『タコピーの原罪』の衝撃をもう一度！読後感がエグい鬱漫画オススメ５選66 Pt.

タコピーはしずかを喜ばせようと奮闘する。そこには純粋な善意と好意しかないのだが、本作で描かれるのは純粋な善意と好意の残酷さだ。タコピーは異星人である。それ故に、人間の悪意や人が抱える辛さを理解することができない。初対面のときから、しずかの様子は明らかにおかしかった。人間であればその姿を見て、しずかがとんでもない環境に置かれていることがわかるだろう。しかしタコピーは人間によるいじめの実態や、いじめによってどれだけ人の精神がボロボロになるのかなど、一切わからないのだ。理解していない者からの優しい言葉は時に傷ついた人の心を抉り、善意の行動は事態の悪化を引き起こす。タコピーの可愛らしさからは想像もできない、エグい展開の数々から目が離せない。

以前、福と宝が性行為をしたとき、ゴムが破れてしまったことがあった。恐らくそれが原因で避妊に失敗し、子どもができてしまった福。福と宝は真剣に想い合っているが、妊娠という命に関わる問題は、未成年の少年少女の気持ちだけでどうにかなるようなものではない。福はまず宝と向き合い、さらに親や周囲の人間と向き合いながら大きな決断を迫られることになる。産むのか、堕胎するのかという決断だ。どちらを選んでも、福にとっては重い決断となる。新しい命の誕生はめでたいことだが、状況によってそれは罪として見られ、世間から白い目を向けられる。未成年の性行為についてや命に対する責任、もしもがあった場合の親子の向き合い方などを考えさせられる作品だ。

愛子の母親は新興宗教にハマっており、そんな母のいる家から逃げ出したかった彼女はプンプンと「2人で鹿児島に行こう」と約束をする。しかし、その約束が果たされることはなく、プンプンと愛子は疎遠になってしまった。時は流れ、約束を守れなかったという事実が傷となったまま成長したプンプンの前に、再び愛子が現れる。本作ではプンプンと愛子の関係を軸に、人間なら誰にでも起こりうる問題や不幸が描かれている。秀逸なのは、問題や不幸に直面したときの登場人物たちの心理描写だ。子どものときの考え方、大人になってからの考え方など、歳を取るにつれて変わっていく人間の心理状態がリアルに描かれており、だからこそ鬱展開がより重たく読者の心に伸し掛かる。

春花が転校してきた大津馬中学校は、すでに廃校になることが決まっている学校だ。学校周辺地域は過疎化が進んでおり、住民の娯楽となるものはほとんどない。学校に通っていた少年少女たちは、自身が抱える家庭環境の悩みやストレス、過去のトラウマを癒やす場所を持つことができず、その苛立ちや歯がゆさを春花にいじめという形でぶつけた。彼らが春花に対して行ったいじめは口に出すのもはばかられるほど凄惨で、さらにそれがエスカレートしてついには殺人事件が起こる。どんな事情があれ、いじめっ子たちを擁護することはできないが、彼らに対する春花の復讐方法も目を背けたくなるほど残忍なものだ。トラウマ必至の作品であるため、読むには覚悟が必要である。

本作に収録されているのは9つの短編。ストーリーはそれぞれ独立しておりつながりはないのだが、タイトルからわかるように「変身」というテーマで描かれているという点は共通している。9つの短編に登場するキャラクターたちは皆、何かが欠落していてどこか歪。読者は登場人物たちに対して普通ではない、狂っているという感想すら抱くかもしれない。しかし、1つ1つの物語を読み進めていくうちに、この歪さこそ多くの人が自らの裡に持ちながら必死で抑え込んでいる人間の本質なのではないか、という感覚に襲われ、何とも言えない恐怖心が湧き上がってくるだろう。どの物語も最後に僅かな希望が提示されるが、それが本当に希望であるかどうかはわからない。