登場人物たちが様々な問題に直面しながらそれぞれの未来に目を向けていく青春群像劇。主人公のリクオこと魚住陸生は、大学を卒業したが就職せず、新宿にほど近いコンビニでアルバイトをして日々をぼんやりと生きているフリーター。ある日、彼の前にカラスを連れた不思議な少女、ハルこと野中晴が現れる。ハルは破天荒な人物で、彼女の言動に振り回されるリクオ。そんな中、リクオはかつて片想いをしていた森ノ目榀子(もりのめしなこ)が東京に戻ってきたことを知る。2020年4月テレビアニメ化。
物語の軸となる登場人物は4人だ。フリーターをしているリクオこと魚住陸生。高校を自主退学してとある喫茶店で働いている、ハルこと野中晴。リクオの大学の同級生であり、彼の憧れの人である森ノ目榀子。そして、榀子の幼なじみであり、亡くなった榀子の想い人の弟である早川浪(ろう)。4人は10代後半から20代前半で、この若者たちが恋や仕事、家族との関係や進路についてといった様々な問題に直面し、もがきながら少しずつ前進していく様子が描かれている。彼らが抱く悩みやぶつかる壁は、多くの人間が現実に直面するものだ。だからこそ、読者は4人に共感し、物語に没入することができる。登場人物たちの心の動きや、時にもどかしさを感じる言動にリアリティがある魅力的な作品だ。
鋼に覆われた機械仕掛けの渡世人・迅鉄(じんてつ)が諸国を旅して回る、ファンタジー時代劇漫画。舞台は江戸時代。巷を騒がせ、賞金まで懸けられている人斬りがいた。人斬りの正体は幼い少年で、名を迅鉄と言った。ある日、迅鉄は犬に喉笛を食いちぎられ、死んだはずだった。しかし、偶然その場を通りかかった男が迅鉄の死体を運んで、その体を改造。迅鉄はサイボーグとして復活する。やがて迅鉄は、意思を持つ刀「銘刀・鋼丸」と共に放浪の旅に出る。
迅鉄を機械仕掛けの体にして復活させたのは、かつて天才的な技術を持つことで知られた蘭学者・平間源吉(ひらまげんきち)だった。源吉が迅鉄の死体を持ち帰り、改造して復活させたのには理由がある。源吉には恋人がいた。その恋人は、源吉の上役であった奉行の不正を目撃してしまい、奉行によって口封じのために殺害されてしまった。恋人の仇討ちのために、源吉は迅鉄を、そして後に迅鉄の相棒となる意思を持つ刀・鋼丸を作ったのだ。鋼丸は源吉の手によって、人間から刀に改造されたという存在だ。迅鉄は鋼丸を帯刀し、依頼を受けて人を斬る渡世人として各地を旅するようになる。サイボーグの迅鉄と刀の鋼丸。不思議なコンビが各地で繰り広げる活躍の数々を堪能しよう。
探偵と助手、2人のもとに舞い込む事件を描いたレトロゴシックロマン漫画。舞台は大正の半ば。松之宮遥(まつのみやはるか)は、警察などから依頼を受けて数々の事件に関わり、多忙な日々を送っている優秀な探偵だ。ある日、そんな彼のもとに助手がやってきた。松之宮の恩師・藤枝博士からの紹介で訪れたのは、高苑真夜(たかぞのまや)という少女。彼女は一見普通の少女だが、松之宮も舌を巻くほどの知識量と推理力を誇っていた。2人は共に帝都で起こる様々な事件を解決に導いていく。
1人で松之宮探偵事務所を切り盛りしてきた探偵の松之宮遥だったが、恩師から紹介された少女を助手として雇うことになった。その少女、高苑真夜はとても変わった少女である。年齢は外見からしておそらく16か17歳くらい。しかしその若さからは想像も及ばないほどの豊富な知識を持っており、洞察力と推理力も松之宮を凌ぐほど。最も不思議なのは、時折未来が視えているような発言をするところだ。本作では、松之宮と真夜が共に数々の事件を解決に導く様子が描かれるのと同時に、ミステリアスな真夜の秘密に迫っていく。大正時代という和と洋が混ざった独特の世界で繰り広げられる一風変わったコンビの物語は、読者の心を強く惹きつけるだろう。
病に呪われた一族の血を引く姉弟の悲しい運命を描いた吸血鬼漫画。主人公の高城一砂(たかしろかずな)は高校1年生の少年。幼い頃に母を亡くし、父親の友人である江田夫妻のもとで育った一砂は、ごく普通の生活を送っていた。ある日、同級生の腕についた血のようなものを見て気分が悪くなった一砂は、幼い頃の夢を見る。実家の記憶が甦った一砂は高城家を訪れ、そこで実の姉である高城千砂(ちずな)と再会した。千砂は一砂に父親の死と、高城家に伝わる奇妙な「病」のことを語り出す。2002年に実写映画化。
高城家には、代々伝わる「奇病」がある。その奇病とは、発作的に他人の血が欲しくなるというものだ。病は高城家の男子には発症しにくい。そのため一砂だけが江田家に預けられ、高城家から離れていた。一砂の1歳年上の姉・千砂はすでに病に罹っており、まるで吸血鬼のように血を欲してしまう衝動、普通の人間ではないという孤独に長年苦しめられている。そしてその病は、一砂の身も蝕んでいた。血を欲する暴力的な衝動は、周囲の人間を傷つける危険性がある。一砂と千砂は社会には溶け込めず、ひっそりと2人きりで暮らしていく以外に道はなかった。人でなくなっていくような恐怖と圧倒的な孤独。悲しくも美しい姉弟の愛に胸が締めつけられる作品だ。
建築科の大学生が建物をめぐる奇妙な体験を重ねていく建築幻想譚。主人公の土神(にわ)東也は建築科の大学1年生。ある日、同級生の円海卯(あきら)と解体中の洋館を訪れた東也は、館のドアノブに触れた瞬間、不思議な幻を視る。洋館で出会ったミステリアスな美少女・深沢真百合によると、それは建物の持つ「記憶」であるらしい。建物の記憶を視る能力に目覚めた東也は、同じ力を持つ真百合と共に、様々な建物の記憶とそこに流れる想いをすくい上げていく。
古い建築物には、過去の使用者の記憶や強い想いが残っている。それを視るには、東也のような能力を持つ者が、扉や壁などに触れればいい。そうすれば、頭の中にヴィジョンが浮かぶのだ。東也一人でも建物の記憶を読み取ることは可能だが、謎の美少女・真百合と手を取り合って能力を発現させると、幻はより鮮明になった。2人はこの力を使い、取り壊しを控える建物の記憶を読み取って、思い残したことを叶えていく。それと同時に、本作では建築家であった東也の亡き祖父・拓西の知られざる過去についてや、祖父と何かしらの関係があるらしい真百合の謎に迫っていく。ちりばめられた謎と、不思議な体験を重ねるごとに少しずつ成長していく東也の姿から目が離せない。