戦時中の広島で生きていく主人公とその家族の姿を描いた家族ドラマ漫画。主人公は18歳の女性・浦野すず。広島市江波で生まれ育った彼女に、ある日縁談の知らせがくる。お相手は広島の軍都、呉からやってきた北條周作という青年だ。1944年2月、すずは周作と結婚して北條姓にはいり、故郷を離れて呉で暮らしていくことになった。すずは新しい生活に戸惑いながらも、日々を健気に過ごしていく。2011年8月、2018年7月にテレビドラマ化。2016年11月にアニメ映画化。
本作で主に描かれているのは、主人公であるすずとその家族を中心とした、何でもない日常だ。結婚で得た新しい家族に囲まれ、新しい生活に戸惑いながらも日々を朗らかに生きていくすず。穏やかな描写が続くが、その裏には常に戦争という暗い影がある。本作の特徴は、すずを通して一般人から見た戦争が描かれている点だろう。毎日どこかで悲惨な出来事が起こり、人が死ぬ。物資は足りず、人々は苦しい生活を強いられている。そんな状況ですら、人間は慣れるものだ。どんなに過酷な環境に置かれようとも、人はそれを日常として受け入れて毎日を生きていく。戦争の悲惨さを描いて反戦を訴えるのではなく、ただひたすらに人間の強さを突き詰めて描かれた、珍しい作品だ。
移動珈琲屋の店主と客たちの交流を描いた人情珈琲群像劇。主人公は青山一という男性。彼はタコのマークが目を引く移動珈琲屋「たこ珈琲」の店主だ。青山は様々な場所に赴いては出会った人、一人一人のために丁寧に珈琲を淹れ、その人たちの言葉に耳を傾けて心を解きほぐすと、またどこかに去っていく。そんなミステリアスな彼には、その穏やかな姿からは想像もできない驚くべき過去が存在していた。2018年8月に配信アニメ化、2021年4月にテレビドラマ化された。
珈琲に並々ならぬこだわりがある青山。彼は一杯ごとに豆を挽き、客のために丁寧に珈琲を淹れる。多くの人が忙しさに追われる現代社会、青山ののんびりとしたやり方を嫌がる人間も中にはいるが、青山が周囲の言葉に流されることはない。そんなこだわりの詰まった青山の珈琲には、飲んだ人の心を解きほぐす効果がある。美味しい珈琲にほっとして、客は少しずつ抱えている悩みや葛藤を口にする。青山はそれに耳を傾け、客の気持ちに寄り添ってくれるのだ。青山の優しい言葉は、作中に登場する客たちを通して、読者の胸にも響くことだろう。青山が珈琲を淹れ客と交流するシーンはもちろん必見だが、青山の隠された衝撃の過去についてのエピソードにも注目してほしい。
驚異的な身体能力で街中を飛び回る2人の少年を軸に物語が展開される、痛快悪童漫画。物語の舞台となるのは、暴力がまん延する危険な場所・宝町。主人公は、そんな宝町でホームレス同然の暮らしをしている2人の少年、クロとシロだ。彼らは驚異的な身体能力で街中を「とぶ」ことができ、その能力と腕っぷしの強さを利用して、スリや強盗などの犯罪に手を染めながら生きている。今日も2人は、不穏な街を飛び回る。2006年12月にアニメ映画化。
人並み外れた身体能力を持ち、生きるために犯罪を繰り返しているクロとシロ。手のつけられない2人は街の人々から「ネコ」と呼ばれ恐れられている。ある日、彼らが暮らす宝町で「子供の城」という一大レジャー施設の建設プロジェクトが立ち上げられた。宝町はヤクザの力が強い地だ。「子供の城」建設プロジェクトもヤクザが考えたもので、その実体は不明。プロジェクトの発足を皮切りに、宝町はこれまでとは違った不穏な空気に包まれることになる。本作の大きな見所の1つは、主人公であるクロとシロの関係性だ。クロとシロは表裏一体のような存在。互いを必要とし、依存し合う2人の絆と成長や、彼らの命を狙う殺し屋たちとの戦いなどから、最後まで目が離せない。
満たされない心を抱えた1組の男女の「一線」を超えない「ふうりん」関係を描いた、大人の恋愛漫画。夫の仕事の都合で、広島から東京へと引っ越してきた美以子。彼女は慣れない土地での生活と、最近冷たくなった夫との関係に疲弊していた。そんな美以子の貴重な癒やしは、ベランダに掛けた風鈴の音色と、隣のベランダから漂ってくるバジルの良い匂い。そして、お隣の旦那さんである牛久との他愛のない会話だ。寂しさを抱える2人の距離は、少しずつ近づいていく。
以前は優しかったのに、最近では「行ってきます」や「ただいま」という挨拶すらしてくれなくなった美以子の夫。美以子は冷えていく夫婦関係に心を痛めていた。そんな中で彼女が出会ったのが、お隣の旦那さん・牛久だ。牛久は優しく穏やかな性格で、美以子と会話をしようとしなくなった夫と違い、美以子の何気ない話にきちんと耳を傾けてくれた。ただそれだけのことが、寂しさを募らせていた美以子にとっては大きな救いだった。一方、コロナ禍が原因で失業してしまい、妻からの叱責に苦しんでいた牛久も、おっとりとした美以子との時間に安らぎを感じるようになる。惹かれ合いながらも、互いに相手がいることから一線を超えることはできない2人。密やかに言葉と心を交わす姿が見所だ。
とあるテロリストグループとサイバー犯罪課の刑事との戦いを描いた、社会派サスペンススリラー。インターネットの普及に伴い、急増したサイバー犯罪。警視庁はそれらの事件に対応するべく、サイバー犯罪対策課を設立した。サイバー犯罪対策課を率いるのは、若き警部補・吉野絵里香だ。ある日、動画サイトで新聞紙のマスクを被った謎の男が炎上騒ぎを起こした人間たちへの制裁を予告し、実際に制裁を下すという事件が発生。サイバー犯罪課は捜査に乗り出す。2015年6月に実写映画化。
インターネットが普及し、多くの人が動画投稿サイトやSNSで簡単に情報や自分の意見を発信できるようになった。それに伴い急増したのが、いわゆる炎上騒ぎだ。「シンブンシ」を名乗る覆面の男は、インターネット上で炎上した案件を取り上げ、炎上の中心にいる人物に「制裁を加える」という予告をして、それを本当に実行する。制裁は過激で、明らかに犯罪だ。しかし、制裁の対象がそもそも何か悪いことをして炎上した人間であるため、ネット民たちはシンブンシの味方につくようになる。シンブンシと警察の戦いはどちらに軍配が上がるのか。シンブンシとは何者なのか。テロリストと警察の攻防戦を楽しみながら、現代社会にはびこる問題について考えさせられる作品となっている。