毒ガス化学兵器「MW」を巡るクライム・サスペンス。カトリック神父・賀来巌の元に犯罪者・結城美知夫が懺悔をしに現れる。誘拐殺人を繰り返す結城に、賀来はその狂気を止めようと試みる。だが結城の策にはまり、賀来は結城の計画に加担するようになってしまう。だが結城の真の企みを知った賀来は、命を賭けて阻止に向かう。
猟奇殺人や国家陰謀といったダークな題材を取り入れ、さらに愛憎の入り混じる同性愛を描いた大人向け作品。本作の主人公は神父の賀来巌と、猟奇犯罪者である結城美知夫のふたり。彼らはは十五年前、沖ノ真船島で初めて出会う事になる。まだあどけない少年だった結城に魅了された賀来は、彼と肉体関係を結ぶ。その時、外国軍が秘密裡に制作していた毒ガス「MW」が漏れ、彼ら以外の島人は死滅。その地獄のような体験から脳にダメージを受け、結城は猟奇犯罪者となってしまう。一方、不良少年だった賀来は神の道に救いを求め神父になったが、犯罪を繰り返す結城を止められず苦悩する。そして賀来を巻き込んで犯罪を繰り返す結城の真の目的は、「MW」を手に入れることだった。2009年に実写映画化。
戦後の世情とそれに翻弄された悲劇のヒロインを巡る愛憎劇。東北の旧家・天外家の次男である仁朗は、GHQの諜報部員である。彼が戦争から復員して帰ってきた天外家では、妹の奇子(あやこ)が産まれていた。ある日、仁朗は任務のために人殺しをするところを奇子に目撃されてしまう。秘密保持のため奇子は死んだとされ、蔵に幽閉されてしまうのだった。
戦後の混乱期における人の業と欲、戦前の旧家のしがらみなども交えて描かれるダークな人間ドラマ。初登場時の奇子は、4歳の愛らしい少女。彼女は仁朗の父と兄嫁の間に産まれた不義の子であった。仁朗の兄・市朗が、財産目当てで自分の嫁を差し出したのである。家長の横暴が当たり前の天外家を嫌悪する仁朗。だが仁朗は諜報部員としての任務で行った殺人を奇子に目撃され、彼女を蔵に監禁する。奇子はそのまま蔵の中で常識を知る機会もなく、美しい女として成長するが、彼女は孤独から異母兄・伺朗と肉体関係を結ぶ。一方、仁朗は自分が原因で監禁された奇子のことを気にかけていた。やがて蔵が取り壊されることになり、奇子は外の世界へ。しかしそれは、奇子へ新たな苦悩をもたらすのだった。
高度な知能を得た鳥たちが、人類に代わって地上を支配するSF作品。物語は、とある農家で出荷用の鳥に脳を発達させる餌を与えたことから始まる。知性を持った鳥は火を使うことを覚え、やがて人の支配から逃れ、ついには人を支配するようになる。だが、鳥によって築かれた新たな世界にも、かつての人間社会のような歪みが生じていく。
短編オムニバス形式で描かれる、鳥と人間の進化、そして衰退を描いた本作。手塚作品で「鳥」といえば『火の鳥』が著名であるが、本作でも人類を凌駕する「鳥人」が登場する。本作に登場する鳥人は人間のエゴによって生まれ、進化し、やがて人類を衰退させる原因となった。知能を獲得した鳥たちは火を使い、人間を襲い始める。だがやがて鳥と人間との間で全面戦争が勃発し、鳥人たちは人間に代わり地上を支配するようになる。だが、人間の支配から逃れた鳥人たちもまた、かつての人間たちと同じように自らの欲で衰退していく。鳥人側と人間側、互いに親愛の情を持つ者もいたが、それも大勢の愚かな者たちによって潰されていくのだった。
医師会の派閥争いに巻き込まれ、自らも病に冒されながらも奇病に立ち向かうひとりの医師の物語。肉体が退化し、獣のような姿になって死んで原因不明の奇病・モンモウ病。その病を研究する医師・小山内桐人は、この病を風土病だと推測。しかし彼の研究を邪魔に思う者の陰謀にはまり、自らもモンモウ病に冒されるのであった。
奇病・モンモウ病に苦しむ人を救いたいと願う主人公の医師・小山内桐人。彼は患者と真摯に向き合い、モンモウ病が風土病であると推察した。しかし論文を発表しようとした桐人は、モンモウ病は伝染病であると主張する竜ヶ浦博士によって阻まれてしまう。竜ヶ浦は医師会の会長選出馬のため、何としても自説を学会に認めさせたかったのだ。そんな思惑も知らず、桐人はモンモウ病患者を多く出している僻地、犬神沢へ向かう。そこで桐人はモンモウ病に罹患し、さらに逆恨みを受け台湾へと拉致されてしまう。以降、病で犬のような顔となった桐人は過酷な旅をすることになる。苦難と陰謀の中でも、医師であろうとする主人公を描いた作品だ。
世界に復讐を目論む犯罪者・アラバスターと、彼に見いだされた少女・亜美を巡るクライム・サスペンス。ジェームズは、かつてオリンピックで金メダリストとして脚光を浴びていた黒人の青年。しかし彼はある女性に裏切られ、収監された刑務所で体を透明にする光線銃を手に入れる。彼は透明な肌をもつ怪人・アラバスターと名乗り、世界から美を全て消し去ろうと誓う。
本作の主人公・アラバスターは、人種差別を受けた屈辱から、凶行を重ねる犯罪者だ。かつて彼は交際していた白人女性のスーザンから黒人であることを侮辱され、カッとなった勢いで事故を起こし刑務所に収監される。そこで知り合った科学者から、体を透明にする光線銃を譲られた。彼は自らの黒い肌を透明化し、スーザンを殺した後も怪人・アラバスターとなって世界中の美を消し去ろうと暗躍する。やがてアラバスターは透明光線を発明した科学者の孫娘で、生まれつき透明な体を持つ亜美に目をつける。亜美を悪の道へと引きずり込もうと画策するアラバスター。社会に背き、犯罪に手を染めていく人の心を描く作品だ。