鑑定業を営む女性が、鑑定品を巡る怪事件に挑む「人の死なないミステリ」漫画。飯田橋にある「万能鑑定士Q」を営む凜田莉子(りんだりこ)は、23歳の若さにして膨大な知識と類稀なる観察眼であらゆる物事の真実を見抜く腕利きの鑑定士だ。ある日、莉子は「週刊角川」の記者である小笠原悠斗(ゆうと)からガードレールに大量に貼られた力士シールの鑑定を依頼される。この出会いがきっかけで悠斗と莉子は難事件に次々と巻き込まれていく。2014年に実写映画化。
本作にはさまざまな贋作が登場する。19世紀に制作されたと偽装された洋画といった、人の目を欺くための工夫が施されたものなど。そしてまた、贋作が世に出るためには贋作を扱う者がいなければならない。それは「万能贋作者」雨森華蓮(あまもりかれん)だ。華蓮は営利目的のためにあらゆる贋作を制作し売りさばく詐欺師の一面を持つ。莉子に詐欺の片棒を担がせるため、自分の作った贋作を鑑定させ真贋を見極めさせたり、屋敷に連れ込み婦人たちの前で次々と鑑定を強いたり、鑑定と関係のないクイズを仕掛けたりして、莉子を振り回す。万能鑑定士である莉子と、万能贋作者を標榜する華蓮。敵対する2人の関係性にも要注目だ。
復讐のため美術界に足を踏み入れた男が、さまざまな事件に巻き込まれるアート&アクション漫画。主人公の柳宗厳ことリュウ・ソーゲンは、ロンドン屈指のオークション・ハウスである「エドモンド・オリバー社」のM・D(マネージメントディレクター)として辣腕を振るっていた。ある日、ロンドンのホテルに男がウィーン美術史博物館から持ち出したというフェルメールの絵画と爆弾を持って立てこもる。呼び出されたリュウは絵画の鑑定を始めるが、贋作と見抜かれて、追い詰められた男は自殺した。リュウはオリバー社を離れ、とある目的のために旅に出る。
リュウはM・Dとしてだけでなく、伝説の贋作家であるハンス・ファン・メーヘレンの息子に贋作技術を仕込まれており、贋作家としてのスキルも超一流である。立てこもりの男が持っていたフェルメールの絵画を贋作と見抜き、「贋作でも絵は生命を持っている。あなたは絵を殺した」と言い放ち、男を自殺に追い込むなど冷徹極まりない。しかし、その冷徹さはリュウにある思惑がもたらしたものだった。ギャングのように日頃サングラスをしているが、絵画の真贋を見極めるためであり、「鑑定人としての眼を守るもの」と豪語しているリュウには、美術への強い思いと贋作への愛がある。また、幼少時、両親を殺された復讐を果たす旅の中でリュウは美術界の闇の敵から次々と命を狙われるが、身体的能力も高く、アクションシーンも見どころだ。
贋作を扱う画商が取引や人との出会いを通じて、美とは何かを追究するヒューマンドラマ。主人公・藤田玲司は東京で贋作だけを取り扱う「ギャラリーフェイク」という画廊を経営する画商だ。その裏で、闇市場から仕入れた真作や盗品を高額で売りつけるなど、美術界では「ハナつまみ者のインチキ画商」として嫌われていた。藤田はある出来事がきっかけでサラ・ハリファという女性を秘書として雇い、美を求め世界中を飛び回り共に行動することになる。2005年にテレビアニメ化。
藤田は画廊経営や取引を行うだけでなく、アトリエで贋作の制作や修復を行い、その腕前は一流である。というのも、藤田はかつてメトロポリタン美術館で腕利きのキュレーター(学芸員)だった過去を持ち、とある事件で美術館を追われ画商になった現在も、美への情熱を失っていないからだ。作品の真贋を見極める目に加え、購買者たちの審美眼や人生に共鳴することにも長けており、価値を見抜けない要人には贋作を高額で売りつけたりする一方で、真の価値がわかる客には格安で新作を売るなど人情家の一面もある。贋作も立派な美術品であり、商売道具であるということがひしひしと伝わってくる。絵画がきっかけで知り合ったサラとのドタバタ劇や恋の行方も、エッセンスとして欠かせない。
浪人生と画商がタッグを組み、真の「モナ・リザ」を探すべく奮闘するアート・バディ漫画。主人公・カワセミは藝大志望の浪人生だが、独創性・作家性のなさからとうとう4浪生になってしまう。実家の工房の経営も逼迫しており、これが潮時と諦めたカワセミは受験に費やした大量の模写を破棄しようとしていた。そこにかねてからカワセミの模写の才能を見抜いていたフリーの画商であるメル・ゴードンが通りがかり、カワセミにビジネスとしての贋作作りを持ちかける。
カワセミの真の才能は、贋作者として発揮される技術と審美眼だ。カワセミは数多の作家の絵画を模写していくうちに、絵の世界に入り込み、その絵画が描かれた背景を読み取り、画法の技術を盗み、作者を憑依させるようにして作品を完成させる技法をあみ出す。その贋作は作者でさえも騙すほどの出来だったが、贋作は本物の絵画とすり替えるために行われる。その罪悪感に怯えるカワセミに、メルは報酬の代わりにカワセミの工房への発注を定期的に行うことで、ビジネスパートナーとなる。メルの真の目的は、世界中の美術館に展示されている贋作の「モナ・リザ」から、唯一の本物を見つけることであった。半信半疑で贋作作りに精を出すカワセミであったが、徐々に己の持つ才能に目覚めていくさまにも引き込まれる。
女子高生と画商の二足のわらじを履く少女が、絵画を通じて美術にまつわる愛憎劇に巻き込まれるさまを描いたアートミステリー漫画。主人公・瀬名生燁姫(せのおあきひ)は、クラスでも部活でも地味で目立たない女子高生だ。しかし、燁姫の裏の顔は銀座に「ギャラリー燁姫」を構える凄腕画商だった。燁姫が画廊を経営する真の目的は、父が生前唯一描いたとされる自身の肖像画を探すことであり、婚約者の周防鷹士(すおうたかし)らの助けを借りて肖像画探しに奔走する。
燁姫は普段は髪の毛を二つ結びにし、メガネをかけた冴えない印象の女子高生だ。その正体は大金持ちの画商であり、画廊に現れる際には黒髪ロングヘアの超絶美人に変貌するため正体を知る者はごくわずかである。本作で扱われる贋作は、燁姫と登場人物を繋ぐツールとして描かれている。燁姫は画商としての才覚もあるが、優れた贋作師としての一面も持つ。ゆえに贋作を作る者たちへの共感が深く、贋作作りの少年・高柳蒼(そう)・ウィリアムをアシスタントとして採用したり、贋作師と生活していた身寄りのない七瀬あゆみを救い、画廊のアルバイトとして雇うなど献身的だ。贋作を巡る事件に巻き込まれるなど、ミステリー漫画としても楽しめる作品である。