世界観
現代日本の北海道を舞台にしており、 八軒勇吾が入学した大蝦夷農業高等学校は作者である荒川弘の母校がモデル。八軒勇吾の所属する酪農科学科をはじめとする学科、授業形態、設備、生徒の生活といった学校環境はもちろん、作者が語る「農家の常識は社会の非常識」という、一般社会人とは異なる農業従事者独特の感性がリアルに描写されている。マンガ家としてデビューする以前、実家の農畜産業に従事していた作者の経験や実体験が作品の骨子となっているのだろう。また、農畜産業のみならず、北海道遺産であるばんえい競馬についても取り上げられている。
同作者によるエッセイマンガ『百姓貴族』との関連性が高く、類似した題材がよく取り上げられている。『銀の匙 Silver Spoon』が八軒勇吾の成長を主軸に描いているのに対し、『百姓貴族』は日本の一次産業に対する作者の意見が、農家としての視点から描かれている。
作品が描かれた背景
掲載誌である「週刊少年サンデー」編集者よりの、前作『鋼の錬金術師』連載中からのラブコールに応える形で連載がスタート。荒川弘にとって初めての週刊連載となった。農業高校というテーマについては、「単純にネタがあり、すぐに描けるものだった」と作者本人が語っているが、青春ものというオーダー、掲載誌の読者層である中高生が抱える「将来に対する不安」という背景を汲んだ結果のようだ。また、エッセイマンガ『百姓貴族』では2006年の牛乳生産過剰問題とそれに関連した後年のバター不足に対して「日本の政策に失望した」と語っており、こうした「日本における一次産業」について思うところがあったように見える。
作品構成
前作『鋼の錬金術師』が精神力至上主義であったのに対し、今作は「肉最強」として、食べること、肉体を使うこと、ひいては「生きるということ」をベースに主人公・八軒勇吾の成長を物語の主軸に据えている。作品を描くにあたっては「なじみのあるありふれた食べ物を題材にする」「ありのままを伝える」「必要以上に感動させない」という点を重視しているという。日本における農畜産業の問題や将来についての話題が根底にあるものの、あくまで八軒勇吾の成長が本作のテーマになっているため、クラスメイトとのバカ騒ぎや恋愛、将来の夢についてなど学園青春ものとしての面がメインになっている。
一般家庭から農業高校という未知の世界に飛び込み、実習や「理不尽」にまみれた寮生活を行った高校1年生の1年間については、「春の巻」にはじまり、学校行事や実習内容について季節ごとに丁寧に描かれている。2年生からは各話タイトルが「四季の巻」となる。八軒勇吾が目標へ向けて奮闘する様子を主軸に、話数内でさらに各人名の小見出しが入り、それぞれの将来について小エピソードが挿入されている。
あらすじ
第1巻
競争社会に疲れ、札幌の進学校ではなく大蝦夷農業高等学校に進学した八軒勇吾は、将来の夢や目標をしっかり持った農家の跡継ぎ達に囲まれて、やりたい事を模索する日々を送っていた。大蝦夷農業高等学校は、自給自足できるだけの広大な敷地と豊富な作物、多種の家畜を保有し、生徒の自主性に任せて色々な研究をさせてくれるため、将来を考えるにはもってこいの高校だった。クラスメイトの御影アキの影響で入部した馬術部で、生き物と共存し雄大な景色に触れ、勇吾は受験勉強で疲れた精神が癒えていくのを感じていた。同時に、農家に生まれたクラスメイト達の選択肢のない将来への苦悩を目の当たりにしながら、勇吾は、あと3か月で食肉になる子豚に豚丼と名前を付けてかわいがるなど、農家出身者ではない感覚で、視野を広げていく。さまざまな事を感じながら将来を探る中で、何事も先入観を持たずに色々な事に挑戦していた勇吾は、ある日学校敷地内のごみ拾い中に、不思議なものを見つける。それは、ずいぶん前に造られて放置されたままの石窯だった。
第2巻
八軒勇吾はクラスメイト達の要望を受け、ごみ捨て場に埋まっていた石窯でピザを作る事になり、ピザ作りに必要な食材調達に奔走する。クラスメイトや先輩、寮友らの助けもあり新鮮な食材が集まり、無事に石窯を使ったピザ焼き会を成功させる。内申点にも影響しない事に労力を費やした事に後悔する勇吾だったが、ピザを喜んで食べている友人らの顔を見ているうちに、点数では測れない充足感を覚えるのだった。大蝦夷農業高等学校は夏休みに入り、閉寮のため寮から出る事になった勇吾は、家に帰りたくない事から、御影アキの家に泊まり込んで酪農の手伝いをする事にした。初めてのアルバイトに奮闘する勇吾は、年中無休で働く畜産家の、労力の割りに実入りの少ない現状の過酷さに触れ、自分の置かれた環境の不遇にばかり悩んでいられないと複雑な気持ちになる。そして勇吾は、寝食を共にするうちに、アキが実家の酪農家を継ぐ事を望んでいない事を知る。勇吾は、跡継ぎとして期待されているアキを心配するが、アキに選択肢がない事は明らかだった。
第3巻
八軒勇吾は、御影アキに本当は実家の酪農を継がずに馬関係の仕事に就きたいと吐露され、勇気を出して家族に自分の希望を伝えるべきだと助言する。しかし勇吾に背中を押されても、自分が跡を継がなければ家業を潰す事になると理解しているアキは、なかなか一歩を踏み出せずにいた。夏休みが終わり、大蝦夷農業高等学校の寮に戻って来た勇吾は、夏休みのあいだに子豚の面影がないほどまるまると太ってしまった豚丼に動揺する。出荷間近になった豚丼を前に、勇吾は悩んでいる時間はなかった。勇吾はアキの家の酪農を手伝って稼いだ初めてのアルバイト代で、食肉となった豚丼を買い取る事を決意。生き物の生死に真摯に向き合う勇吾の決断は、家畜を殺して食する事が当たり前の環境に育った農家出身のクラスメイト達に、新しい価値観を持たせる事となった。そして生き物を扱う生業に就く事に関して、活発なディスカッションを繰り広げる勇吾のもとに、肉となり加工された豚丼が戻って来たと連絡が入る。
第4巻
屠殺された豚丼は、50キロの肉の塊になって八軒勇吾のもとに戻って来た。豚丼との別れを悲しむ勇吾だが、肉となった豚丼は悔しいほどに美味しかった。そして、まだ大量に残っている豚肉をどのように保管しようかと悩んだ勇吾は、食品科学科の稲田真一郎に助言を受け、豚丼の肉をベーコンに加工する事にした。慣れない重労働を一人で成し遂げた勇吾は、夏休み中に世話になった御影アキと駒場一郎にベーコンを送り、兄の八軒慎吾に背中を押されて、実家にもベーコンを送る。母親から、父親も美味しくベーコンを食べていたとのメールをもらい、勇吾は両親に自分の進もうとしている道を少しは認めてもらえた事に喜ぶのだった。その後、季節は巡って秋。勇吾のクラスは、甲子園予選大会で一郎がピッチャーを務めるという話題で賑わっていた。そんな中、一郎と話していたアキが突然泣き出して勇吾は困惑する。アキも一郎も、勇吾には関係のない事だからと悩みを打ち明けないが、どうやら実家でなにかトラブルがあったらしい。農家に生まれたばかりに将来を選べない二人の身を案じる勇吾は、頼りがいのある男になろうと奮起する。
第5巻
大蝦夷農業高等学校野球部は甲子園を懸けての予選大会を勝ち進み、ついに全道大会まで駒を進めた。試合を応援に行った八軒勇吾は、広いグラウンドで堂々と球を投げる駒場一郎を見て、自分もなにかを成し遂げなければならないと、焦りを感じ始める。そんな中、勇吾は馬術部で新人戦に向けて初めての障害馬術に挑むが、新人の中で一人だけ障害を飛ぶ事ができずに終わってしまう。これにより、受験戦争時代の惨めさを思い出した勇吾は、障害物を飛べなかったマロン号を責めるが、そんな彼に対して御影アキは、馬への感謝と信頼が足りないと叱責するのだった。勇吾は落ち込むが、その後の寮生活の中で、自分が知らず知らずのうちに誰かにフォローされている事実に気づく。自分一人だけでどれだけ躍起になっても仕方がないと悟った勇吾は、マロン号に全面的に身を預けるので、フォローしてほしいと懇願。するとマロン号はそんな勇吾の意を汲み、障害物を見事に飛ぶのだった。この事で、馬の素晴らしさを改めて知った勇吾は、近づくエゾノー祭での馬術部の出し物として、ばんえい競馬を行う事を提案する。
第6巻
エゾノー祭の出し物でばんえい競馬をする事になり、八軒勇吾は馬術部員達を引き連れて、広大な学校の敷地の一部を借り、レースをできる状態に土をならす重労働を通し、馬との一体感を高めようとしていた。そんなある日、勇吾は秋季大会で障害馬術のデビュー戦に挑む事になった。結果、自身の力量を悟り、マロン号にすべてを委ねる事で4位の成績を収めた勇吾は、もう一つ上の高みを目指す意欲に燃える。それは勉強で一番を取れなかった時の悔しさとは別の、あふれる感情だった。自身の成長と努力を認める事ができるようになった勇吾は、好意を抱き続けて来た御影アキに、エゾノー祭が終わったら二人きりで遊びに行かないかと提案。その申し出を快諾するアキだったが、勇吾を異性として意識するようになり、困惑してしまう。一方の勇吾はこれまで以上にエゾノー祭の準備に張り切るが、さまざまな係を兼任して、忙しい日々を送っていたために過労で倒れてしまう。エゾノー祭当日、勇吾は病院のベッドの上で意識を取り戻すが、そこに折り合いの悪い父親が見舞いに現れて動揺する。
第7巻
病院に現れた八軒勇吾の父親・八軒数正は、勉学以外の事が原因で過労で倒れるなど見苦しいと勇吾の担任の桜木義久に苦言を呈し、病院を去った。勇吾は数正がエゾノー祭さえ見ずに帰って行った事に悔しさを覚えて落ち込み、大蝦夷農業高等学校に入学した自身の選択が正しいものだったのか、再び悩み始めてしまう。鬱々としていた勇吾だが、同級生達に成功したエゾノー祭の写真を見せられ、自身の選択が間違っていなかったと改めて思い直す。エゾノー祭が無事に終わり、約束通り御影アキと二人で出かけた勇吾は、向かった先の大蝦夷神社でお互いの願い事が同じであった事に歓喜する。それは、全道大会に出場する駒場一郎が、試合で勝ち進むようにというものだった。その後、勇吾達はテレビを通して全力で応援するが、強豪校を前に大蝦夷農業高等学校野球部は敗退してしまう。
第8巻
全道大会での敗退後、駒場一郎は学校に顔を出さなくなってしまう。八軒勇吾らクラスメイトは、甲子園への夢が断たれて気落ちしているだろう一郎を心配していたが、実は、一郎の実家である駒場牧場が借金を返せなくなったために離農する事になり、一郎は退学準備を進めていたのだった。一郎が大蝦夷農業高等学校を退学する事を知った勇吾は、御影アキといっしょに一郎の離農準備を手伝う事にする。借金をしないと経営できない農家の不条理に触れた勇吾が困惑する中、アキは実家を継がずに馬関係の仕事に就きたいと家族に打ち明ける事を決意する。自らの夢を追うアキの熱意は父親の御影豪志に通じ、将来の夢を叶えるよう大学進学を後押しされる。そんなアキの大学進学を応援するため、日夜勉強を教えるようになった勇吾は、教える喜びを知る事になる。
第9巻
八軒勇吾に勉強を教えてもらうようになってから、御影アキの成績は徐々に上がり始める。それなりの手ごたえを感じる勇吾だったが、それでもアキの学力では、志望校の大蝦夷畜産大学にはまだ遠く及ばない。悩んだ結果、東京大学に現役合格した兄の八軒慎吾に、より良い勉強法を教えてもらう事を決めた勇吾は、札幌の実家にある慎吾の虎の巻の勉強ノートを取りに行く事にする。父親・八軒数正と顔を合わせないように気を配る勇吾だったが、自宅で運悪く数正と鉢合わせになってしまう。数正からはアキの学力を伸ばす事で、高校受験から逃げ出した自分のプライドを立ち直らせようとしているのではないかと指摘され、勇吾はたじろいてしまう。しかし勇吾は数正の指摘に、一度受験に失敗したからといって、永遠に敗者でいるつもりはないと宣言。そんな勇吾の姿を見て、母親の八軒美沙子は、たくましく成長していく息子に大きな喜びを感じるのだった。
第10巻
冬休み。依然険悪な関係にある父親・八軒数正と顔を合わせたくない八軒勇吾は、帰省せず寮に残って家畜の世話をしていた。大晦日の夜に、大蝦夷農業高等学校近隣に住んでいる教師達の年越し宴会に招かれた勇吾は、入学してからの日々を振り返り、農業に携わる事の厳しさと楽しさを感じていた。年が明けて、豚丼の時と同様に大蝦夷農業高等学校で育った豚の肉を買った勇吾は、クラスメイト達と豚肉加工に挑戦する。勇吾は、美味くできあがったソーセージを校内の即売所で販売する事にするが、ほかの生産者の不利益にならないように、あえて高めの価格設定をする。それでもソーセージは完売し、勇吾は大蝦夷農業高等学校のブランド力と信頼性を改めて知る事となる。駒場一郎の実家の牧場のように、倒産する農家を出さないためには、ブランド力と信頼の構築を強く意識する必要があると説く勇吾の姿は、クラスメイト達に大きな影響を与えていく。そして勇吾は、今後もクラスメイト達を先導して豚肉加工や食品販売を続け、農業経営を身をもって学んでいこうと決意を固めるのだった。
第11巻
学生のうちに起業しようと考えた八軒勇吾は、2年生の時から会社立ち上げのために下宿に移り住む事を画策する。寮を出る許可を得るために父親の八軒数正に電話するが、肝心の起業内容が明確に定まっていなかったため、数正からは厳しく非難されてしまう。数正の言う事ももっともだと反省した勇吾は、将来的に経営者を目指しているクラスメイトの稲田多摩子に助言を受けながら、起業計画書を作成し始める。企業テーマは、寄せ集めのノーブランドである大蝦夷農業高等学校の生徒達が、互いの強みを持ち寄ってハイブランドを作り上げる事に決める。人との縁が大切なのだと改めて気づいた勇吾は、自分に賛同する生徒達に次々に声を掛けていく。一方、勇吾に勉強を教えてもらった事で、目標の大蝦夷畜産大学の推薦入試を受けられる可能性が出て来た御影アキは、ますます勉強に精を出すようになる。アキの学力が驚くほど伸びた事で気をよくしたアキの父親・御影豪志が下宿先を見つけてくれた事で、勇吾は2年生の時に学生寮を出て、起業の勉強をしながら学生生活を送る事が決定する。
第12巻
春が来て、大蝦夷農業高等学校の2年生に進級した八軒勇吾は、いよいよ起業へ向けて本格的に動き出す事にした。出資してもらうために、父親・八軒数正に企画書を送り続ける勇吾だったが、ことごとくダメ出しされてしまう。落ち込む勇吾は、ある日、大蝦夷農業高等学校卒業後もフリーターとして色々な農場で働いている元馬術部先輩の大川進英と再会する。アルバイト先で現物支給された黒豚の元ぶちょーを散歩させていた進英の、放牧豚をやりたいという一言に勇吾は食いつく。御影アキの実家に空いている農地を借りて元ぶちょーを放牧させる事にした勇吾は、いずれ豚を増やし、ブランド豚として売り出す事業を展開する事を決意。そして進英を代表取締役に据えて起業し、自身は副社長となって陰から会社を見守る事にする。また勇吾は、大蝦夷農業高等学校で大盛り上がりした石窯を使ったピザ会を一事業とすべく、奔走を始める。
第13巻
ついに株式会社GINSAJIを創立した八軒勇吾は、社長の大川進英と共に、石窯を使ったピザ会の開催準備を順調に進めていく。きちんとした企画を立てた結果、ばんえい競馬場の一角でピザ会を開催できる運びとなり、勇吾は歓喜する。季節は巡り、3年生になった勇吾達は、いよいよ受験シーズンを迎えた。目標としている大蝦夷畜産大学の推薦入試を受けられる事になった御影アキは大喜びし、小論文試験の対策に余念がない。そんな中、進英のもとに、ばんえい競馬場からピザ会開催日時決定の連絡が入る。アキの入試日とピザ会の日程が重なってしまう事を知り、落ち込む勇吾だが、企業人としての記念すべき第一歩を踏み出した事に胸を躍らせる。そんな中、勇吾あてに駒場一郎から電話がかかって来る。実家の離農後、自分の牧場を持ちたいという夢を捨てきれず、一念発起して東京へと出稼ぎに行った一郎は、深刻そうな声で勇吾に頼みたい事があると切り出すのだった。
第14巻
突然電話して来た駒場一郎からの頼み事は、八軒勇吾の予想していないものだった。東京の引っ越し業者で自慢の肉体を活かして金を稼いでいた一郎は、大蝦夷農業高等学校を中退して以降、あきらめていた勉学を再開しようと考えていたのだ。勇吾の兄・八軒慎吾がインターネットで家庭教師をしている事を聞きつけたと話す一郎に、勇吾は二つ返事で慎吾を紹介する。離農にめげずに将来を見据える一郎に元気をもらった勇吾は、ばんえい競馬場でのピザ会を成功させるために奔走する。そして運命のピザ会の日、試食と意見交換を重ねた株式会社GINSAJIのピザは、大好評のうちに完売。しかし身内からの辛口の意見は多く、勇吾は今後も改良を重ねていく事を大川進英と誓い合うのだった。ピザ会と同日に行われた御影アキの大蝦夷畜産大学への推薦入試の結果は、見事合格。一方、勇吾は進英の勧めで大蝦夷畜産大学の一般入試を受験する事になったため、大蝦夷農業高等学校卒業までの数か月間、勇吾は久しぶりの受験勉強に専念する事となる。
メディアミックス
TVアニメ
2013年7月と2014年1月から、フジテレビの深夜枠「ノイタミナ」などにて分割2クールで放送。制作はA-1 Pictures。ばんえい競馬の「ばんえい十勝」とのコラボレーションイベントなども行われた。
実写映画
2014年3月に全国ロードショー。「最強に理不尽な青春!!」をキャッチコピーに、中島健人、広瀬アリスなどが出演。監督は吉田恵輔、本作の舞台である北海道にて撮影された。上映2日で9万8956人を動員、興業収入は1億2000万円余りを記録した。
社会に与えた影響
石川雅之の『もやしもん』で農業大学への関心が高まったところでの連載開始だったこともあり、農業高校への希望者が急増。2013年に行われたアンケート「農業に興味がある学生の実態調査2013」(パルシステム生活協同組合連合)によると、影響を受けたアニメ・漫画作品の第1位となっている。ちなみに第2位は石川雅之『もやしもん』、第3位は作者・荒川弘のエッセイマンガ『百姓貴族』だった。またTVアニメではばんえい競馬の「ばんえい十勝」とのコラボレーションが行われ、大幅な黒字を出した。
評価・受賞歴
「マンガ大賞2012」第1位
農林水産省主催「Contents Award of Japan Food Culture」大賞受賞(2013年)
登場人物・キャラクター
八軒 勇吾 (はちけん ゆうご)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。実家は札幌にあり、家族構成は両親と兄。非常にまじめな性格で、何事にも真摯に取り組む。兄の八軒慎吾が東京大学に入学して以降、慎吾のひょうひょうとした人を食った態度に苛立ちを隠せずにいる。受験勉強疲れでノイローゼ状態になってしまったため、当時中学の担任教師だった白石総の勧めで、進学校である高校に内部進学せず、大蝦夷農業高等学校を進学先に選択。長く自分を押さえつけざるを得ない環境に身を置いていた事から、非常にほかの人達に対して感情移入しやすく、御影アキに好意を持たれている。大蝦夷農業高等学校では馬術部に所属している。2年生に進学時には、その勤勉さから副部長に任命された。友人である駒場一郎が離農し、苦労する姿を目の当たりにしていたため、農家が安寧に生活できる暮らし作りについて事あるごとに考えている。大蝦夷農業高等学校在学中に大川進英と共に株式会社GINSAJIを立ち上げ、副社長を務めるようになった。クラスメイト達からは「ハチ」と呼ばれている。
御影 アキ (みかげ あき)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している女子。清水第一中学校出身。方言がコンプレックスで、ふだんは標準語を話すよう努力している。にんじんが苦手。小さい頃から馬が好きで、大蝦夷農業高等学校では馬術部に所属している。3年生の時には馬術部部長を務める。馬術の腕前は確かで、馬術部の中でも上位であり、障害を飛べる数少ない部員の一人。しかし試合には弱いタイプで、公式試合では表彰台にあがった経験はない。実家は牛と馬を飼っている農家で、一人っ子のため、将来は実家を継ぐものと期待されている。だが八軒勇吾の後押しもあり、高校卒業後は大学へ進み、ばんえい競馬の裏方の仕事を目指している事を家族に打ち明け、了解を得た。その後、勇吾に勉強を教わり、希望していた大蝦夷畜産大学の推薦入試に合格。農家の後継ぎであるため、恋愛には意識的に目を向けなかったが、まっすぐにぶつかって来る勇吾と恋仲になった。駒場一郎とは家が近く、同じ中学校に通っていた事もあり、家族ぐるみで仲がいい。八軒慎吾からは「御影ちゃん」と呼ばれている。
駒場 一郎 (こまば いちろう)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍していた男子。清水第一中学校出身。家族構成は母親と双子の妹たち。高身長と、農作業で鍛えた腕力が自慢。野球部に所属しており、甲子園を目指して部活に明け暮れる日々を送っていたが、実家の牧場の倒産により離農する事になり、大蝦夷農業高等学校を退学した。高校在学時は、農家の長男として生まれた以上、実家を継ぐのは義務であると割り切っていたが、野球で成功する夢を捨てきれず、牧場脇に亡き父親が手作りしてくれた投球練習場で、日々野球の練習に励んでいた。プロ野球選手になったら、契約金で駒場牧場の牛舎を新しくし、牛を増やして人を雇って、母親に楽をさせてやりたいと考え、プロを引退したあとは駒場一郎自身がより大きな牧場を経営する事を目標にしていた。所属する野球部が1年生の時に全道大会まで進み、甲子園へあと一歩のところで夢を断たれた経験を持つ。幼なじみの御影アキからは「いっちゃん」と呼ばれている。父親の死因が過労だったため、頼まれると断れずにさまざまな学校行事やイベントに駆り出され、日々忙しくしている八軒勇吾を心配している。
常盤 恵次 (ときわ けいじ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。中札内南中学校出身で、将来は実家の鶏農家を継ぐ予定である。大蝦夷農業高等学校には農家の長男であるという事で推薦入学したが、非常に勉強が苦手で、特に数学は壊滅的な成績のため、八軒勇吾に中学の数学から教えてもらっている。一般授業は苦手だが、養鶏の知識には長けており、授業科目の中では畜産と作物の授業が得意。また、実家を継ぐ事に対する意識は非常に大人びたもので、たとえば鳥インフルエンザが発生して実家の鶏を一斉処分する事になれば、一気に何千万円もの借金を抱える事になる事を認識しているなど、実家を継ぐうえでの覚悟もきちんと持っている。好みのタイプは、痩せた時の稲田多摩子。募金箱を作ってあげた縁で副ぶちょーに懐かれ、よく馬術部員の代わりに散歩の代行をしている。散歩に連れ出すついでに副ぶちょーにさまざまな芸を仕込み、募金を受けやすくなるように手助けしてやったりと、勉強以外はまめな性格をしている。空手部に所属している。
相川 進之介 (あいかわ しんのすけ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。幕別東中学校出身で、将来の夢は獣医になる事。穏やかな性格で、男女問わず誰にでも優しく接する。授業以外でも家畜を見ていられる環境に身を置くべく、ホルスタイン部に所属し、牛の体型に熱烈な関心を寄せる熱い先輩達に揉まれながら日々奮闘している。一般高校ではなく大蝦夷農業高等学校に進学して来たのは、バイオテクノロジー研究などに携われる機会が多いため。獣医になりたいと考えているが血を見るのが極度に苦手で、それを克服する方法を日々模索している。血が苦手になったのは小学生の時で、獣医を目指すゆえに見学した牛の手術場面が強烈で、以来それがトラウマとなり、血を見るのが恐ろしくなってしまった。流血に苦手意識を持つのを何とか克服しようと、スプラッタ映画を見まくった過去がある。将来は大蝦夷畜産大学の獣医学科への進学を希望し、予備校に通い猛勉強している。
稲田 多摩子 (いなだ たまこ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している女子。帯広川西中央中学校出身。大蝦夷農業高等学校で農業経営を学び、世界に出ても負けない農業を展開する事が夢。実家が農家3軒と共同経営しているギガファームを、今よりも稼げる大きな農場にする事を目標に、日々経営学の勉強に勤しんでいる。経営企画、特に経理方面の仕事が得意な事から八軒勇吾に株式会社GINSAJIの会計面を強く頼られている。2歳年上の兄・稲田真一郎も大蝦夷農業高等学校に進学して卒業したが、大量生産に不向きな無添加食品を研究する真一郎とは意見が食い違う事が多く、ことある事に議論し、不仲になる。ふくよかな体型からクラスメイト達に「タマゴ」とあだ名されているが、夏バテするなどして痩せると、途端にスレンダーな体型に変わり、その変貌ぶりは男子達に「トランスフォーム」と呼ばれている。柔道部に所属しており、その腕前はかなりのもの。実家ではポチというドーベルマンの犬を飼っている。
吉野 まゆみ (よしの まゆみ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している女子。下浦幌中学校出身で、将来は実家の牛乳を使ってチーズ工房を立ち上げたいと思っている。チーズについて学ぶために、本場フランスに長期留学する事を検討していたが、2年生の時にフランスへの短期留学を果たし、現地で食べたチーズの味に感動して帰国。留学で自身の目指すチーズ工房を、より具体的に思い描くようになった。授業科目の中では、食品製造の成績がずば抜けていい。ごみ捨て場に埋まっていた石窯でピザを作る事になった際は、チーズ調達に尽力してモッツァレラチーズよりもゴーダチーズの方が日本人の味覚に合うと八軒勇吾にアドバイスした。吉野まゆみ自身はカマンベールチーズが特に好き。チーズ好きが高じて、チーズを作る時に出るホエーを与える事で肉が美味しくなるホエー豚の研究に意欲的に取り組んでいる。勇吾の立ち上げた株式会社GINSAJIでのピザ会事業に、チーズ提供者として協力している。バドミントン部に所属している。中島美雪が顧問のチーズ研究会の会長職を務めている。
西川 一 (にしかわ はじめ)
大蝦夷農業高等学校の農業科学科に在籍している男子。新ひだか町第四中学校出身。実家の畑作農家を継ぐために大蝦夷農業高等学校に進学した。実家で作っているジャガイモとトマトとアスパラを自慢に思っている。オタクの粋に達するほど美少女アニメ・ゲームが好き。特に好きなのは「剥きむきメモリアル」という美少女ゲームで、東京の秋葉原やコミケに行っては、色々なグッズを購入して寮室に飾っている。美少女ゲーム好きが高じてPC操作にも非常に精通している。また、美少女のイラストを描くのも非常にうまいが、趣味は消費者として楽しめばいいという考え方をしており、将来は実家の農業を継ぐ意向を崩さない。しかし実家を継ぐ前に東京の大学に進学し、秋葉原などでオタク生活を十分満喫しようと考えている。美少女ゲームで女心を学び、確実に落とせると判断して池田千鳥に交際を申し込んだが、実家が彼女の好きな畜産農家ではなく、野菜農家であるという理由でこっぴどくふられてしまった。巨大コンバインハーベスターなど、巨大な農耕機に目がなく、ひと目拝むためならば寮を脱走して罰則を受ける事も厭わない。
別府 太郎 (べっぷ たろう)
大蝦夷農業高等学校の食品科学科に在籍している男子。帯広空港南町中学校出身。食べる事が大好きで、つねになにかしら食べている。美味いものを作りたいと希望して大蝦夷農業高等学校に進学しており、限られた食材を使って即席で主食を作れるなど、その料理の腕は確か。寮の同室の八軒勇吾とは、食品のおすそ分けをし合う仲である。ぽっちゃりした体型をしており、走るのが苦手。おおらかで柔和な人柄は非常に親しみやすく、駒場一郎の双子の妹の駒場二野、駒場三空には、初対面でふわふわのお腹を触られ、懐かれていた。
稲田 真一郎 (いなだ しんいちろう)
大蝦夷農業高等学校の食品科学科に在籍していた男子。帯広川西中央中学校出身。稲田多摩子の兄で、多摩子より2歳年上である。八軒勇吾とは鶏小屋から逃げた鶏を捕まえてもらった縁で知り合い、その礼に作り立てのスモークチキンをプレゼントした。捕まえたばかりの鶏の首をはねて、スモークチキンにすると発言した時の印象が強すぎて、勇吾には「スモークチキン先輩」とあだ名されている。スモークチキンのほか、ベーコン作りも得意。無添加にこだわった食材を追求するために食品科学科に進学しており、添加物について語る時は非常に熱い性格になる。ふだんは面倒見のいい兄貴肌だが、妹の多摩子には不愛想に振る舞う事がある。それは、無添加食品など効率の悪い研究であり、大量生産および大量消費の世間のニーズに合わせて添加物もうまく使っていくべきだという考えの多摩子と、しょっちゅう意見が対立している事が理由である。進学先の大学ではさらに無添加食品についての研究に励み、将来的には放牧豚を育てたいという夢を持つ。
大川 進英 (おおかわ しんえい)
大蝦夷農業高等学校の農業土木工学科に在籍していた男子。八軒勇吾よりも2歳年上で、勇吾と御影アキにとって馬術部の先輩にあたる。帯広大空北中学校出身。3年生の時には、馬術部部長を務めていた。設計図があれば何でも作れると豪語し、勇吾がごみ捨て場で見つけた石窯の修理をして、その後に伝統となって続くピザ会の発端を作る偉業を成した。ほかにも、設計図なしで即興で副ぶちょーの犬小屋を作るなど、その腕前は確か。将来進みたい道は特になく、仕事に自分を合わせる生き方もありだという考えを持ちながら就職活動に励む。手先が非常に器用なため、大蝦夷農業高等学校の先生達にも頼まれ、設計から請け負い、ラクレットオーブンを造った事もある。大蝦夷農業高等学校卒業後は、就職できずにアルバイトをして食いつないでおり、その過程で現物支給された黒豚に「元ぶちょー」と名付けてかわいがっている。元ぶちょーの放牧をきっかけに、勇吾の起業する会社・株式会社GINSAJIの代表取締役に就任した。仕事を与えられれば非常に迅速に作業する有能な人物で、のちに西川一の影響からギャル系のイラストがうまくなる。
豊西 美香 (とよにし みか)
大蝦夷農業高等学校の食品科学科に在籍している女子。八軒勇吾よりも2歳年上で、勇吾と御影アキにとって馬術部の先輩にあたる。帯広大正中学校出身。馬術部在籍時は、部長の大川進英を叱咤激励しつつ支えた。なにかしらの格闘技に精通しており、おかしな方向に暴走しようとする進英に蹴りを見舞い、なだめるのが通例となっていた。勇吾のアキへの気持ちに気づいており、アキに思いをまったく気づいてもらえない勇吾に同情している。大蝦夷農業高等学校卒業後は大学に進学した。姉御肌で非常にさっぱりした性格をしている。
栄 真奈美 (さかえ まなみ)
大蝦夷農業高等学校の農業科学科に在籍している女子。幕別東中学校出身。馬術部に所属している。御影アキからは「栄ちゃん」と呼ばれ、親しまれている。秋季大会ではマロン号に乗って新人向け障害馬術に挑み、見事1位を獲得した。おとなしい性格のため、馬に身を委ねる気持ちが強い事から、マロン号と相性がいい。非常に鈍感な性格で、悪気はなく、人のプライベートに土足でズカズカ踏み込んだ質問をする。八軒勇吾とアキの仲がなかなか深まらない事に、日々やきもきしている。互いに性格をよく知っていて付き合いやすいからという理由で、大蝦夷農業高等学校卒業間際に円山登と交際を開始した。登とは互いに農家の跡継ぎ同士であるため、結婚後にどちらの実家の事業を継続させるか日々話し合っている。
桜木 義久 (さくらぎ よしひさ)
大蝦夷農業高等学校の国語教師をしている男性で、八軒勇吾の担任を務めている。非農家でありながら、札幌の進学校の中学校からわざわざ大蝦夷農業高等学校に進学して来た勇吾を温かく見守り続ける。推薦入試を受ける生徒に長時間かけて小論文対策を施すなど、面倒見がよく教育熱心なところがある。寛容で大らかな性格で、あまり細かい事は気にしないタイプ。そのため、勇吾が校内のごみ掃除で拾った副ぶちょーを番犬代わりに大蝦夷農業高等学校で飼う事をあっさりと許可した。
白樺 樹 (しろかば いつき)
大蝦夷農業高等学校で鶏舎の管理をしている男性教師。風貌も鶏に非常によく似ており、特に口が鶏のくちばしと同じに見える。非常に家畜を愛しており、自分達のヒエラルキーは家畜よりも下なのかと疑問を口にした八軒勇吾に対して、生徒達は家畜の奴隷だとあっさり言い放つほどである。ほかの教師にも生徒にも、「ニワトリ先生」と呼ばれている。
中島 美雪 (なかじま よしゆき)
大蝦夷農業高等学校の男性教師で、馬術部顧問を務めている。担当科目は食品化学。非常に大らかな優しい性格で、気高く、仏と見間違うような穏やかな雰囲気を漂わせている。その反動として、怒ると非常に怖い。校内のチーズ加工室の地下に秘密のチーズ発酵室を持っているが、それを見つけた吉野まゆみに脅され、いつも高級チーズを持っていかれている。エゾノー祭で、馬術部の人間ばんばの景品として保存していたチーズをすべて放出しなければならなくなったショックで体調を崩し、授業も馬術部顧問の仕事もできないほど落ち込み、寝込んでしまった。馬好きが高じて競馬場に足繁く通っており、馬券を購入する時は、一気に勝負師の顔になる。競馬場では毎回、多額の金をつぎ込み、一点集中型で攻めている。アルバイトで雇用した縁で、八軒慎吾とはメル友の仲。また、八軒勇吾の家庭環境を非常に気にしており、勇吾の勇姿を見せてあげたいと、勇吾に内緒で勇吾の両親を馬術大会に招待してあげるなど気配り上手な一面を持つ。
富士 一子 (ふじ いちこ)
大蝦夷農業高等学校に勤めていた女性教師。主に豚舎を担当していた。ナイスバディでつねにサングラスをかけており、非常にさっぱりとした性格をしている。その風貌から、副ぶちょーには軍曹扱いされ、畏怖されている。狩猟免許を所持しているため、射撃が得意。祭りではその腕前を存分に披露し、昼のうちから景品をすべて撃ち落とし、近くにいた子供らに分け与えていた。非農家出身の八軒勇吾が入学した事により、家畜の生死に対する考え方や、ふだんは気にも留めないような事で頻繁にディスカッションが起きるようになった酪農科学科を面白く観察しつつ、温かく見守っている。エゾシカが増えすぎて農作物の食害が増えている事を嘆き、猟師となって、大蝦夷農業高等学校を去る。
校長
大蝦夷農業高等学校の校長を務めている男性。コロポックルのように小さな背丈をしている。非常に穏やかな性格をしており、馬術部に自身の馬の世話を任せるなど、多少職権乱用気味ながら、広大な学校敷地内を取り仕切っている。物作りが趣味で、ごみ捨て場に長く放置されていた石窯は、かなり昔に校長が造ったものである。それだけでなく、大晦日には自前の石臼でそばを挽き、教師達に振る舞ったりと、非常に手先が器用である。非農家出身の八軒勇吾が、将来やりたい事を見つけるのを楽しみにしつつ、応援している。食堂の入口に飾られた銀の匙のオブジェを大切にしており、大掃除の時には自ら脚立を使い、丁寧に磨いている。頭には髪の毛が一本しかなく、その毛の立ち方で感情を表す。
ブラックキング号
大蝦夷農業高等学校で飼われている馬。真っ黒で獰猛、大きな体躯で恐れられている。その巨体や鼻息の荒さから、八軒勇吾には対峙するたびに世紀末覇者と呼ばれ、恐れられている。取り扱いが難しく、御影アキ以外にうまく乗りこなせる馬術部員はほとんどいない。エゾノー祭での人間ばんばなどで大活躍した。
マロン号
大蝦夷農業高等学校で飼われている馬。不細工な顔立ちで、眉毛がほとんどないため、八軒勇吾には「マロ眉」と呼ばれている。気難しい馬として、馬術部でも持て余されている。プライドが非常に高いため、特にからかって来る勇吾を背中に乗せる時は毎回険悪な雰囲気になる。優しく接してくれる御影アキの事は大好き。馬術部にやって来た子犬の副ぶちょーを弟分のようにかわいがり、副ぶちょーを叱った勇吾の足を踏みつけて制裁するなど、副ぶちょーとは種族を越えた絆を築いている。足は速いが地方競馬場で成績が残せず、大蝦夷農業高等学校に連れて来られた経緯がある。
豚丼 (ぶたどん)
大蝦夷農業高等学校の豚舎で生まれた子豚。品種は三元交配豚である。食肉となる3か月のあいだ、八軒勇吾ら酪農科学科の生徒達に見守られ、世話された。いっしょに生まれた七匹の子豚に生存競争で負け、一番出の悪い乳を吸う姿に感情移入した勇吾に「豚丼」と名付けられ、かわいがられた。食肉となったあとは、勇吾がアルバイト代をはたいてすべての肉を買い取り、クラスメイト達と大事に食した。勇吾がベーコンを手作りするきっかけとなった。
副ぶちょー (ふくぶちょー)
八軒勇吾が大蝦夷農業高等学校の校内のごみ拾い中に拾った子犬。人懐っこく、馬術部の生徒中心によく馴れている。番犬代わりに大蝦夷農業高等学校で飼育されるようになってからは、全校生徒達のアイドル的存在となった。年毎の予防接種代は拾った責任を感じて勇吾が負担する事になったが、日々のエサ代は、常磐恵次が竹ボウキを切って作った募金箱を常時首からぶら下げ、自分で稼ぐようになった。ほかにも大川進英が廃材で犬小屋を作ってやるなど、校内の誰もに愛されている。馬術部の番犬になった当初、マロン号をアニキのように慕っており、マロン号が格下と思っている勇吾の事を同じように見下し、勇吾の言う事を聞かなかった。のちに勇吾に徹底してしつけられ、無駄吠えすらしない完璧な番犬へと成長した。名前の由来は、拾い主の勇吾が馬術部の副部長だったため、最初は「副部長の犬」と呼ばれていたのが、だんだん縮まり「副ぶちょー」として定着した。
八軒 慎吾 (はちけん しんご)
八軒勇吾の兄。東京大学在学中に、ものすごく美味いラーメン屋に出会い、運命を感じてその店に弟子入りし、東京大学を退学した。味覚のセンスは抜群で、その店のラーメンのレシピをすべて当てたために弟子入りを許可されたが、料理のセンスは皆無で、作るラーメンはどれも壊滅的な味になる。弟子入りしたラーメン店の店主から、何年かかってもいいから究極の食材を集めて来るよう言われ、バイクで世界を回る旅へと出発。学歴主義の実家を嫌い、家には寄り付かず、バイクで北海道を一周しながらラーメン修行に励む悠然とした生活を送っている。行き倒れていたところを救われた縁で交際に発展したアレクサンドラ・ドロホヴィチと結婚後は、札幌に借りたアパートの一室で、夫婦そろってインターネットで家庭教師をしている。五教科全般を教える事ができ、また東京大学現役合格のブランド力でそこそこの顧客をつかんでいる。大蝦夷農業高等学校で勉強以外に夢中になれるものを見つけた勇吾に一目置きつつ、温かく見守っている。
八軒 数正 (はちけん かずまさ)
八軒勇吾と八軒慎吾の父親。目つきが非常に鋭く、強面のため、かつて勇吾の様子を見に大蝦夷農業高等学校を訪れた時には、生徒達にはヤクザではないかと噂されたほど。訪問時に真正面から撮影された写真が出回り、生徒間で魔除けに効くとされ、重宝されている。慎吾と勇吾には学力主義の価値観を押しつけたために、折り合いが悪い。慎吾が反発し、せっかく合格した東京大学を卒業せずに自主退学した事を非常に不快に思っている。子供に学力主義を押し付けるが、その一方で勇吾が勉強が好きな事を見抜き、きちんと学べる環境を整えようと進学校に進ませたいと考えるなど、子供を思う一面もある。本気の相手には本気で返す事を信条としており、勇吾が大蝦夷農業高等学校在学中に起業を考えた際、日々送られて来る起業企画書には熱心に目を通した。家事のいっさいを任せている妻の八軒美沙子に全面的に信頼を寄せている。先祖は屯田兵だった。
八軒 美沙子 (はちけん みさこ)
八軒勇吾の母親で、のんびりとした雰囲気を漂わせた専業主婦。実家を嫌い、大蝦夷農業高等学校で寮生活を始めた勇吾を心配し、頻繁にメールを送っている。勇吾を心配するあまり、大蝦夷農業高等学校に様子を見に行った際、真剣に物作りをする勇吾のたくましさに感心した。以来、勇吾のやりたい事には極力反対しないようになった。八軒数正と結婚した決め手は、数正の笑顔が素敵だったから。料理の研究に余念がないが、数正が丹精込めた料理の感想を言ってくれないのが最近の悩みである。
御影 豪志 (みかげ ごうし)
御影アキの父親。牛と馬を保有する農家だが、ヘルニアのために入院しなければならず、ピンチヒッターとして八軒勇吾をアルバイトに雇った。一人娘のアキを大事に思っており、アキに好意を寄せる勇吾をことある事に敵視している。駒場一郎の実家である駒場牧場が事業拡大する際、連帯保証人になったため、駒場農場が倒産して離農を決めた時には、新たに一千万円超の借金を背負う事になった。アキが実家を継がず大学進学を志望し、将来は馬関係の仕事に就きたいと打ち明けた際、金の問題ではなくて娘の将来の問題だからと腹をくくり、アキの希望を尊重した。駒場牧場の倒産を機に、父親の御影大作から実家の農場の社長業を引き継いだ。アキの勉強を親身に見てくれ、見事に志望校である大蝦夷畜産大学に合格させてくれた勇吾には、顔や態度には出さないが心から感謝している。
御影 政子 (みかげ まさこ)
御影アキの母親。アキが夏休み中にアルバイトとして連れて来た八軒勇吾がサラリーマン家庭の次男だと知って以来、跡継ぎ候補としてアキとの仲を応援している。アキの気持ちが勇吾にある事は知っているが、ほかのクラスメイトでも非農家の家庭の子供だと見るや、目を輝かせてアキとくっつかないかと算段している。
白石 総 (しろいし そう)
新札幌中学校の教師を務める男性。八軒勇吾の中学3年生時の担任で、受験戦争に疲れた勇吾に大蝦夷農業高等学校の受験を勧めた張本人。勇吾に大蝦夷農業高等学校を勧めた理由は、勉学で一番になるという自尊心が満たされつつ、なにかしら将来の目標が見つけられるのではないかと考えたから。勇吾が大蝦夷農業高等学校に入学したあとも彼の身を案じ、自ら大蝦夷農業高等学校の校長に電話連絡をしたうえで、勇吾の様子を見に来た。ごみ捨て場で偶然発見した石窯でピザを焼こうと奮闘する勇吾を見て、安心して札幌に帰っていった。勇吾の父親である八軒数正には、生徒一人一人をきちんと内面まで見てくれる教師であると評価されている。
南九条 あやめ (みなみくじょう あやめ)
清水西高等学校に在籍している女子。清水第一中学校出身で、農協組合長の孫である。同じ中学校出身の御影アキといっしょに大蝦夷農業高等学校の推薦入試を受験したが、不合格だった。実家は居住地域に高速道路が通る時に所有していた山や畑を高額で売却した、いわゆる成金である。金髪縦ロールの髪型で自身の容姿に絶対の自信を持っており、秋季大会で自身に芸術点が入らないのはおかしいと本気で悩む憎めない性格をしている。目立ちたがり屋で、秋季大会で自分よりも目立った八軒勇吾をライバル視するようになった。大蝦夷農業高等学校に入学を果たしたアキをことある事にライバル視しているが、高飛車な態度とは裏腹に、仲間思いの優しい一面を持つ。アキをライバル視するあまり、清水西高校に馬術部を創設した。馬術は初心者だが、自らが創設した馬術部に入って以来、すっかり馬好きになった。愛馬の名前はドロイヤル号。将来はライバルのアキと同じ大蝦夷畜産大学への進学を希望しているが、学力が追いついていないため、八軒慎吾にインターネット家庭教師で勉強を教えてもらっている。
山田 旭 (やまだ あさひ)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している男子。倶知安西陵中学校出身で、バスケットボール部に所属している。彼女を部屋に連れ込みたいという下心から、2年生からは寮を出て下宿したいと考えている。
白糸 鷹志 (しらいと たかし)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。足寄螺湾中学校出身で、陸上部に所属している。いつも短髪をツンツン尖らせており、髪のセットには毎朝30分かかっている。
中矢 (なかや)
大蝦夷農業高等学校の農業科学科に在籍している女子。いつも吉野まゆみといっしょにいる。1年生の時に、野球部で活躍する駒場一郎に好意を持ち、告白したが玉砕した。
御茶の水 太郎 (おちゃのみず たろう)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している男子。岩見沢光中学校出身。卓球部に所属しており、八軒勇吾を勝手にライバル視している。インテリな風貌から、「ハカセ」のあだ名で呼ばれている。
御影 優志 (みかげ ゆうじ)
御影豪志の弟。獣医を務めている。ばんえい競馬場の診療所に勤務している。獣医は生き物を生かすのはもちろんの事、殺す選択も迫られるため、いざという時に動物の生命を奪えるかどうかが獣医師に必要な素養であると考えている。御影アキの口添えで、獣医を目指す相川進之介にアドバイスをしたり、診療所見学をさせている。いつも笑顔だが、仕事に関しては非常に厳しい現実主義者。姪のアキがばんえい競馬場で働く事を目標に掲げると、大学進学する事を絶対条件に応援するようになった。
明野 琴音 (あけの ことね)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している女子。幕別札内西中学校出身で、剣道部に所属している。大学進学を希望し、コツコツと受験勉強している。
巴沢 和真 (ともえざわ かずま)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している男子。女満別東陽中学校出身で、柔道部に所属している。大卒業後は、海外での畜産実習に立ち会う事を希望しているため、大蝦夷農業高等学校の英語の授業のレベルの低さに困惑している。
太田西 力 (おおたにし ちから)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。厚岸トライベツ中学校出身で、柔道部に所属している。実家は畜産農家だが、豚がと畜場で枝肉になる資料映像を見る授業は、自らの考えで視聴しない事にした。その理由は、その日の昼食の牛丼をベストな心理状態で食したかったためである。
八軒 麦 (はちけん むぎ)
八軒慎吾とアレクサンドラ・ドロホヴィチの娘。2013年12月10日に誕生した。
池田 千鳥 (いけだ ちどり)
大蝦夷農業高等学校食品科学科に在籍している女子。八軒勇吾が豚丼をベーコンに加工した事を知り、ピザを作るために友人といっしょにベーコンを売ってもらいに来たのが縁で、酪農科学科の面々と知り合う。肉を中心に、食べる事が非常に好きなため、男子達には文字通り、肉食系女子と呼ばれている。素直な性格ながら、内気で自己主張が非常に下手。ホットドッグを食べたいのに言えずにいたところを、西川一にホットドックを与えられ、見事に餌付けされた。その後、西川に餌付けを続けられて二人で出かけるような仲にまでなったが、西川の実家が畜産農家ではないという理由で、最終的に彼の告白を断る。
御影 サト (みかげ さと)
御影アキの祖母。非常に女性らしい性格をしている。アルバイトに来た八軒勇吾がサラリーマン家庭の次男だと知り、かつアキに好意を寄せていると知るや、御影政子といっしょになって、アキの婿候補としてアキとの仲を応援するようになった。
川合 隼人 (かわい はやと)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。とかち池田中学校出身で、バドミントン部に所属している。実家はブランドものの肉牛を飼っている畜産農家。
沙流川 (さるかわ)
日高農業高等学校に在籍している男子。新ひだか第四中学校出身で、西川一の元同級生。大蝦夷農業高等学校に入学を希望していたが、西川に推薦枠をとられたため、日高農業高等学校に入学した。中学生時代はオタクの西川を毛嫌いし、さまざまな嫌がらせをしていた。言葉遣いが悪く、相手の精神を乱す嫌がらせを得意としている。馬術部に所属している。ヒマを見てはナンパに精を出しているため、ついたあだ名は「エロ猿」。
開進 誠 (かいしん すすむ)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍していた男子。大樹中央中学校出身。八軒勇吾より2歳年上で、ホルスタイン部に所属している。牛の体つきに異常な執着を示し、牛への愛はオタクの域に達しているが、非常に頭脳明晰。大蝦夷農業高等学校卒業後は就職した。
八千代 徹也 (やちよ てつや)
大蝦夷農業高等学校で畜産の授業を担当している男性教師。教育熱心だが、野球部の全道大会のテレビ中継を、授業のBGMだと言い張って生徒に視聴させてやるなど、生徒思いの一面がある。アロハシャツが大好きで、つねに身につけている。
石坂 美穂 (いしざか みほ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している女子。大樹中央中学校出身で、卓球部に所属している。実家は酪農家で、豚がと畜場で枝肉になる資料映像を見る授業は、自らの考えてで視聴しない事にした。その理由は、絶命する瞬間を見て必要以上に落ち込むのを避けるためである。
駒場 菜実 (こまば なみ)
駒場一郎と駒場二野、駒場三空の母親。駒場牧場の管理者を務めていた。大型特殊免許保有者である。夫を亡くしたあと、息子達に助けられながら30頭の牛を世話する日々を送って来た。年中無休の商売にも弱音を吐かないたくましい女性で、保有している牛が老齢で人懐っこいのは、彼女が牛を非常にかわいがっていたためである。事業拡大をした矢先に夫が亡くなったため、借金ばかりが膨れ上がり、一郎が高校1年生の秋に離農を決意。借金返済のために一郎に高校中退させてしまった事を忍びなく思っている。離農後は、北海道の酪農ヘルパー組合の正職員となった。
広野 康司 (ひろの こうじ)
大蝦夷農業高等学校の学生寮の男性教員。教壇には立たないが、教師と同じ目線で寮生達を見守っている。少し面倒くさがりな性格が玉に傷である。
依田 勉 (よだ まなぶ)
大蝦夷農業高等学校の農業科学科に在籍している男子。帯広川西中央中学校出身。八軒勇吾より1歳年上で、勇吾と御影アキの馬術部の先輩にあたる。馬術部で3年生が引退したあと、新部長に任命された。特別リーダーシップがあるわけではないが、つねに冷静沈着で周りをよく見ている、頼れる先輩肌の好人物。馬術の腕前は確かで、障害を飛べる数少ない部員の一人。馬術の際に使用するムチには、彼女とツーショットのプリクラを貼っていた。彼女とは仲睦まじくしていたが、農家の長男であり、借金がある事を話した結果、ふられてしまう。だが、その後はすぐに新しい彼女を作るなど、バイタリティが強い一面がある。大蝦夷農業高等学校には自転車で通学している。
円山 登 (まるやま のぼる)
大蝦夷農業高等学校の食品科学科に在籍している男子。下浦幌中学校出身で、馬術部に所属している。非常に仲間思いの性格をしており、部活引退後も後輩を気遣い、早朝から馬の手伝いをしていた。互いに性格をよく知っていて付き合いやすいからという理由で、卒業間際に栄真奈美と交際を開始した。真奈美とは互いに農家の跡継ぎ同士であるため、結婚後、どちらの実家の事業を継続させるか日々話し合っている。
駒場 三空 (こまば みそら)
駒場一郎の妹。双子の姉、駒場二野と共に駒場牧場の家畜の世話を手伝っている。心根の優しい性格をしており、自らが雑草を取り、キツネよけの柵を設置してまで作った初物のトウモロコシを、自分が食べるより早く、家業を手伝ってくれた八軒勇吾にプレゼントした。実家の牧場が倒産したあとは、家畜の世話をしていた時間を勉強にあてて、奨学金制度を使って大学進学しようと頑張っている。いい大学を出ていい仕事に就き、母親の駒場菜実と一郎に楽をさせてあげるのが夢。主な移動手段は自転車である。
勢雄 速見 (せお はやみ)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している男子。上更別中学校出身で、剣道部に所属している。特技は百人一首で、中でも北海道流百人一首においては鬼のような強さを発揮する。
登和里 英策 (とわり えいさく)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している男子。士別岩尾内中学校出身で、ラグビー部に所属している。実家は羊と肉牛を扱っており、ジンギスカンは焼いてからタレをつける派である。
二又 幸治 (ふたまた こうじ)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。津別川中学校出身で、ホルスタイン部に所属している。大蝦夷農業高等学校では、バイオテクノロジー研究をしようと考えている。
ドロイヤル号 (どろいやるごう)
南九条あやめの愛馬。蹴り癖があるため、目印として、つねに尻尾に赤い飾りを付けている。後ろに立った人間が誰であろうと蹴ってしまい、その脚力は携帯電話をまっぷたつにしてしまうほどの破壊力を持つ。飼い主のあやめ同様、目立ちたがりでプライドの高いところがある。
末広 実郷 (すえひろ みさと)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している女子。訓子府東中学校出身。170センチ超えの高身長を活かし、バレーボール部で活躍している。
バース
駒場農場の番犬。駒場一郎を筆頭に、駒場家全員によく懐いている。非常に優秀な番犬で、駒場農場が離農する際、牛を市場に運ぼうとする業者を牛泥棒と考えて、彼らに向かって延々と吠え続けた。人語をよく理解しており、一郎の命令には素直に忠実に従う。
雨竜 啓 (うりゅう けい)
大蝦夷農業高等学校の農業土木工学科に在籍している男子。西妹背牛中学校出身。駒場一郎より1歳年上で、野球部に所属しており、四番ライトを務めている。甲子園予選大会で一郎の球が打たれた際、全力で返球し、野球部を勝利へと導いた功労者。しかし、全道大会では打球を取り損ね、結果敗北してしまう。野球部の甲子園行きの夢を断った原因が自分にある事を悔い、よりストイックに野球の練習に打ち込むようになった。大蝦夷農業高等学校卒業後は大学に進学する予定である。
太平 洋 (たいへい ひろし)
大蝦夷農業高等学校で園芸を教えている男性教師。いつも鼻の頭を真っ赤にしている。
豊原 栄介 (とよはら えいすけ)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍していた男子。別海中風連中学校出身。八軒勇吾より2歳年上で、ホルスタイン部に所属している。牛の体つきに異常な執着を示し、牛への愛はオタクの域に達しているが、非常に頭脳明晰。大学進学し、順調にエリート街道を突き進んでいる。
アレクサンドラ・ドロホヴィチ
ロシア人で、八軒慎吾の嫁。行き倒れていた慎吾を助けた縁で交際する事になり、結婚した。日本語が堪能で、一般常識のあるしっかり者。先祖にコサック騎兵がいたため馬が好きで、小さい頃から乗馬に慣れ親しんで育った。見た目は若く、ナイスバディの美女だが、慎吾よりも年上と思われる発言が目立つ。慎吾に惹かれたのは、彼がどんな物にも愛着を持って接するため、自身が年老いても大事にしてもらえそうだと思ったから。2013年12月10日、慎吾とのあいだに3580グラムの元気な女子、八軒麦を出産した。ロシア名物のボルシチが大好き。
南 正隆 (みなみ まさたか)
大蝦夷農業高等学校で牛舎を担当している男性教師。非常に大らかな性格だが、生真面目で、不正する人間には容赦しない。
御影 志乃 (みかげ しの)
御影アキの曽祖母。年齢は107歳。明治時代生まれの北海道開拓時代の生き証人。つねに和服姿で穏やかに過ごしているが、いざという時の貫禄はものすごいものがある。開拓時代の昔話をよくしているが、その内容はどれも悲惨で、聞き手はいつも耳をふさぎたくなってしまうほど。まじめな性格の八軒勇吾ならば安心できると、勇吾とアキの仲を応援している。
大森 大 (おおもり まさる)
大蝦夷農業高等学校の農業科学科に在籍している男子。柔道部に所属している。稲田真一郎と同学年で、食べる事が大好き。非常に大柄で強面の表情をしているが、根はまじめな農業男子で、ほしい食材があれば、実家から届いた食糧との物々交換を律儀に願い出て、ほしい食材を得ようとする。八軒勇吾が豚肉を買ってベーコンを作った事やピザ会を開く事を聞きつけるたび、食材の物々交換をしにやって来る。石窯を発見したのが勇吾である事から、勇吾を石窯担当者と決めつけている。大蝦夷農業高等学校卒業後は、大学へ進学した。足が非常にくさい。
元ぶちょー (もとぶちょー)
大川進英に飼われている黒豚。バークシャー種のメス豚で、イモを食べさせると肉質がよくなる。進英がまめに世話をするため、非常に人懐っこく育った。雑食でたくましいため、食肉とせず、御影アキの実家の空き農地で放牧豚として飼われる事になった。
清畠 (きよはた)
日高農業高等学校に在籍している女子。馬術部に所属しており、その腕前は御影アキに並ぶほどである。進学組で、大蝦夷畜産大学を志望して推薦入試を受験した。非常にさっぱりとした性格をしていて、暴走する沙流川をなだめるなど、姉御的な一面を見せる事が多い。
泉川 しげる (いずみかわ しげる)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。別海中風連中学校出身。将来は授精師免許を取得し、乳牛の自家繁殖をするのが夢。牛が好きな事からホルスタイン部に入部しようと考えていたが、ホルスタイン部員達の、牛の体型への異常な執着を目の当たりにし、恐怖に駆られて空手部へと入部先を変更した。
尾田 順 (おだ じゅん)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。大樹晩成中学校出身で、卓球部に所属している。将来は実家を継ぎ、肉牛を育てていこうと考えている。
駒場 二野 (こまば にの)
駒場一郎の妹。双子の妹、駒場三空と共に駒場牧場の家畜の世話を手伝っていた。心根の優しい性格をしており、自らが種を撒き、キツネよけの柵を設置してまで作った初物のトウモロコシを、自分が食べるよりも早く、家業を手伝ってくれた八軒勇吾にプレゼントした。実家の牧場が倒産したあとは、家畜の世話をしていた時間を勉強にあてて、奨学金制度を使って大学進学しようと頑張っている。いい大学を出ていい仕事に就き、母親の駒場菜実と一郎に楽をさせてあげるのが夢。主な移動手段は自転車である。
睦 信秀 (むつみ のぶひで)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍していた男子。士幌いこい中学校出身。八軒勇吾より2歳年上で、ホルスタイン部に所属している。牛の体つきに異常な執着を示し、牛への愛はオタクの域に達しているが、非常に頭脳明晰。大学進学し、順調にエリート街道を突き進んでいる。
近藤 豊 (こんどう ゆたか)
大蝦夷農業高等学校の酪農科学科に在籍している男子。ニセコ東山中学校出身で、バスケットボール部に所属している。目もとが隠れるくらい前髪を長く伸ばしている。豚がと殺されるのを生で見た事がある。
石山 健太 (いしやま けんた)
大蝦夷農業高等学校の農業土木工学科に在籍している男子。馬術部に所属している。占冠村上トマム中学校出身。もともと御影アキと同じ乗馬クラブに所属しており、2歳年上のアキの事を「アキねーちゃん」と呼び、懐いている。部ではアキに次ぐ馬術の腕の持ち主で、入部早々地域の馬術大会に出場し、3位の成績を収めた。
木野 広行 (きの ひろゆき)
大蝦夷農業高等学校の森林科学科に在籍している男子。音更大通中学校出身で、馬術部に所属している。優しい性格で、エゾノー祭準備に奮闘する八軒勇吾を手伝おうと、忙しい時間の合間を縫って、お手製障害物を作成した事がある。部活引退後も後輩を気遣い、早朝から馬の世話の手伝いに来ていた。
清川 弥介 (きよかわ やすけ)
大蝦夷農業高等学校で牛舎を担当している男性教師。子牛が産まれる際、八軒勇吾を手伝いに駆り出したが、産まれて来た子牛が雌だったため、大蝦夷農業高等学校で飼う事が決まり、血統書を作るために勇吾に名付け親になるよう勧めた。
冬島 勝市 (ふゆじま しょういち)
大蝦夷農業高等学校の学生寮の寮長を務めている男性。教壇には立たないが、教師と同じ目線で寮生達を見守っている。非常に物分かりがよく、駒場一郎が実家の離農をきっかけに大蝦夷農業高等学校を退学する事になった際、一郎に会いに行くために授業をサボる計画を立てていた八軒勇吾と御影アキを、正当な理由をつけて学校を休む入れ知恵をしたうえで送り出してあげた。
北町 みなみ (きたまち みなみ)
大蝦夷農業高等学校の酪農家学科に在籍している女子。士別西中学校出身で、テニス部に所属している。実家は羊の牧畜と畑をやっており、ジンギスカンはタレ漬け込み派である。
御影 大作 (みかげ だいさく)
御影アキの祖父。つねに人のよさそうな笑みを浮かべているが、根はきっちりとした商売人で、仕事をしない人間には非常に厳しく接する。八軒勇吾が自身の農場のアルバイトに来た時、仕事の働きに満足できず、勇吾の成長と腹いせを兼ねて、轢き殺した鹿の解体をやらせた。駒場一郎の実家である駒場牧場が倒産したのを契機に、息子の御影豪志に実家の農場の社長業を譲り、御影大作自身は会長になると宣言した。馬が好きで、農場の片隅に何頭か保有していたが、アキの大学進学資金を調達するために、ためらいなく馬を売る事を決意するなど、非常に家族思いの性格をしている。
轟 剛 (とどろき ごう)
大蝦夷農業高等学校で体育教師をしている男性。鍛え抜かれた筋肉質な肉体が自慢で、基本的にいつも上半身裸で過ごしている。体力に自信を持っており、エゾノー祭で馬術部がばんえい競馬を提案した際は、レース作りの重労働を率先して行った。エゾノー祭当日にも、人間ばんばとして馬と競争してそりを引き、大活躍した。
集団・組織
大蝦夷農業高等学校 (おおえぞのうぎょうこうとうがっこう)
北海道にある農業高校。酪農科学科は朝晩の実習があるため1年生の時は全寮制だが、2年生以降は下宿するなど、寮生活を送らなくてもいい。通称「エゾノー」と呼ばれており、近隣の大蝦夷工業高等学校とよく交流会をしている。校訓は勤労、協同、理不尽。農業科学科、酪農科学科、食品科学科、農業土木工学科、森林科学科に分かれており、全生徒は所属科のスペシャリストを目指す。一度入学すると、卒業までの3年間クラス替えはない。実習が特に多いのが酪農科学科で、理由は校内の農場で扱う家畜の世話を年中無休で行うためである。実習農地、実習農林を含めた学校の敷地面積は全国の高校で一番広く、一周が約20キロもある。高校ながら受精卵移植やクローン研究のできる設備もある。そのため、実践的な研究にいち早くかかわりたい獣医志望者が進学先に選ぶ事もある。敷地内農場では、出荷に向かない規格外野菜を無料配布している。家畜の飼い葉や燕麦も、すべて敷地内で自給自足している。
株式会社GINSAJI (かぶしきがいしゃぎんさじ)
八軒勇吾が大蝦夷農業高等学校在学中に起業した会社。代表取締役は大蝦夷農業高等学校OBの大川進英が務めており、発起人の勇吾は副社長を務めている。企業テーマは、寄せ集めのノーブランドの大蝦夷農業高等学校生達が、互いの強みを持ち寄ってどこにも負けないハイブランドを作り上げるというもの。社名は大蝦夷農業高等学校の食堂入り口に飾られた銀の匙に由来している。さまざまな事業展開を目論むが、最初の試みは、進英の保有する黒豚の元ぶちょーの放牧飼育をヒントに、放牧豚のブランドを立ち上げようというものになった。動物福祉にも力を入れた経営を目指している。
大蝦夷屋台連合 (おおえぞやたいれんごう)
大蝦夷の地を中心に祭開催地域で屋台を出している集団。大蝦夷農業高等学校の生徒達を特に危険視しており、毎年、その喰いっぷりに負けないよう量と質で対抗するが食い倒れさせる事ができず、惨敗続きである。たこ焼きや焼きそば、お好み焼きを中心に炭水化物ばかりを根こそぎ食いつぶしていく大蝦夷農業高等学校の生徒達を、ほかの客の事を考えないと非難しつつも、毎年彼らの胃袋に挑戦する事を楽しみにしている節がある。
場所
ギガファーム
北海道の酪農家4軒が共同経営する巨大ファーム。従業員は十数名ほど。800頭もの乳牛を保有しているが、非常にシステマチックな生産体制を取っており、毎日の乳しぼりに回転式搾乳設備を導入したりと、牛乳生産工場のようなシビアさがある。伝染病予防のために牛舎に入る際に靴を念入りに消毒するなど、共同経営ならではの危機管理意識が徹底されている。
大蝦夷畜産大学 (おおえぞちくさんだいがく)
北海道にある公立大学。大蝦夷農業高等学校に隣接しており、と畜施設を備えている。全国的にも馬術部が強く、御影アキが入学を望んでいた。地元では「畜大」と呼ばれ、親しまれている。
大蝦夷神社 (おおえぞじんじゃ)
大蝦夷農業高等学校の近くにある、付近で一番大きな神社。絵馬が輓馬(ばんば)の形をしているのが名物で、絵馬は大人の手のひら同等の大きさである。
イベント・出来事
農工戦 (のうこうせん)
大蝦夷農業高等学校と大蝦夷工業高等学校合同の交流体育祭。年に1度開催される。男子は騎馬戦などの体育会系丸出しの種目に取り組み、女子はソフトボールやバドミントンなどの競技を、まったりとこなすのが通例。種目終了後にはジンギスカンパーティが開催され、生徒達にとってのメインイベントは、むしろジンギスカンパーティの方である。
エゾノー祭 (えぞのーさい)
大蝦夷農業高等学校で毎年秋に開催している学園祭。正式名称は「大蝦夷農業高等学校祭」で、クラスやクラブで出し物をする。さまざまな学科がある事を強みに、それぞれの個性を活かしたコラボレーション屋台を出している。なお、屋台はほとんどが食品販売の屋台となる。
秋季大会 (しゅうきたいかい)
高校や大学の馬術部、および乗馬クラブ所属の一般人も参加する大規模な馬術大会。大蝦夷農業高等学校の馬術部1年生にとっての、実質的な馬術デビュー戦となる大会でもある。色々な気質の馬が集まる事からも、特に規律を守った道徳的行動が推奨される。会場はいずれかの乗馬クラブになる事が一般的。競技は簡単な障害馬術から始まり、徐々に難易度の高い競技へと進んでいく。大会終了後には、ジンギスカン会が催される。
その他キーワード
石窯 (いしがま)
大蝦夷農業高等学校のごみ捨て場に埋まっていた石窯。長い間放置されていたが、八軒勇吾により発見されて以降、大蝦夷農業高等学校で育てられた食材を使ったピザ、パン、肉を焼くなど、オーブン替わりに頻繁に使用されるようになった。公にはされていないが、相当昔に校長が趣味で造った窯である。
大川式移動石窯 (おおかわしきいどういしがま)
大川進英が開発した移動式の石窯。非常にコンパクトな設計のため、屋台の中にも置く事ができる優れもの。その利便性から販売も視野に入れており、株式会社GINSAJIの貴重な収入源となる可能性をおおいに秘めている。
アニメ
銀の匙 Silver Spoon(後期)
大蝦夷農業高等学校の夏休みが終わり、2学期になった。秋の大会に向け八軒勇吾達は乗馬の練習に精を出すが、馬との信頼関係が築けずなかなか上達しない。馬術部は高校祭でばん馬レースをやることになり、八軒勇吾は... 関連ページ:銀の匙 Silver Spoon(後期)
銀の匙 Silver Spoon
有名進学校での競争に疲れ、父親との確執を避けるため、全寮制というだけで大蝦夷農業高等学校に入学した八軒勇吾。生まれて初めて身体を酷使する生活に挫けそうになるが、先生、先輩、同級生、中でも想いを寄せる御... 関連ページ:銀の匙 Silver Spoon
書誌情報
銀の匙 Silver Spoon 全15巻 小学館〈少年サンデーコミックス〉
15 卒業記念品・スプーン付き特別版
(2020-02-18発行、 978-4099430641)
第1巻
(2011-07-15発行、 978-4091231802)
第2巻
(2011-12-14発行、 978-4091234278)
第3巻
(2012-04-18発行、 978-4091236531)
第4巻
(2012-07-18発行、 978-4091237729)
第5巻
(2012-10-18発行、 978-4091238863)
第6巻
(2013-01-18発行、 978-4091241696)
第7巻
(2013-04-18発行、 978-4091242853)
第8巻
(2013-07-11発行、 978-4091243461)
第9巻
(2013-10-18発行、 978-4091244741)
第10巻
(2014-01-08発行、 978-4091245489)
第11巻
(2014-03-05発行、 978-4091245748)
第12巻
(2014-08-18発行、 978-4091250889)
第13巻
(2015-06-18発行、 978-4091260598)
第14巻
(2017-08-18発行、 978-4091277206)
第15巻
(2020-02-18発行、 978-4091295491)