「こん夜…ひと晩をおまえ…と…おまえと……いっしょに…アンドレ・グランディエの妻…に…」今で言う逆プロポーズにあたるのでしょうか。名門貴族の嫡子である男装の麗人オスカルと、彼女に仕える青年アンドレ。最後の一線を越えるためには、主人であるオスカルから言葉をかけなければならなかったのでしょう。誇り高いオスカルの口からこの言葉を引き出したのは、ひとえにアンドレの長年に渡る献身のなせる業。このあとさらに「生涯かけてわたしひとりか!? わたしだけを一生涯愛しぬくとちかうか!?」と迫るオスカルに、言葉も無くただうんうんと頷くアンドレの無言の肯定がこのカップルを象徴するシーンではないかと思えます。
「ぼくはきみがだい好きだ ばらのしげみのところからずっとね」『バナナブレッドのプディング』の主人公・衣良は精神不安を抱えた危うい少女。成り行きから彼女の偽装恋人の役目をすることになってしまった大学生の青年・御茶屋峠は、いわゆる「ふしぎちゃん」である衣良に振り回されまくります。ついには殺人を犯したと思い込みパニックに陥った衣良。そんな彼女を落ち着かせるための言葉が、上記の台詞です。衣良は峠と最初に出会ったとき、自分だけに聞こえる「ばらのしげみ」の話をしていました。その時から好きだと言われるなんて、つまり自分のすべてを受け入れ肯定してもらえるなんて思いもしていなかった衣良は、峠の説得を受け入れ、日常の暮らしへと心を添わせていきます。「いつから」好きだったかという告白は、意外なほどに重要なものなのです。
「非常に不本意なことだが僕はきみを愛している だから僕はきみを僕だけのものにするために 結婚したい」富と家柄と美貌と才能のすべてを持つ貴公子、アンリ・ド・シャルトルが妻となるレオポルディーネにプロポーズしたときの台詞がこれ。何が不本意かというと、レオポルディーネは性格のあまりよろしくないアンリに輪をかけた天然の傍若無人、しかもよりによってアンリの父ラウールに恋をしている女性でした。実質レオポルディーネの心を動かしたのは、上記の台詞より、その前の「僕と結婚すれば父はきみの義父になるよ」の方。勿論、レオポルディーネはアンリにも好意を抱いているのですが、よりラウールの方が好きなだけ。フランス上流階級の自由奔放な人々による複雑な人間関係がとびきり面白い『シャルトル公爵の愉しみ』には、こういった変わったカップルが目白押し。自分は世間の恋人同士とは違うみたい、と思っている方は必読と言えるでしょう。
「そなたを愛している…もうどこへも行ってはならぬ よいな! これは命令だ!」はるかなる時の隔てを超え、現代から古代エジプトへタイムスリップした少女・キャロルとエジプトのファラオ・メンフィスが傷つきながらもお互いへの愛を確信。敵に囚われたキャロルを救った後、メンフィスの口から出たほぼプロポーズと言っていい台詞が上記のものです。生ける神であるファラオならではの命令調、現代人の男性でこれを真似すると大惨事ですが、もしあなたがファラオならば止めません。「ただしイケメンにかぎる」ならぬ「ただしファラオにかぎる」限定台詞ですが、物語を読むとメンフィスのこうした暴君的な愛情表現に可愛げが見えてきてしまうのが『王家の紋章』 の魅力。メンフィスのド迫力な愛情表現で恋愛のモヤモヤをリセットしたいときにお勧めです。