片思いの相手を振り向かせるためお菓子を作り続ける天才ショコラティエのラブストーリー。製菓学校に通う小動爽太(こゆるぎそうた)は、高校の頃から憧れ続けた年上の女性・紗絵子に、バレンタインの手作りチョコをプレゼントするが、ふられてしまう。傷心の爽太は、スイーツ好きな紗絵子を振り向かせるようなお菓子を作るため、単身フランスに渡り一流店で修業を開始。5年後、帰国して店を構えるも紗絵子はすでに結婚していた。2014年にテレビドラマ化。
失恋の痛みや恋の切なさをお菓子作りへの情熱に変え、極上のスイーツを生み出すことができる稀有な才能の持ち主こそ、主人公・爽太だ。恋心をこじらせるほど、ショコラティエとして成功していく皮肉な設定が面白い。水城せとなの代表作でもある本作は、恋愛の微妙な心理と本格的で繊細なスイーツの描写が重ねあい、スイーツ好きをもうならせる作品となっている。爽太は一人の女性に対して、失恋を繰り返している。その相手こそが、高校時代の一つ年上の先輩・紗絵子だ。紗絵子は「各学年一番のイケメンと次々付き合ってきた女」という恋愛巧者だ。4年の片想いの末、失恋した爽太は衝動的に渡仏。紗絵子を振り向かせるため彼女が好きな老舗店の扉を叩いたのだった。歳月が流れ、既婚者となった紗絵子に、爽太は恋心を一層こじらせていく。
異性愛者のサラリーマンが、同性愛者である大学時代の後輩に秘密を握られたことから始まる大人のラブストーリー。会社員の大伴恭一は、妻と二人暮らしの29歳。ある日、大学時代の後輩・今ヶ瀬(いまがせ)渉と久々に再会。調査会社に勤務している今ヶ瀬から、恭一の妻・大伴知佳子から浮気調査を依頼されていると打ち明けられる。浮気の証拠をつきつけられた恭一は、今ヶ瀬からある取引をもちかけられる。続編に『俎上の鯉は二度跳ねる』がある。2020年に実写化映画化。
優しいが、どこまでも優柔不断で、流されるままに浮気を繰り返していた主人公・恭一。派遣社員の女性や取引先の女性社員に、「強引に誘われ」たから、「断りにくい相手」だったからと、関係をもっていたのだ。恭一の浮気調査を担当していた今ヶ瀬は、浮気の証拠を妻の知佳子に渡さないかわりに、自身との肉体関係を迫る。イケメンで学生時代は女子からもてまくっていた今ヶ瀬だが、実は同性愛者であり先輩の恭一に一途な想いを寄せていたのだ。今ヶ瀬は想いを遂げるため、卑怯と知りながらも、男性相手の関係に抵抗を覚える恭一に強引にせまっていく。生来の流されやすさから、恭一は今ヶ瀬との関係をなし崩しに受け入れていくが、二人の関係性は不安定に揺れていく。
ヴァンパイアたちの中から優秀な雄を選び、子孫を残す使命を負った女性がつむぐラブロマンス。高校教師の菊川梓は、生徒の生島光哉(こうや)から想いを寄せられていた。年齢差から光哉を受け入れることができずにいたが、事故により光哉が瀕死の重傷を負ってしまう。そこへ、梓の魂と引き換えに光哉の命を救うことができるという謎の外国人・ディミトリがあらわれる。ディミトリは、19世紀から生き続ける「吸血樹」だった。2017年に舞台化された。
永遠の生命をもつといわれるヴァンパイア。ディミトリも、19世紀から生き長らえている存在だ。しかし、彼が普通のヴァンパイアと異なるのは、長命ではあるが寿命があり、繁殖を終えると死んでしまう植物のような存在・吸血樹であることだ。光哉の命を救うために吸血樹・ディミトリと取引した梓は、4人の吸血樹――ディミトリ、レオ、双子の櫂(かい)と玲二と共に暮らしながら、彼らの中から最も優秀な雄を選び繁殖するという責務を負うことに。取引によって梓の肉体は死亡して、魂だけの存在となり、梓は吸血樹となる前のディミトリの想い人・アニエスカの肉体で蘇り、アリスとして生きることになる。梓は、未来へ残すべき吸血樹の「優秀な雄」をどう選ぶべきなのか惑うのだった。
アラサー女性の内心で、擬人化されたキャラクターが展開する脳内会議とリアルな恋の顛末を描くラブコメディ。櫻井いちこは、来月で30歳になる独身女性。駅のホームで飲み会で知りあった年下の男・早乙女良一を偶然見かける。声をかけようか迷ういちこの脳内で、「せっかくの偶然!! これってきっと運命」「絶対こっちのことなんか覚えてない」と入り乱れる想いを代弁する者たちの白熱する会議が始まるのだった。2015年に実写映画化。
決断を迷う時、心の中で天使と悪魔が闘うという描写はよくあるが、本作では総勢5人のメンバーが、いちこの脳内で侃々諤々の議論を展開する。メンバーのキャラクターは、いちこの感情や理性を表しており、議長の吉田は、事なかれ主義でいちこのキャラにあわないことは避けるタイプ。ネガティブ担当の池田はいちこが傷つかないように最悪の事態を想定するし、ポジティブ担当の石橋はいちこの幸福を願って前向きな行動を推す。ゴスロリファッションのハトコは、その場の素直な感情を代弁し、老紳士の岸は記録を司りデータを優先する。恋愛も人生も迷い多きアラサー女性の内面を、脳内会議というアイディアで軽快なコメディとして、あますところなく描いた作品だ。
校内における生徒間の紛争を解決する司法機関・裁判部の活躍を描く異色の学園コメディ。市橋七緒は良家の子女が通う名門・メハビア聖学院に転校してきた高校1年生。広い校内で迷子になり、通りかかった美少女に道を尋ねる。しかし、美少女と思ったのは裁判部に所属する男子生徒・羽根木(はねぎ)ライカで、裁判部は校内でもカリスマ的存在だった。転校早々に裁判部の面々と仲良くなったことで、七緒はトラブルにまきこまれ、原告として裁判をおこすことになる。
校則第13条「裁判部は生徒間の問題を裁定し処罰を定める権限を持つ」「裁判部が行う裁判における呼出・判決には従うこと」。主人公・七緒が転校してきたメハビア聖学院において、裁判部は校則のもとに権限をもたされた、校内におけるれっきとした司法機関だ。部員は裁判長を務める2年生のライカ、部長の遠野桐彦、七緒と同じ1年生の橘克真。名門校であるメハビア聖学院においてもトップクラスのエリートな上、イケメン揃い。裁判部が学園において、カリスマ的存在なのも頷ける。裁判部と仲良くなったことで女生徒たちから理不尽ないじめをうけた七緒は、裁判をおこすことになるわけだが、そこで裁判の面白さに目覚めることに。問題をうやむやにせず、真実を白日のもとにさらして理路整然と解決に導く裁判部の格好良さに読者も夢中になるはずだ。