古い時計塔(幽麗塔)を巡って、さまざまな猟奇的事件が巻き起こるホラーサスペンス。舞台は、1954年の神戸。天野太一は、カストリ雑誌(当時のエロ雑誌)を片手に引きこもりの日々を送っていた。そんなある日、国民学校高等科時代のマドンナだった花園恵とかつて太一をいじめていた三村辰彦と再会し、2人が婚約したことを知る。太一は、激しい嫉妬心を抱き、遺産で裕福に暮らす自分にも美しい婚約者がいるととっさに大嘘をついてしまった。すると、1人の美青年が「お迎えに参りました」と現れ、彼をハイヤーへと誘う。
太一の前に現れた謎の美青年「テツオ」こと沢村鉄雄が、本作に登場する男装ヒロインだ。鉄雄は、物の考え方や性格も男性的で、頭脳明晰な上、運動能力も抜群。しかしその正体は、2年前、突然動いた時計塔の針に縛りつけられ殺害されていた藤宮たつの養女・藤宮麗子だった。彼女は、月々の下宿代にも困っていた無職の太一の弱みに付け込み、「幽麗塔に眠る財宝でひと儲けしよう」と仲間に引き入れる。百数十年もの長い間動かなかった塔の時計が、なぜその時に限って動いたのか。そして、たつはなぜ殺されなくてはならなかったのか。幽霊塔の謎を解明しようとする太一に、塔の住人・死番虫の魔の手が迫る。ホラーだけでなく、推理的要素もふんだんに盛り込まれた極上エンターテインメント作品だ。
平安時代を舞台に、同じ日に生まれた男女が真反対の性格ゆえに性別を取り換えてしまうという男女逆転物語。権大納言の藤原丸光(ふじわらのまるみつ)には、東の方、西の方という2人の妻がいた。2人の妻は同時期に懐妊し、ほぼ同じ時刻にそれぞれ女の子と男の子を出産する。子供たちはそれぞれ「沙羅双樹(さらそうじゅ)の姫君」「睡蓮(すいれん)の若君」と呼ばれ、双子でもないのに姿形がそっくりだった。美しく成長した姫君と若君だったが、沙羅双樹は弓矢が得意で男の子と遊ぶ活発な姫君、睡蓮は女の子との貝合わせ遊びに夢中と、性格は性別とは真反対だった。
周囲の者たちは、性格が真反対の2人を次第に「沙羅双樹が若君」「睡蓮が姫君」と勘違いするようになる。美しく成長した2人の噂は帝にも伝わり、沙羅双樹を若君と思い込んでいる帝は、彼女に「宮仕えせよ」との命を下す。父である権大納言の丸光は、帝の命に逆らうことが出来ずに止む無く2人を取り換えることに。こうして沙羅双樹を元服させて宮仕えに、睡蓮は女として成人させる。ところが、2人の秘密を知った時の権力者によって、沙羅双樹と睡蓮は宮廷での覇権争いへと巻き込まれていく。原作は平安時代の古典『とりかえばや物語』。タイトルの「とりかえばや」とは古語で「とりかえたいなぁ」との意味である。性別で役割を決められることに疑問が提示られている現代にも通じる珠玉作品。「温故知新」という言葉はこの作品のために在る。
3人の学生が第一次世界大戦やロシア革命に翻弄される壮大な歴史ロマン。舞台は、「その塔の窓に立って地上を見下ろした時、一番初めに見た女性と宿命的な恋に落ちる」という伝説が残るドイツ・レーゲンスブルクの音楽学校。その窓を通して、ユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤとイザーク・ゴットヒルフ・ヴァイスハイト、そしてクラウス・フリードリヒ・ゾンマーシュミットが出会う。しかし、伝説には「その恋は必ず悲劇に終わる」という続きがあった。複雑に絡む人間関係や歴史のうねりに巻き込まれていく彼らの悲恋と運命が描かれる。
主人公の1人であるユリウスは、由緒あるアーレンスマイヤ家当主の父と愛人との間に生まれ、女の子として生まれたにも関わらず男の子として育てられる。父と正妻との間には女の子しかいなかったため、愛人だった実母が、自分の子どもを次期当主にしようと仕組んだためだった。ユリウスは、正妻が亡くなった後、父の邸宅で腹違いの姉たちと住むことになり、女であることをそのまま隠して、男子校の聖セバスチアン教会付属音楽学校に入学。そこには、ギリシャ神話の悲恋物語として伝わる「オルフェウスの窓」があった。伝説の窓に導かれるように巡り合った3人のドラマチックな運命から目が離せず、ファンの間では『ベルばら』以上に人気があるとも言われている。
高校のホスト部の雑用係のなったヒロインが、女性であることを隠しながら部員として成長していくラブコメディ。主人公の藤岡ハルヒは、上流階級の子息令嬢が通う私立桜蘭学院高校部に特待生として入学する。しかし、自らの不注意で校内オークションに出店する予定だった「ルネ」の花瓶を割ってしまい、弁償金800万円を支払わねばならなくなった。ハルヒは返済のためにホスト部に入部。「ホスト部の雑用係(犬)」となるが、眼鏡を外した素顔が美系だったことから接客係に昇格し、弁償金取り消しの条件として「100人の指名客を集める」とのノルマを課せられる。2006年にテレビアニメ化。2011年に実写ドラマ化され、翌2012年に続編が実写映画化。
ハルヒは、借金を返済すべく、女子であることを秘密にホスト部に入部した男装ヒロインだ。一般庶民の家庭育ちながら、超お金持ちばかりが通う桜蘭高校に特待生枠で入学したため、周囲の金銭感覚について行けず毎日苦労が絶えない。彼女の対極と言えるのが、暇とお金を持て余した女子生徒をもてなす美少年たちが集まるホスト部だろう。ホスト部は、同校南校舎最上階の第三音楽室内にあり、合い言葉は「強く、気高く、麗しく」。途中で女子であることが判明するハルヒとホスト部部長の須王環や、他の部員との間に芽生える恋愛感情の行方に注目だ。
男として徴兵されたヒロインが戦乱の世に巻き込まれていく中華歴史活劇。時は611年。皇帝が、第二次高句麗遠征計画を実行するにあたり全土に徴兵を命じた。花木蘭(かもくらん)は、お家の事情から、女であることを隠して徴兵に応じる。見た目が華奢な木蘭は、集合地への移動途中に男色の輩に襲われるなど前途は多難だ。原作は、「銀河英雄伝説」で一躍人気作家となった田中芳樹。
木蓮は、役所から徴兵の命が届くも若い男子がおらず途方に暮れる両親の前に、鎧をまとった男装姿で現れる。それは、過去に従軍した折に負傷し、歩くことが困難になったにもかかわらず出兵しようとする年老いた父親の身を案じ、自らが徴兵に応じるためだった。両親は、武装した麗人となった木蓮を前に猛反対するが、娘の決意の固さを知ると心配しながらも送り出す。もともと武芸を好み、男勝りなところのあった木蓮は、広い世界を見ようと勇んで旅立った。その後、同じく高句麗遠征軍の兵士として集められた賀延玉(がていぎょく)と出会い、ぶつかり合いながらも信頼関係を深めていく。共に戦いゆく木蓮と延玉の関係がどうなるのかはもちろん、壮大な歴史を背景にした展開も魅力。歴史好きのみならず、これから中国の歴史を学ぼうと思っている方にもお勧めだ。