父親とひとり息子の絆と日常を描くエッセイ漫画。原作は、ヒップホップバンド「TOKYO No.1 SOUL SET」のギター兼ヴォーカル・渡辺俊美(としみ)が発表した同名エッセイだ。俊美は、息子・渡辺登生(とーい)の進学を機に、高校3年間は毎日お弁当を作ることを約束する。全国を忙しく飛び回る日々だが、朝は必ずキッチンに立ち、息子のお弁当を作り続ける。エッセイでは、イラストと供に詳しい献立内容が紹介されている。2015年に、エッセイを原作としたテレビドラマが放送された。
本作のお弁当の作り手は、人気男性ミュージシャンだ。近年は、「弁当男子」という言葉があるように、男性が自分や家族のためにお弁当を作る光景もそう珍しくない。とはいえ、毎日作り続けるとなれば負担は相当なもの。しかも、父・俊美が作るお弁当の中味は前日の残り物を入れて終わりというレベルではない。紹介されている料理名や調理手順を見ると、卵焼きに卯の花を入れるといったきめ細やかな工夫が凝らされていることが分かる。手の込んだ献立からは、親が子どもの健やかな成長を常に願っていることが強く伝わってくる。そんなお弁当を喜んで食べている息子の姿に、胸がほっこりと温かくなる作品だ。
「ドカベン」こと山田太郎が野球に打ち込む姿を描いた青春スポーツ漫画。太郎が所属しているのは明訓高校野球部。岩鬼正美や殿馬一人など、才能だけでなく一癖も二癖もあるチームメイトと共に甲子園出場を目指している。続編は、太郎たちの高校3年の夏だけを描いた「大甲子園」や「プロ野球編」「スーパースターズ編」「ドリームトーナメント編」。太郎の成長に従い活躍する舞台を変えて描かれ続けてきた長寿作品だ。1976〜1979年にかけてテレビアニメ化。1977年には実写映画公開された。
野球漫画の金字塔として、長く支持されてきた本作とお弁当がどう関わっているのかといえば、太郎の「ドカベン」というあだ名由来によるもの。太郎は温和そうな顔立ちに、ガッシリとした体格の持ち主。事故で早くに両親を亡くしているため金銭的な余裕は一切なく、大きなお弁当箱にはご飯だけがぎっしり敷き詰められている。そのドカッと大きいお弁当というビジュアルから、ドカベンとあだ名された。本作はスポーツ漫画だが、お弁当が登場するシーンは意外に多い。太郎のお弁当は、ご飯がぎっちり詰まった中に梅干しが乗った日の丸弁当が基本だが、たくあんなど少々のおかずが加えられたバージョンも。彼がおいしそうに食べるからなのか、読んでいると食欲が刺激される。
フリーターの青年と年齢の離れた従妹が、お弁当を通じて絆を深めていくハートフルラブコメディ。高杉温巳(たかすぎはるみ)の叔母・高杉美哉(みや)が事故死した。温巳は、彼女の遺言により、美哉の娘・久留里(くるり)の未成年後見人に指定される。こうして、2人の生活が始まった。地理学の研究をしている温巳の姿を通じて、地方でのフィールドワークや大学の研究者が普段どのようなことを行っているかなど、細かい部分まで描かれている点も特徴的だ。
本作ではお弁当が、初対面でなかなかなじめずにいる温巳と久留里が交流を深めるきっかけとなる。久留里は温巳と面識がなかったばかりか、思春期真っただ中で難しいお年頃の中学生。必要最低限の言葉しか話さず、人付き合いが得意そうにも見えない。一方の温巳も、コミュニケーション力にやや欠ける部分があり、他人の心の機微に鈍感なところがある。しかし、彼女がお弁当作りをすることになったことで、お互いに不器用な2人の距離が少しずつ縮まっていく。久留里が、空になったお弁当箱に満面の笑顔を見せる場面は印象的だ。
飲食店で出会ったオタク女子とオネエ男子の日常グルメ漫画。2人の出会いから始まり、お弁当を軸にした日常の物語が綴られている。中心となるのは2人の同居生活だが、大学図書館に勤務している主人公の「ハル」こと木野春葉(きのはるは)、看護師をしている同居人の蒼(あお)、それぞれの勤務先での様子や家族関係も描かれる。各話に登場するメイン料理のレシピも収録。
本作では、重度のオタク・ハルの生き方をお弁当が変える。ハルは、オタクすぎるあまり、お金と時間は二次元にすべてを費やしたいと思っていた。そのため昼食は、時間短縮ができるゼリー飲料だけで済ませてしまうことも多い。そんな彼女に、ルームシェアすることになったオネエの蒼がお弁当を作ってくれた。中身は、カリカリ梅とゆかりのおにぎりと卵焼き、ウインナーに野菜とごくシンプル。特別な献立ではないが、ハルの好みや体調を考えて作られた料理が心を温める。お弁当を作る側、食べる側になることで、ハルの世界が少しずつ広がっていく。
毎日コツコツと堅実に生きている女性の日常と恋を描いたラブストーリー。主人公・谷黄理子は、わっぱのお弁当箱を20年愛用している。デザイナーの彼女が得意とするのは料理。女優・谷原紅子の隠し子として生まれ、幼い頃から禅寺に預けられていたこともあり、彼女の作る料理には雑穀や麩を利用した健康志向のメニューが多くい。一部のレシピは記載されているので再現することも可能だ。
黄理子愛用のわっぱの弁当箱は、育ての親で禅寺の僧侶だった方丈爺から贈られたもの。手のひらに収まるサイズで、穀類と漬物を基本とし健康的な食生活を送る黄理子にとって、ちょうどよい1食分になっている。彼女にとって、わっぱの弁当箱は自分の心身の健康を保つために欠かせない大切なアイテムだ。毎日、煮干しと昆布から出汁をとった味噌汁を作り、稗や粟、玄米の混じった雑穀米を土鍋で炊く黄理子。心を乱された時も台所に立ち、料理をすることで平穏を保つ彼女の姿から、丁寧に料理することの大切さを学ぼう。