レジェンド漫画家・石ノ森章太郎作品特集
54 Pt.

『仮面ライダー』『サイボーグ009』『人造人間キカイダー』など、数々の名作を生みだし、変身ヒーロー・戦隊漫画のパイオニアとして知られるレジェンド漫画家・石ノ森章太郎。しかし、彼の名作はヒーローものだけに留まらない。バラエティ豊かな石ノ森作品をピックアップして紹介しよう。

『仮面ライダー』シリーズの記念すべき第一作目。テレビシリーズの放送前に連載が始まったことから、原作と呼ばれることが多いが、実際はテレビシリーズの企画を元に製作されたもの。もっとも、石ノ森自身が企画段階から深く関わっているため、彼がテレビ版『仮面ライダー』の原作者である事実に変わりはない。なお、ストーリー展開や細部の設定など、漫画版とテレビ版では異なる部分もかなりある。本作の一号、二号から始まった仮面ライダーたちは、40年以上もの長きに渡り子どもたちのヒーローであり続け、テレビに登場した人数は既に100人を超えている。

ストーリーそのものはありきたりだが、本作では興味深い試みが行われている。物語の最終回を読者に描いて投稿させ、最優秀作をそのまま単行本に掲載したのだ。また、本作の主人公である風田サブロウは、のちに同じく石ノ森作品の『イナズマン』の主人公としても登場する。ただし設定が若干異なるため、完全な同一人物とは言い難い。いわゆる「スターシステム」のはしりといったところだろう。本作は『秘密戦隊ゴレンジャー』を企画する際の参考ともなっており、石ノ森作品を語る上で、重要なキーのひとつといえる。

縄付きの十手を用いた捕縄術の使い手・佐武。盲目ながら鋭敏な嗅覚と聴覚を持ち、「心は千の目を持つ」が口癖で、碁石を用いた石つぶてと仕込み杖を駆使した居合い術の達人・松の市。個性豊かなコンビの活躍ぶりは正に痛快！　物語のクライマックスとなるアクションシーンの斬れ味は、『仮面ライダー』『サイボーグ009』などのヒーロー漫画と較べても、まったく見劣りしない。謎解きに関しても凝った仕掛けが随所に盛り込まれており、ミステリー作品としての読み応えも十分。数ある石ノ森作品の中でも、指折りの傑作と言える内容だ。

本作は、当時としてはかなり画期的かつ実験的な内容の作品だ。台詞などの活字を極限まで削り、キャラクターの表情や巧みなコマ割り、そして繊細なタッチで描かれた美しい絵の力によってストーリーを構成している。小説を読む際、読者が自分自身の想像力を働かせてその情景を思い描くように、漫画の絵から登場人物の感情や心理を想像させる。読者によって感じるものが大きく異なる作品といえるだろう。漫画表現の可能性を大きく広げたという意味で、石ノ森作品の中でも特異な位置にある一本だ。

本作は、石ノ森章太郎が高校生の頃から温めていたアイディアを元に描かれた短編漫画。当時の石ノ森は上京5、6年の二十代。トキワ荘で同士たちと鎬を削る青春ど真ん中。「好きな作品だけ描こう」と、思っていた彼が、“少女ものらしくない少女もの”を意識して描いた作品だ。しかも、高校生時代のメモでは大長編ネタだったものを、煮詰めて短編に仕上げた。石ノ森自身が「青春の一作」と評するように、作者の望郷の想い、都会への憧憬、そして田舎ならではの独特の空気感などが、瑞々しい感性によって描かれている。