トニオ・トラサルディーと聞いてピンとこなくても、第4部の「イタリア料理を食べに行こう」に登場したスタンド使いと聞けば「ああ!」と思い出すかも知れない。ジョジョファンにとっては、それほど印象深い回である。トニオの出す料理を口に運ぶたびに、第4部主人公・東方仗助の盟友、虹村億泰の身体に異変が起きてのた打ち回り、その直後、みるみるうちに健康になってしまう。仗助はあっけにとられるばかり。筒井康隆の小説『薬菜飯店』を下敷きにしたアイディアと思われるが、それにしても荒木絵で見せ付けられると、すさまじい迫力だ。
忍者ちび丸の繰り広げる、シュールでナンセンスな、ほのぼの忍術合戦漫画。本作に限らず、杉浦漫画にはよく食事シーン、おやつシーンが登場する。のみならず、ストーリーのオチとして「みんなで食卓を囲んで楽しく食事をしながら、読者に向かってバイバーイ」というパターンがよく見受けられる。これがまた、うまそうなのなんの。串団子に大福、おでん、コロッケ、巻き寿司などなど。それらを頬張るキャラクターたちの幸せそうなこと。本作が人気を博した、戦後間もない食糧難の時代にはなおのことであったろうと推察される。
第一巻から、試合直前のおじやのドカ食いで驚かせてくれる刃牙だが、印象的な食事シーンといえばなんといっても、「安藤さんの保存肉」だろう。飛騨の山奥に住む安藤は、野生の怪物・夜叉猿と戦うが敗退。その敵討ちを決意した刃牙が、安藤の山小屋に残された野生動物の肉……熊肉1頭分、イノシシ5頭分、寸胴半ダースに及ぶ内蔵の塩づけ……を3ヶ月かけてガツガツ食らいまくるのだ。その後も作中では熊を丸ごと食うシーンが何度かあり、また格闘家たちが尋常ではない量の食事を平らげるシーンも頻出している。そこには、食らうこと=敵に勝つことという明確なポリシーがうかがえる。
19世紀中央アジア諸民族の暮らしぶりを活写する本作だが、第3巻には屋台のごちそうがところせましと並ぶ様子が描かれている。大鍋で炊き上げるピラフ風の焼き飯、五目肉うどん、キジをはじめさまざまな肉の串焼き、羊の丸焼き、腸詰め、焼き饅頭と魚の包み揚げ、ザクロにハミ瓜などなど。もう、見ているだけでたまらなくなってくる。他にも、主人公アミルが焼いていたウイグル風の大きな模様入りパンなど、本作の食事シーンには作者のこだわりがあふれんばかりに詰まっている。
狩猟免許をもつ作者みずからのドキュメンタリー風サバイバル漫画。ハトやカモ、ウサギ、猪、鯉、ときにはカラス(!)まで、ありとあらゆる野生の生き物を狩り、自分の手でさばき、調理して食らっていく。野生種だけに、ときにはとても食べられないくらいマズくて失敗したりもするのだが、おおむねそこいらで買った肉よりはるかにうまそうに見えるし、実際にうまいのだろう。コミカルな内容に笑いながらも、「人間はみな、生命をいただいて生きている」というあたりまえの事実を思い起こさせてくれる一作。