【漫画で見る世の中の動向】～ファッション編～16 Pt.

1972年～1973年に『漫画アクション』で連載された、当時まだ一般的ではなかった婚前の同棲生活を続ける恋人たちの明暗を叙情的なタッチで描いた作品。ヒロイン・今日子の服装は、まさに70's女性ファッションというべきリアルなもの。体にぴったりとした薄いセーターや、襟の少し大きいYシャツに、丈の短いVネックのセーターやベストを合わせたコーデが印象的です。この頃の流行は一周回って21世紀にもリバイバルされているので、今見ても古びた印象はさほど受けないかもしれません。

バブル真っ只中、1988年に『ビッグコミックスピリッツ』で連載された青年群像恋愛漫画。ふたりのヒロイン、赤名リカと関口さとみの服装を見比べると、性格の違いがファッションに反映されているのがよくわかります。アフリカ育ちの自由な気質で主人公を振り回すリカはボブカットで派手めなシャツにミニの動きやすそうな服装、リカに比べれば内気で優柔不断なさとみはふんわりとしたロングヘアーでタートルネックにパールのネックレス、ロングスカートといった服装。ただいずれもスカートはハイウエスト気味で上着を入れているのが時代を感じます。

1984年から『プチフラワー』で6年間連載された、お寺の跡取り息子でありながら東京でロックバンドをやっている陽平と、その友達以上恋人未満な関係の真朱を中心とした群像劇。中盤以降の禅寺修行パートが印象的な本作ですが、ファッション的な観点で注目すべきはロックバンドパート。実在のライブハウスをモデルにした、当時のカルチャー最先端がガッチリ描かれています。ヒロイン・真朱の服装も、マドンナなど80'sのファッションアイコンがプロモーションで着ていた服などが参考にされていることが多いです。ビッグショルダーでシルエット大き目のスーツから、ナゴムギャル的なポップな服装まで、色とりどりなファッションショーが楽しめます。しかし読了後一番着てみたくなってしまうのは、墨染めの衣かもしれません。

1995年に『FEEL YOUNG』で連載された、理想の恋人を追い求めるヒロイン重田加代子（シゲカヨ）のドタバタ恋愛劇。98年からファッションエッセイ『美人画報』を同時連載することになる安野モヨコ先生の、リアルでオシャレなファッション描写は当時の女性読者から親近感と憧れを持って支持されました。愛を求めて嵐のように駆け回るシゲカヨと、その親友で大人な性格の福永ヒロミことフクちゃんの服装は非常に対照的。薄くて動きやすい、言ってしまえばペラペラした生地の服装を好むシゲカヨに対して、フクちゃんの着ている服はしっかりした厚みのある生地のものばかり。あけっぴろげなシゲカヨと、ガードの固いフクちゃんという性格の対比をよく現したワードローブです。

1997年に『FEEL YOUNG』で連載された、実母まゆらに恋する少年なるとが、父であるうづし夫とまゆらを取り合う禁断のファミリー恋愛漫画。そのアブノーマル感を際立たせるのが、キャラクターのファッション。いわゆる普通の服装をしているキャラクターはほぼおらず、皆当時流行し始めていたいわゆるゴスパンク、ゴシックロリータ系で一式固めています。今で言うV系、当時で言うビジュアル系バンドの流行によって市民権を得、ファッション人口の増えたこれらの服装を、丁寧な筆致で美しく描写した画面は、1枚のイラストレーションとしても高い完成度を持っています。普段こういったファッションに縁の無い方が読んでも、たまには服も漫画も冒険してみるのもイイと思わせてくれる一作です。