ボクサーを目指す5才児の堀口元気が、通りすがりの人にケンカを売るなどして日々腕前を上げていくスポ根漫画。元気は子供預かり所となっている接骨院で暮らしながら、ボクサーの父親を目指して自分より大きい人間を相手にケンカを売っていく。ある日大柄の男に投げられて大怪我を負い、預かり所の主人に「次ケンカしたら追い出す」と言われてもなお、元気は通りすがりの人への挑戦をやめなかった。1980年にテレビアニメが放送された。
ボクシング漫画の主人公が物語の序盤でケンカに明け暮れていることは珍しくないものの、本作では5才児がそのような日々を送っているというから驚きだ。父への憧れを胸に自分なりの方法でストイックに研鑽を積んでいき、誰に叱られようが大怪我をしようが挑戦を続けていく元気の姿に、思わず「がんばれ」と声をかけたくなってしまう。また元気に限らず登場するボクサー全員に濃密な人生ドラマがあり、試合のシーンも現実のルールを遵守しながら迫力満点に描かれているため、『あしたのジョー』にも引けを取らないボクシング漫画の名作として今なお語り継がれている。友情・努力・勝利を地で行く王道の主人公が好きな人なら、ボクシングに興味がなくとも間違いなく楽しめる一作だろう。
秀一をリーダーとする小学校の落ちこぼれグループが、周囲にバカにされたり様々な失敗を重ねながらも苦手を克服していくギャグ漫画。ある日先生が生徒を学力に応じてグループ分けすると、勉強ができない秀一たちのグループは嘲笑の的となってしまう。先生は「1人でできないものも5人ならできる」という考えでグループを作ったといい、それを聞いた秀一たちは気を取り直し、まずはその日の宿題からみんなで力を合わせ片付けることにした。
グループは気が強く喧嘩っ早い秀一と紅一点でオマセなアケミ、そのほか3人のお気楽系男子で構成されており、小学生ならではのおバカで微笑ましいやりとりが昔を思い出させてくれる。ともするとお調子者同士でバカをやるだけの平坦なギャグ漫画を想像されるかも知れないが、本作においてはアケミの存在が良いスパイスになっており、色気を駆使して同級生どころか大人までも翻弄していく姿はドンベ(底辺)らしからぬ末恐ろしさを味わわせてくれる。話自体は仲間と協力して困難に立ち向かう典型的な少年漫画である一方、その立ち向かうべき困難が勉強や家庭問題などかなり現実的なものなので、学校の先生や子育て中の人が読めば実際の教育に活かせる機会もあるだろう。
北原小学校に転校してきた大地翔(だいちかける)が、同校の弱小サッカー部「キッカーズ」を全国大会へと導くスポ根漫画。翔が入部したキッカーズは直近の試合で21点差もの大敗を喫している弱小サッカー部で、部員たちはまともに練習もしない有様だった。次の試合が未定であることを聞いた翔は早くサッカーをやりたい一心から、地区内の強豪校である南陽SCを1人で訪ね試合を申し込む。1986年にテレビアニメが放送された。
本作は努力や成長といったステップを当たり前のように踏んでいく従来のスポ根漫画とは異なり、チーム全体がサッカーに対して「全く情熱がない」という状態から始まる。何をがんばるにもまずは「やる気」が必要であり、本作はキッカーズがサッカーへ情熱を注ぐようになるまでの過程が丁寧に描かれているので、「がんばれ」というワードに忌避感を覚える人でも気軽に読み進められるだろう。なお本格的にサッカーを始めた後のキッカーズは、試合や練習、人間ドラマを通じて堅実に成長していく。また『キャプテン翼』が流行っていた時期のサッカー漫画としては珍しく超人的なプレーが一切ないので、現実にスポーツをしている人にとっては特に親しみやすい一冊となっている。
異世界で貴族令嬢に転生した元日本人のネマが、神様にもらった「動物に愛される能力」で日々ファンタジックな動物たちと触れ合っていく冒険譚。ネマの前世・秋津みどりは自宅で過労死してしまった所で神様に遭遇し、異世界で人類の存亡を決めるという重責と引き換えに「動物に愛される能力」を授かる。その後、オスフェ公爵家にてネマとしての人生がスタートし、貴族として各地に出向するなかで聖獣やドラゴンなど様々な動物を「もふもふなでなで」していく。
異世界転生系の作品というとどうしても「主人公最強」のイメージが先行しがちだが、ネマの場合は動物に愛されるだけであり、そもそも戦闘に関わらない。公爵家というそれなりに恵まれた環境で暮らせているものの、仕事の手伝いや諸々の勉強など貴族身分ならではの多忙な日々を過ごしており、そうしたファンタジーらしからぬ「地道ながんばり」が読者の声援を誘う。また5才の少女が動物を愛でる姿はシンプルに可愛らしく、動物自体もリアルかつキュートに描かれているため、萌えや癒やしを求めている人でも楽しめる作風になっている。主人公が序盤から万能なのはNG、かといって努力と挑戦の繰り返しで展開が暑苦しくなるのも嫌だ……本作はそんなワガママに最大限応えてくれるだろう。
話ごとに入れ替わりで登場する個性豊かな人物たちが、各々シュールなやり取りを繰り広げる4コマギャグ漫画。主な話の内容としては「ミネ子とマモル」の恋模様、「思春期探偵」のヘンテコ推理、「モンキー先生」の猿ならではのギャグ、「さーや」による姉へのウザ絡みなどが挙げられる。そのほか数えきれないほどのキャラクターが登場するものの、いずれの話も4コマ完結型なためストーリー性は特になく、何巻の何話からでも気軽に読める構成になっている。
まず目を引くのが謎のタイトルだが、これは本作が読み切り連載の予定だったことから作者がテキトーにつけた名前である。「疑獄」とは有罪・無罪がはっきりしない事件を指し、一応「思春期探偵」という事件に関わるキャラが時々登場するものの、「酢めし疑獄」という言葉にこれといった意味はない。「がんばれ」も同様に無意味なワードであり、本作は登場人物のがんばりを手本にするというよりは、もともと仕事や勉強をがんばっている読者が息抜きとして読むのに向いている。またキャラが話替わりでストーリー性もないからこそ様々なパターンのギャグを楽しめるので、漫画やライトノベルなどの創作活動をしている人にはギャグの参考文献としてもおすすめだ。