フランス革命前後、マリー・アントワネットと男装の麗人・オスカルの生涯とその愛を描く歴史ロマン。1755年、後にフランスのベルサイユで運命的な出会いを果たすことになる三人が誕生する。オーストリアの女帝・マリア・テレジアの娘・マリー・アントワネット、スウェーデンの貴族の息子・フェルゼン、そしてフランスの貴族将軍の娘・オスカル。14歳となったアントワネットが、フランス皇太子の元へ嫁いだことから、物語は動き出す。
「ベルばら」の愛称で親しまれ、宝塚歌劇団による舞台化、テレビアニメ化と、一大ムーブメントを巻き起こした池田理代子の代表作にして漫画界の歴史に残る名作だ。フランス革命前後の複雑なヨーロッパ情勢が巧みに物語に織り込まれており、本作をきっかけに歴史好きになった読者も多いという。そして、何より読者の心をとらえたのが、主人公の一人である男装の麗人・オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェだ。オスカルは、軍人である父の下、女でありながら軍人として育てられ、アントワネットに仕えることになる。軍人としての忠誠心に満ちていたオスカルが、自らの意志の下、王政を打倒するフランス革命に身を投じることを決意する姿は、読者の胸を熱く打つはずだ。
20世紀初頭、ドイツの音楽学校で出会った三人の若者が愛と運命に立ち向かう姿を描く長編ロマン。ドイツにある400年の伝統を誇る男子校・聖ゼバスチアン教会附属音楽学校にはある伝説があった。それは学校にある塔の窓「オルフェウスの窓」から最初に見た女性と悲劇的な恋に落ちるというものだった。転入生のイザークは聖ゼバスチアンの生徒・ユリウスを窓から見かける。実はユリウスは、男装の少女。そして、ロシア貴族の息子で不良学生のクラウスもまた窓からユリウスを見ていた。
オルフェウスはギリシア神話に登場する人物。最愛の妻を冥界から連れ戻そうとする悲劇の主人公だ。本作では神話になぞらえた「オルフェウスの窓」の伝説の下、二人の青年と一人の少女・ユリウスが出会う。ユリウスは、名門貴族アーレンスマイヤ家の跡を継ぐため、母に男として育てられた。男と偽り聖ゼバスチアンに通うが、伝説に導かれるように苦学生のイザークとロシア革命の闘士でもあるクラウスと親しくなっていく。舞台となる20世紀初頭は、日露戦争、第一次世界大戦、ロシア革命と歴史の荒波がヨーロッパを襲った時代。歴史に翻弄され、彼らの恋や友情は悲劇の様相を帯びていく。複雑な時代を背景にした重厚で甘美な大河ロマンとなっており『ベルサイユのばら』と並ぶ名作といえる。
英雄として名高いナポレオン・ボナパルトの生涯を描いた伝記コミック。フランス革命によりマリー・アントワネットをはじめとする王族が処刑されてから数年、それでもなお王党派はくすぶり続け、隙あらば政権を取り戻そうとしていた。26歳のナポレオン・ボナパルトは、国内軍総司令官・バラスの依頼を受けて、司令官として王党派の鎮圧に乗り出そうとしていた。そして、そのバラスの館で若きナポレオンは、己の運命を左右する女性・ジョゼフィーヌと出会うことになる。
フランスが圧政に苦しむ市民による革命に至り、マリー・アントワネットが断頭台の露と消えるまでを描いた『ベルサイユのばら』。革命後の混乱にあえぐフランスのその先の物語が描かれたのが本作だ(『ベルサイユのばら』に登場したキャラクターの名前もしばしば登場して、読者を楽しませてくれる)。主人公は、一軍人から皇帝にまでのぼりつめることになるナポレオン。そして、戦の天才とも謳われた彼の人生のかたわらには、妖艶な年上の女性・ジョゼフィーヌ・ド・ボーアルネの存在があった。美しく妖艶、かつ奔放な女性だったジョゼフィーヌは社交界の花であり、バラスの愛人でもあった。若きナポレオンは彼女に強く惹かれ、波瀾多き人生を共に歩んでいくことになるのだ。
手にした者が世界を支配するという伝説の指輪を巡り、神と人間がおりなす叙事詩ロマン。ワーグナーのオペラ「ニーベルンクの指輪」から着想を得て、池田理代子が原作、脚本、構成を担当したコミカライズ作品だ。神々がまだ地上を支配していた時代、戦乙女・ブリュンヒルデは、父神・ヴォータンの命令に背いて、英雄のジークムントを助けてしまう。ブリュンヒルデは神の力を奪われた上に、神々の世界からも追放されてしまうが、そこで運命的な出会いが生まれる。
「ニーベルンクの指輪」は、北欧神話を基にワーグナー自身が創作したオペラである。非常に長大な作品のため、上演には少なくとも4日間もかかるといわれているほどだ。「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の4部で構成されており、北欧神話に馴染みのない読者には難しく感じるかもしれない。しかし。池田理代子は巧みな手腕で、地上に落とされた女神・ブリュンヒルデと英雄・ジークムントの遺児・ジークフリート、さらにはブルグント国の王女・クリームヒルトとのラブストーリーとして仕立て直している。そして、ラインの黄金と呼ばれ、それを指輪にして手に入れた者は世界を支配できるという「ニーベルンクの指輪」の存在が、彼らの運命を翻弄することになる。
飛鳥時代、聖徳太子として知られる厩戸皇子の生涯を史実に基づいて描いた伝記ロマン。574年、橘豊日大王(たちばなのとよひのおおきみ)と穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめみこ)の間に、のちに聖徳太子と呼ばれる厩戸皇子が誕生する。幼い頃から聡明で、その非凡さで周囲を驚かせた聖徳太子は、人の未来が見えるという不思議な力をも有していた。冠位十二階や憲法十七条の制定と、日本史上に残る偉業をなしとげた不出世の偉人である聖徳太子の生涯を追い、その人物像を深く掘り下げていく。
聖徳太子をモデルとし描かれた本作は、謎が多いとされるその生涯を掘り下げ、民のために国の礎を築こうと奔走する優しさと気高さあふれる人物として描きだしている。また、当時の外交関係をふまえながら日本史を学べる佳作となっている。野心家の蘇我馬子や、のちに初の女性天皇・推古天皇となる額田部大后(ぬかたべのおおきさき)といった、多くの登場人物を巧みに描きわけ、権力争いに揺れる貴族や王族の複雑な人間関係を、エンターテインメント性あふれるストーリーに編みなおす手腕は、池田理代子の真骨頂といえるだろう。また、聖徳太子が持つ人の未来が見えるという不思議な力や、後に遣隋使となり隋(中国)に渡る秀才・小野妹子とテレパシーで通じ合うといった本作ならではの創作も物語に奥行きを与えている。