辺鄙な場所にある弱小事務所に所属している。漫才に対する情熱は徳永よりやや欠けており、それが原因で対立するようになる。
大林 (おおばやし)
結成6年目の漫才コンビ「あほんだら」のツッコミ担当の男性。相方はボケ担当の神谷。若い頃から素行が悪く、地域では有名な不良だった。仲間を大切にする情に厚い一面もあるが、短気を起こして暴力的なトラブルをよく起こしている。漫才に対する熱意は人一倍あり、毎日神谷と毎日ネタ合わせをしている。
真樹 (まき)
神谷と付き合いのある女性。神谷とは正式には交際していないが、大阪から上京して来て住む場所のない彼を、自分が一人暮らしをしている部屋に快く受け入れた。また、神谷の生活費はすべて真樹が支払っており、そのために昼間のカラオケ店のアルバイトから風俗嬢へと転身したが、神谷にはキャバクラ嬢だとウソをついている。神谷の人柄と漫才の才能に惚れ込んでおり、尽くす事にはまったく疑問を感じていない。弟子の徳永に対しても手料理を振る舞ったり、三人でいっしょに外出したりとかわいがっている。お笑いが大好きで、徳永がまじめな話をしている時にも変な顔をするなど、ユーモラスな性格をしている。ずっと神谷からの告白を待っていたものの、風俗店の客だった別の男性から猛アプローチを受け、神谷との別れを選択した。
鹿谷 (しかたに)
東京を拠点とするピンのお笑い芸人である男性。紙芝居のように絵を見せて笑わせる「めくり芸」を得意としている。つねにテンションが高く、リアクションも大きい。摑みどころのない性格だが、徳永をはじめとする芸人仲間からは、憎めない奴だと好感を持たれている。実力も本物で、新人芸人達が集うイベントでは、ファンの人気投票1位を獲得した。のちにテレビのバラエティ番組に出演した際、司会者から突出したキャラクター性を認められ、あっという間に人気芸人になる。
勝田 (かつた)
徳永が所属している、東京の辺鄙な場所にある弱小事務所に勤務している男性。漫才コンビ「スパークス」のマネージャーを務める。事務所にお笑い芸人がスパークスしか在籍していなかった時は、彼らを売り出そうという熱意に欠けていた。のちに在籍する芸人が増えて来た際には、口では面倒くさいと言いつつも、お笑い部門を盛り上げようと奮闘する。
由貴 (ゆき)
真樹と別れたあと、神谷に新しくできた彼女。ふくよかな体形ながら、色白で美しい肌を持った清潔感のある女性。笑い声や笑いのツボなど、真樹に通じるところが多い。
クレジット
- 原作
-
又吉 直樹