これは露伴がイタリアにある教会の「懺悔室」で体験した出来事だ。懺悔室とは、信者が神父へ自らの犯した過ちを告白するための小部屋で、小窓を挟んで信者が入る部屋と神父が入る部屋とに分かれている。イタリアを訪れた露伴が懺悔室に入室したところ、小窓の向かい側から一人の男が懺悔を始めた。露伴は自分が誤って神父の入る部屋に入室してしまったことに気付いたが、「体験はリアリティを作品に生む」と考え、神父のフリをして男の話を聞くことに。その男の告白は、工場で下働きをしていた若い頃、浮浪者に対して非道な行いをして死なせてしまったところからスタートする。
男は死んだ浮浪者の霊によって「幸せの絶頂の時に必ずお前を迎えに来る」と告げられた。その後、男は不気味なほど良いことが続き、妻子とともに豊かな生活を送っていたが、常に浮浪者の霊に言われた言葉が頭の片隅にあった。そんなある日、男が娘との散歩中に「幸せ」を感じた瞬間、浮浪者の霊が娘に乗り移って姿を現し、男は首を刎ねられてしまう。
この話を聞いた露伴は、殺されたはずの男がなぜ懺悔室にいるのかと訝しむが、男の本当の懺悔とは「召使いを自分と同じ顔に整形させ、霊に命を狙われている自分の身代わりにしたこと」だった。召使いになりすましたことで難を逃れた男は、今度は身代わりとなった召使いの霊に「娘が幸せの絶頂のときに迎えに来る」と告げられただけでなく、不正に気付いた浮浪者の霊から四六時中見張られることになったのだという。露伴はこの出来事を「恐怖のエピソード」として語りながらも、「また彼に会いに取材に来てみるのもいいかもしれない」と考えている。恐れ知らずの露伴らしさが表れたエピソードだ。
露伴が漫画編集者の泉京香とともに訪れた「富豪村」での出来事。住んだ者が必ず富豪になるという「富豪村」の土地が格安で売りに出されていることを知り、なんとか購入しようと意気込む京香に誘われた露伴は漫画の取材を兼ねて同行することに。この村では異常なまでにマナーが重んじられており、マナーを完璧に守ることができた者のみ土地の主に会うことができるという。京香と露伴は案内人の一究(いっきゅう)に客室へと通されるが、注意していたにも関わらずその時点で京香は3つのマナー違反をしてしまい、すぐに帰るように促されてしまう。京香は再トライを申し出るが、その途端京香が道中に見つけて連れて来た小鳥が目の前で息絶え、さらに京香の母親と婚約者が交通事故で亡くなったとの連絡が入る。立て続けに起こる異常な事態は、「マナー違反者は違反した分だけ大切なものを失う」という土地の掟によるものだった。露伴は「ヘブンズ・ドアー」を使って一究の心を読むが、断りなく他人の心を読むスタンド能力を「相手への敬意に欠けるマナー違反」と指摘され、その代償として今度は京香が心臓発作を起こしてしまう。京香を許すよう頼みこむ露伴に対して、一究は「マナーに寛容はない」と、無情にも再トライするか尋ねるのみ。再びマナーを守れるかの試験を受ける露伴だったが、この時すでに彼は「ヘブンズ・ドアー」の能力で一究の心である「本」に、「畳の縁が見えなくなる」と書き込んでいた。露伴は無意識に畳の縁を踏んでしまっていた一究に、マナー違反を指摘。「ひとつ得るか、ひとつ失うか」の掟に従い、京香の母親と婚約者、小鳥、そして京香を復活させ、無事富豪村から脱出することに成功するのだった。
露伴が取材した、妖怪伝説の残る村でのエピソード。露伴はその山林の中にある六壁坂村へ訪れた際に、大郷楠宝子(おおさと なおこ)という女性と出会い、情報収集のために「ヘブンズ・ドアー」を使用したところ、偶然にも妖怪の存在を確認することに成功した。露伴が読んだ彼女の記憶によると、彼女はかつて恋人の釜房郡平(かまふさ ぐんぺい)を口論の末に死なせてしまった過去がある。しかし、郡平の体はなぜか腐敗することもなく血を流し続け、彼女は毎日欠かさず死体の世話をしなければならない状況に陥っていた。
この郡平こそが、子孫を残すことだけを目的とした妖怪「六壁坂」。ターゲットの目の前で事故を装って死亡し、死体の世話をさせ続けることで、人間の愛と心の弱点に取り憑いて情を抱かせる特性を持っている。
郡平の正体を知ろうと大郷家に近づく露伴であったが、そこで出会った少女が目の前で転んで死んでしまう。露伴はこの少女が楠宝子と郡平の死体の間にできた子であり、郡平と同じく六壁坂の特性を持っていることを悟り、取り憑かれる前に「ヘブンズ・ドアー」で自分との出会いを取り消すことで事なきを得た。
この妖怪伝説を調査するために、露伴は山林を6つ買い、結果的に破産してしまったが、六壁坂の存在は破産してでも取材する価値があったと考えている。
露伴が巻き込まれた、新種の昆虫が原因となった事件。露伴はある日、駅構内で歩きスマホをする人が次々とぶつかってくることに違和感を覚える。ホームでぶつかりそうになった肥満の男を問いただしていたそのとき、別の歩きスマホをする人に激突されて露伴は線路に落下してしまう。自分を助けようとしてくれる肥満の男を信用して良いか露伴が思案しているうちに、彼も別の人に激突され線路へ転落。「ヘブンズ・ドアー」によって肥満の男が敵ではないことを確認した露伴は、男をホームへ上げようとするが、今度はホームにいる全員が次々と線路へ転落してきてしまう。
後に判明したこの奇妙な事件の原因は、電子機器の回路に住み着く新種の昆虫「ロレンチーニャ」だった。ロレンチーニャは電磁波をエサとして繁殖し、心臓が弱った生物を探知して集まる習性がある。露伴が巻き込まれたこの事件は、ロレンチーニャに操られた人々が心臓に持病のある肥満の男を目指し向かっていたことで起きたのだった。結果、大量のロレンチーニャに生命電気を吸いつくされた肥満の男は死亡。露伴は最初に手を差し伸べてくれた彼を疑い、助けてあげられなかったことを後悔するのだった。
露伴が漫画家の仕事道具である手を骨折するに至った、あるスポーツジムでのエピソード。ある日、露伴はジムで出会った俳優志望の橋本陽馬(はしもと ようま)と、ランニングマシンを用いた勝負をする。勝負内容は、マシンの最高速度である時速25kmに先に達した方が、両者の間に置かれた1台のリモコンを奪取して停止ボタンを押すというもの。一度目はリモコンを取りやすくするためにちょっとした策略を行った露伴が勝利するも、後日再戦した際、陽馬は前回の勝負が公正さに欠いていたと指摘。さらに陽馬はランニングマシンの背後にある窓をダンベルで破壊する、中断するためリモコンを取ろうとした露伴の指を折るなど、勝負への異様な執着を見せる。恐怖を覚えた露伴が「ヘブンズ・ドアー」で確認したところ、彼はこれまでもトレーニングの邪魔をした人を次々と殺害していたことが判明。このままでは殺されると悟った露伴が「停止ボタンは露伴のマシンへ向けて押す」と書き込んだ結果、陽馬は勝負に勝ったものの、自身のマシンを止めることができずに窓の外へと転落していった。だが露伴は窓の外を覗き込んだら陽馬に殺されると直感し、そのまま逃げるようにジムを去った。
勝負の最中、陽馬の体に翼の形が浮き出て見えたことから、露伴は陽馬が筋肉の神「ヘルメス」に取り憑かれたと考えている。普段はどんな傲慢なことをしても悪びれることのない露伴だが、この話では「全ての原因は自分の性格に非がある」と珍しく反省していた。