仕事も恋もすべて捨てた28歳のOLが自分を見つめ直す、人生リセットストーリー。主人公の大島凪は、常に場の空気を読んで目立たないように振る舞ってきた。ある日、恋人の我聞慎二が体目当てで凪と付き合っていると同僚に話しているのを聞き、ショックのあまり過呼吸で倒れてしまう。これがきっかけとなって退職。人間関係を断捨離して郊外の安アパートへ引っ越し、自分を見つめ直す生活を始める。2019年実写ドラマ化。
本作のタイトルは、人生をリセットしようと決意した凪が、無職期間=「お暇」中に自分らしさを探していくストーリーから付けられている。幼い頃から母親に操られるように厳しく育てられたことが原因で、他人に合わせようと必死に生きてきた凪。他人に見下されたり利用されたりしてきたが、引越し先の隣人である安良城ゴン(あらしろ ごん)やハローワークで知り合った坂本龍子など、人生再スタート後に出会った人たちとの交流を経て、凪を忘れられず追いかけてきた慎二にも自分の気持ちをはっきりと言えるようになる。彼女の葛藤や成長は、自分らしく生きることの難しさを感じている多くの人に勇気を与えてくれる。
ぶらぶらとした毎日を過ごす女性のモラトリアム期間を描いた物語。大学を卒業後、定職に就かずに実家で暮らしている瞳子は、趣味や考え方の合わない家族との距離の取り方がわからずにいる。ある日、食事と読書を同時に行っていたことを母親に怒られ、口論になる。
本作のタイトルとなっている主人公の瞳子は、読書や音楽、美しい食器など、好きなものや趣味がはっきりとしている。そんな彼女の生活は、同じ趣味を持つ友人と遊んだり、布団の周りに本を扇形に並べて読書をしたり、7万円の中国茶器が欲しくてバイトをしたり、好きなものに満たされた自由なものだ。その一方で、彼女は家族との付き合い方や社会でやりたいことがわからず、日々の出来事に目を凝らして自分の感情と向き合っている。著者である吉野朔実の実体験を織り交ぜながら、瞳子の何気ない日常と、彼女の繊細な感性が叙情的に描かれている作品だ。
元風俗嬢の女性を中心に、彼女と周りの人々が織りなす日常を描いたヒューマンドラマ作品。主人公のちひろは、夜の街を離れて海辺の弁当屋「のこのこ弁当」で働いている。ある日、小学生からいたずらされていた浮浪者を助けたちひろは、彼を師匠と呼んで慕うようになる。
本作のタイトルとなっている「ちひろ」は、本名ではなく源氏名だ。風俗で働いていたときの名前のまま弁当屋で働く彼女は、元風俗嬢であることを隠すどころか、自分の「元風俗嬢でした」という挨拶に対して、人々がうっかり見せてしまう素顔を楽しんでいる。そんな飄々をしたちひろのもとには、人には言えない悩みを抱えた人たちがやってくる。人生を素直に楽しむ彼女と出会ったことで、複雑な生活を送る人たちの見る景色は変わっていくことになる。ちょっとミステリアスで、したたかなちひろの生き方に、作中の登場人物だけでなく読者も勇気づけられる作品だ。
心に傷を負ったOLが、それを忘れるために美食を追い求めるグルメ漫画。文芸誌の編集者である佐々木幸子は、人一倍真面目な性格で、恋も仕事も完璧な人生を送ってきた。しかし、自身の結婚式の最中に、結婚相手である俊吾が謝罪のメッセージを残して失踪してしまう。2018年実写ドラマ化。
本作のタイトルは、美味しいものを食べたときに得る「忘却の瞬間」を主人公の幸子が求めることから付けられている。婚約者に逃げられた幸子は、定食屋のサバ味噌定食のあまりの美味しさに救われる。それがきっかけとなり、これまで食事に興味がなかったことが嘘のように美食の道を歩むようになる。「失踪した婚約者を忘れる一瞬のために食事を楽しむ」と言うと不健康に聞こえるが、彼女の食べっぷりと飲みっぷりは、つらい出来事を乗り越えようとする「生きる力」そのもの。食事に没頭し、救われながら、たくましく生き抜く幸子の姿が魅力的だ。
東京の下町にある老舗質屋を舞台に、宝石と人が織りなすドラマを描いた作品。ある夜、質屋の「倉田屋」に子どもを質入れしたいという女性がやって来る。その子どもは名家「北上家」の嫡男である北上顕定(きたがみ あきさだ)だった。質屋の主人は、3年という期限を過ぎたら孫娘の倉田志のぶと婚約させることを条件に、顕定の質入れを受け入れる。
本作のタイトルに名前がある主人公の志のぶは、宝石が備える気を感じる特殊な力を持つ女子高生。倉田屋では宝石の鑑定を任されており、持ち込まれる宝石を見ると、持ち主の感情や、その人に降りかかる出来事が漠然とわかってしまう。そしてもうひとりの主人公が、かつて質入れされて倉田家で育てられた顕定だ。成長した彼は倉田屋を出て高級ジュエリー店のやり手外商担当として働いているが、自らの鑑定眼が婚約者でもある志のぶの不思議な力に届かないことに屈折した想いを抱いている。店ではスキのない宝石商として活躍するも、志のぶにはありのままの姿を見せる顕定と、そんな彼が気になって首を突っ込む志のぶのコミカルなやり取りが繰り広げられる。