敵か味方か？異形の昆虫モチーフキャラクター583 Pt.

「昆虫」＋「ヒーロー」と言えば『仮面ライダー』。異形ヒーローの元祖にしてひとつの究極と言えるだろう。世界征服を企む秘密結社「ショッカー」によって捕えられ、バッタ人間へと改造されてしまった主人公・本郷猛の戦いを描く。変身前でも、感情が揺れ動くと醜い手術跡が浮かんでしまうという改造人間の苦悩を描いた点も注目して読みたい。

『HUNTER×HUNTER』に登場する昆虫モチーフキャラクターと言えば、『キメラ＝アント』。「蟻」をべースモチーフに、様々な動物の特徴を持ち合わせた、その名の通りキメラ蟻の種族だ。摂食交配という特殊な繁殖方法を持ち、気に入った対象を食べることで、次世代にその対象の特徴を反映させることができる能力を持つ彼らは、気に入った種を食べ続けて滅ぼしてしまうこともあるため、第一級隔離指定を受けていた。しかしある閉鎖国家でキメラ＝アントたちが人間を捕食するに至り、彼らの爆発的進化が起こってしまう。圧倒的な強さと残虐さをもった軍隊を組織するに至ったキメラ＝アントたちだが、人間と交わったことにより得た感情や元の人間たちの記憶などに苦悩するものたちも現れ始める。その中でも女王蟻から生まれた王『メルエム』は、一国の軍隊に比肩するほどの強さとカリスマを持った存在にまで成長するが、一人の女性との出会いが彼を変えていく。

27世紀の火星に蔓延る凶悪な種族『テラフォーマー』。21世紀のテラフォーミング計画で持ち込まれたゴキブリの超進化後の姿である彼らは、筋骨隆々の体格を持ち、二足歩行をし、なぜかパンチパーマ的な髪型をしている。まさにゴキブリさながらの生命力と進化によって得た強靭な力、そして発達した脳によって文明を得、人間に脅威を与える存在となった『テラフォーマー』たち。これを駆逐するため戦う人々もまた、「M.O.手術」によって昆虫のDNAを取り入れ、自らの身体を強化した者たちなのだ。『テラフォーマー』たちが常に発している「じょうじ」という言葉から、未読の方には彼らが「じょうじ」だと名乗っていると思われがちだが、これは火星で彼らを見つけ、そして死んだ宇宙飛行士「ジョージ・スマイルズ」が名前を呼ばれているようすを見て覚えた言葉とされている。

昆虫モチーフ＝異形というイメージの中にあって、異彩を放つのが「蝶」モチーフ。華麗で儚いメルヘンチックなイメージを持つ蝶は、一般的に女性キャラクターにモチーフ付けされることが多いようだが、『武装錬金』の蝶モチーフキャラクターは男性。主人公・カズキのライバルとなる蝶野攻爵こと蝶人・パピヨンは、天才的頭脳を持ちながらも、生来の不治の病に苦しみ、そのため高校を二年留年してしまうほどの引きこもりがちで内気な少年だった。しかしある日、高祖父・爆爵のつけていたノートから錬金術とホムンクルスの存在を知ったことが彼の運命を変える。人体実験を繰り返し、自らを人間型ホムンクルスとして生まれ変わらせようとした攻爵だったが、カズキたちや恨みを持つ弟に邪魔をされ、実験は失敗に終わるかに見えたが、ホムンクルスの幼生が生を渇望する彼の声に応える。そして病を残した不完全な形のホムンクルスとして生まれ変わった攻爵は、パピヨンを名乗り、孤高の、そして謎の存在として善悪を超えた活躍をすることになる。

厳密に言えば蜘蛛は昆虫ではないが、日本の「虫ヒーロー」が仮面ライダーなら、アメリカンコミックの「虫ヒーロー」はスパイダーマンであることに異論を挟む人はあまり居ないだろう。そんなスパイダーマンが独自解釈によって翻案された本作は、アメリカの本家とはまた違う趣をもった作品となっている。大きな違いとしては、本家ピーター・パーカーが戦いの中でも軽口を忘れない基本的に明るい性格であるのに対し、池上遼一版『スパイダーマン』の主人公・小森ユウは異能力を得てしまった苦悩と孤独の中で戦い続け、同様に能力を得た敵たちの末路を見るたびに、己の能力もまたいつか暴走するのではないかと恐れていることだろうか。それこそピーターが「あんまり悩むなよ」と励ましに来てくれないかと考えてしまうような内気な性格のユウだが、2014年にマーベル・コミックスで始まった、世界展開し様々なこうした翻案版を持つスパイダーマンたちが大集合する『スパイダー・バース』シリーズでは、「日本で小森というスパイダーマンに出会った」という台詞がある。どうやら長年を経て、小森ユウは少なくともヒーローの孤独からは解放されたと考えてもいいのかもしれない。