北アルプスの山岳救助ボランティア・島崎三歩が出会う、さまざまな人物の人生を描いたヒューマンドラマ。人間味溢れる三歩と、山を訪れる様々な人物たちの心象模様が、巧みに表現されている。2011年に実写映画化。
主人公・島崎三歩は、山岳遭難防止対策協会(遭対協)に所属する、ボランティアの救助隊員だ。彼は北アルプスの山中で、自由気ままなテント暮しをする、住所不定のクライマーである。どこか抜けたような部分がある三歩だが登山家としての腕は一流で、数々の名峰に登頂してきた。物語は、地域課勤務だった女性警官・椎名久美が、山岳救助隊員に異動するところから幕を開ける。山に関してはほぼ素人の久美は、三歩と彼の幼馴染みである救助チーフ・野田正人の指導の下、徐々に経験を重ねていく。彼女の成長と共に、三歩と山を巡る人々の交流を描く、ハートフルな物語だ。ただし、山での現実はときにシビア。雪崩の遭難救助の際には、発見が早かった者以外の命を諦めなければならないケースもある。そんなハードな山の一面をしっかりと描いているのも本作の魅力である。
第11回柴田錬三郎賞を受賞した夢枕獏の小説「神々の山嶺」を原作とするコミカライズ作品。エヴェレスト登山史上最大のミステリー「ヒラリーより前に、遭難したマロリーが初登頂していたのではないか?」という謎を入り口に、孤高の天才クライマー・羽生丈二が、不可能とされる冬季エヴェレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む姿を描く。
登山経験者からも高い評価を受ける小説が原作だけに、本作の内容は非常にリアリティがある。登山そのものの描写はもちろん、登山家の生活や資金調達の難しさ、登山家たちを支えるシェルパ族の暮らしぶりや風習、ネパールの政治情勢や裏社会の現実に至るまで、その描写は真に迫る。また、ヒラリー以前にエヴェレストに挑み、遭難したマロリーのカメラ発見に端を発するミステリーと、日本の山岳界では異端者扱いだが超一流の実力を持つ登山家・羽生丈二の物語は、読者の興味を掻き立てる。まさに骨太でハードな登山漫画だ。また本作をコミカライズした谷口ジローは、『孤独のグルメ』の作画担当として食事描写にも定評のある漫画家。本作でも、極限状態でエネルギーと水分を補給するための食事シーンがとても印象的に描かれている。
ネパール・ヒマラヤ山脈を舞台に、山岳ガイドをする日本人青年と、彼が出逢うさまざまな人々の人間模様を描いた山岳ドラマ。主人公・高遠静は、ヒマラヤ登山の拠点であり「シェルパの村」とも呼ばれるナムチェ・バザールで暮らす山岳ガイドである。ある日、彼の元に老夫婦が訪れ、「神の山」マチャブチャレ初登頂の真実を解き明かして欲しい、という依頼を持ちかけてくる。
本作は極限の環境で展開されるハードな登山ミステリー漫画だ。。最初のエピソードの舞台はマチャブチャレ。地元住民の信仰の対象であり、登山が禁止されている「神の山」だ。この山に、気鋭の登山家ジアン・ノアイエルが密入山し、単独初登頂に成功したというニュースから物語は幕を開ける。ジアンが初登頂者の栄光を手に入れる一方で、彼とほぼ同じ時期、同じルートで登頂を計画していたモーリス・イシャックという登山家が消息を絶っていた。。ジアンは本当はモーリスと共に登頂に挑み、名誉を独占するため凶行に及んだのではないか。そんな疑惑を抱いたモーリスの両親の依頼を受け、主人公・高遠静は、ジアンと共にマチャブチャレへ登ることとなる。未踏峰の山への登山は、ある意味巨大な密室劇だ。そこで何があったのかは、登った者にしか解らない。
新田次郎の同名小説を原案とした山岳漫画。主人公・森文太郎は、一人でいることを好む高校生。転校初日、クラスメイトの宮本一に挑発された彼は、校舎の壁をよじ登ることになる。ノーロープに素手という、危険極まりない条件にも関わらず、文太郎は見事屋上に到達。その達成感から、文太郎はクライミングの魅力に目覚め、やがて登山に熱中していく。
原案小説は昭和初期が舞台だが、本作は舞台を現代に変更している。小説の時代とは、登山を取り巻く状況や、技術などが大きく異なっている。そんな変化を内容に反映させる一方で、時代を超える普遍的な情熱を描くハードな登山漫画だ。主人公・森文太郎は、ある事件をきっかけに、心を閉ざした高校生。彼は転校先で登山に情熱を注ぐ少年・宮本一と出逢い、クライミングの魅力に目覚める。やがて文太郎は、宮本と共に新設されたロッククライミング部に所属し、本格的な登山を始めていく。ところが、初合宿で起こった事故をきっかけに、部は無期限活動停止。文太郎は「自分が関わると全てがダメになる」とあらゆるしがらみを断ち切り、孤独に山へ挑んでいく。また本作のコミックスには、用語解説を掲載。初心者にも馴染み易い内容となっている。
登山を題材に村上もとかが不定期に連載した読み切り短編をまとめたシリーズ。岩壁を登っていくアルパイン・クライミングや厳冬期の登山など、数々の名峰を舞台に、極限の状況下での登山を扱っている。山に憑りつかれた人々の生と死を描く、ハードな登山ヒューマン・ドラマだ。
本作は、エピソードごとに舞台や主人公が変化する短編集である。物語は、美しくも人を拒むかのような厳しい一面を持つ山々と、そんな山に魅せられ、命を賭して頂を目指す人々の姿をドラマティックに描いている。エヴェレスト南西壁。厳冬期にしては珍しく穏やかな気候に恵まれた国際隊は、順調に頂上を目指していた。ところが、最終第6キャンプ設営直前に、山は突如として牙を剥いた。表層雪崩の発生で、6人の隊員がいきなり命を落とす。仲間の死を目の当たりにしながら、内心で登頂のチャンスが増えたこと喜ぶ登山家の業の深さと、登頂の名誉を巡って起こる醜い争い。最初のエピソードから自然の過酷さと、人間の情念が描かれた本作は、まさにハードな登山漫画という表現が相応しい作品だ。