「今の飛雄馬にせめて姉としてこの言葉を贈ります。幸福は肉体の健康によろしい。だが精神力を発達させるのは心の悲しみである―(プルースト「見出されし時」より)」…主人公・星飛雄馬の姉、星明子というと、苦しむ飛雄馬を物陰から見守って泣いている控えめな女性というイメージですが、実際に原作を読むと実はさほどそんなシーンはなく、むしろ気丈な芯の強さを持ちつつも、飛雄馬が自立する前は家庭のためにそれを押し殺していただけだったという印象が残ります。上記の台詞は正確には台詞ではなく、連絡先を告げずに家を出て行った明子から飛雄馬へ来た手紙の一文。苦しくても逃避を許さず、それを精神的な糧とせよという叱咤激励です。この一文を持ってしても、明子の強さが星一家を支えていたことがわかりますよね。何気にこの言葉がプルーストの大・大長編『失われた時を求めて』の最終篇を出典とすることにも注目。そう、明子姉ちゃんは筋金入りの文学少女でもあるのです。
「竜児、これがお前におしえてやれる姉ちゃんの最後のパンチだ! しっかり見とけ!!」…主人公、高嶺竜児の姉、高嶺菊は、世界ランカーであった亡き父からボクシングテクニックとセンスを受け継いだ、天才ボクサー。ですが漫画連載当時の日本において女子ボクシングの世界は開けておらず(JBCが女子部門を設立したのはなんと2007年のこと)、菊の才能はただ弟・竜児への指導のみに発揮されることとなるのでした。そうして竜児を鍛え上げ、数々の戦いを経て竜児に自分はもう必要ないと感じた菊の台詞が上記のもの。この台詞のあと、強烈なアッパーカットを放って竜児を川に落とすのはやりすぎとしても、この時のアッパーカットが、竜児が最後に放つ必殺技「ウイニング・ザ・レインボー」の布石となるという名シーンでもあります。
「一番こわいのはこの痛みなの? 痛いのってこわい? あんた いつまでも…大人になってもひとりじゃなんにもできない方がもっとこわいとは思わないの?」…普段はいじめられて泣いて帰ってくる弟を優しく慰めていたお姉ちゃんが、いざという時に叱咤してくれるという定番ながら、勇気を振り絞るにはもってこいの熱いシチュエーション。この台詞を言っているのは、ジョジョ第1部の主人公・ジョナサンの宿敵・ディオに襲われた街の少年、ポコのお姉ちゃん。名も無いキャラクターではありますが、臆病風に吹かれ「明日はやる」と繰り返すポコの頬を張ってのこの台詞は、ポコと、そして読者の心を強く揺さぶりました。
「もっと こー 世間並に明るくさわやかな弟がほしかったな 暗闇でノイバウテンきくようなヤツじゃなくて」…お姉さんキャラはなんだかんだで世話焼きな性格が多いようですが、実際の本音はどうなのでしょうか。『KISSxxxx』の主人公・カノンの姉、織る子さんのこの台詞のように、手間がかからない弟妹なら気にせずに済むのになあ、と思っていても不思議ではありません。織る子さん自身かなりマイペース……というか自分のやりたいことをやりたいようにやる意志のはっきりしたタイプであり、一見ぼんやりしているものの芯の強いカノンの行動をさほど心配していないように見えません。とはいえ、それでもやっぱりなんとなく気になっているからこそ、こういった台詞が出てくるのかもしれませんね。