謎の女「バルボラ」に出会った作家が体験する奇妙な物語。流行作家の美倉洋介は新宿駅でアル中の女・バルボラを拾う。だらしなく、手癖が悪いにも関わらず美倉はバルボラを家に置いていた。そんな美倉は異常性癖者で、マネキンや雌犬を本物の女性と思い込んでしまう。そして、恋から醒めた美倉の側にはバルボラがいた。2019年に実写映画化。
知名度や人気から政治家や出版社に縁談を持ちかけられる作家の美倉洋介。しかし美倉は、普通の恋愛ができない人間だった。マネキンや雌犬と恋に落ちる度に、呆れてバルボラは出ていくが、またよりを戻して暮らしている。そんなある日、美倉と懇意にしていた政治家が倒れた。時を同じくしてバルボラは美しい女性に変貌。美倉はバルボラが政治家を呪い殺し、自分を誘惑する魔女だと悟る。それでもバルボラと結ばれる決意をするが、結婚式(黒ミサ)の最中に警察に踏み込まれ、2人は離れ離れに。バルボラを喪った美倉は、別の女性と結婚するが行き詰まりを感じてしまい、再びバルボラを探すのだった。
第二次世界大戦前後の時代を舞台に、三人の「アドルフ」の数奇な人生を描いた歴史物語。1936年、アドルフ・ヒトラー率いるナチスが台頭するドイツで、日本人記者の峠草平の弟が殺害された。だが、その死はうやむやにされる。その頃、日本では2人の少年が親睦を深めていた。ドイツ人外交官の息子「アドルフ・カウフマン」と、ユダヤ人の少年「アドルフ・カミル」であった。
本作はアドルフ・ヒトラーがユダヤ人であるという出生文書を巡って起きる陰謀と、それによって運命を狂わされ、翻弄された人々の愛憎劇である。ヒトラーはユダヤ人大量殺戮をしたナチス総統。しかし、そんな彼自身がユダヤ人だという出生文書が密かに日本に持ち込まれた。その頃、日本で出会ったカウフマンとカミルは親友に。だがカウフマンはドイツに帰郷し、ナチズムに染まる。そのため亡命ユダヤ人であるカミルとカウフマンとの間には埋めることのできない溝が生じる。その後、ヒトラーの死によってナチスは崩壊するも、カウフマンとカミルの遺恨と決別は中東の地でクライマックスを迎えるのだった。
謎の美女「I.L」と彼女を与えられた男が織り成す奇妙な物語。映画監督の伊万里大作は時代の波に呑まれ、監督を廃業することに。そんな時、アルカード伯爵と名乗る人物からどんな姿にもなれる女優「I.L」を渡される。伊万里はI.Lを使って世界中の人々の陰謀や欲望を叶え、時に破滅への橋渡しをすることになる。
オムニバス形式で綴られる奇妙な物語。落ちぶれた映画監督の伊万里は、「アルカード伯爵」と名乗る人物と出会い、とある依頼を受ける。それは夢や幻想を喪いつつある現代に、理屈では解けないような事件を演出してほしい、というもの。そのために役者としてどんな姿にも変身できる謎の美女「I.L」を譲渡される。I.Lは伊万里の別れた妻や亡き母親の姿に変身して、変身能力を示した。伊万里は彼女を使って身代わり業のようなものを始める。依頼は様々で、個人的な悩みから国家の陰謀まで。2人の事業は上手くいっていたが、人形のようであったI.Lに徐々に感情のようなものが芽生え、ズレが生じていく。
架空の都市で起きたサスペンス物語。南アルプスの天竜川沿いにある都市は、大手時計メーカーが参入したことで急激に発展を遂げた。この時計メーカーに勤務する白川は、ある日町の異変に気付く。新聞が決まったものしか届かない、ラッシュ時に車が見えない、町からも出られなくなる、など。その陰には国家転覆を狙う一団があった。
物語の舞台は人口四万人の地方都市。この町を発展させた大手時計メーカーに勤務する白川は、妻の主義に従ってパン食生活をしていた。ある日、白川は町全体に違和感を覚える。それは新聞や交通、警察の対応など。そんな時、白川は会社の同僚女性・秋吉から社食の米から変な味がすると相談された。弁当もパン食で気づかなかった白川は知人の薬屋に米の分析を依頼。すると米から精神や思考が鈍る劇薬が発見される。この異常に気付いた薬屋は行方不明となった。真相に近づいた白川の前に事件の首謀者が現れる。首謀者の男は、国家転覆を目論んでいて、東京占領の予行訓練としてこの地方都市を閉鎖したのである。真実を知った白川は、とある決断をするのだった。
悪魔と契約を結んだ大学教授の物語。大学闘争真っただ中の1970年。NG大学の老教授・一ノ関は、生命の神秘に魅せられた研究者だ。だが数々の功績を残しながらも、真理に辿りつけず絶望していた。そんな彼の前に女悪魔・メフィストが現れる。魂と引き換えに若い肉体を手にいれた一ノ関は、自らの手で生命を創造しようと野心を抱く。
本作は手塚治虫最後の作品であり、未完の傑作。入院中でありながらも病床から執筆を続けた作品である。本作の主人公・一ノ関は生命工学の権威であり、ノーベル賞候補にもあがった功績を持つ。しかし、晩年になっても未だに生命の本質を見極められず、自殺を図る。そんな時、メフィストが現れて一ノ関の望みを叶える代償に魂を売り渡す契約をする。若い肉体を手に入れ、一ノ関は坂根第一という二十歳の若者になった。第一は一ノ関の記憶を喪っているが、優れた知識は引き継いでいる。しかも実業家に気に入られ養子に。やがて実業家の莫大な財産を引き継ぎ、生命の創造主になる野望を抱く。そんな第一にメフィストは心を奪われ、彼の野望に手を貸し続けるのだった。