ひょんなことから映像制作の世界に足を踏み入れた女性と、彼女を支える男子学生が織りなすヒューマンストーリー。65歳の主婦・茅野うみ子は夫を亡くし、退屈な毎日を過ごしていた。ある日うみ子は、しきりに趣味を勧めてくる近所の主婦から逃れるため映画館へ逃げ込む。かつて夫と観に行っていた頃とすっかり様変わりしている映画館にうみ子は戸惑い、男子大学生・濱内海(はまうちかい)とぶつかってしまう。その出会いが、彼女の新しい人生の一歩となるのだった。
久しぶりの銀幕にうみ子は、自分が「映画を見る観客」に興味を示していることに気づく。帰り道、海と偶然再会したうみ子は彼が映像制作の美大に通っていると知り、自宅の壊れたビデオデッキを修理してほしいと依頼する。直したデッキで一緒に映画を見たあと、海から「映画を作りたい側」ではないかと指摘される。自らの隠された情熱に気づかされたうみ子は、波にさらわれるような衝撃をおぼえた。娘の勧めもあり、うみ子は本格的に映画製作を学ぶため海の通う大学に入学を決意する。老いていくだけの人生を歩むはずだったうみ子が海と出会い、遅れた青春を取り戻すさまが眩しく感じられる。新しくものごとを始めるのに年齢は関係ないということを、改めて思い出させてくれる作品だ。
恋を知らずに還暦を迎えた女性が、不思議な力で若返り青春時代を取り戻すラブファンタジー。主人公・如月澄(きさらぎすみ)は、祖母の介護のため高校を中退し、続けて両親を看取ったため恋愛や結婚をしないまま60歳になっていた。澄は遺品整理を行う中で、黒猫の絵が描かれた屏風を発見するが、指を傷つけ血をつけてしまう。その晩彼女の元に現れたのは、血をつけたことで封印が解かれた黒猫の化身・黎(れい)だった。2016年にテレビドラマ化。
澄は、夢とも現実ともつかない中で黎に願いを叶えてやると迫られる。「17歳になって青春を楽しんでみたい」と願う彼女に、黎は人間の姿となり口移しで自らの生気を分け与えた。彼女が目覚めると、なんとその姿は17歳の少女に若返っていた。黎のはからいで澄は「如月すみれ」として生まれ変わり、再び高校生活をやり直すことに。クラスメイトのイケメン・真白勇征と交際したり、黎の許嫁・雪白の封印を解いたりとさまざまな経験をする。しかし、大学入学を目前にして真白が病に倒れ、澄は重大な選択を迫られるのだった。昭和の抑圧された家庭に生まれた澄が、キラキラと輝きながら青春を謳歌するさまに胸を打たれる。本当に大切な存在に気が付いた彼女がたどり着くラストは感動必至だ。
80歳にしてネカフェ難民となった女性が、仕事と家族のトラブルを持ち前のバイタリティで切り抜けるReライフワーク漫画。主人公・幸田まり子は80歳にして雑誌連載を抱えるベテラン作家だ。息子夫婦と孫夫婦にひ孫の四世代同居で幸せな生活を送っていたが、彼女に内緒で家の建て替えを画策していたことが発覚する。ある出来事から、自分が家族の厄介者であることを痛感したまり子は、家出を決心。一人暮らしをすべく不動産屋を回るが、高齢であることを理由に断られネットカフェに流れ着く。
ネットカフェ難民として生活するまり子だったが、捨て猫を拾ったことから退去を余儀なくされる。そんな彼女に手を差し伸べたのは、かつての作家仲間の元夫・八百板親承(やおいたちかつぐ)だった。なりゆきで同棲を始める二人だが、八百板が引き起こした交通事故をきっかけに引き裂かれてしまう。ネカフェに戻った彼女を待ち受けていたのは、連載の打ち切りだった。だが、まり子は困難に負けずネットゲームで知り合った仲間と共にウェブ雑誌を立ち上げることを決意する。老いらくの恋や慣れぬウェブの仕事など、80歳と思えないほどのエネルギッシュさで難局を切り抜けるまり子が逞しい。さらには、知らないうちに離散状態となっていた幸田家を彼女がどう救うか、ファミリードラマとしての見どころもたっぷりだ。
殺し屋たちを次々と撃破する最強のBBA(ババア)の生き様を描いた、ハードボイルドギャグ漫画。どこにでもいる普通の老婆・野沢マコト77歳。一人暮らしを満喫しながら、今日も大好きなカレーに舌鼓を打っていた。しかし、彼女の頭上にはヤクザに雇われた殺し屋・戌亥(いぬい)マサムネの姿があった。マサムネが刃を振り下ろしたその瞬間、マコトは俊敏な動きで身をかわす。そして逃げ惑うマサムネを追いかけ、奪った刀で返り討ちにするのだった。
マサムネは、かつて漫画家を目指していた。彼の漫画を否定した編集者を刺殺したことから悪の道へ堕ちていたが、マサムネは再びペンを握ることを決意する。その後もマコトに深い恨みを持つヤクザの差し金で、次々と殺し屋たちが送り込まれるが脅威の力でねじ伏せてゆく。実は、マコトの正体は元・公安機動特殊捜査隊隊長だった。かつてマコトが殲滅させた悪の組織「暁真党」の新藤キョウシロウが脱獄したことから、再びマコトは公安に呼び出され闘いに身を投じる。77歳でも、マコトの動きは現役バリバリだ。そんな最強キャラでありながらカレーが大好きだったり、タバコを吸うとパワーアップしたりとチャーミングな一面がクスリと笑わせてくれる。
元SPの老人と少女スナイパーの凸凹コンビが、法で裁けぬ悪人たちを始末するバディ・クライムアクション。元警視庁の凄腕SP・平賀雷蔵は定年を機に退職するも、唯一の孫である平賀正太が難病に冒されたことから月100万円の治療費を稼がなければならなくなる。ある日雷蔵は、「SS機構」なる組織の求人募集を見かける。応募条件をすべて満たし月収100万ということもあり雷蔵は応募を決意するが、それは想像を絶する「裏稼業」だった。
SS機構が居を構える吉祥寺の古書店を訪れた雷蔵を出迎えたのは、店番の少女・涼風美晴だった。室長の絹目からさっそく試験を兼ねた研修を命じられ、ホテルの一室に向かう。そこで雷蔵が見たものは、頭を撃ち抜かれて絶命する男と銃を構えた美晴だった。美晴いわく、SS機構は政府公認の暗殺組織であり自分は殺し屋であるとのこと。雷蔵は渋々死体を処理するが、追手に襲撃されてしまう。しかし二人は絶妙のコンビネーションで追手を殲滅し、以後バディを組み次々と悪人たちを成敗してゆく。冷徹かつ超絶スナイパーの美晴に、酸いも甘いもかみ分けた雷蔵の老獪な仕事ぶりが痛快だ。闘いの舞台を海外に移し活躍する後半のストーリー展開にも要注目である。