漫画家がお世話になった人々のために、野菜から自作したカレーを振る舞うため、北海道に移住し農業を始める農業コミックエッセイ。作者・横山裕二は、ある日編集長に呼び出された。前作『サンデー非科学研究所』の連載でお世話になった人たちへのお礼として、野菜をイチから育ててカレーを作り、もてなしをするように言い渡される。場所は日本でも有数の農業王国、北海道の十勝。実際に十勝に移住し農業に勤しむことになった横山は、野菜を育てるにあたり、家庭菜園ができるくらいの庭の付いた一軒家を探し回ることになるのだった。
北海道に移住して野菜から自作したカレーを作ってもてなすという企画である。作者・横山は漫画家だが、過去には自転車で全国を巡り、各地の書店で漫画雑誌『ゲッサン』のポップを描くという企画を行っている。作者にとっては二度目の無茶ぶり企画だが今回はスケールが違う。何せ居住地まで変わってしまうのだ。とはいえ現代ではインフラとインターネット環境さえ整っていれば、山奥でも編集部とのやり取りが可能で、仕事ができてしまう。漫画を描きながら畑を耕すという言葉だけなら、なんとも優雅な田舎生活に思えなくもない。ぼっちだけど。実際は家から探すという過酷な企画だが、「将来的には移住を希望している」「農業をやってみたい」という読者には参考になる情報も多いだろう。農地を巡る法律のあれこれはとにかく複雑だ。編集者は同行しているが、実際には手続き等も全てひとりで行っている。決定するのは自分だからこそ、よく考え吟味し決定していく。その姿は頼もしく見えるものだ。
極度のあがり症で人見知りな主人公が、クラス全員と友達になるべく奮闘する、学園友情コメディ。一里(ひとり)ぼっちは、ネガティブで人見知りな性格をしている。極度のあがり症で、緊張しすぎると吐くクセがあった。中学校に進学するにあたり、唯一の友人であった八原かいとは進学先が分かれてしまう。ぼっちを心配したかいは、中学校でぼっちがクラス全員と友達になるまで絶交すると宣言。親友と絆を結びなおすため、なによりクラスに馴染むためにぼっちは友達を作ろうと決意する。2019年4月にテレビアニメが放送された。
ぼっちの多くは人見知りだと思われる。人に話しかけるとき、なんて話題を振ればいいのか、そもそも声をかけて迷惑ではないかなどと色々考えてしまう。そんな人見知りな人は、本作のぼっちが初めてのクラスで感じる緊張感は、手に取るようにわかるのではないだろうか。とはいえ、ぼっちのあがり症は類を見ないほど重症である。言葉が出てこないだけでなく、一定ラインを超えると吐く。それほどにストレスがかかっているのに友達を作ろうとするのをやめないのは、かいとの関係もあるが、ぼっち自身が友達を作りたいと心から願っているからだろう。最初にぼっちが声をかけた砂尾なこ(すなおなこ)とのやり取りを見ていると、ぼっちがどれだけ友達という存在を熱望していたかがわかる。ひとりぼっちの楽しさを描いた漫画を紹介する本記事だが、この場合はぼっちを脱却しようと奮闘する、一里ぼっちが可愛く、楽しい。初めてのメール、一緒のお出かけなどで、世界で一番幸せとでもいうように笑うぼっちを見ると、純粋な気持ちを思い起こさせられる。
高校に入学したばかりの主人公が、地球侵略をしに来た宇宙人である先輩に強制的に地球侵略を手伝わされることになる、現代SFアクション漫画。広瀬岬一(こういち)は三兄弟の末っ子で双子の弟。高校に入学したその日に、どこかの民族のような仮面をかぶった謎の女生徒、大鳥希(のぞみ)に命を狙われる。希に心臓を狙われ胸元に触れられるもその危機を免れた後、岬一は10年前から胸にあった傷がいつのまにか消えていることに気が付く。再び希と会った岬一は、彼女が宇宙人であり、10年前に死にかけていた岬一を助けた本人であることを知らされる。希は困惑する岬一に、仲間になって一緒に地球を侵略しようと勧誘するのだった。
宇宙人から見て地球はとても魅力的に見える星らしい。様々な作品で宇宙からやってきた侵略者が登場するが、大概はどこかの国家に所属している軍人のような、地球侵略の役目を任されたトップとその部下がやってくるものだ。希のように単独で地球侵略にやってくるというのは珍しい。希はオルベリオという星に生まれた。この星から地球侵略にやってきているのは希だけである。ぼっちで地球侵略というと希がとても恐ろしい存在に感じられるが、見た目はボブカットの華奢で可愛い女子高生だ。学校でも奇行が目立つが、黙って歩いていれば普通の人間と全く変わらない。しかし彼女には人間離れした身体能力が備わっており、他の宇宙からの侵略者とも互角以上の戦いを見せる。侵略者であり、また後には岬一の守護者ともなるわけだが、そもそも岬一に知られるまで、地球人に異星人として認識されていないようであった。ひとりぼっちで始めた侵略作戦、やはり仲間が欲しくなるものなのか。岬一を勧誘したときの笑顔が忘れられない。
クラスメイトと共に異世界召喚されたものの、スキル選びで出遅れて残り物を押し付けられた主人公が、ぼっちで異世界を生きていくハードモード冒険譚。クラスに馴染まずにひとりで過ごす高校生、遥はある日突然教室の床が光るというなぞの現象に襲われた。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと逃げ出した遥だったが、クラスメイトごと召喚された影響で、早い者勝ちだった異世界生活に有用なスキルを、先に召喚されたクラスメイトたちに取り尽くされてしまう。神様に残ったスキルを押し付けられた遥は、ひとりで異世界に降り立つのだった。原作は五示正司の同名web小説。
異世界召喚ものである。遥は逃亡を試みたが、読者諸君は異世界召喚の際の謎の光や魔法陣に遭遇したら、無抵抗で異世界に行った方がかえって無難かもしれない。何故なら、遥のように不要な残り物を押し付けられかねないからだ。遥は異世界に来るにあたって付与されるスキルや装備などを選び損ねた。それどころかあまり使えない残り物てんこ盛りと謎のおまけまでつけられている。召喚の際に屋根裏に逃げたせいで仲間もおらず、文字通りのぼっちで冒険のスタートだ。元々気の合わないクラスメイトと慣れ合わずぼっちで過ごしていた遥だが、さすがに丸腰同然の状態では心細かっただろう。しかし、使えるスキルがわかってからの状況対応能力には目を見張らされる。ラノベで異世界セオリーを履修していたおかげもあるが、応用法は自分で考える必要がある。環境に対する適応能力が異常に高いのだろう。できれば仲間が欲しいながらも、異世界でもぼっちで生きていけるらしい。遥のように発想を柔軟にして、有時にうまく対応したい。
北海道を舞台に天然な性格を気にする主人公が、学校の先生にひとりひっそりと恋をする様子を描いたピュアラブストーリー。野田有紗は北海道に住む女子高生。天然な性格で可愛いと言われているが、馬鹿で鈍臭くて不器用だと自分自身の性格に否定的だった。どこか他人とうまく馴染めない気持ちを抱えている有紗は、演劇部の顧問をしている教師、豊崎への想いに思いっきり浸ることができる、ひとりぼっちになれる美術室にいることを好んでいた。ある日、自身の誕生日を祝われない事実に落ち込む有紗の前に、豊崎が現れる。
恋は二人でするものという印象もあるが、それは想いが通じている場合だ。恋人関係になるまでには様々なプロセスがあり、クリアしなければ二人で恋をすることはできない。だからこそ多くの人が片想いという昇華されない恋心に身を焦がすのである。有紗はどこかふわりとした雰囲気を持つ少女だ。天然と呼ばれているように、どこかズレたところがある。それは有紗を魅力的に見せるが、本人は自分の性格を好ましく思っていない。時折自分で自分を責めて、動けなくなってしまう。そんな有紗が一番生き生きしているときが、絵に描いた豊崎と相対しているときだろう。豊崎は教師で、もちろん有紗にも生徒として接している。有紗が想像するようには言葉もかけてこないし触れられもしないが、想像で満足している有紗が滑稽だとは言いがたい。ただ素直で可愛く、切ないだけだ。有紗は誰にも片想いを告白せず、たったひとりで恋をしている。誰も介在しない恋は彼女だけのものだ。それが少し痛々しく、愛おしい。