無職転生 ~ロキシーだって本気です~

無職転生 ~ロキシーだって本気です~

理不尽な孫の手の小説『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』のスピンオフ作品。原作におけるヒロインの一人であるロキシー・ミグルディアの過去に焦点を当てた物語で、彼女が故郷であるミグルド族の村を出てから冒険者としてどのような旅路をたどったかを描いたファンタジー冒険譚(たん)。一部コミックスの巻末には、理不尽な孫の手による書き下ろし小説が掲載されている。KADOKAWA「ComicWalker」で2017年12月21日から2023年7月14日まで配信。

正式名称
無職転生 ~ロキシーだって本気です~
ふりがな
むしょくてんせい ろきしーだってほんきです
原作者
理不尽な孫の手
作者
ジャンル
アドベンチャー
 
ファンタジー
レーベル
MFC(KADOKAWA)
巻数
全12巻完結
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

魔大陸のビエゴヤ地方に位置するミグルド族の村に産まれたロキシー・ミグルディアは、ミグルド族が先天的に持ち合わせているはずのコミュニケーション手段である「念話」を使えない子供だった。両親との会話にすら四苦八苦する孤立した幼少期を過ごしたロキシーは、ある日、村の外壁の近くで行き倒れていた冒険者ブラッディーカントを助ける。彼女はSランク冒険者として世界を旅している人物で、珍しい種族がいるという噂(うわさ)を聞いてミグルド族の集落を目指していたが、その途中に行き倒れたのだという。助けてくれたお礼にと、ブラッディーカントはロキシーに村の外の世界と魔術に関する知識を授ける。ロキシーはそんなブラッディーカントを先生と慕い、彼女の教えを一身に受けて成長していく。しかし、ロキシーが初級の魔術を初めて使えたのを見届けたブラッディーカントは、魔術の師匠が初めて魔術を使った弟子へと送る「魔術師の杖」を置いて、翌日には村を出て行ってしまう。置いて行かれたロキシーは、彼女といっしょに旅をしたかったという寂寥(せきりょう)感を抱えて落ち込む。そんな別れから1年後、ブラッディーカントの残した魔術の教本によって、さまざまな魔術を身につけたロキシーは、両親にも告げずに街を飛び出すのだった。(エピソード「旅立ち」)

リカリスの町からウェンポートへ向かう道すがら、不慮の事故によってリーダーのハーケンディールを失ったリカリス愚連隊はパーティーを解散することとなった。冒険者として共に成長した仲間との突然の別離にロキシーは途方に暮れるが、このままでは終われないと、魔大陸からミリス大陸へと渡る船に飛び乗る。ミリス大陸の最北端に位置する港町「ザントポート」にたどり着いたロキシーを待ち受けていたのは、酷(ひど)い船酔いと魔大陸とは比べものにならないほどの高い物価だった。さらにザントポートには雨季が訪れ、路銀を稼ごうにも冒険者ギルドにろくな依頼が来ていない。窮地に陥ったロキシーが、冒険者ギルドの受付を務めるミレドールに事情を打ち明けると、冒険者ギルドの裏方として、散乱した書類の整理の仕事を紹介してもらうことに成功する。しかし、その作業の最中に冒険者の死亡者リストを目にしたロキシーは、失ったハーケンディールのことや、彼の死の報告を事務的に取り扱った魔大陸での冒険者ギルドの対応を思い出してしまう。そのことからミレドールへ八つ当たりしてしまったロキシーに対して、彼女は冒険者を辞めればいいと冷徹な言葉を投げかける。(エピソード「決意」)

ザントポートの商人、イルオーに拐(かどわ)かされていた少女のエレを救い出し、彼女を故郷へ帰すための護衛依頼を引き受けたロキシーは、目的地であるミリス神聖国の首都「ミリシオン」にたどり着いていた。しかし、ミリシオンに近づくにつれ激しさを増していった魔族に対する偏見は、通行料や食事料金のぼったくりといった形でロキシーに害をもたらし、表でも裏でも彼女へ投げかけられる悪口の数々は次第にロキシーの精神を追いつめていく。エレを両親のもとに届ける依頼をやり遂げたロキシーは、彼女の家で歓待を受けるが、エレの両親は魔族であるロキシーのことを慮(おもんぱか)り、早めにこの街を出て行くよう忠告する。ロキシーも偏見の激しいこのミリシオンからは離れたい心持ちでいたが、手元にある路銀が心許(こころもと)なく、しばらくのあいだ、この街で活動することを余儀なくされてしまう。そんな中、冒険者ギルドで依頼を見繕っていたロキシーは、不意に魔族の女性、メイヴェアに声を掛けられる。同じ魔大陸の出身ということでメイヴェアは故郷の話を聞きたがるが、ロキシーはそんな彼女を鬱陶しがり、自分が困窮しているのを解決してくれるのかと皮肉を交えた返答をしてしまう。その言葉を聞いたメイヴェアは、持ち前のお節介精神を発揮してロキシーを強引に連れ出すと、自分も利用している宿屋「木の葉亭」の女将(おかみ)に彼女を紹介する。そしてメイヴェアは、魔族に対して偏見を持たない女将に、名前すら知らないロキシーの出鱈目(でたらめ)な身の上話を創作して話し出す。その様子から事情を察した女将はロキシーを温かく迎え、宿屋の屋根裏で受け入れることを決めてしまう。(エピソード「魔族差別」)

ミリシオンをあとにしたロキシーは、今以上の魔術を身につけるため、ミリス神聖国を出てアスラ王国への旅路を進めていた。途中で立ち寄った王竜王国や、その属国での出会いと別れを繰り返しながら、ロキシーは目的地であるアスラ王国の首都、アルスにたどり着く。そこはかつて先生であるブラッディーカントから聞いたとおり、一面に広がる麦穂を越えた先にある絢爛(けんらん)な都市で、ロキシーの見たこともない巨大な城門や広い街並み、そして物価の高さに圧倒されることとなる。さらに、周辺が安全なアルスでは、冒険者に対する依頼も最低限しかないことを知り、ロキシーは着いて早々、別の都市への移動を考えざるを得なくなっていた。そんな中、ロキシーはふと街並みにブラッディーカントの面影を見つける。ロキシーは見間違いかと思うものの、その姿を追うようにして、ブラッディーカントの名前を叫ぶ一人の女性が姿を現す。お互いにブラッディーカントの知り合いであることを知った二人は、場所を変えて情報を交換する。女性の名前は「アルレリア」で、ブラッディーカントの担当を務める出版社の人間だった。だが、ブラッディーカントの原稿執筆はある日を境に滞り、すでに1年あまりにわたって新しい原稿を受け取っていないのだという。そしてアルレリアは、ロキシーがブラッディーカントの弟子のような存在であると知ると、彼女にブラッディーカントから原稿を取り立てて欲しいと頼み込むのだった。(エピソード「黄金色の夢」)

ブラッディーカントと別れ、アスラ王国をあとにしたロキシーはラノア王国にたどり着いていた。ブラッディーカントからもらった推薦状を手にラノア魔法大学へ入学することが叶(かな)ったロキシーだったが、学生寮で暮らすこととなった彼女の前に立ちはだかったのは、数年ぶりともなる他人との共同生活だった。ルームメイトとなった少女、ランレッタは部屋の掃除をはじめとした整理整頓のできない人間だった。さらに授業中をほとんど眠って過ごし、板書や当番の受け持ちなどをお金で学友に頼むといったランレッタの怠惰な有様に、几帳面(きちょうめん)な性格のロキシーはストレスを感じざるを得なかった。しかし、ルームメイトとしての距離感をどう取るべきかと悩んでいたロキシーは、どこまで干渉していいものかと躊躇(ためら)い、どうにも口出しできずにいた。そんな日々が続いたある日のこと、ロキシーは自分の貯蓄が限界に達していることに気づく。学食で一番安い食事を頼むのにも事欠く現状に、そろそろ冒険者ギルドで仕事をしなければまずいと冷や汗をかくロキシーだったが、その日、自室へ戻ると寮長からランレッタがトイレの水がめを交換する当番をサボったと告げられる。ロキシーはランレッタにそのことを伝えると、面倒くさがった彼女はロキシーにお金を渡し代わりにやって欲しいと伝える。金銭に余裕のないロキシーは一瞬誘惑に負けそうになるものの、その邪念を振り払ってランレッタに当番をやるよう伝える。それでも頑(かたく)なランレッタの態度にロキシーは苛立(いらだ)ちを覚え、二人のやりとりは口論に発展してしまう。しかし授業も寝てばかりで、怠惰極まりない生活を送る素行を詰問したロキシーに、ランレッタは反論らしい反論もできず開き直り、ほかの人に頼むと啖呵(たんか)を切って部屋を飛び出してしまう。ロキシーは荒々しく閉じられた部屋の扉を眺めながら、部屋替えの希望をだそうか悩み始めるのだった。(エピソード「学生生活」)

ラノア魔法大学での生活にも慣れ始めたロキシーは、図書館の利用方法も覚え、さまざまな本を読みあさる日々を送っていた。そんなある日のこと、ロキシーは中身が真っ白なページだけという奇妙な本に出会う。あぶり出しや魔力に反応する特殊な本なのだと考えたロキシーは、許可がなければ読めないのだろうと見当をつけ、その時は特に不思議にも思わずその本を本棚に戻していた。その後、教員のジーナス・ハルファスに薦められた本の上巻を読み終えたロキシーは、下巻を読もうとするも、本が本棚になくなっていることに気づく。ほかの人が借りていったのだろうと考えたロキシーだったが、翌日、翌々日と日をまたいでも本が戻ってくる様子はなかった。図書館に一番乗りで訪れても戻って来る様子がないことを奇妙に思ったロキシーは、図書館の司書に本のことを尋ねる。すると、司書は損傷した本を修復している最中だとロキシーに説明した。修復された本が戻ってくるのがいつになるのかわからないという司書の説明に、本の続きを読むことができなくなったロキシーはもどかしさを感じてしまう。憂鬱さから食堂でため息をついていたロキシーだったが、友人のガ=フゥに冒険者としての採取依頼に誘われると、懐の寂しさもあって同行することを承諾する。その依頼で思わぬ臨時収入を手に入れたロキシーは、帰りしなに露天商で自分が目当てとしていた本が売られているのを見つける。さらには商人の息子であるガ=フゥが値切ってくれたことで比較的安価に本を手に入れられたロキシーは、自室へ帰ると喜び勇んで読書を始める。その様子を見ていたルームメイトのランレッタは、ロキシーがそんなに読みたがる本に興味を抱き、本を取り上げると内容を一瞥(いちべつ)する。すると、ランレッタはその本の巻末に、ラノア魔法大学の図書館の蔵書印が押されているのに気がつく。そのことを伝えられたロキシーは、この本が盗品であることに慌てふためくも、時刻はすでに図書館が閉まっている時間帯だった。仕方なく眠りについてからの翌日、野次馬のランレッタをともなって図書館へ赴き、ロキシーは盗品である本を届けに行く。しかし、職員の女性に本を渡したところ、弁明をする間もなく警備を呼ばれたロキシーはそのまま捕縛され、牢(ろう)へと放りこまれてしまう。(エピソード「嵐の前」)

ラノア魔法大学の図書館で起こった蔵書盗難事件の犯人に仕立て上げられそうになったロキシーだったが、友人であるランレッタやガ=フゥの協力もあって自らの疑いを晴らすことに成功する。さらには真犯人が司書官長を務める女性の息子、ヴァセルであることも突き止め、事件には決着がつけられる。しかし、ヴァセルをかばったルイス・ラッセルの心情や、ヴァセルが図書館の蔵書を盗み出してまで本を届けたかった相手であり、彼の幼なじみであるアルベラの存在など、事件が終わってなおロキシーの心が晴れることはなかった。自分が余計なことをしたのではないかという罪悪感に苛(さいな)まれ、ロキシーは眠れない夜を過ごすようになる。そんな彼女の様子を見かねたルームメイトのランレッタは、ロキシーへ強引に酒を勧め、彼女の中で溜まりに溜まっていた鬱憤を吐き出させることに成功する。酔いつぶれて寝落ちしたロキシーをあやしながら、あんたは悪くないと告げたランレッタの言葉は、半分以上眠りについていたロキシーの耳にも届き、彼女の心を些(いささ)かでも癒やすのであった。しかし、そのままランレッタといっしょのベッドで眠ることとなったロキシーが夜中に目を覚ますと、彼女はランレッタにまとわりつく奇妙な黒いモヤを目撃してしまう。驚いたロキシーがランレッタを叩(たた)き起こすも、黒いモヤはまるで幻であったように立ち消えてしまう。変わった様子もなく過ごすランレッタの素振りに、自分は夢でも見たのかと考え始めるロキシーだったが、夜中に水を飲みに行こうとすると、またもやランレッタにまとわりつく黒いモヤを目撃する。どうにか追い払おうと腕で振り払うロキシーだったが、その騒がしい様子にランレッタが目を覚ますと、前と同じようにモヤは消え去ってしまう。終(しま)いには、ロキシーには関係ないとランレッタから突き放され、ロキシーは自分がまた余計なことをしようとしているのではないかと、内心に恐れを抱くのだった。(エピソード「睡魔」)

ルームメイトのランレッタが魔術を使えなくなっていたのも、日中に気がついたら寝てしまうのも、すべては呪いが原因だった。すべての元凶である村を訪れ、ランレッタに掛けられた呪いを解いたロキシーは、中央大陸の北方で迎えた厳しい冬の最中、懐の寒さに直面していた。冒険者ギルドへ依頼を受けに行くも、待機していたパーティーとの折り合いも悪く、満足な依頼も見つけられなかったロキシーは仕方なく、出直すことに決める。しかし、その帰りしなに子供たちに雇われて雪合戦に参加する冒険者を目にする。彼はかつてロキシーが冤罪(えんざい)をかけられた盗難事件における真犯人、ヴァセルその人だった。ラノア魔法大学を退学となってからは冒険者として活動していた彼は、挫折を経験したこともなく、虎の威を借るようになってしまった子供に、負けを経験させて欲しいという依頼を受け、雪合戦に参加していたのだという。会話を交わす内に、ロキシーが自分の犯した盗難事件で冤罪をかけられた生徒だと知ったヴァセルは、借金を返したあとならばと前置きしながら、自分の命で償うと告げる。当然、そのように極端な答えを求めていたわけでないロキシーは、呆(あき)れながらも申し出を断り、ルイスとの仲直りをヴァセルに提案する。事件の後、友人のルイスに迷惑を掛けたヴァイスは音信を断っていたのだ。そのことをルイスから聞き知っていたロキシーからの老婆心だったが、ヴァイスは向ける顔がないとにべもなく断ってしまう。二人の会話は没交渉のまま、アルベラがヴァイスを迎えに来たことで終わってしまう。ロキシーが立ち去っていく二人の姿を黙って見送っていると、そこへ踵(きびす)を返して戻って来たアルベラが、ロキシーの両手を取って礼を述べる。それは自分のために悪事に手を染めていたヴァイスを止めてくれたことへの感謝だった。その言葉を受けたロキシーは、立ち去ろうとするヴァイスに対して、ルイスに一言でも手紙を出すようにと願い出る。(エピソード「雪解け」)

季節が巡り、友人であるランレッタやガ=フゥは、各々の思いや将来の展望からラノア魔法大学を退学して旅立っていった。ルームメイトも騒がしい獣族の少女、レネに変わるなど、生活に大きな変化が生じる中、ロキシーは水聖級魔術である「豪雷積層雲(キュムロニンバス)」の取得を目指して、ジーナスの研究室に所属していた。しかし、研究室に所属したロキシーを待っていたのは、ジーナスによる薫陶ではなく、雑用や小間使いにも等しいぞんざいな扱いだった。研究室にあるものは自由に使えというジーナスの言葉を聞きながら、研究室の与えられた雑用をこなす日々に、ロキシーは不満を抱え始める。新たにルームメイトとなったレネが夜遊びや窓の破損などのトラブルを引き起こし、その度にロキシーが対応せざるを得なくなる出来事が連日起こっていた。そうした細かなストレスにも耐えていたロキシーだったが、ある日、ジーナスから研究室に何をしに来ているのかと尋ねられ、ついに我慢の限界に達する。怒りを爆発させたロキシーは雑務を放り投げると、翌日から研究室の奥の部屋で厳重に保管されている水聖級魔術について書かれた本を勝手に読み解き、自分一人で勉強を始める。しかし、その様子を見つけたジーナスがロキシーに掛けたのは、予想外にも叱責の言葉ではなく本が傷むので部屋のカーテンを開けるなという言葉だった。意表を突かれたロキシーだったが、その後、同じ研究室の先輩たちからやっとわかったのかと言われ、ようやくジーナスの真意に気づく。彼はロキシーが研究室に所属した当初から自主的に活動し、自らの専門とする分野についての勉強を進めることを期待していたのだ。生徒の自主性を重んじたジーナスの姿勢に気がつかず、最初からなにもかもが与えられるものだとカンちがいしていたロキシーは己の考えに恥じ入ると、その後、自力で進めた研究論文に対する意見を求め、ジーナスに提出する。(エピソード「研究室」)

水聖級魔術である「豪雷積層雲(キュムロニンバス)」を取得し、論文も認められたロキシーは無事にラノア魔法大学を卒業することに成功する。しかし、自らの恩師であるジーナスとは提出した論文の内容が原因で喧嘩(けんか)別れになり、ルームメイトとして親しくなったレネとも、卒業後の方針で揉(も)めて校門前で決闘するなど、その卒業は祝福とはかけ離れた寂しいものとなっていた。シャリーアの街をあとにしラノア王国を旅立ったロキシーは、かねてから考えていたとおり、アスラ王国の首都、アルスでラノア魔法大学の卒業生という肩書を武器に就職活動を行う。しかし、引く手あまたと聞いていたその肩書が機能することはなく、ロキシーの幼く見える外見や昔から使っている衣服の古さ、魔族であるという出自にばかり注目され、見つけることができた仕事は名家の子供の家庭教師や酒場の用心棒など、ロキシーが想像していたものからかけ離れたものばかりだった。そのことに耐えられず、ロキシーは職を求めてアルスをあとにすると、街から街へと移動を繰り返す。しかし、ほかの街でもロキシーの努力が実る気配はなく、彼女は次第に追い詰められ、かつてのように周囲に対して疑心暗鬼で攻撃的な気持ちを抱き始めていた。そんな中、ロキシーはようやく見つけたフィットア領領主の孫娘の教育係という依頼の面接へと向かう。そこで領主代理を務めるフィリップと面接したロキシーは、意欲のない者に教えようとしても無駄だという持論をぶちまける。その傲慢な考えを聞いたフィリップによって娘を任せられないと判断されたロキシーは、面談で落とされてしまう。日銭もなくなりつつあったロキシーは、冒険者ギルドで稼いで体制を立て直す必要性を自覚するが、その後にどうすればいいかが見出せず、途方に暮れつつあった。そんな時、ロキシーは辺境にあるブエナ村の下級貴族の子弟が家庭教師を求めていることを知る。少しでも実績を積み重ねれば、やがては王都でも家庭教師として働けるようになると考えたロキシーは、その依頼を受けると、空虚になりつつある思いを抱えたまま、ブエナ村へと旅立つのだった。(エピソード「放浪」)

原作小説

本作『無職転生 ~ロキシーだって本気です~』は、理不尽な孫の手の小説『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』を原作としている。こちらは理不尽な孫の手が「小説家になろう」に投稿していた小説をもとに、書き下ろしや加筆修正を加えたもので、理不尽な孫の手にとっての書籍化デビュー作にあたる。イラストをシロタカが担当し、KADOKAWA「MFブックス」より刊行されている。

コミカライズ

本作『無職転生 ~ロキシーだって本気です~』の原作である理不尽な孫の手の小説『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』には、コミカライズ版としてフジカワユカの『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』があり、KADOKAWA「MFコミックス フラッパーシリーズ」から刊行されている。また、原作小説版の第7巻以降のコミカライズ版として米田和佐の『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 失意の魔術師編』が、フロンティアワークス「FWコミックスオルタ」から刊行されている。ほかにも、野際かえでの4コマ漫画『無職転生 ~4コマになっても本気だす~』がKADOKAW「電撃コミックスNEXT」から、ヒロインのエリス・ボレアス・グレイラットに視点を当てた日崖タケの『無職転生 ~エリスは本気で牙を砥ぐ~』がスクウェアエニックス「ガンガンコミックスONLINE」から、ロキシーとシルフィエット、エリスら三人のヒロインに焦点を当てたアンソロジーコミック『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ アンソロジー』がKADOKAWA「MFC」から、それぞれ刊行されている。

登場人物・キャラクター

主人公

魔大陸に住まうミグルド族という魔族の少女。青髪に、成人しても幼い外見と体型をしている。一方で、ミグルド族が先天的に持っているはずの「念話」というコミュニケーション手段を持たず、ミグルド族の集落の中では... 関連ページ:ロキシー・ミグルディア

ルーデウス・グレイラット

ロキシー・ミグルディアの魔術の弟子にあたり、将来の夫。ふだんは愛称の「ルディ」と呼ばれることが多い。アスラ王国のフィットア領ブエナ村の出身で、幼い頃から魔術師としての才覚を発揮している。その才覚を惜しんだ両親によって魔術の家庭教師が付けられることとなり、冒険者ギルドに提出されていたその依頼を受けたロキシーと出会う。元は異世界の出身でそちらでは34歳にして、無職で性格の破綻した男性として過ごしていた。しかし、ある日トラックに轢(ひ)かれると、次にはルーデウス・グレイラットという赤ん坊に生まれ変わった。生前の記憶をそのまま持っているルーデウスは、「今度こそ本気で生きていく」と一念発起し、成長していく。一方で生前の変態性も引き継がれており、ロキシーのパンツを御神体として崇(あが)めるといった常軌を逸した行動も見られる。ロキシーとは彼女の旅が落ち着いた将来に結婚する未来にあり、その頃にはラノア王国に家を持っている。彼女から昔の旅の内容を楽しんで聞いているが、ロキシーが初めて思いを寄せたガダルフ=ランジードとの一件などでは狭量にも嫉妬心を覗(のぞ)かせている。

ロキシー・ミグルディアの魔術の先生を務める女性。「ブラッディーカント」という長い名前を縮めて「カント」とも呼ばれている。冒険者としての最高ランクである「Sランク」に登り詰めた人物で、世界中を旅して魔大... 関連ページ:ブラッディーカント

ハーケンディール

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町で出会った冒険者の男性。人間の剣士で、リカリス愚連隊という冒険者パーティーのリーダーとして、馬面の魔族であるノコパラや、豚面の魔族であるブレイズと共に活動している。伝説の冒険者になって世界中に名を轟(とどろ)かせることを夢見ており、実際にそれが叶えられた時に箔(はく)が付くようにと、「ハーケンディール」という長い名前をわざわざ名乗っている。しかし、仲間を含めた周囲からは「デール」としか呼ばれず、一向に「ハーケンディール」という名前が広まらないことに不満を抱いている。剣士としては、「なんでもあり」とも称される北神流の使い手で、戦闘中に香辛料をばらまいて魔物を撃退するなど、さまざまな手練手管で状況を打破する。お人好しな性格で、困っている人を見かけると助けたい衝動に駆られて、つい手を貸してしまうことが多い。ロキシーと出会ったのも、そんなお人好しな性格によって一人で危険な場所の依頼を受けていたロキシーを見捨てられなかったからで、この時の出来事がきっかけとなってロキシーもリカリス愚連隊に加わることとなった。冒険者である以上は手助けした場合、代金を求めるのが業界における常識となっているが、ハーケンディールはそのことをしばしば忘れがちで、ノコパラやブレイズから突っ込まれることも多い。その一方で、冒険者として初心者であるロキシーに対して、そうした心構えを説くこともあり、自分のことは都合よく棚に上げるお調子者な性格がこのようなところから見え隠れしている。気宇壮大な夢を抱えるハーケンディールの在り方は、ノコパラやブレイズから呆れられることも多いが、同時に曇りのない眩(まぶ)しい夢の形としてある種のカリスマを持っており、彼らからはひそかにあこがれられている。喧嘩の絶えないリカリス愚連隊がパーティーとして成立しているのは、こうしたハーケンディールのカリスマ性があってこそだった。

ノコパラ

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町で出会った冒険者の男性。馬面の魔族で、ハーケンディールをリーダーとするリカリス愚連隊という冒険者パーティーの一員として、シーフ役を務めている。金にがめつい貪欲な性格で、どんなに些細(ささい)な手助けであろうと代金の支払いを要求する。また、金持ちを相手としたコネクションを尊んでおり、金持ちが相手ならばどんなに自分の性格をねじ曲げようと唯々諾々と従う気概を持ち合わせている。同じくリカリス愚連隊のメンバーであるブレイズとは日頃から反りが合わず、お互いに罵り合いの喧嘩をすることもある。また、冒険に際して暴走しがちなハーケンディールと、それに同調することの多いブレイズを相手取ったストッパー役を務めることが多く、冒険の正否よりも命を大切とする考え方にパーティーが助けられたこともある。その点ではロキシーもノコパラに同調することが多く、パーティーの大方針として危険を顧みず冒険をするか、命を大切にするかで争った際には二人で組んでギリギリながら勝利を収めた。自己保身に走りがちな言動が目立つが、リカリス愚連隊のメンバーとしてハーケンディールの語る、伝説の冒険者になるという気宇壮大な夢の在り方にあこがれている。そのことはいつも言い争っているブレイズも同様で、リカリス愚連隊がパーティーとして成立しているのはハーケンディールが何を成し遂げるのかを見届けたい、という思いがノコパラとブレイズのあいだで共有されているからにほかならなかった。

ブレイズ

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町で出会った冒険者の男性。豚面の魔族で、ハーケンディールをリーダーとするリカリス愚連隊という冒険者パーティーの一員として、タンク役を務めている。故郷である田舎(いなか)では冷遇されており、自分を蔑(ないがし)ろにした連中を見返してやりたいという一心からリカリスの町へ出て来て、冒険者稼業を始めた過去がある。その後、ハーケンディールに出会い、伝説の冒険者になるという夢を声高々と掲げる彼の脳天気さにあこがれ、次第にハーケンディールが本当に何かを成し遂げるのではないかという期待を抱くようになった。パーティーのメンバーであるノコパラとは反りや、信条が合わずに喧嘩をすることもしばしばあるが、ハーケンディールにあこがれる思いだけは共通しており、散々文句を言いあいながらもパーティーとして成立している。ロキシーのことをパーティーに加わった時から何かと目に掛けている。パーティーの中では比較的冷静沈着で、落ち着いた考え方の持ち主だが、ハーケンディールに同調して冒険に挑戦したがりな性分も持ち合わせており、冒険者として受けた依頼をこなす場面ではノコパラにブレーキ役を譲ることが多い。また、俊敏な動作を苦手としており、大量発生した鼠(ねずみ)を捕獲する依頼では、ノコパラがいとも簡単に捕獲する傍らで1匹たりとも捕まえることができずにいた。

ミレドール

ロキシー・ミグルディアがザントポートで出会った冒険者ギルドの受付を務める女性。魔大陸からミリス大陸を訪れたばかりで世間知らずなロキシーに親切に接する一方、「すべての冒険者に公平であれ」という冒険者ギルドのモットーを基準に、依怙贔屓(えこひいき)をしないシビアな一面を持ち合わせている。しかし、雨季のため依頼がまったくなくなっていたザントポートで途方に暮れていたロキシーに助け船を出し、冒険者ギルドのザントポート支部における書類整理の手伝いを仕事として紹介したりもしている。当時のロキシーは、リカリス愚連隊の実質的リーダーであるハーケンディールを失うという衝撃的な出来事により、数年来の仲間と道を別としたばかりだった。整理する書類の中にはロキシーと同様に死亡した冒険者に関する書類も紛れており、そうした報告を事務的に処理する冒険者ギルドの態度にロキシーは心を痛めていた。その鬱憤を耳にしたミレドールは、ロキシーに対して冒険者を辞めればいいと口にし、不幸なことも喜びも分かち合うのはパーティーメンバーだけの特権だと、「すべての冒険者に公平であれ」をモットーとする冒険者ギルドの受付として諭している。背景にはミレドール自身も元冒険者として活動していた身で、ロキシーと同じように事故で仲間を四人も失った過去を持っていたことが影響している。その中にはミレドールの弟もおり、心の折れた彼女はこの事故を境に冒険者を辞めて今に至っている。翌日、泣きそうだったロキシーが立ち直って冒険者ギルドに冒険者として戻って来たのを見たミレドールは、同じように心が折れることなく冒険者であることを選んだ友人の姿をロキシーに重ね合わせ、贔屓をしてはいけないと自分を戒めながらも、ロキシーを応援したいという気持ちを抱いていた。冒険者ギルドの受付として信条をもって活動する一方、書類整理の依頼をロキシーにする原因となった書類棚が倒れる事件を起こしたのもミレドールならば、支部長が日誌を読まないだろうと踏んで、人知れずそこに愚痴を書いていたのもミレドールであり、面倒くさがりで大ざっぱな一面を持つ。

メイヴェア

ロキシー・ミグルディアがミリス神聖国の首都、ミリシオンで出会った冒険者の女性。魔大陸のリカリス出身で、羊の特徴を持った魔族。魔族に対する偏見や迫害の酷いミリシオンでも自らを貫いて生きている、強い精神の持ち主で、同時に心優しくお節介な一面も持ち合わせる。ロキシーと出会ったのも冒険者ギルドで、パーティーに参加できず路銀に困っていたロキシーを見かけてお節介を焼いたからで、当時はミリシオンの偏見に満ちた空気にやさぐれていて攻撃的だったロキシーの態度をいっさい気にすることなく助けた。その際、ぼったくりの宿屋「月光の葉枝亭」に拠点を置いていることを耳にするや、魔族に対する偏見を持たない女将が経営する木の葉亭へ強引に連れ出している。さらには、女将にロキシーの身の上話を勝手に捏造(ねつぞう)して説明すると、少しばかりの手伝いを代償に屋根裏部屋に食事付きで住み込んでもいいという約束を引き出した。日頃の冒険者家業ではガダルフ=ランジードという中年の男性と10年来のパートナーとして活動しており、召喚魔術の使い手である彼を後衛に、メイヴェア自身は前衛役として戦っている。パートナーのガダルフに対して好意を寄せており、そのことをロキシーに口にしたこともあったが、ガダルフが魅了眼という、視線のあった人を魅了してしまう特殊な目の持ち主であるため、自らの好意が誤解されることを恐れて口にできずにいる。しかし、酔いつぶれる度にメイヴェアを起こさないよう、木の葉亭の部屋へ運んでいるのはガダルフであり、その様子を見ていたロキシーからは十二分に親愛を寄せられているように見られていた。メイヴェアとはロキシーが木の葉亭に拠点を置いて路銀を稼いでいたあいだ、ずっと交流が続き、ロキシーがアスラ王国へ旅立つ決心をするまでの1年間をなかよく過ごした。

ガダルフ=ランジード

ロキシー・ミグルディアがミリス神聖国の首都・ミリシオンで出会った冒険者の男性。召喚魔術の使い手で、精霊を召喚し巧みにあやつって戦う卓越した冒険者。ロキシーから「おじさん」と呼ばわりされても、ガダルフ=ランジード自身は否定しないような年齢。メイヴェアという羊の特徴を持った魔族の女性と、10年にわたりコンビを組んで活動している。右目が魅了眼となっており、視線のあった人物に影響して自らに好意を持たせてしまう。そのため、日頃は包帯で巻いて隠しており、迷宮など魅了眼を隠さずにいる場でも仲間や偶然出会った冒険者を魅了しないよう、力を抑えられないかと訓練している。落ち着いた卓見を持ち合わせており、魔族に対しても偏見を持たず、ロキシーとの初めての出会いは、彼女が屋台で料金をぼったくられそうになっていたところを助けた時だった。その後、ロキシーが拠点としていた宿屋「木の葉亭」でメイヴェアから改めて紹介される形で再会すると、三人でいっしょに迷宮へ潜るようになる。初めて共に迷宮へ潜った時には、魅了眼の力を制御しきれずにロキシーを魅了してしまうというトラブルもあった。しかしながら、魅了眼の力を抑制したあともロキシーからは尊敬に値する人物として見なされており、のちにこの時のことを回想したロキシーはガダルフへ寄せていた好意は魅了眼によるものだけではなかったとし、夫のルーデウス・グレイラットの嫉妬心を買っている。一方のガダルフは、ロキシーに対して甘党の仲間としてなかよくしており、日頃のパートナーであるメイヴェアが辛党であるためにできないお菓子やスイーツに関する会話をロキシーと交わしていた。時にはお互いに買ってきたお菓子を交換したりと、相当な甘党である様子が窺(うかが)えている。また、ガダルフ自身の好意は同じパートナーであるメイヴェアへと向いており、魅了眼の存在もあってか決して自ら行為を口にすることはないもの、酔いつぶれたメイヴェアを抱きかかえ、人知れず木の葉亭の部屋へ送り届けているなど、大切にしている様子が見受けられ、そのことは周囲にも知られている。

ロキシー・ミグルディアが王竜王国で出会った女性。リュートを片手に歌で路銀を稼いで旅する魔族で、目元までを覆うベールを被っている。王竜王国の首都、ワイバーンで弾き語りをしていたが、客をうまく捕まえること... 関連ページ:吟遊詩人

ロキシー・ミグルディアが旅の途中で出会った少女。自称「Sランク」冒険者を名乗る人物で、冒険者ギルドから与えられた特別製のギルドカードを有する。その正体は王竜王国の周辺に複数存在する属国の中のとある国の... 関連ページ:フィア

アルレリア

アスラ王国の出版社に勤める女性。3年前にブラッディーカントが持ち込んだ紀行本「世界を歩く」の草案と書き付けに惚(ほ)れ込み、出版契約を結んで以来担当となっている。しかし、当初こそは順調に原稿を持ってきていたブラッディーカントだったが、徐々に滞ると1年前を最後に持ってこなくなり、現在はせまりくる出版契約の破棄の危機に怯(おび)えながら、本を出版するためにブラッディーカントをどうにか説得できないかと日々、奔走している。逃げ回るブラッディーカントを追いかけ回していた最中に、街を偶然にも訪れていたロキシー・ミグルディアと出くわし、事情を説明している。その最中に、ロキシーがブラッディーカントの書いた原稿に出てきたミグルド族であることと、ブラッディーカントの弟子のような存在であることを知り、ロキシーからブラッディーカントを説得して原稿を書かせるようにお願いしている。

ラノア王国のラノア魔法大学に通う少女。父親がシャリーアの街に居を構える大店(おおだな)の商人で、裕福な家庭で育った。しかし、商人の娘としては不器用過ぎる欠点があり、触った商品をことごとく壊してしまうと... 関連ページ:ランレッタ

ラノア王国のラノア魔法大学の算術科に通う小人族の少年。父親がガ=ムゥ商会という大店の店主で、中央大陸で運よく一財産を築いたため、その後継ぎとして学を納めるためにラノア魔法大学へ通うこととなった。それに... 関連ページ:ガ=フゥ

ラノア王国のラノア魔法大学に通う少女。父親が魔族迎合派との政争に負けてシャリーアへと左遷させられたミリス教の司祭で、フィリア自身も敬虔(けいけん)な信者。そのため、ロキシー・ミグルディアと同学年でクラ... 関連ページ:フィリア

ラノア王国のラノア魔法大学に通う猫の獣族の少女。剣などの武器を使わず、拳で戦う戦闘スタイルの持ち主で、対人戦闘ならばほかを圧倒してみせるほどの強さを誇る。ラノア魔法大学に通っている多くの獣族の男性から... 関連ページ:レネ

アヴィアス

ラノア王国のラノア魔法大学の教員を務める女性。魔法陣学の権威で、かつては魔力結晶と呼ばれる稀少な鉱石を使用しなければ製造できなかった魔法陣インクを、安価な素材によって生成できるように発明した張本人。ラノア魔法大学の卒業生で、在学時代には現在の同僚であるジーナス・ハルファスの後輩だった。そのため、ジーナスに対しては近い距離で話しかける姿もしばしば見受けられる。出身はラノア王国の中でも有力な家の令嬢で、在学時代から魔術師として優秀な成績を収めていた。教師陣からもどの道に進むのかと期待の目を向けられていたが、魔法陣学に傾倒すると在学中に冒険者となり、安価な材料で魔法陣インクを作れないかと材料を方々に探し回る日々を送っていた。しかし、とある迷宮に旅立った際に大ケガを負ってしまい、それ以後は自重して過ごすようになる。教師となってからも魔法陣に関する研究を続ける傍ら、有望な生徒を見かけたらアヴィアス自身の研究を引き継がないかとさまざまな手練手管を駆使して、魔法陣のよさを広めようとする。入学して日の浅いロキシー・ミグルディアに対しても、特別に個別の課題を出して少しでも魔法陣学に興味を持たせようと目を掛けていた。しかし努力は実ることなく、最終的にはロキシーの適性や冒険者としての素性にあったジーナスの研究室に取られてしまう。

ジーナス・ハルファス

ラノア王国のラノア魔法大学の教員を務める男性。水聖級魔術を使いこなす卓越した魔術師で、魔術に関する本を幾つか執筆しているほどの権威。ラノア魔法大学の卒業生であり、現在は教員として同僚であるアヴィアスは、在学時代の後輩にあたる。その一方で誇り高いことに起因して、他人に対して意固地で頑固になりがちな性格をしており、威圧的で傲慢な言動を取りがちという欠点を抱えている。そのため、魔術の教員として非常にまじめで、学問に真摯に接する気質の持ち主でありながら、他人からはカンちがいされやすい一面がある。ロキシー・ミグルディアとの初対面は最悪に近いもので、ロキシーが図書館でジーナス・ハルファスの本を手に取りながら「違う」と呟(つぶや)いていたところに、当の本人が偶然通りがかってしまい、どういう意味なのかと詰問したのが出会いとなっている。その時のロキシーは魔法陣の授業でアヴィアスから課題を出され、その参考資料を探していただけだった。この時の出会い方もあり、ロキシーからは気難しい人物として認識されていたが、一方で水聖級魔術を使える魔術師として尊敬もされており、時にはロキシーから悩みを相談されることもあった。のちにロキシーがどの研究室に所属するかを決める際にも、ジーナスに見せられた水聖級魔術である「豪雷積層雲」に魅せられてという即物的な理由もあったが、彼のもとを選んでいる。研究室にロキシーが所属してからの師弟関係は、当初こそロキシーが自主的に学ぶことを無言で期待するジーナスに対して、師匠に対して下働きのように接するロキシーとのあいだで行き違いがあったものの、それが解消されてからはお互いに意見を交わすようになった。しかしロキシーが魔術師として知識を身につけ、やがてジーナスの著書の間違いを指摘するまでに育つと、彼の傲慢な気質がこの事実をすんなりとは認めさせず、最終的には暴言をぶつけ合う形で喧嘩別れとなってしまう。このすぐあとにロキシーはラノア魔法大学を卒業してしまったため、再会や関係の修復には10数年の時間を要した。

ロイン

ロキシー・ミグルディアの父親。妻のロカリーと共に魔大陸に住まうミグルド族と呼ばれる魔族だが、二人の子供として生まれてきたロキシーはミグルド族が先天的に取得している念話の能力を使えなかった。また、ミグルド族は種族間では念話で会話をこなすため魔神語に明るい人物は限られ、ロインとロカリーの夫婦もご多分に漏れず魔神語に堪能とは言いがたい部分があった。そのため、娘にコミュニケーション手段を与えるためにも夫婦一丸となって魔神語を習得しながら育児に励んできた。妻のロカリーがロキシーを外に出すのを怖がっていたため、幼い頃のロキシーを家の中で閉じ込めるようにして育てていた。時にはロキシーが表に出たがったものの、世界中で恐怖の対象となっているスペルド族の話をして怖がらせることで外への興味をそらすなどしていた。

ロカリー

ロキシー・ミグルディアの母親。夫のロインと共に魔大陸に住まうミグルド族と呼ばれる魔族だが、二人の子供として生まれてきたロキシーは、ミグルド族に生まれつき備わっている念話を使えなかった。ミグルド族はその特徴から魔大陸で一般的に使われている魔神語を話せない者も多く、ロインとロカリーの夫婦もうまく話すことのできない側の人物だった。そのため、ロキシーが念話の使えないミグルド族であると判明してからは育児と同時に魔神語の習得にも精を出し、夫と協力してロキシーを育て上げた。しかしロキシーが念話を使えないことから、ロカリーは我が子を外に出すことを恐ろしく感じており、ロキシーの幼い頃は家の中にほぼ閉じ込めるようにして育てていた。そのことがやがてロキシーが外に興味を持つきっかけの一つともなっている。

アーヤ

ロキシー・ミグルディアがザントポートで出会った冒険者の少女。冒険者になって日の浅い新人で、同じ村の出身であるルークが冒険者になると村を飛び出したのに付いてきた経緯がある。ルークとはその後もパーティーを組んで行動を共にしている。ロキシーのことを新人冒険者だとカンちがいしたルークが、パーティーに加わらないかと誘ったことで知り合った。しかし、新人にカンちがいされたロキシーが不機嫌な対応を取ったことや、アーヤがロキシーに対して不躾(ぶしつけ)な物言いをしたのもあり、お互いにいがみ合う関係となる。その後、ザントポートの商人であるイルオーから受けた荷物運びの依頼の際、同じイルオーに対して不正の調査を行うため、媚(こ)びを売るような衣装でイルオーに近しい位置にいたロキシーと再会しており、侮蔑に近い表情を浮かべた。しかし、その依頼の最中、運んでいた木箱に人が入っていることに気づいたアーヤは、イルオーの手で口止めのために誘拐されてしまう。そして、アーヤが捕われことに気づいたロキシーもまた、捕らえられていた獣族の幼女であるエレを助け出すため、二人は脱出を試みることとなった。その際は、任務の達成を優先して悪感情を抱きながらも協力している。この出来事を通して、アーヤは心理的にロキシーを認めるところがあったのか、イルオーの件が片付いたあとにロキシーが旅立つ際に再会した時には、ロキシーの旅路の幸運を祈る言葉を掛けていた。

ルーク

ロキシー・ミグルディアがザントポートで出会った冒険者の少年。冒険者になって日の浅い新人で、ある日、冒険者になると村を飛び出した。その時にアーヤという少女もいっしょに付いてきており、二人でパーティーを組んで冒険者として活動している。ザントポートの冒険者ギルドで、一人佇(たたず)んでいたロキシーを新人の冒険者とカンちがいしてパーティーに誘っている。その際、不躾な物言いで接したアーヤと、新人とカンちがいされて不機嫌だったロキシーのあいだで確執が起こっている。ロキシーとはその後、ザントポートの商人であるイルオーのもとで依頼を受けていたアーヤが行方不明となった際、イルオーの不正調査のために参加していた彼女と再会している。この時、アーヤが帰って来ないことを心配してルークが騒ぎ立てていたことがロキシーの目に留り、ロキシーが機転をきかせるきっかけにつながっている。この出来事は、最終的に捕らえられていたアーヤの発見のみならず、イルオーの不正を暴く結末を招いた。その後はロキシーがザントポートの街を旅立つ直前に再会し、アーヤを助け出してくれたことへの感謝をロキシーに伝えている。

エレ

ザントポートの商人、イルオーに誘拐されていた獣族の幼女。故郷はミリス大陸のほぼ中央部にある、ミリス神聖国の首都、ミリシオンで、いつものように遊んでいたところを誘拐されると、その後はイルオーに引き渡され、幼い子が好きなイルオーによって、愛玩動物のような扱いを受けていた。しかし、イルオーに懐く素振りを見せないため木箱に詰められて、どこかへと移動させられそうになっている。その途中で、イルオーから荷物運びの依頼を受けていた冒険者のアーヤによって偶然発見されるも、アーヤともども屋敷の隠し部屋に押し込められてしまう。その後、イルオーの不正調査に乗り出していたロキシー・ミグルディアも、アーヤがいないと騒ぎ立てるルークの様子から、屋敷内の怪しい場所を捜している途中で見つかり、同様に隠し部屋に押し込められている。ロキシーとはこの時に出会い、酷いケガを負っていたところを治癒魔術によって癒やされている。ロキシーたちの奮闘もあって脱出に成功し、イルオーの不正が明るみに出て事件が解決したあとには、一時的にギルドによって保護されていた。しかし、この時のことがトラウマとなり、大人の男性を怖がるようになってしまう。そのため、実年齢に比べて見た目が幼い少女であるロキシーがミリシオンまで護衛することとなり、ザントポートからミリシオンまでの旅程を共にしている。

寮長

ラノア魔法大学の女子寮の寮長を務めていた女性。ロキシー・ミグルディアに対して親切に接して物腰は柔らかいが、実際はずぼらな性格をしており、寮の見回りなどといった面倒事を体よくロキシーに押しつけていた。ロキシーが卒業を間近にするまで露見せずにいたが、共用のロビーで友人とくつろぎながら、ロキシーがいなくなったあとのことを面倒だと愚痴っていたところを、偶然にもロキシーが通りがかり、本性がばれてしまう。

イルオー

ミリス大陸の最北端にある港町、ザントポートに居を構える商人の男性。大きな屋敷を構え、商品倉庫の護衛に冒険者を雇えるだけの財力を誇る。しかし、公にはできない不正な取引を行っているという噂があり、冒険者ギルドから冒険者パーティーであるメーベリウムに直接の依頼が出され、調査が行われていた。幼い子を好むという性癖につけ込むため、メーベリウムの調査に参加していたロキシー・ミグルディアに目を付け、イルオー自身のそば付きの護衛として取り立てる。しかし、それが徒(あだ)となり、誘拐していた冒険者の少女、アーヤと、獣族の少女、エレの居場所を物音が原因で、ロキシーに看破されてしまう。一度はロキシーを捕らえることに成功するものの、監禁していた隠し部屋から脱出されてしまい、さらに機転をきかせて窓ガラスを割ったロキシーの行動により、騒ぎを聞きつけたメーベリウムのメンバーと衛兵に押しかけられ、現場と証拠品を押さえられることとなった。

ラノア王国のラノア魔法大学に通う男子学生。魔杖設計課の3年生で、ヴァセルとは学生寮のルームメイトで、友人関係にある。魔術師の杖を専門とする制作者で、魔術師ギルドに認められる作品を作り出すなど、学生の身... 関連ページ:ルイス・ラッセル

ヴァセル

ラノア王国のラノア魔法大学に通う男子学生。大学図書館の司書官長の息子で、上流階級の出身。ルイス・ラッセルとは学生寮のルームメイトで、友人関係にある。ロキシー・ミグルディアが冤罪を被った盗難事件の犯人で、自らが盗み出した本を図書館の除籍本と偽ってルイスに渡し、街で売却させていた。その理由は、シャリーアの街で娼婦として働くアルベラという女性に魔術書を読ませるためで、彼女が読み終わった本を不要品として売りさばいていたのが実態だった。ヴァセルの幼なじみで、幼い頃から魔術師にあこがれていたにもかかわらず両親の教育によって魔術書を読ませてもらえなかったアルベラは、当時、自由に魔術書を読むことのできるヴァセルの家に頻繁に出入りしていた。ヴァセルはそんなアルベラに思いを寄せていたが、アルベラの両親が政局を見誤ったことで失脚し没落したため、彼女とは離ればなれとなってしまった。事情を知ったヴァセルは、彼女を助けるように両親に懇願すらしていたが、この時は無下に断られている。その後、数年の時がたち、ラノア魔法大学の生徒となったヴァセルは偶然にも街でアルベラを見かけて、彼女の勤めていた娼館で再会を果たす。以後は、彼女の願いを叶えるために犯罪に手を染めたという経緯があるが、背景にある感情には友人のルイスのように実績を重ねることのできないヴァセル自身への不甲斐(ふがい)なさや友人への嫉妬、母親をはじめとした両親に対する、アルベラを救ってくれなかったことへの恨みなど、複数の感情が入り乱れている。犯罪が明るみに出てからは、事件の責任を取る形でラノア魔法大学を退学し、学生寮をあとにしている。その後は、シャリーアの街で冒険者として活動しており、偶然にもロキシーが再会した際には、アルベラと行動を共にしている姿が見受けられた。また、事件に対する罪の意識から友人のルイスに対して合わせる顔がないという悔恨も抱いており、ロキシーから咎(とが)められた際には借金を返したあとに命を差し出すという、極端で高潔な性格の一面も覗かせている。この再会した折にロキシーの説得により、ルイスには手紙を送ったようで、退学後に音信不通となっていた両者の交流が再会の兆しを見せた様子が窺えている。

アルベラ

ラノア王国の首都、シャリーアで娼婦として働く女性。見目麗しく、さらさらの髪に官能的な唇、宝石のような光を帯びた瞳の持ち主。元は上位階級の出身でヴァセルの幼なじみ。幼い頃は魔術師にあこがれており、魔術書が自由に読めるヴァセルの家に入り浸っていた。しかし、親が政局を見誤ったことで失脚し、その結果として家が没落したため、ヴァセルの家には通えなくなる。その後は、娼婦に身をやつして生活していたが、街で偶然にもヴァセルと再会し、以後は彼のお気に入りの娼婦として交流を再開する。ヴァセルが差し入れてくれる魔術書を読み、彼自身からもさまざまな知識を教わる生活をしていたが、のちにそれがヴァセルによってラノア魔法大学より盗み出されたものだと発覚し、この生活は破綻する。ロキシー・ミグルディアはその事件で冤罪を被っていた関係で、自ら真犯人を見つけ出すため調査に赴いており、その過程でアルベラとも面識がある。事件からしばらくしてロキシーがヴァセルやアルベラと偶然再会した時には、二人は冒険者として生計を立てており共に暮らしているような素振りが窺えた。また、ヴァセルの悪事を咎めてくれたロキシーに対して、アルベラは感謝の念を伝えてもいる。

集団・組織

冒険者ギルド

世界各地に存在する冒険者たちの活動を支援する組織。本部はミリス大陸の首都、ミリシオンにあり、中央大陸はおろか、魔物たちの活動が盛んで多くの魔族がいる魔大陸にも支部が存在する。冒険者になりたい者は、冒険者ギルドに申請して登録し、冒険者の証明であるギルドカードを手に入れる必要がある。このギルドカードをもとに個々の冒険者はランク付けをされたうえで管理され、ランクに応じた依頼を冒険者ギルドから受注することができる。依頼の多くは冒険者ギルドに存在する掲示板に張り出されており、その張り紙を持って受付へ申請することで受注処理がなされる仕組みとなっている。

リカリス愚連隊

ロキシー・ミグルディアが初めて参加した冒険者パーティー。魔大陸にあるリカリスの町を中心に活動していたパーティーで、人間で北神流剣術を使う剣士であるハーケンディールをリーダーに、シーフで馬面の獣族、ノコパラ、タンク役を務める戦士で豚面の獣人、ブレイズの三人が結成した。夢見がちで冒険者として大成し、自らの名前を世界に響かせることを目的とするハーケンディールに惹かれ、ノコパラとブレイズが彼について行く形で結成されたパーティーである。のちにミグルドの里を出てリカリスの町に着いたばかりだったロキシーも、クエストの際、ハーケンディールに助けられたことをきっかけにパーティーに加わった。ロキシーが加入した当初はメンバーの全員がEランク冒険者だったが、それから3年にわたって活動していく内にBランクに昇格している。また、リカリスの町での評判もよく、地元限定ではあるがそれなりに名の知れた冒険者となっていた。しかし、Aランクの依頼であるウェンポートに発生した迷宮への途上、引き受けていた護衛任務中に露天で嵐に見舞われ、崖の麓にある洞窟から身動きが取れなくなってしまう。当初は嵐をやり過ごそうとする一行だったが、そのうちに崖の崩落が始まり、強引な突破を余儀なくされる。結果、あと一歩で崖を抜けるというところでハーケンディールが大岩の崩落に巻き込まれ、見るも無惨な姿になり果てるという衝撃的な結末を迎えてしまう。この出来事はハーケンディールにあこがれていたノコパラとブレイズの双方に甚大な心理的ショックを与え、二人がこの出来事から立ち直る間もないうちに、リカリス愚連隊は解散する流れとなっている。一方のロキシーもまたショックを受けていたが、リカリスの町へ戻る二人についていかず、一人でミリス大陸へと渡る決断をしている。

メーベリウム

ロキシー・ミグルディアがザントポートで仕事を共にした冒険者のパーティー。男女二人組のパーティーで、商人のイルオーの不正を暴くため、冒険者ギルドから秘密裏に依頼を受けて動いていた。捜査のために表向きはイルオーの持つ商品倉庫の護衛任務を受注していたが、イルオーが持つ違法な商品の現物か、その証拠となる取引書類を抑える必要性があり、現状のパーティーでは任務を達成するのが困難だった。そのため、幼い容姿の少女を好むイルオーの性癖につけ込むために冒険者ギルドの受付であるミレドールに紹介され、ロキシーに協力を申し入れた。その後は「魔術による商品強奪」の危険性に対処するという名目でロキシーと共にイルオーの商品倉庫の警護に参加。イルオーに気にいられたロキシーが違法に捕らえられていた少女の居場所を見つけ出し、騒ぎを起こしたのに乗じて衛兵と共に押し入り、証拠を抑えることに成功している。

ミリス教

この世界に存在する宗教の一つ。ミリス大陸の南に位置するミリス神聖国の首都、ミリシオンに本部を置き、世界各地に布教を行っている。人間以外の種族に対する排他的な主義を持っており、特に魔族に対する偏見は強いものがある。ミリス教の敬虔な信者が多い国であるほど、その傾向は如実に表れ、ミリシオンでは魔族に対する偏見から、ぼったくりや一方的に決めつけての取り締まりなどが相次いでいる。その一方で、ミリス教の内部でも魔族迎合派と呼ばれる派閥が存在するなど、決して一枚岩な組織ではない。そのほか、上位の治癒魔術に関する知識の占有も宗教組織として行っており、特に上級以上の治癒魔術を教えるには、たとえラノア魔法大学のような世界に名だたる教育機関であろうとミリス教の許可が必要となっている。一般には「ミリス教」と呼ばれているが、特にその組織について言及したい場合は「ミリス教団」、あるいは「ミリス教会」などとも呼ばれる。

場所

魔大陸

この世界に存在する大陸の内の一つ。ミリス大陸の北方に存在し、全体的に荒廃した土地が広がる。また、各地にはほかの大陸では考えられないほどに多くの魔物が存在している。大陸の領土はさまざまな魔王が点在するように支配しており、特に北東部にある魔界大帝、キシリカ・キシリスが支配していたとされるリカリスの町は、魔大陸でも最大の規模を誇っている。ロキシー・ミグルディアの出身地であるミグルドの里もこの大陸の北東部に存在する。

ミリス大陸

この世界に存在する大陸の内の一つ。魔大陸の南方に存在し、この世界で2番目の規模を誇るミリス神聖国が存在する。大陸は大きく二分されており、南方のミリス神聖国に対して青竜山脈が隔てる形で北方には大森林と呼ばれる地帯が広がる。大森林には獣族をはじめ、長耳族や小人族、炭鉱族といったさまざまな種族が住まい、それぞれに縄張りを持っている。また、大森林を抜けた北端にはザントポートと呼ばれる港町が存在しており、北方の魔大陸に対する玄関口となっている。ザントポートとミリス神聖国の首都であるミリシオンは街道によって結ばれており、これが交通の大動脈となっているが、大森林に訪れる雨季の時期になると周囲の魔物が活発化する影響から交通が困難となり、1年を通して利用できる期間は限られている。

中央大陸

世界に存在する大陸の内の一つ。世界最大の国家であるアスラ王国を筆頭に、ラノア王国や王竜王国などさまざまな国が存在している。大陸の中央部には東西と南の3方向へ走る形で赤竜山脈が存在し、アスラ王国を他国と隔てている。大陸の大きさに合わせて、地域によって気候はさまざまに異なっている。アスラ王国のある大陸中央の西部は穀物の育つ気候の落ち着いた地域だが、ラノア王国のある北方は食物の育ちにくい寒冷地となっており、冬には雪の深く降り積もる豪雪地帯でもある。

リカリスの町

魔大陸の北東部に存在する街。単に「リカリス」と呼ばれることもある。ロキシー・ミグルディアの故郷であるミグルドの里から最も近い街で、かつては魔界大帝、キシリカ・キシリスが支配していた。活気のある街で、魔大陸最大の都市。巨大なクレーターの中に存在しており、それが天然の城壁となって魔物の侵入を拒んでいる。街の中央にはかつて魔界大帝、キシリカ・キシリスが住んだとされる、黒鉄でできた真っ黒な城が存在している。

ウェンポート

魔大陸の最南端に位置する港町。魔大陸の南方に存在するミリス大陸の港町であるザントポートとは航路で結ばれており、ミリス大陸から入ってくるさまざまな舶来品の玄関口となっている。ハーケンディールの死によってリカリス愚連隊が解散となり、一人となったロキシー・ミグルディアがこの街からザントポートへと渡っている。

ザントポート

ミリス大陸の最北端に位置する港町。ミリス大陸と海を挟んで北に存在する魔大陸に面しており、ウェンポートという魔大陸の港町とは航路で結ばれている。そのため、魔大陸からミリス大陸へ訪れるさまざまなものの玄関口となっている。ザントポートの南西部には大森林と呼ばれる広大な森林地帯が存在しており、長耳族や炭鉱族、獣族、小人族といったさまざまな種族が住まうその土地と青竜山脈を挟んでミリス神聖国という巨大な国家が存在する。ミリス神聖国の首都であるミリシオンとザントポートは街道で結ばれており、馬車をはじめとした交通が可能となっているが、大森林が雨季に突入すると魔物が活発化する関係から往来が事実上、不可能となる。そのため、ザントポートには雨季になると活発化する魔物を目当てとした冒険者が集まる一方、乾期になると人気(ひとけ)がなくなるという傾向にある。

大森林

ミリス大陸の北部に位置する、文字どおりの広大な森林地帯。ミリス神聖国の首都であるミリシオンと、魔大陸からの玄関口である港町、ザントポートを結ぶ街道が大森林内を通っている。しかし、大森林には雨季と乾季があり、特に雨季の時期になると視界や道が悪くなるだけでなく魔物が活発化するため、移動が困難となる。そのため1年を通して行き来が可能となる時期は限られたものとなっている。大森林内にはさまざまな種族が住んでおり、長耳族や小人族、炭鉱族に加え獣族などがそれぞれの縄張りを持って生活をしている。

青竜山脈

ミリス大陸の中央部に位置する山脈。ミリス神聖国と大森林を分かつ形で存在し、ミリス大陸を南北に分断している。ミリス大陸における魔大陸からの玄関口である港町、ザントポートとは、大森林から通る1本の街道が青竜山脈にも通っている。そのため、魔物が活発化して大森林での移動が困難となる雨季を除いて、ミリス神聖国の首都であるミリシオンとザントポート間での行き来が可能となっている。

ミリス神聖国

ミリス大陸の南半分を領土とする国。首都のミリシオンにはミリス教の本部となるミリシオン大聖堂を有しており、ミリス教の敬虔な信徒が多数住んでいる。そのため、魔族に対しては排他的な傾向があり、旅の最中に立ち寄ったロキシー・ミグルディアは幾度となくぼったくりをはじめとする偏見による被害に遭った。領土の北東には青竜山脈と、炭鉱族や小人族、長耳族に加え、多数の獣族が縄張りを持つ大森林が存在する。これら両地帯を抜けた先には魔大陸との玄関口であるザントポートという港町があり、首都のミリシオンとのあいだに街道が通されている。しかし、雨季になると大森林の魔物たちが活発化する影響から通行が難しくなるため、年内において往来のできる期間は限られている。

ミリシオン

ミリス神聖国の首都。ミリス大陸の中央部に存在し、北端にある港町のザントポートとは街道で結ばれている。両街のあいだには青竜山脈と大森林と呼ばれる、主に獣人たちや長耳族、炭鉱族が住む地帯が横たわっており、雨季になると魔物が活発化するため移動が困難となる。世界で最も美しい都市とも称され、湖を中心として円形に城壁が張り巡らされている。湖の中央には純白の王城であるホワイトパレスが建っており、そこを中心として都市は四つの区域に分かれている。北側は貴族の住む地区と一般市民が住む地区に区分された居住区。東側は鍛冶場(かじば)や競売場が存在する商業区。南側は冒険者ギルド本部と冒険者向けに開かれている店や宿、さらには賭場やスラム街、奴隷市までもが存在する冒険者区。そして西側はミリス大聖堂と呼ばれるミリス教の聖堂が存在し、ミリス教団の本部が置かれていることから教団の関係者が多く住み、聖騎士団の本部や墓地も存在する神聖区となっている。世界的な美しさで名高い一方、冒険者区を除いた地区はミリシオン外からの人間に対して非常に排他的で、特に魔族に対する偏見はミリス教の教えの影響もあって酷いものがある。事実、街を訪れたロキシー・ミグルディアは通行料金や市場、宿屋でのぼったくりをはじめ、人さらいに間違われて暴力を振るわれたりと散々な目に遭っている。しかし、路銀を稼ぐためにしばらくのあいだこの街で活動せざるを得なかったロキシーは、冒険者ギルドで偶然知り合った魔族の娘、メイヴェアのお節介もあり、魔族に対して偏見を持たない女将が経営する「木の葉亭」という宿屋を中心に1年間にわたって冒険者としての生活を続けた。

月光の葉枝亭

ミリス神聖国の首都であるミリシオンにある宿屋の一つ。魔族に対する偏見や迫害意識の強いミリシオンにおいても宿を提供する店だが、相場以上の宿泊料を要求する、いわゆるぼったくりを行っている店でもある。ミリシオンで宿に困っていたロキシー・ミグルディアが利用したが、その後、ミリシオンで活動している魔族であるメイヴェアに、魔族に対して偏見を抱かない女将が切り盛りする木の葉亭という宿を教えてもらい、利用をやめている。

木の葉亭

ミリス神聖国の首都であるミリシオンにある宿屋の一つ。ロキシー・ミグルディアがミリシオンを拠点に活動していた際に利用していた宿で、女将さんの好意で1階にある酒場の手伝いを条件に、屋根裏部屋に居候させてもらっていた。魔族に対する偏見や迫害意識の激しいミリシオンにおいて、女将さんは偏見を持っていない希有(けう)な人物であり、ロキシー以外にもメイヴェアという魔族の女性をふつうに宿泊させていた。冒険者ギルドで路銀に困っていたロキシーを見かねて、ぼったくりを行っている宿屋の月光の葉枝亭ではなく、木の葉亭を紹介したのもメイヴェアであった。ロキシーが木の葉亭に居候していた期間は最終的に1年間にわたった。そのあいだ、宿屋を利用する男性客たちからもロキシーは看板娘のような扱いを受けており、女将さんの優しさやメイヴェアの存在なども含め、ミリシオンの中にあっても自分を見失わずに過ごすことができた大きな理由となっている。

アスラ王国

中央大陸に位置する国。首都であるアルスは400年前に行われた戦争で唯一破壊を免れた街として知られ、人類最古の街とも称される。1年を通して気候に恵まれており、すくすくと育った麦が織りなす黄金の小麦畑や実り豊かな森と、牧歌的な風景も多く見られる。また、魔物が少ない土地でもあり、アスラ王国で生まれ育ったブラッディーカントは故郷の村を出るまで魔物を数回しか見たことがなかった。そのため、その話をブラッディーカントから聞き知っていたロキシー・ミグルディアにとっては、楽園のようなあこがれの国として認識されていた。ロキシーが初めて口にしたお菓子もアスラ王国から魔大陸へと届けられた舶来品であり、甘味に目のないロキシーにとっては、旅で一度は行ってみたい国の第1位であった。しかし、国民にとっては住みよい街は冒険者にとって依頼の少ない土地であり、物価が周辺国に比べて高いことも相まって決して生活しやすい国とは言えない事情があった。その背景にはアスラ王国の騎士団がまめに街道周辺の魔物を撃退して回っていることが絡んでおり、冒険者に対する依頼は必然的に雑務や家庭教師といった内容に限られてしまっている。また、魔族に対する偏見も決して少なくなく、ロキシーが数少ない仕事を請け負っては偏見のために即日解雇されることも少なくなかった。

ラノア王国

中央大陸の北部に位置する国。魔法都市、シャリーアという著名な都市があり、そこに存在するラノア魔法大学は世界各国の王国貴族も通う、由緒正しい学府として知られている。中央大陸の北部は気候が寒く、雪の多く降り積もる寒冷地帯であるため、ロキシー・ミグルディアがそれまで旅してきたどの土地よりも気候的には厳しい土地だった。そのため、この国を訪れた当初は気候に添った服の持ち合わせがなく、ロキシーは寒さに凍えながらも我慢して過ごしていた。

シャリーア

中央大陸の北部に位置するラノア王国に存在する都市。魔術を学べる学府として世界的に名高いラノア魔法大学が存在する都市で、街には大学に通う各国の王侯貴族をはじめとしたさまざまな人種が暮らしている。ラノア魔法大学の存在を中心として都市は回っており、学生街や魔術ギルドといった地域や施設が存在する。

ラノア魔法大学

ラノア王国の魔法都市と名高い街、シャリーアに存在する大学。単に「魔法大学」とも呼ばれる。魔術を学べる学府としては世界的に名高く、在学生や卒業生には自動的に魔術ギルドから会員としてのランクや資格が与えら... 関連ページ:ラノア魔法大学

王竜王国

ロキシー・ミグルディアが旅の途中で立ち寄った中央大陸の国。首都は「ワイバーン」と呼ばれる。国民の気質は大ざっぱかつ大らかで、街で住民に道を尋ねても目的地にたどり着くことは難しい。実際に初めてワイバーンを訪れたロキシーは冒険者ギルドにたどり着くまでに幾度となく道を尋ねなければならなかった。ロキシーが吟遊詩人と出会ったのもこの王竜王国で、ここからアスラ王国へ向かう道のりをしばらく共に旅した。住民は歌の中でも北神英雄譚の王竜王国の章を好んでおり、吟遊詩人が酒場でリクエストを取った際には客の多くがこの歌を望み、聞き終えた後には吟遊詩人へ快く食事をおごっている。王竜王国の周辺には幾つもの属国が存在しており、中には情勢が落ち着いていない、緊迫した関係の国もある。

その他キーワード

念話 (てれぱしー)

ミグルド族が生まれつき持つ特有の能力。文字どおりテレパシーによって会話を行う能力で、これによってミグルド族は同族同士であれば発話する必要なく会話をこなすことができる。しかし、ロキシー・ミグルディアは純血のミグルド族の生まれながら念話を使用することができず、コミュニケーションを取るのに苦労して育った。

水弾 (うぉーたーぼーる)

初級に分類される水魔術。ロキシー・ミグルディアがブラッディーカントに習って修得した初めての魔術で、ロキシーが水聖級魔術師を志すきっかけとなった。水球を作り出してそれを射出する攻撃魔術だが、その威力は岩を吹き飛ばすほどの力を誇る。また、ふだんの生活や冒険時には水の調達手段としても重宝される。詠唱は「汝の求めるところに大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れを今ここに」。

ウォーターアロー

ロキシー・ミグルディアがミリシオンの迷宮探索の際に使用した水魔術。水流を細い矢のように発射する魔術で、魔物の体を簡単に貫くほどに強力な威力を誇る。詠唱は「雄大なる水の精霊よ、しぶきの鏃(やじり)にて敵を穿(つらぬ)け」。

豪雷積層雲 (きゅむろにんばす)

聖級に分類される水魔術。ラノア魔法大学の教授であるジーナス・ハルファスが豪雨災害を解決するため、ロキシー・ミグルディアの前で使用して見せた。作り出した雲に魔力を注ぎ込むことで複雑に動かし、それによって雷雲を発生させて雷と強烈な大雨を降らせる魔術が本来の使い道である。ジーナスは「豪雷積層雲」の雲をあやつるという特徴を利用し、既にある雨雲に自らの魔力を注ぎ込むことで制御下に置き、豪雨の原因となっていた雨雲を払いのけるという変則的な使い方をしていた。のちに稀少な魔石を使用した杖(つえ)を手にいれたロキシーがこの魔術を取得し、ジーナスの前で使用して見せている。その際、魔力の自己制御の甘さから一部の増幅された魔力が魔術に転化し切れていないなど、ロキシーの至らない部分が露呈しジーナスに指摘されていた。詠唱は「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ。我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし、矮小(わいしょう)なる存在に力を見せつけよ。神なるカナヅチを金床に打ち付けて畏怖を示し、大地を水で埋め尽くせ。ああ、雨よ。すべてを押し流し、あらゆるものを駆逐せよ」。

水蒸 (うぉーたーすぷらっしゅ)

ロキシー・ミグルディアが迷宮で使用した水魔術。空中に無数の水滴をばらまく魔術で、姿を透明化して逃げ出す稀少個体の位置を見つけ出すため、ロキシーがとっさに使用した。詠唱は「空を覆いし水の精霊よ、落ちる雫(しずく)を散らしめし世界を水で覆わせよ」。

アイシクルフィールド

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町で受けた依頼において使用した水魔術。ネズミ型の魔物であるギルレラットの巨大な変異種に対し、俊敏な動きを制限するために使用された。狙った範囲を凍結させる魔術で、水たまりを介してそれに触れている体までも凍(い)てつかせるほどの力を持つ。詠唱は「天より舞い降りし蒼(あお)き女神よ、その錫杖(しゅくじょう)を振るいて世界を凍りつかせん」。

氷霜撃 (あいしくるぶれいく)

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町からウェンポートへの商人の護衛任務中に使用した水魔術。狭隘(きょうあい)な道を完全に塞いだ土砂を一度に吹き飛ばすほどに強力な魔術で、当時のロキシーにとってはこの魔術を使用するとすぐさま魔力切れになるような代物だった。そのため、信頼できる仲間がいなければ使用できない魔術だったが、窮地を脱するためにハーケンディールらリカリス愚連隊の仲間を信頼して使用した。詠唱は「雄大なる水の精霊にして天に上がりし雷帝の王子よ、勇壮なる氷の剣を彼の者に叩(たた)き落とせ」。

氷壁 (あいすうぉーる)

ロキシー・ミグルディアがザントポートの町で使用した水魔術。ロキシーが、悪徳商人であるイルオーの虜囚となった際、ほかに捕らえられていた面々といっしょに逃げ出すため、追っ手の足止めに使用した。扉を床から天井まで塞ぐほどの大きさを誇る氷壁を生み出す魔術。詠唱は「来たれ冬の精霊、氷を重ね悪(あ)しき者を押し止めよ」。

氷柱 (あいすぴらー)

ロキシー・ミグルディアが使用していた、中級に分類される水魔術。巨大な氷柱を作り出す魔術で、地面から突き出した氷の棘(とげ)は魔物の体を貫くほどの威力を秘めている。

氷撃 (あいすすまっしゅ)

ランレッタとの模擬戦でロキシー・ミグルディアが使用した、初級に分類される水魔術。氷の塊を標的へ打ち出すという単純な魔術だが、ロキシーが使用した「氷撃」はランレッタが構築した中級魔術の「土壁」を貫くほどの威力を持っていた。

氷槍吹雪 (ぶりざーどすとーむ)

ロキシー・ミグルディアがレネに誘われた闘技場での一戦で使用した水魔術。巨大な氷柱を幾つも中空に生み出す魔術で、落下して地面に突き刺さったそれらはレネの足場となった。氷柱1本の大きさは優に大人の男性の身長を上回ってなお余裕があるほどの高さがあり、太さも悠々と人が乗れるほどのものとなっている。

水滝 (うぉーたーふぉーる)

ロキシー・ミグルディアがレネに誘われた闘技場での一戦で使用した水魔術。水流を複数生み出す魔術で、斬り掛かってきた相手の剣士を牽制(けんせい)する目的で使用された。水流1本の太さは人間の胴体ほどもあり、うねるようにしてせまるそれは空中に飛び上がった相手を追いかける素振りも見せた。

ファイアーウォール

中級に分類される火魔術。冒険者となったロキシー・ミグルディアがリカリスの町で受けた夜光草の採取依頼の際、群生地を縄張りとしていたネズミ型の魔物であるギルレラットの大群に対して使用した。周囲一帯に炎の壁を発生させる魔術で、その火力は瞬時にギルレラットを炎上させる熱量を持っていた。詠唱は「熾烈(しれつ)なる炎の精霊にして焦土の母よ、燃えさかる盾を大地に突き立てせまりくる者を焼き尽くせ」。

大火球 (ふれいむすふぃあ)

ロキシー・ミグルディアが使用していた、中級に分類される火魔術。巨大な火球を中空に産みだし標的にぶつける魔術で、ロキシーがラノア魔法大学の練習場で使用した際には、見学していたほかの学生を驚かせるほどの威力を見せていた。

火炎放射 (ふれいむすろわー)

ロキシー・ミグルディアがレネと潜った迷宮で使用した火魔術。通路一帯を埋め尽くすほどの火炎を前方へ投射する魔術で、レネの拳による打撃が有効でなかったキノコ型の魔物に対して使用された。詠唱は全文ではなくロキシーが唱えた一部のみが明らかとなっており、その部分は「恵みを焼きつくさん」となっている。

土枷 (あーすかふす)

ロキシー・ミグルディアがたびたび使用する土魔術。土でできた枷(かせ)を相手の足に巻き付けることで拘束する魔術で、牽制や捕縛の用途に用いられている。詠唱は「大地の精霊よ、我が叫び声に応え根を縛りつける鎖となれ」。

岩砲 (すとーんきゃのん)

ロキシー・ミグルディアが使用していた、中級に分類される土魔術。岩の塊を打ち出す魔術で、ラノア魔法大学の敷地内に設けられた練習場で魔術の練習を行っていた際に使用されていた。

土壁 (あーすうぉーる)

ロキシー・ミグルディアやランレッタが使用していた、中級に分類される土魔術。地面から土の壁を隆起させる魔術で、防御から相手の拘束など幅広い用途で使用されている。

土槍 (あーすらんさー)

ランレッタが練習していた、初級に分類される土魔術。かつては簡単に使えていたが、呪いによって魔力を枯渇させられていたランレッタはこの魔術を発動させることすらできなくなっていた。詠唱は「大地の精霊よ、我が呼び声に応え大地より天を突け」。

流砂 (さんどうぇいぶ)

闘技場でレネが敗北を喫した魔術師が得意としていた土魔術。固められた地面を流砂に変えてしまう魔術で、巻き込まれると流れ落ちる砂に巻き込まれて埋没することとなる。身長の低いレネはこの魔術によって頭の先まで埋められることとなった。

突風

ロキシー・ミグルディアがリカリスの町で受けた依頼において使用した風魔術。コンフュバットというコウモリ型の魔物に対して、ハーケンディールの投げた香辛料の袋を効果的に拡散させるのに用いられた。狙った方向に強烈な風を巻き起こすことができる。ラノア魔法大学の元学生であるヴァセルも使用しており、その際は子供の雪合戦に付き合って加減したものだった。詠唱は「汝の求める所に大いなる風の加護あらん、悠久の無をうねりに変えてここに吹き抜けん」。

真空波 (そにっくぶーむ)

ランレッタがロキシー・ミグルディアとの模擬戦で使用した、中級に分類される風魔術。複数の真空の刃を相手へ飛ばす魔術だが、ロキシーの放った初級の風魔術である「衝撃波」によって相殺された。

衝撃波 (えあばーすと)

ロキシー・ミグルディアがランレッタとの模擬戦で使用した、初級に分類される風魔術。文字どおり、空中に衝撃波を発生させる魔術で、ランレッタの放った「真空波」による真空の刃を相殺して見せた。また、不注意によってロキシーが崖から落ちた際、とっさに使用しており、落下の勢いを相殺して安全に着地することに成功している。詠唱は「静かに眠りし翠風の王女よ、その激情を解き放ち忌まわしき邪悪を跳ね飛ばせ」。

治療 (ひーりんぐ)

初級の治癒魔術。自然治癒できるような外傷を完治する力があり、冒険者として活動するには「治療」の治癒魔術が使えれば必要十分であるという考え方が一般的となっている。ロキシー・ミグルディアも使用できる魔術で、裂傷や打撲などさまざまな傷を癒やしている。また生物以外にも植物などに使用しても作用し、折られた木や作物を治療することもできる。しかし、その一方で植物の成長促進などには使用できない。詠唱は「神なる力は芳潤なる糧、力失いし彼(か)の者に」。

エクスヒーリング

中級の治癒魔術。初級の治癒魔術である「治療(ヒーリング)」が自然治癒できるような外傷を限界とするのに対して、「エクスヒーリング」は致命傷に至る傷も生きている限りは治すことができる。ただ、断たれるなどして欠損した腕や足の治療はその限りではなく、そちらは上級の治癒魔術の領分となる。冒険者にとって、致命傷を負った場合は、基本的に欠損部をともなうことが大半であると認識されており、そのような傷を負わされる戦闘の最中では治療を行う暇もないため、このような状況に陥った時点でパーティーは全滅の危機であると考えられている。そのため、致命傷を負わない行動が冒険者にとっての大前提であり、その範囲では初級の治癒魔術で必要十分である、という考えが一般的となっている。また、どうせ無理をして習得するならば、一足飛びに上級の治癒魔術を覚えたほうがいいと考えられている。そのため、中級の治癒魔術であるエクスヒーリングは中途半端な立ち位置で、ロキシー・ミグルディアも長らく習得していなかった。しかし、上級以上の治癒魔術はミリス教団によって管理されており、ラノア魔法大学であっても教えることが許可されていない。そのため、ミリス教団の許可を得ずに治癒魔術を教わることができる限度は中級の治癒魔術となっており、上級以上は個別の師を捜して教わることを余儀なくされる。詠唱は「母なる慈愛の女神よ、彼の者の傷を塞ぎ健やかなる体を取り戻さん」。

解毒 (あんちどーて)

毒の回復を行える治癒魔術。「治療(ヒーリング)」や「エクスヒーリング」の魔術では外傷の回復は行えても毒を消すことはできないため、そのような場合には「解毒」の魔術が必要となる。毒と一言にいっても範囲は広く、キノコ型の魔物による生物へ寄生する胞子のようなものに対しても有効に作用する。詠唱は「神なる息吹は滋養の源、病患いしかの者にふたたび目覚めの力を与えん」。

魔術師の杖

「魔術」の増幅装置として魔術師に使用される杖。性能の高い杖であればあるほど、その個人の持つ魔力の何倍もの力に魔術を増幅する力を有する。そのため、効率的に魔術を使用していくには必要不可欠な装備であり、迷宮の探索などといった、依頼の内容によっては魔力の回復を計る間もなく連続での戦闘を強いられる冒険者にとって、自らの命を左右する重要な武器である。師匠や先生は自らの弟子が初めて初級魔術を使用できるようになった時に、新米の魔術師になったとして「魔術師の杖」を贈る習慣がある。

魔術

魔力を使用してさまざまな現象を起こす技能全般。大別して「攻撃魔術」「治癒魔術」「召喚魔術」の3種類に分類され、「詠唱」と「魔法陣」という二つの発動方法がある。魔術は水の魔術や火の魔術、光の魔術などさまざまなものが存在しており、主に自衛のための攻撃手段として使用されるほか、冒険者などの旅を生業とする業種の人々が水や火を調達するためにも使用され、非日常的状況から日常的生活に至るまで幅広く使用されている。魔術の使用には個人が持つ魔力量といった素質のほかに、詠唱に使用される呪文の内容や理論の取得といった知識が要求される。そのため、地方であれば師匠や教師といった魔術を教える人材が必要不可欠であり、魔術師として活動する人物には家庭教師として一定の需要がある。また、「ラノア魔法大学」と呼ばれる、魔術師の養成を目的とする学校組織も存在しており、そちらは魔術師を志すものの登竜門として世界的に名高い。ラノア魔法大学に入学することで魔術一般に関する知識を広く深く取得できる一方、神撃魔術や治癒魔術に関しては「ミリア教」による知識の独占と管理が行われており、許可がなければ教授ですら教えてはいけないものとなっている。そのため、ミリア教の教義に反する魔族や獣人といった特定の種族は、一定以上の知識に触れる機会すら限られる状態にある。

冒険者

冒険者ギルドに登録し、そこに登録された依頼をこなすことで生計を立てている人々。商隊の護衛や迷宮の探索にペットの依頼や子息の家庭教師など、依頼の内容は幅広く、荒事を得意とする冒険者から、ふだんは学生として過ごすような素人まで幅広い層が存在する。それまでの活動における依頼の達成度や回数などによって個々の技量が管理されており、FからSまでのランク付けがされている。この冒険者ランクは依頼を受ける際の資格としても機能しており、高難易度の依頼であるほど、依頼を受けるために必要なランクが必然的に高く設定されている。そのため、冒険者になりたてのFランク冒険者などは、薬の材料となる薬草の採取をはじめとした、簡単な依頼しか受けられなくなっており、無謀な冒険者が命を落とさないように配慮された仕組みとなっている。しかし、その一方で依頼に対する前提知識の少なさや前準備の甘さ、あるいは不確定要素の介入によって、設定されていた難易度以上の問題が発生するなど、さまざまな要因によって命を落とす冒険者はあとを絶たない。そのため、冒険者の死傷率は決して低いものとはいえず、死が身近に存在する職業となっている。

ミグルド族

魔大陸のビエゴヤ地方に住まう少数種族。成人でも人族の子供と見まがう幼い外見と体型で、青髪をしている。巨大な亀形の魔物から採れた甲羅を家屋として小規模な村落を形成し、自給自足を旨とした牧歌的な生活を営んでいる。会話を「念話」と呼ばれる一種のテレパシーで行なわれており、同族間ではほとんど発話することがない。ロキシー・ミグルディアはミグルド族の出身ながら、生まれつき念話が使えないという特異な事情の持ち主で、幼少時はほかの村民とのコミュニケーションに苦労して過ごした。両親の努力と、旅の途中でミグルド族の噂を聞きつけて立ち寄った冒険者であるブラッディーカントの教えによって、文字の読み書きや発話での会話に不自由ない教養を得ている。

スペルド族

かつて魔大陸に存在したとされる伝説的な種族。緑色の特徴的な髪をしていたとされており、その存在は魔大陸を越えて全世界で恐怖の権化として語り継がれ、魔族や人族といった種族を問わず、今現在もなお恐れられている。人間に広がる恐怖心は、似たような髪色の人間に対する差別意識や反射的な恐れを呼び起こすほどに強く、ミグルド族の出身で青い色の髪色をしているロキシー・ミグルディアもたびたび被害に遭っている。

チルカ族

中央大陸の密林地帯に隠れ住んでいた種族。外見はほとんど人族と変わらないが、幼年期に頭に蕾(つぼみ)ができ始め、成人になるとそれが開花するという特徴を持つ。また、水と土と太陽さえあれば生きることができるという特性や、体を発光させられるという能力もある。発光する能力は大人であれば自在に制御ができるものだが、子供など十分に能力を制御できないものは発光を抑制することができず、つねに光り続けてしまうという問題がある。また、この発光する能力は髪などをはじめとしたチルカ族の体の一部分を切り取っても、1年間は光り続けるという特性もある。ブラッディーカントが旅の途中に噂を聞きつけて出会った種族。当初は面白い種族という以上の感想を持っていなかったが、その体験を話したとある国には、偶然にもチルカ族の頭に咲く花が不治の妙薬の材料となるという伝承が残されていた。これが原因となり、チルカ族の村へ軍が派遣されると住民たちは連れ去られ、村が滅びる結果を招いた。この出来事はブラッディーカントが目的としていた、「世界を歩く」という紀行本を刊行する意義について疑問を抱かせるに十分な出来事で、そこに記された情報の危険性を前に長らく執筆を中断していた。しかし、その後に発光する特性から幽霊と間違われて冒険者に追われていたチルカ族と出会い、当事者である彼らがほとんど気にしていないどころか、絶滅もしていなかったことが発覚する。さらには「不治の妙薬」として伝えられていた伝承が実際には「痔の妙薬」の間違いであるという真相も知らされ、罪悪感に駆られるブラッディーカントに対して、本の中にしっかりと「痔の妙薬」となるという情報を書くことで許すという交換条件が提示された。ブラッディーカントはその条件を了承すると、「世界を歩く」の執筆に対するやる気を取り戻している。

呪い

人間にさまざまな不利益をもたらすもの。代表的なものは亡霊や生物の思念が原因となり人に災いをもたらしている。また、人が作り出した魔道具が原因の場合もあり、その場合は魔道具の内部に魔法陣を刻み、魔力結晶を動力源とすることで長期間の発動を可能とする。その一方で、結晶内の魔力が枯渇すれば、魔道具による呪いの効果は消失するという特性もある。しかし、対象者の魔力を吸い取って発動することで半永久的に発動するという方法もあり、その場合は対象者に呪いによる影響とは別の魔力低下や、魔力の枯渇による昏倒(こんとう)をはじめとした事象が発生する。

魔法陣インク

魔法陣を魔法陣として発動させるために必要となる特殊なインク。砕いた魔力結晶の粉末を混ぜ込んだ専用のインクで、使用しない限りは経年で劣化することがない。しかしながら、量産のできない魔力結晶は非常に高価な材料であり、それを使用する魔法陣インクも同様に貴重なものとなってしまっている。その問題を解決するため、ラノア魔法大学の教師で、魔法陣の研究を専門とするアヴィアスによって、使用期限が短く、質でも劣るという欠点を抱えながら比較的安価な別材料で製造できる簡易インクが開発されている。こちらは、アカニ草、タデアイの根、マスタードトゥレントの実、雪蜥蜴(ゆきとかげ)の尻尾を材料としており、ラノア魔法大学の購買でも手に入れられる。

世界を歩く

世界を旅したSランク冒険者、ブラッディーカントによる著作。自らが立ち寄って実際に見聞きし、体験した世界中のさまざまな事柄が記されている。その内容は密林の奥深くから、魔族が多く住まう魔大陸にまで及んでおり、発売されると世界的なベストセラーとなった。ロキシー・ミグルディアが故郷であるミグルド族の村でブラッディーカントと出会った際には、まだこの「世界を歩く」は執筆されておらずブラッディーカントはまだ旅の途中だった。その10数年後に、アスラ王国の首都、アルスで偶然にもロキシーがブラッディーカントと再会した際にはこの本を執筆している最中だった。しかし、執筆作業は順調とは言いがたく、自らの体験を口にしたことで中央大陸の密林に住む「チルカ族」の集落が人間に滅ぼされる事態を招いたことから、この本の内容が孕(はら)む危険性を前に懊悩(おうのう)している状態にあった。一時期は未完成のままに放棄される危機にあったが、この時、アルスに住んでいたチルカ族の生き残りと偶然の出会いを果たしたことで、当事者側から事の真相を知るにいたり、最終的には真実を描くことを条件に許しを得たことで悩みを解決した。

スクロール

魔法陣の書かれた巻物。魔術ギルドによって販売が管理されており、個人が制作して販売する場合は魔術ギルドからの許可を必要とする。品質にはばらつきがあり、制作した個人の能力によって左右される。しかし、内容に沿った一定の効果さえ問題なく発動するならば、等価であるとする魔術ギルドの買い取り方針により、スクロールの出来映えは最低限の品質を守っている限りは問題視されていない。そのため、購入者にはスクロールの筆跡から自分のお気に入りの作者を見極め、狙い撃ちして買うという行動を取っている者もいる。

クレジット

原作

理不尽な孫の手

キャラクター原案

シロタカ

関連

無職転生~異世界行ったら本気だす~ (むしょくてんせい いせかいいったらほんきだす)

理不尽な孫の手によるライトノベルのコミカライズ作品。34歳で交通事故死した日本人が異世界に赤ん坊として転生し、第2の人生を送りながら成長していくさまを描いたファンタジー。KADOKAWA「月刊コミック... 関連ページ:無職転生~異世界行ったら本気だす~

書誌情報

無職転生 ~ロキシーだって本気です~ 全12巻 KADOKAWA〈MFC〉

第1巻

(2018-03-22発行、 978-4040696973)

第2巻

(2018-09-22発行、 978-4040651088)

第3巻

(2019-03-22発行、 978-4040656045)

第4巻

(2019-10-25発行、 978-4040640334)

第5巻

(2020-03-23発行、 978-4040644820)

第6巻

(2020-08-21発行、 978-4040648255)

第7巻

(2021-01-22発行、 978-4046800961)

第8巻

(2021-09-21発行、 978-4046805454)

第9巻

(2021-12-23発行、 978-4046809506)

第10巻

(2022-07-23発行、 978-4046815248)

第11巻

(2023-01-23発行、 978-4046819734)

第12巻

(2023-08-23発行、 978-4046825933)

SHARE
EC
Amazon
logo