冴えないアラサー社会人の主人公が突然異世界に転移し、別人のような姿になりチート能力を駆使して可愛い彼女と冒険を繰り広げていく異世界ファンタジー。三ツ葉大志(ミツバタイシ)はもうすぐ三十路になる、ゲームが趣味のメタボな契約社員だ。異世界転移した日も、パソコンでゲームやネットをした後ベッドにもぐりこんだ。そして、目が覚めるとそこは深い森の中だった。突如現れたモニターからの声に告げられたのは、ここは「エリアルド」という魔法のあるファンタジーな異世界であり、大志が転移してきたという事実だった。原作はリュートによる同名web小説。
異世界転生や転移というジャンルの魅力は、主人公が魔法やスキルを使えるという点にあるのではないだろうか。大志もそんな、魔法のあるファンタジー世界に憧れていたひとりだ。現実の大志は、お世辞にもカッコいいとは言えない。だが、突然の異世界転移によって大志の抱える事情はだいぶ変わった。まず容姿が劇的に変化した。細身ながら筋肉がしっかりとついた体型に、すらりと伸びた手足、顔つきも溌溂として日常の疲れを感じさせないものになった。それもそのはず、容姿どころか年齢も19歳と若返ってしまったのだ。肉体的にも精神的にも、やる気に満ちて動ける年齢から人生をやり直せるというのは恵まれた状況だ。転移生活は楽しいことばかりではないが、若返ってからの人生リスタートを羨ましく思う読者もいるだろう。
小さな村で冒険者をしている主人公が、ダンジョンで拾った小さな女の子を仲間として共同生活を送っていくほのぼの冒険ファンタジー。シノノメハジメは白銀等級という中堅の冒険者。田舎の村でのんびり依頼をこなす日々を送っていたが、ある日ダンジョンに潜っていると、小さな女の子がモンスターに食べられそうになっている場面に遭遇する。その少女・リルイは親に捨てられた子どもだった。一人で生きていこうとするリルイに自身の幼かった頃を重ねたハジメ。面倒は見ないと心に誓いながらも、リルイを村に連れて帰るのだった。
シノノメハジメは中堅の冒険者である。一攫千金を夢見てダンジョンに潜り、時に凶悪なモンスターと対峙する。少々粗暴で粗野なところもあるが、夢追い人らしく自由だ。かつてはそんな生活を送っていたが、走り続けることに疑問を持ち、田舎の村に活動の拠点を移した。村人に感謝されながら穏やかな時間を過ごしていたが、転機が訪れる。それがリルイの存在だ。一人でダンジョンに入ったが、リルイに戦い方の心得はない。ただでさえ危険なダンジョンの中、当然心得のない子どもが生きる糧を得るのは不可能だろう。しかしリルイは自立精神が旺盛な少女である。一人になったからと泣くわけでもなく、仕事を得ようとする姿はいじらしい。親の顔も知らず貧民街で生きるために戦い続けたハジメが、自分の幼い頃の姿を重ねるのは仕方がないだろう。最初は距離があったが、徐々に親子のような関係になる姿が微笑ましい。
周囲にすすめられるものの結婚に興味がなく、仕事に生きる29歳の主人公が、5歳年下の社長子息に翻弄されていくエロティックラブストーリー。春川実咲は仕事に打ち込んでいる29歳独身女子。周囲にもういい年だからと結婚をすすめられるが、興味を持てずにいた。両親からしつこくすすめられてお見合いをしたものの、その後の付き合いにあまり乗り気ではなかった。結局、仕事のせいで見合いを続けてドタキャンしてしまい、相手にフラれてしまう。独りでは生きづらい世の中に憤慨した実咲の前に、一人の男性が現れるのだった。
29歳は微妙な年齢だ。人生80年と考えればまだまだ先は長いが、堂々と「若い」と主張できるわけでもない。仕事にも社会人としての生活にもすっかり慣れた頃で、明確に「大人」と言える立場と経験を手に入れたわけだが、女性にはある壁が立ちはだかる。結婚である。いまだ世間的には30歳前での結婚、子育てという認識が一般的だ。一度でもこの手の話題を振られた独身の方であれば、実咲の心の叫びに大変共感できるのではないだろうか。しかも、実咲が運命的な出会いを果たした三橋理人(みつはしりひと)は、穏やかな恋愛ができるタイプではない上、色々と事情を抱えている様子だ。本作を読み進めていくうちに、読者は実咲と理人の相性が悪くはないことに気が付くだろう。
勤めていた会社が倒産、年下の大学生に貢ぎすぎて貯金もなく再就職もできないアラサー女子が元上司に再会、喫茶店で働きながら人生を立て直していく崖っぷちラブコメディ。柴田ミチコはアラサーの独身OL。突然会社が倒産し職を失い、就活も不採用通知が続いていた。しかも合コンで知り合った大学生に貢いでおり貯金はゼロという、不運の極みという状況だ。キャベツだけを食べて生活していたときに、元上司である黒沢歩と再会する。憔悴しているミチコを見かねた黒沢は、手料理を振る舞うのだった。2016年テレビドラマ化。
三十路というとそれなりに社会的地位を確立し、重要な仕事も任される年齢だろう。とはいえ、アラサー社員が全員、仕事に打ち込んでいるわけではない。ミチコもその一人だ。ミチコは貢ぎ体質で、戦隊ヒーローものに出演していたイケメン俳優、現在は合コンで知り合った大学生と、若くて顔の良い男子に弱い。喜んでくれるからという理由で貢いでしまう心理はファン層にはよく見られるが、自分の生活を切り詰めてすることではない。貢ぎ続けるという生活は、安定した収入があるからこそ成立する。ミチコは特技もなく、仕事ができるわけでもない。けれどどん底にいても、頑張ることができる。それに、ミチコの楽天的な性格は得難い才能だ。本作を読んでいるうちに、ちょっと肩の力を抜いて頑張ろうと思えてくるのではないだろうか。
29歳のモテない草食系男子にある日突然モテ期が到来、女性たちに翻弄されながら関係を築いていく等身大のラブコメディ。藤本幸世(ゆきよ)は29歳の派遣社員。大都会東京で、誰からも愛されず生きていくのだと思っていたところ、過去に知り合った女性たちから次々と連絡が入り始める。これが世にいうモテ期というやつなのかと浮かれた藤本だが、誰からも好意を打ち明けられたわけではないと、連絡を絶とうとする。藤本の脳裏には、苦い思い出が蘇るのだった。2010年にテレビドラマ化、2011年に実写映画が公開された。
人間誰しも一度は異性に好意を寄せられまくるモテ期というものが到来するらしい。モテまくるというくらいだから、複数から好意を寄せられるということなのだろう。思い返してみればアレかなという思い出が、読者にもあるのではないだろうか。藤本のモテ期はある日突然始まった。特に外出するわけでもなく、誰かと接触したわけでもない。突然過去に知り合った女性たちから続々と連絡が舞い込んだのである。これは正真正銘のモテ期だと言えるだろう。これくらいわかりやすければ、色々と対処の仕様があるものを、と思わないでもないが現実はそう上手くいかないものだ。藤本はあまり社交的な性格ではないが、外見も性格も完全なる非モテというわけではない。手痛い失敗例として登場する過去の回想も、間が悪いという印象で、要は縁がなかったということなのだろう。モテ期は失われた縁が再び繋がった結果だ。愛されずに生きるか愛し愛されて生きるか、本人の努力次第である。