妻の敵討ちのために人斬りの旅を続ける子連れ侍の壮絶な運命を描いた、復讐の時代劇漫画。柳生一族の手により妻を失い、その復讐のために刺客稼業を続ける浪人、拝一刀(おがみいっとう)とまだ幼い大五郎父子の冥府魔道の旅路の物語。行く先々で様々な人と出会い、敵を斬りながら父子は旅を続ける。続編に『新・子連れ狼』『そして ― 子連れ狼 刺客の子』がある。1972年より実写映画化、1973年より実写テレビドラマ化が、ともに幾度もなされた。
乳母車を押す1人の侍。その乳母車には幼い男児。前髪などを残して大部分の髪を剃った大五郎カット。悲し気なテーマソング。多くの日本人が『子連れ狼』という作品においてイメージするのはこういった要素かもしれない。本作は凄惨さを湛えながら、日本人の郷愁を呼び起こす要素が満載である。悲哀の復讐譚でありながら、同時に読者のつぼを押さえた作品であるのはさすがだ。また迫力の筆致で描かれる殺陣(たて)も見どころ。一刀は水鴎流(すいおうりゅう)剣術を修め、名刀・胴太貫を携える達人。乳母車はいざというときに、刀や盾などに早変わりし攻防一体の武器になる。そうしたある種、外連味のあるギミックも備えている。日本時代劇の金字塔であり、数ある小池一夫原作の代表作の中でも、まず第一に挙げられる作品だ。
アフリカを舞台とし、女性のみで編成された部隊が戦うアクション劇画。13人の女性による精鋭戦闘集団「サハラ女外人部隊(ウーマンフォーリンレジオン)」。アフリカのアンゴラ独立闘争に介入した彼女らは、戦いの中にしか「生」を見出せない。部隊を率いる隊長・チュチュ・ヒステリーカをはじめとした部隊員たちの背負う過去が、凄惨な戦いの中で徐々に明かされていく。「魔女」の異名で恐れられる、女性だけの精鋭外国人部隊の命がけの物語だ。
「サハラ女外人部隊」はポルトガル軍に所属する女性だけの精鋭部隊。金のために自らの生命と貞操を自身の手で売る女性のアウトローたちの集まりである。そんな彼女らの生きざまを克明に描いた本作。隊長のヒステリーカをはじめとする、個性的な面々の背負う過去が順に描かれていく。そんな彼女たちの部隊が「アンゴラ解放戦線」を相手取り、熾烈なゲリラ戦を繰り広げる本格派の戦争ドラマだ。1970年代の連載で、現在に比べ女性が主人公の青年漫画はずっと少なかったはずだ。そんな時代に描かれた本作の意義は当時において大きいものであっただろう。時代を先取りした、戦う女性たちの本格ミリタリーアクションドラマの傑作である。
優れた鑑定眼を持つ美術鑑定人が両親を殺した犯人を追い続け、美術界の闇と対決する美術アクション漫画。美術鑑定人で、英国エドモンド・オリバー社のM・D(マネージメント・ディレクター)である主人公・柳宗厳(リュウ・ソーゲン)。彼は、幼い日に名画を狙った3人の男たちに両親を殺された過去を持つ。復讐の機を狙って美術界に身を置いているリュウ。彼は徐々に美術界の闇と接触し、その戦いに身を投じていく。
第1話では、ウィーンの博物館から名画を盗んだという男がその絵の秘密を取引材料として、爆弾を持ってビルに立てこもる。リュウは警察からの依頼で、その部屋に乗り込み、絵を鑑定、それが贋作であることを見破る。男はジョフリー・オブライエン。彼は絶望の中、自殺をする。ジョフリーを死に追いやったことで、所属するエドモンド・オリバー社の社長から説明を求められるリュウであったが、答えずにいたため追い出される。実はジョフリーはリュウの両親を殺した犯人の1人であった。これを皮切りに、リュウは、エドモンド・オリバー社社長の長男のタッドや、リュウへの愛のあまり、彼を憎む村尾由美などと対峙、美術界の闇と向き合っていく。濃厚な本筋の他、次々と登場する女性たちとのロマンスも一つの見どころで、まさに大人の美術漫画だ。
自動車用の実験人形製作に携わる男性技術者が、実は二重人格者であり、そのことが一つの引き金となり、放浪を余儀なくされるハードボイルド劇画。独自動車メーカーに実験人形製作のために招聘された日本人技術者・渡胸俊介(ときょうしゅんすけ)。朴念仁で頼りなげな風采の渡胸であったが、彼が非常に精緻な実験人形をつくりあげたことで周囲の評価は一変する。だが、実験人形のモデルとなった女性・ヘルガと交流するうちに、渡胸の第二の人格が顔を出し始めるのであった。
序盤は人形技術者を描いた作品のように思えるが、渡胸の第二の人格「ダミー・オスカー」が表出したことで、物語がガラッと転換する本作。その転換の振れ幅が物凄く、圧倒されてしまう。また、他の特徴として性描写が非常に多いという点が挙げられる。小池一夫原作の作品では、性描写が登場することが多いが、その中でも本作は飛びぬけてその頻度と過激度が高い。また小池一夫の独特の言語表現、言い回し、例えば有名な「エレクチオン」といった語が多く登場し、それも本作の注目すべき点だ。劇画調の巧みな筆致による作画と、剛腕ともいえる破天荒な原作が組み合わさり、場面次第ではシュールにも見えるが、唯一無二の世界観を作り出している。守りに入らない作者の意気を感じる、非常に攻めた作品である。
中国マフィアの殺し屋である主人公が、愛する女性のために戦うバイオレンスアクション巨編。香港で殺人現場を目撃してしまった女性・日野絵霧(ひのえむ)。それは、中国マフィア「百八竜(ハンドレッドエイトドラゴン)」の殺し屋・フリーマンこと火野村窯(ひのむらよう)によるものだった。窯の流す涙に魅せられた絵霧は、その後、窯と運命的に再会する。その出会いにより2人の物語は動きだすのであった。1988年よりビデオアニメ化。1996年に実写映画化。
フリーマンこと窯は、殺しを終えると涙を流すことから「クライング フリーマン」の異名で呼ばれていた。元々、日本人の気鋭陶芸家であったが、ひょんなことから「百八竜」の秘密を知ってしまい組織に拉致されてしまう。そこで殺しの才能を見出され、洗脳の後に殺し屋「フリーマン」となる。日本で再会した絵霧とは、結ばれたのちに夫婦となり、2人は百八竜のトップに上り詰める。現在も活躍し続けている実力派漫画家である作者の克明な筆致が、力のある原作をさらに素晴らしく盛り上げてくれている。特に、美男美女の描写には定評のある作者であるので、殺しのシーンでさえ息をのむ美しさがある。小池一夫原作の中でも代表作と呼べる1つであり、非常に支持を集めているスケールの大きい作品である。