味、香り、音、すべてがそそられる中国（中華）料理を今食べたい！ オススメ漫画５選43 Pt.

四千年の歴史を誇る中国料理が、現代に通じる形に向かって完成しつつあった清朝末期が舞台になっている本作。読者にも馴染みの深い中国料理が登場する。主人公のマオが、初の料理対決で作るのは、四川を代表する料理・麻婆豆腐だ。マオは、四川料理の仙女と呼ばれた料理人・パイを母に持つ13歳の少年。そして、今は亡き母が料理長を務めていた国営の菜館（レストラン）である菊下楼では、料理長交代の折には、新旧料理長による料理対決が行われ、勝った方が料理長になるならわし。審判を務めるのは、宮廷料理の司膳太監（大厨房の総監督官）であるリー提督。マオは母の跡継ぎとして、鋭い味覚を武器に、料理人として初めての勝負に挑むのだった。

本作で登場する料理が美味しそうなのはもちろん、沈夫人からのサディスティックなまでの無茶なオーダーと、それに李三が健気に応えていく様も読みどころだ。なよやかで美しい佇まいながら、沈夫人の恐ろしさはなかなかのもの。李三の前任者は作った料理が沈夫人の口に合わず、ペットの犬の餌を作る料理人にされてしまった。その上、餌を犬が食べなかったときに料理人の指を切断し、犬の餌にしたというのだ。そんな沈夫人の料理人でいるのは生きた心地がしなさそうだが、沈夫人の信奉者たる李三は違う。彼女の期待に応えようと熱心に試行錯誤を繰り返す。読んでいるだけで垂涎のレシピも紹介され、沈夫人と李三の心理戦の裏に、中国料理の真髄が見え隠れする。

炒飯といえば、身近なラーメン店や家庭の食卓にものぼるお馴染みのメニューだ。主人公・華子が腕を振るうようになる上海亭は、小さいながらも炒飯がうまい店として中華街でも評判だった。老店主が使っていた特注の中華鍋は、並の料理人では扱うのも難しいもの。肩を痛めて腕を振るうことができず店を畳むことも考えていたところに、楊貴妃に導かれた華子が現れたのだった。鍋を自在に扱うことができた華子は満点大飯店の昼休みの間に、上海亭で炒飯を作る日々を送るようになる。巻末には華子が作中で披露する炒飯レシピも収録。季節の食材を取り入れ、柔軟な発想で開発されたメニューが揃う。読んでも作っても美味しい作品になっている。

読者の度肝を抜くような中華料理が次々と登場する本作。空前絶後、独創的な料理が登場するのはもちろんだが、その料理を生み出す醤のすさまじい技術も驚愕ものなのだ。さらに読者は、醤の最凶の料理人ともいえるふるまいにみたび驚かされるだろう。「料理は勝負」と言い切る醤は、勝つためにはいかなる手段を使うことにも躊躇しない。対戦相手のミスを誘うのも朝飯前。それでいて、技術に絶対の自信がある醤の態度は傲岸不遜きわまりなく、料理の審査員相手にも歯に衣着せず、ゴマをするようなことは一切ない。勝つことへの飽くなき執着と徹底した実力主義が、料理バトルをさらに白熱させ、面白くさせている。

主人公のカイマンたちが暮らすのは、ホールと呼ばれる世界。ホールにいるのは普通の人間だが、異世界から時たま訪れる魔法使いたちの「練習台」にされたせいで、カイマンのように異形の姿にされた者も多く、町にはよどんだ雰囲気が漂う。それでも腹が減るのは変わりなく、カイマンの相棒・ニカイドウが営む定食屋・空腹虫（ハングリーバグ）は賑わっている。カイマンの好物はニカイドウの手作り餃子。魔法使い狩りで、藤田を取り逃がして落ち込んだカイマンに「元気出せよ。ウチの食堂でお前の好きな『大葉入りギョーザ』作ってやるから」と声をかけたりもする。闘いで首がふっとぶようなダークでサイバーパンクな世界観を庶民的な中華料理が中和してくれるのだ。